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>>髪いじり

 
花は後悔していた。


それは、綺麗な、とても綺麗な螺鈿細工のかんざしだった。
見事な装飾と螺鈿の美しさが合さった豪奢なかんざしを
孟徳は花にお土産といって見せた。


あまりの綺麗さに、驚いて花はありがとうございます、としか
言えなかった。


そんな花に、孟徳は花の頭をひと撫ですると、目線を花の高さまで
下げて、耳元でくすぐるように言った。


「ねぇ、俺が君につけてもいい?」


「いえ、自分でやります。」


きっぱりと断る花。
それには理由があった。それは孟徳が花とは違った形で手先が不器用だからだ。
花の場合は、あまりにも強すぎる握力のために、力加減がうまく
いかないという、不器用なので、細かいものや、おにぎりや肉まんを作るときに、
ひどくグロテスクな食べ物?になってしまう以外は、だいたいのことは
人並みにこなせたが、孟徳は違う。


もしかして火傷のせいで、末端の指の神経が擦り切れているのでは、と花が
涙混じりに推測するくらい不器用であった。
元譲の話によると、火傷以前から不器用なのだが。


「だめ・・・?・・・ねぇ、させて?」


一度は、断った花だったが、再度の孟徳のお願いに、しぶしぶ頷く。


かんざしを持ってきたのは、孟徳だ。
それなのに断るのも、失礼だろうと花は考えた。
それに、いくら何でもあのときよりはひどくなるわけがない。




櫛でさらさらと髪の毛をとく孟徳。
表情は見えないが、ひどくご満悦のようだ。


「いい匂いがするね。」
「そう・・・ですか?」


手の中で絹のように柔らかくてそして、美しい髪の毛がスラリと滑っていく。
かんざしをつけようとして、孟徳は手を止めた。


「どうしました?」


なにか異変を感じて花は、振り返った。それがいけなかった。


「俺の手の紐と髪の毛がからまった・・・」
「そ、そんな短時間で、逆に驚きです!!」
「えっと、あれ?おかしいな・・・。」
「なななんか・・・ますますからまっている気がしますけど。」
「あー・・・あー!」
「あーってなんですか?!」


見えない分不安は募る。
どこまで絡まっているのか。これは誰かに救助をお願いするべきなのか。
花がぐるぐる考えていると、孟徳は、突然謝った。


「花ちゃん、ごめん。」


その言葉に、花は、切らないとダメかーと気配で察知した。


孟徳が花の髪の毛を愛おしそうに口付ける。


「切ってしまっていいですよ。」


困ったように笑う花に孟徳は、目を伏せた。


「ごめんね、花ちゃん。この髪の毛、大事にするから。」





孟徳がなにかよからぬことを口ばしった気がした。
したが、これは幻聴だと花は自分に言い聞かせた。
いくらなんでも孟徳がそんなことをいうわけが無い。


目立たないくらいの短さで一房、孟徳の手の紐にからまった髪は、
孟徳の手の中で大事に収まっていた。


「花ちゃんの髪の毛、大事にするね。」


満面の笑みで、花が幻聴だと聞き逃した言葉を復唱した。


!!!


「い、いいい、いいますぐ捨ててくださいっっ!!」
「え?大事に使うよ?」
「とっておかないでくださいーーっっ!!
ていうかなにつかうんですか!?」
「えー?」


残念そうな孟徳の表情に、花はもうかんざしをささせないと決意をする。


「孟徳さんの・・・へんたい。」
「ごめん。いまのもう一回いって?」


目の前にはひどく満足そうな笑みを浮かべた男が立っていた。


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