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>>月下心中話 中

 
 孟徳の腕の中に捕らわれた花は、
人形のように瞳を閉じたまま
動かずに眠り続けていた。


「いつか君が昔話を教えてくれたよね。」


この世界に来たときより、大分伸びてしまった
柔らかな花の髪に右手の指を絡ませながら、孟徳は
呟く。


「君は、元の世界に帰ったら俺のことを忘れる
のだろうね。俺には、そんなことはとても出来ないよ。」

そうして、髪をするりと解いていく。

「嫌だよ、俺は君しかいらない。
離れたくないんだ。君のひとかけらも手離したくないよ。」


髪を一房掴み、愛おしそうに、唇を這わす。
花の柔らかな肌が、月の光に映し出された。






花の足枷は、孟徳の手によって外された。
それはあっけなく、そして花は軽くなった足を
現実として受け入れるのに、少し間があった。


「外に出たいといったでしょう。
 君を外に出してあげるから、この飾りをつけてあげる。」


ルビーのような紅玉の小さな珠飾りを、孟徳は花に見せた。


外に出たいと何度かお願いはしたが、本当に孟徳が許してくれる
とは思っていなかった花は、一瞬面食らって、それから
ありがとうございます、と破顔の笑みを浮かべた。


「それじゃあつけようか?」


そういって、孟徳は、花の足枷の外された足首を掴み
蜜の中に、指を挿しいれて、熱を誘う。
ほんの少し前に重ねた情交の名残がまだ残る中に
指は馴染み、新たに蜜が蕩けだす。


「ふぁっ・・・あ。」


指の熱とは違う、冷たい感触に、花は、身を硬くする。


「大丈夫だよ、ほら、入ってくよ。」


珠飾りがぬるりと挿入されていく。


「ひとつ、ふたつ、・・・ねぇ、いくつ入っているかわかる?」




喘いで答えることもできない花を、孟徳は微笑み、そして
花の身を起こさせた。
珠飾りを身体の奥に沈められたまま、花は孟徳に服を
着させられていく。


「さぁ、外に出ようか?どうしたの、首を振って?
じゃあ手を貸してあげるから。」


「いやです・・・こわい・・・・っ!」
「外に出たくないの?嘘つきだね、君は。」


花の抵抗も軽くあしらわれ、孟徳は無理やり花を外へと
連れ出す。
久しぶりの「歩く」ことと、珠飾りの存在に、
花の身体は、孟徳の支えなしに歩行することが困難に
なっていた。


「顔が赤いよ、大丈夫?」


すれ違う全ての官たちは、廊下の端に立ち止まり、
頭を低く低く下げたままだ。
中には、ひざが震えているものもいた。


君主の機嫌を損ねるようなことがあれば、その場で
処刑されることは日常となっていたからだ。


「君を見るのは俺だけだよ。もし、君を見るものがいたら、
そのもの目玉をえぐってあげよう。だから、大丈夫だよ。
信じてないなら、いまから試してあげようか。」


花の顔から血の気が引く。


孟徳は、周りの部下さえも人間としてみていなくて。
だから、そんな非情なことも、まるで息をするような
自然さで出来るのだろう。




くらりと、世界が揺れた。




手を振り切って逃げることもままならない。


揺らめいた身体は、ふわりと孟徳に抱き上げられ、
再び鳥篭の部屋へと花は閉じ込められた。


寝台の上で、孟徳の見ている前で
ぽとり、と紅玉が産み落ちる。


「よく我慢できたね。外に出たいときは言って?
 また出してあげるから。」


花は絶望に視界を歪ませながら、
孟徳の瞳から、ほの暗い光を見た。






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