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東京人権連 > 同和問題について >足立東京地裁判決1988

 

 1988年3月28日、東京地裁が「解同」足立支部による「建物利用権確認請求事件」について棄却した判決を紹介します。この裁判は東京高裁で控訴が棄却、最高裁でも上告が棄却され、確定しています。

(色つき文字=強調部分は東京人権連による。漢数字は算数字に、かなはすべて大文字であったが適宜小文字に直した)


昭和58年(ワ)第2608号 建物利用権確認請求事件

判  決

東京都足立区六月2丁目29番6−107号
 原告 部落解放同盟東京都連合会足立支部
 右代表者支部長 鈴木幸一郎
 右訴訟代理人弁護士 井上豊治
 同 内藤隆
 同 細川律夫
 同 金臺和夫

東京都足立区千住1丁目4番18号

 被告 足立区
 右代表者区長 古性直
 右指定代理人 皆川央
 同 竹村英雄
 同 山口憲行
 同 小川賢一
 同 嶋本全宏

主  文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする

事  実

第一 当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 原告が別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について利用権を有することを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

  主文同旨

第二 当事者の主張

一 請求原因

1 原告の地位

原告は、身分的差別と階級的搾取を打破し、部落民衆を完全に解放することを目的として設立され、部落解放同盟の綱領、規約を承認する部落民によって組織されることを原則とし、代表者、総会の運営等について定めた支部規約を有し、右規約に則って年1回全会員での大会を組織し、支部長等の役員を選出して活動している権利能力のない社団である。

2 黙示の使用貸借契約

(一)(1) 本件建物設置の目的

昭和40年の同和対策審議会答申は、部落差別が基本的人権、特に近代社会の原理として何人も保障されている市民的権利と自由との侵害であること、右基本的人権の侵害をなくすため、行政が具体的な施策を積極的に推進する責務を負っていること、右施策の推進に当たっては部落解放運動との連携が必要不可欠であることを指摘し、具体的方策として「既設の隣保館、公民館、集会所などを総合的見地に立って拡充し、その施設のない地区には新設し、殴米諸国にみられるコミュニティーセンターのごとき総合的機能をもつ社会施設を設置するとともに、指導能力ある専門職員を配置すること」を提言した。昭和44年施行の同和対策事業特別措置法は、右答申の精神にのっとり、各地方自治体に対し、部落差別をなくすための行政的措置を義務付けた。本件建物は、後述の経緯により、右答申及び同和対策事業特別措置法の精神にのっとり、歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている人々の振興と福祉の増進とを図ることを目的として設置されたもの(後述の「東京都同和対策協議会連絡事務所要領」1条、乙第14号証の2)であり、部落解放運動のための施設として専ら原告自身が直接利用することを前提にしている。

(2) 本件建物設置の経緯

原告は、右答申にのっとった施策の実現を目指し、被告に対し、昭和46年10月以降繰り返し部落解放センターの設置等を要求した。その結果、被告は、昭和47年6月、部落解放センターの設置について、東京都に対し同和対策事業として財政措置を執るよう要請することを約束し、その旨の確認書(甲第6号証)を作成するに至った。原告は、右約束を踏まえ、被告に対し、部落解放センターの設置までの経過措置として仮集会所の建設を求め、被告も、昭和48年4月、仮集会所の建設を約束した。原告は、仮集会所の規模、構造、間取り及び設備等について具体的な提案を行い、被告もこれを概ね受け入れ、同年6月には原・被告間で右の各点について合意が成立し、建設現場で建設位置の確認がされた。しかし、仮集会所の位置付けについて、被告が公園管理事務所あるいは土木詰所とする意向を示したのに対し、原告は同和対策事業特別措置法の趣旨にのっとって位置付けるべきことを主張して被告の便宜的処理の方針に反対した。右集会所として本件建物が昭和48年12月10日完成した。被告は、原告に対し、4月21日、本件建物について、部落解放センターの完成するまでの間に被告が同和対策事業を強力に進めるための場であることを確認し、その旨の確認書(甲第10号証)を交付した。原告と被告とは、同月26日、本件建物の名称を東京都同和対策協議会連絡事務所とするなどの合意をし、被告は、原告に対し、同月27日東京都同和対策協議会連絡事務所要領(乙第14号証の2)を示した。原告は、被告から、同月28日、本件建物について、鍵の交付により引渡しを受け、利用を開始した。

以上の経緯によれば、本件建物は、原告の部落解放運動の一環としての部落解放センター設置要求と交渉により、右センターと利用目的及び利用方法を同一にするものとし、その完成までの経過措置として建設されたものであり、右部落解放運動のための施設であることが明らかである。すなわち、原告が主体となって本件建物を運営・利用することが当然の前提となっていた。それゆえに、被告は、原告の発案を受け、原告と協議し、原告との間で右事務所要領を定めたのである。

(3) 本件建物の構造及び利用の実態

本件建物は、会議室、事務室、台所等から成り、原告の執行委員会その他の機関会議並びに全体集会、学習会、青年部・婦人部の会議、子供会、皮革工芸その他の社会教育事業及びお花・お茶等、原告の支部員らによる部落解放運動参加の場、交流の場及び教育・学習の場として、また、支部員同士が悩み、苦しみを打ち明け、自己変革を行う場として利用されてきている。原告は、本件建物の鍵を保管してこれを管理してきており、本件建物を利用するに当たって、被告に対する届け出又は被告の許可その他の手続きは、目的のいかんにかかわらず一切必要とされなかった。本件建物は、引渡しの時点から原告がこのように独占的・排他的、かつ、自由に利用し、対外的にも原告の事務所であることを示す表示がされてきている。被告は、本件建物を定期的に監守することがなく、原告に対し、その諸活動を援助・助成すべく本件建物を貸与しているにすぎなかった。

(4) 以上のとおり、被告は、部落解放センター設置までの経過措置として、原告がその活動の場となる仮集会所の建設を要求したことを受けて本件建物の建設を決定し、原告が本件建物を排他的に利用することを前提として、計画段階からその建設場所、規模、間取り等について原告と詳細な協議を経て本件建物を建設し、本件建物の使用料を無料とすること、維持管理費用を全て被告の負担とすることなどを原告との合意により決めたうえ、使用期間を本格的な部落解放センターが設置されるまでとして、昭和48年12月28日、本件建物を原告に対して引き渡した。

(二) もって、前同日、原告と被告との間で、原告に対して本件建物を利用させることを内容とする黙示の使用貸借契約(ただし、通常の必要費も含めて全ての費用は被告が負担するとの特約が付いていた。以下「本件無償貸付」という。)が成立した。

3 黙示の目的外使用許可処分(請求原因2(二)が認められない場合の予備的請求原因)

本件建物が地方公共団体である被告の所有する行政財産であるとしても、請求原因2の(一)の事実によれば、被告は、本件建物の引渡しをもって、原告にその利用権を付与する黙示の目的外使用許可処分をしたというべきである。

4 確認の利益

被告は、原告の本件建物に対する利用権を争い、原告にその明渡しを要求している。

よって、原告は、使用貸借契約(予備的に黙示の目的外使用許可処分)に基づく本件建物に対する利用権の確認を求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は知らない。

2 同2の(一)について (1)のうち、本件建物が部落解放運動のための施設として専ら原告自身が直接利用することを前提にしていることは否認する。(2)について、本件建物設置の経緯の事実のうち、原告が被告から昭和48年12月28日鍵の交付により本件建物の引渡しを受けたことは否認し、その余の事実は認める。また、右経緯に基づく原告の主張事実、すなわち、本件建物が、原告の部落解放運動の一環としての部落解放センター設置要求と交渉により、右センターと利用目的及び利用方法を同一にするものとし、その完成までの経過措置として建設されたものであり、右部落解放運動のための施設であること、原告が主体となって本件建物を運営・利用することが当然の前提となっていたこと、それゆえに被告が、原告の発案を受け、原告と協議し、原告との間で事務所要領を定めたことは否認する。(3)のうち、本件建物が、会議室、和室、事務室、台所等から成り、原告の支部員らによって利用されていたことは認め、その余の事実は否認する。(4)のうち、被告が本件建物の設置に当たって原告と協議したこと及び被告が本件建物を建設したことは認め、その余の事実は否認する。同(二)は否認する。本件建物は、後記再々抗弁のとおり行政財産であったから、これについて使用貸借契約その他これに類似する利用契約がされることはありえない。

3 同3のうち、本件建物が被告の所有する行政財産であることは認め、その余は否認する。本件建物の設置目的は、被告の同和対策事業を推進することであって、原告の本件建物利用は、その反射的利益にすぎない。そもそも、公有財産の目的外使用許可は、一時的又は部分的な利用に限ってされるもので、原告主張のように、その全体について、常時かつ独占的に原告に使用させるような目的外使用はありえない。

4 同4の事実は認める。

三 抗弁

公用財産(請求原因2に対して)

本件建物は、特別区である被告が建築して所有するに至ったものである(したがって、公有財産である本件建物の無償貸付(使用貸借契約の締結)については、法237条2項、96条1項6号により、議会の議決又は条例の定めによることが必要とされており、これによらない無償貸付は無効である。なお、被告は、右法条を受けて、東京都足立区公有財産の交換、譲与、無償貸付等に関する条例(以下「本件条例」という。)4条によって、普通財産の無償貸付は、国又は地方公共団体その他の公共団体において公用又は公共用に供するとき、普通財産の貸付を受けた者が災害のため、当該財産を使用の目的に供し難いと認めるとき、右の2つの他、特に必要があると認めたときにできる旨を規定し、当時の東京都足立区公有財産管理規則(以下「本件規則」という。)33条によれば、この貸付を受けようとする者は、無償貸付申請書を区長に提出しなければならず、また、東京都足立区公有財産運用委員会規程(以下「本件規程」という。)2条4号に基づいて、足立区公有財産運用委員会(以下「運用委員会」という。)の調査、審議を経ることを要求していた。)。

四 抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

五 再抗弁

1 条例等の手続きの実質的履践

(一) 本件無償貸付は、被告の同和対策事業を強力に進めるという特別の必要性に基づいてされたものであった(したがって、これは、本件条例4条3号の要件に該当する。)。

(二) (1) 被告は、原告に対して、本件規則33条の申込手続を免除していた。

(2) 被告は、本件建物の利用料を無料とする旨定めた本件事務所要領を制定したことによって、原告の前記申込手続を代行し、これを承諾した。

(三) 本件無償貸付については、区長を委員長、助役を副委員長、収入役、教育長、総務部長らを委員とする足立区同和対策委員会(以下「同対委員会」という。)で公有財産管理の側面をも含めた総合的な観点からの審議が行われた(したがって、本件無償交付は、本件規程2条4号にいう運用委員会の調査、審議を経たものと同視されるべきである。)。

2 足立区議会(以下「区議会」という。)の追認

区議会は、本件建物を被告が原告に無償貸付していることを知悉しながら、「同和対策連絡事務所維持管理」との費目のある昭和49年度予算を可決成立させ、もって、本件無償貸付を追認した。

3 瑕疵の治癒

(一) 再抗弁1、2の各事実のとおり。

(二) 原告は、現在まで14年間にわたって本件建物を使用してきた。

(三) 支部員同士が集い合って悩みを打ち明けることのできる場所としての本件建物は、原告の活動のうえで必要不可欠であって、他の施設をもってはこれに代替させることができない。

六 再抗弁に対する認否

1 再抗弁1について 同(一)の事実は否認する。同(二)(1)の事実は否認する。同(2)のうち、事務所要領の制定は認め、その余は否認する。右事務所要領は、本件建物の運用に当っての内部規定にすぎないから、これをもって貸付手続の代用とみることは当をえない。同(三)のうち、同対委員会で審議を行ったことは明らかに争わず、その余は否認する。地方公共団体に設置される付属機関は、それぞれ別個の目的のもとに別個の事項を審議するために設けられたものであるから、一つの機関の審議があったからといって、他の機関の審議も経たものとすることは許されない。

2 再抗弁2のうち、区議会が予算を可決したことは認め、その余の事実は否認する。

3 再抗弁3について 同(一)の事実については、再抗弁1、2に対する認否のとおり。同(二)の事実は明らかに争わない。同(三)の事実は否認する。従来原告が本件建物で行ってきた事業は、その後、被告が梅田六月町に建設したコミュニティーセンター等の施設で十分補いうるし、現に原告はこのような施設を使用している。

七 再々抗弁

以下のとおり、本件建物は、被告が同和対策事業を推進するという行政目的のために被告の「東京都足立区同和対策協議会連絡事務所」として使用に供することを決定した行政財産である(したがって、仮に公有財産の無償貸付につき議会の議決等があったとしても、法237条2項、238条の4第1項により、右貸付が有効となるものではない。)。

1 本件建物は、被告の非常勤職員である相談員によって管理され、備品、施設維持費などの運営経費も、全額被告が負担していた。また、被告は、原告が本件建物に原告の事務所である旨の掲示をしたり、原告の支部員らが宿泊に利用したりして、被告の行政目的に反する利用をしたときには、その禁止を要求するなどして、本件建物を監守していた。

2 被告は、本件建物を、原・被告間に設置されている同和対策協議会(以下「同対協」という。)その他の交渉の場所及び原告からの推薦者を被告の非常勤職員である相談員に委嘱して行う各種相談業務のために利用してきた。もっとも、被告は、原告が本件建物を原告の自主的な社会教育活動などに利用することも認めていた。しかし、同和対策事業においては、その対象となる住民の自主的、組織的な社会教育活動を促進し、その活動を側面から援助、助成すること自体が右事業の重要な一要素を成している。右のような原告の自主的活動も、被告の経費助成、指導、助言のもとに行われ、原告は、このような被告の同和対策事業の枠内においてのみ、利用を認められていた。してみれば、原告の右活動も被告自身の行う事業の一環に他ならず、そのための利用も被告自身の本件建物利用の一形態にすぎない。

3 本件建物は、被告の財産管理手続上、一貫して公用財産として扱われてきた。

八 再々抗弁に対する認否

否認する

第三 証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらを引用する。

理  由

一 請求原因1(原告の地位)の事実は、原告代表者本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)及びこれによって成立の認められる甲第1号証並びに弁論の全趣旨によって認めることができ、この認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、原告は、団体としての組織を備え、多数決の原則を行い、構成員の変更にもかかわらず団体そのものとして存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営等主要な点が確定しているものと認められるから、民訴法46条によって、当事者能力を有するということができる。

二 本件建物の設置に至る経緯及びその後の経過について

1 本件建物の設置に至る経緯

証人長谷川三郎、同加須屋誠、同栗原潔の各証言(ただし、いずれも後記採用しない部分を除く。)、前掲原告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨(更に、次の(一)の事実については、成立に争いのない甲第12号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第2、第6、第11号証、次の(四)の事実については、原本の存在及び成立に争いのない甲第10号証、次の(五)の事実については、前掲甲第10号証、成立に争いのない乙第14号証の2、原本の存在に争いがなく、書き込み部分については前掲長谷川証言によって成立が認められ、その余の部分は成立に争いのない甲第8、第16号証)によれば、次の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告は、昭和46年9月に結成されたが、その当初から、被告に対する要求項目の一つとして部落解放センターの設置を掲げており、昭和47年2月ころ、原・被告間の協議の場として同対協が設置されてからは、右解放センター設置要求も本格化し、同年6月23日には、原告の要求に応じて当時の岡崎十止雄区長が、原告に対して、東京都に同和事業として財政措置を要請して部落解放センターの設置に努める旨の確認書を交付するに至った。しかし、適当な用地が見つからなかったなどの事情のため、昭和47年中の交渉はそれ以上進展しなかった。そこで、原告は、右解放センターが設置されるまでの措置として、原告のための仮集会所を建設するようにとの要求をするようになった。

(二) 昭和48年4月ころ、新しく区長に就任した長谷川久勇(以下「長谷川区政」という。)から原告に対して、部落解放センターについては、地域再開発事業の中で措置する意向であるが、当面、仮集会所について3か月以内をめどとして取り組みたいとの考えが示された。

(三) そのころ、原告から、仮集会所建設の候補地として、保木間公園内の資材置場が提案され、被告もこれに同意して、爾後、同対協において右仮集会所の設計等について協議が行われた。原告は、当初、その面積を62坪とするよう要求していたが、結局、42坪とすることで合意をみた。また、間取りや設備等についても原告から要求がされ、被告はこれを概ね受け入れた。そして、昭和48年6月ころ、当時は書記長であった現原告代表者鈴木幸一郎らが、被告の担当者と同道して、現地に赴いて建設位置を最終的に確認し、同年9月ころ、本件建物の建設が開始された。ところが、これらの交渉の過程において、被告から、都市公園内に建設する関係上、土木詰所として建築したいとの申し入れがあり、あくまでも同和対策事業のための施設として位置づけるべきであるとする原告との間で、本件建物の位置づけをめぐって対立が表面化するに至った。

(四) 本件建物は、同年12月10日ころに完成し、同月21日、長谷川区長は、原告の要求に応じて、確認書と題する書面(甲第10号証)を原告に交付した。右確認書には、「保木間集会所(仮称)については本センターが完成するまでの間、足立区の同和対策事業を強力に進めるための場であることを確認する。なお、運用については早急に支部と協議いたしたい」と記載されていた。

(五) 前記確認書を受けて、被告は本件建物の運用についての要領を作ることとし、被告の総務部総務課同和対策担当主査であった加須屋誠(以下「加須屋」という。)が命じられて「東京都足立区同和対策協議会連絡事務所要領」を起案し、同月26日ころ、原告との協議の席上でこれを示して意見を求めた。右協議の結果、これに先立って原告から出されていた同和対策審議会答申の精神にのっとりといった文言を入れるようにとの要求に応じて、第1条の字句が一部修正されたが、その余の条項については原告から特に異論は出されなかった。右協議を経て成案となった事務所要領(乙第14号証の2)の内容は、「同和対策審議会答申および同和対策事業特別措置法の精神に則とり、歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている人々の振興と福祉の増進を図ることを目的と」し(1条)、その目的を達成するために事務所を設置し、その名称を東京都足立区同和対策協議会連絡事務所とすること(2条)、右事務所の施設として会議室を設けること(3条)、右施設の使用料は無料とすること(4条)利用者は、利用を終了したときは、利用した事務所の施設設備を原状に回復しなければならないこと(5条)、この要領の実施について必要な事項は、区長が定めること(6条)というものであった。また、この時、運用方針と題する文書も併せて原告に示され、これには、連絡事務所の維持管理は被告の責任とする旨が明記され、暖房用灯油、湯沸かし用プロパンガスは随時入荷するように手配し、用紙類も事業運営用として措置すること、管理のために原告からの推薦者を被告の非常勤職員として採用し、その職名を環境改善相談員とすることなどが記載されていた。これに対しては、原告から環境改善相談員の人数について原案では1名とされていたのを2名にしてほしいことなど若干の要望が出され、被告はこれを受け入れた。その他、本件建物に関して原・被告間に文書又は口頭でのやり取りはなかった。

2 本件建物の管理、利用状況

前掲長谷川、加須屋、栗原各証人の証言及び原告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨(更に、次の(二)の事実については、成立に争いのない甲第23号証、次の(四)の事実については、昭和60年5月1日鈴木幸一郎が撮影した本件建物の写真であることに争いのない甲第14号証の1ないし15、右栗原証言によって成立の認められる乙第7号証の6、次の(五)の事実については、前掲甲第8号証、次の(六)の事実については、成立に争いのない乙第14号証の3、次の(七)の事実については、前掲栗原証言によって成立の認められる乙第8号証の2及び3、次の(八)の事実については、成立に争いののない乙第4、第6、第12号証)によれば、次の(一)ないし(八)の事実を認めることができる。

(一) 被告の総務部総務課同和対策担当主査であった栗原潔(以下「栗原」という。)は、昭和48年12月28日、現在原告の書記長となっている長谷川三郎(以下「長谷川」という。)に対して本件建物の鍵を交付した。なお、本件建物の鍵は全部で3つ作られ、原告に交付された他、一つは被告総務課において保管し、もう一つは従前から存在した保木間公園管理事務所の管理人に渡された。

(二) 原告に交付された本件建物の鍵は、原告の役員が管理していた。その後、昭和49年2月ころ、これを紛失したため、長谷川が栗原と共に鍵屋へ行ってスペアキーを作ったことがあったが、その際の費用は、原告が負担した(証人栗原の供述中、これに反する部分は、同証人自身が記憶違いと自認していること及び前掲甲第23号証に照らして採用することができない。)。

(三) その後、夜間に何者かが侵入して本件建物を荒らすなどの事件が何回かあったため、数回にわたって原告において鍵を取り替えた。そのうち、当初の1、2回は、被告に相談のうえで行ったが、その後は、原告の一存で取り替えを行っており、これに対して被告から苦情が出されたり、新しい鍵を被告に交付するように求められたりしたことはなかった。

(四) 本件建物には、事務室、和室、台所、会議室等が設けられていたところ、事務室は、常時原告の事務所として使用されていた。また、従前、区役所で行われていた月例の同対協は、本件建物の会議室で行われるようになり、その他の原・被告間の交渉も随時ここで行われた。更に、本件建物は、原告の推薦に基づき被告の非常勤職員として同支部員から採用した生活相談員(事務所要領上は環境改善相談員となっていたが、前掲栗原証言によれば、被告内部の所管部局との関係で実施に当たって名称が変わったことが認められる。以下「相談員」という。)による相談受付の場所としても使用されるころがあった。他方、本件建物内の諸施設は、執行委員会を初めとする会議、部落差別問題等についての学習会、要求組合集会及び識字学級等の婦人学級、定例会などの婦人部の活動、週3回の子供会等の、原告の支部活動にも随時使用されていた(本件建物には事務室、和室、会議室等が設けられていたこと及び本件建物が原告の自主的支部活動に利用されていたことは、当事者間に争いがない。)。なお、原告の支部員以外の者が原告の意思に反して本件建物を使用することはなかった。

もっとも、被告は、原告が本件建物を原告の事務所として使用するころは認めておらず、原告がその旨の掲示をしたときには、これをやめるように申し入れたと主張する。しかし、前掲長谷川証言によれば、区議会の同和問題対策特別委員会(以下「同特委」という。)の視察の際に、原告は、被告の申し入れに応じて右の掲示を一時的に取り外したことが2回あったものの、それ以外にこのような掲示をしていることに対して被告から異議が出されたことを認めるに足りる証拠はない。なお、加須屋証人及び栗原証人の供述中には、原告がこのような掲示をしているのを目撃したことはない旨の部分があるが、不自然であって、採用することができない。かえって、前掲加須屋証言によれば、原告が昭和49年1月6日に本件建物で行った旗開きには加須屋も出席したことが、原本の存在及び成立に争いのない甲第18ないし第20号証によれば、被告は、被告の発行する「区のお知らせ」に原告をして「部落問題理解のために」と題するコラムを掲載させていたが、昭和49年2月20日以降は、右コラムに原告の連絡先として本件建物の電話番号が表示されるようになったことが、また、成立に争いのない甲第25号証によれば、足立区教育委員会から、「部落解放同盟事務所」名下に本件建物に郵便物が送付されたこともあったことが、それぞれ認められる。そうすると、被告は、原告が本件建物を原告の事務所として使用していることを知っていたものというべきである。

(五) 被告は、本件建物の完成後、原告が支部員の中から推薦した者を被告の非常勤職員として相談員に採用し、この者に本件建物の管理運営を委嘱するという形をとった。しかし、実際には、右相談員の相談業務は、必ずしも本件建物で行われていたわけではなく、原告の支部員の家庭を巡回して行われることも多くあり、したがって、相談員が本件建物に常駐していたわけではなかった。また、原告が本件建物を支部活動等に利用するに際して被告から利用時間の制限を受けたことはなく、執行委員会などは、午前零時を過ぎる場合もあったが、被告からこれに対して特段の苦情や要望などは出されなかった(なお、被告は、原告の支部員らが本件建物を夜間宿泊に利用したのに対してその禁止を要求したと主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。)。更に、子供会や婦人部の識字学級等については、費用の一部について被告から資金援助を受けており、その関係で、大雑把な活動状況の報告はしていたものの、個々の具体的な活動内容についての報告を求められたことはなかったし、活動の都度被告に届出をするなどということもなく、この点についても被告から何らの異論は出なかった。そのうえ、これらの活動に被告の職員が同席し、又は指導に当たったことも必ずしも多くはなかった。

(六) 本件建物の備品は、椅子から湯飲み茶わん、スリッパに至るまで100人分を基準に、全て被告の負担において用意された。そのうえ、印刷用紙、トイレットペーパーその他の消耗品についても全て被告が負担して用立て、栗原が連絡を受ける都度補充していた。また、電気代、電話料金、プロパンガス料金など、本件建物内の設備利用料金も全額被告が負担していた。更に、清掃についても、被告が業者と契約して被告の費用負担で実施させていた。

(七) 本件建物の設置されている保木間公園は、都市公園法にいう都市公園に該当するところ、同法は、都市公園内に公園施設以外の工作物を設けることを原則として禁止し、ただ、右工作物が、同法7条の列記するものに該当して、これによる都市公園の占用が、公衆の利用に著しい支障を及ぼさず、かつ、必要やむをえないと認められる場合に限って、例外的に、公園管理者の占用許可を受けて工作物を設置するころができる旨を定めている(同法6条、7条)。そこで、被告は、本件建物について、形式上、同法7条6号の「協議会、集会、展示会、博覧会その他これに類する催しのため設けられる仮説工作物」に該当するものとして、期間を3か月間とする(同法施行令14条4号)占有許可を与え、以後、期間経過直前にその更新を繰り返してきた。

(八) 法237条2項、96条1項6号は、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを貸し付けてはならないと定めている。ところで、本件建物の鍵の引渡しが行われた当時の、被告の公有財産の無償貸付に関する本件条例及び実質的にその委任を受けた下位法規たる本件規則、本件規程の定める手続きの概要は次のとおりである。すなわち、被告においては普通財産の無償貸付ができる場合を、国又は地方公共団体その他の公共団体において公用又は公共用に供するとき、普通財産の貸付を受けた者が災害のため、当該財産を使用の目的に供し難いと認めるとき及び特に必要があると認めるときに限定したうえ(本件条例4条)、無償貸付を受けようとする者には、無償貸付申請書の区長への提出を義務づけ(本件規則33条)、区長はこれについて運用委員会の調査・審議を経て、その意見を徴するものとしていた(同規則42条、本件規程2条4号)。しかし、前記鍵の引渡しに当たっては、右無償貸付申請書の作成・提出も、運用委員会の調査・審議もされていなかった(なお、法96条1項6号は、その規定形式に照らして、公有財産の無償貸付については議会の議決によることを原則とし、ただ、条例によって、いわば、包括的な事前の許可がある場合には、右条例の定める手続に従う限度においてのみ、個別的に議決を得ることを要しないとした趣旨と解するのが相当であり、このことは、条例が、具体的な無償貸付の手続を規則等に委任している場合も同様と解するべきである。そして、公有財産の無償貸付は、これがみだりに行われる場合には、右貸付を受ける者と地方公共団体との間の癒着を生じさせるおそれがあり、当該地方公共団体の財産に損失を与える危険もあるうえ、これを受ける者に補助金を与えたのと同様の効果を生じるところから、総計予算主義の原則(法210条)を潜脱することにもつながりかねないことをも勘案すると、無償貸付の手続には、高度の厳格性が要求されるというべきである。してみれば、条例及びその委任を受けた規則等に定められた手続きが履践されていない場合に実質的にこれらの手続きが履践されていると判断することは、困難というべきである。)。また、本件建物の無償貸付を許可する旨の区議会の議決もされておらず、更に、本件建物について、原告との間で普通財産の貸付契約書などが取り交わされたこともなかった。

もっとも、成立に争いのない乙第16及び第17号証によれば、区議会が「同和対策連絡事務所維持管理」との費目のある昭和49年度及び昭和50年度の予算を可決していることが認められる。しかし、法96条1項が、2号で予算を定めることを議会の議決案件として挙げながら、これとは別に、6号で公有財産の無償貸付を特に挙示している趣旨に照らすと、無償貸付については予算の議決とは別個独立にされなければならず、このことは、既にされた無償貸付を議会が追認する場合も同様であると解するのが相当である。したがって、予算の議決があったからといって、これが、法237条2項、96条1項6号にいう「議会の議決」に当たるとして無償貸付の追認があったものとみることはできないから、右事実は前記認定を左右するものではない。

3 その後の本件訴訟提起に至るまでの経緯

証人林信男の証言並びに弁論の全趣旨(加えて、次の(六)の事実については、成立に争いのない乙第3号証、次の(七)の事実については、原本の存在及び成立に争いのない甲第15号証)によれば、次の(一)ないし(七)の事実を認めることができる。

(一) 昭和49年ころ、原告の前支部長であった田中英苗が部落解放正常化東京都連絡会議足立支部(昭和51年5月、東京都部落解放運動連合会足立支部に改組。以下「東解連」という。)を設立して、原告とたもとを分かった。その後、東解連や一般住民から、被告の同和行政が原告のみを対象にしていて不公平かつ非民主的であるとして、被告及び区議会に対してその是正」を求める請願、陳情等が出されるようになった。

(二) 昭和49年3月の区議会での質問で、一部の議員から、被告が本件建物を全面的に原告の使用に委ねているのではないかとの質問があり、右利用方法等が法令に違反しているのではないかと追及された。これに対して、区長及び総務部長は、本件建物は被告が管理し、同和対策特別措置法の具体化のための原告との連絡及び同和行政推進の場所として公用に使用しており、あくまでも仮に使用しているものであるから問題はない旨答弁した。本件建物のことは、その後、同年の6月議会、9月議会においても取り上げられた。また、同年3月ころに区議会が設置した同対委においても本件建物を誰がどのように利用するかをめぐって審議がされたが、被告は、終始一貫して右のような答弁を維持していた。

(三) 昭和50年12月12日、区議会本会議において、同和対策事業が一般住民及び原告に所属していない未解放部落民との間に格差を生じているとして、被告に対して公正・民主的な同和行政を求める旨の決議がされた。

(四) 昭和54年10月31日、区議会は、被告区長に対して、従来の同和対策事業の予算執行を再検討すること、昭和55年度の予算執行に当たっては同和対策事業を一般事業の中で行う方向で検討すること、原告との交渉について正常なルールを確立することなどの要望をした。

(五) 昭和55年3月28日、区議会本会議において、同和相談員の全面廃止の陳情が採択され、同年7月9日、本件建物を原告に独占的に使用されることをやめ、一般区民にも利用させることを求めるなどの陳情が採択された。更に、昭和56年6月15日、区議会は、本会議において、これらの陳情の実現促進を促す旨の陳情を採択した。

(六) 被告は、相談員を昭和57年3月31日限りで廃止する一方、同年9月14日付で「足立区における同和行政について基本的考え方」と題する文書をまとめた。右文書は、同年4月1日に地域改善対策特別措置法が施行されたことに伴って今後の同和行政の基本的指針を設定するとしたうえで、同法に基づく対象地域は足立区内では今日まで把握されていないこと、同和対策諸施策の優先について一般住民の同意が得にくいことなどを指摘した。そして、これらの実体認識に立って、人権問題の啓蒙を主軸とする施策の推進を図ると共に、他の事業については、区民生活に関する諸施策との一体性を考えて、区民の理解・協力を得られるよう運用に当たることを基本的考え方とするとして、同対協については廃止の方向で検討し、その連絡事務所としての本件建物についても廃止の方向で努力する旨明記した。

(七) これを受けて、被告は、原告に対し、同年1月31日付けの書面で、同対協連絡事務所は昭和57年度限りで廃止するので昭和58年3月31日限り本件建物を明け渡されたい旨通知した。そして、被告は、同年3月31日限りで同対協設置要綱及び事務所要領を廃止した。原告は、これに先立つ同月16日、本件訴訟を提起した。

三 請求原因2(黙示の使用貸借契約)について

1 前記二の1(3)及び(五)の事実によれば、被告は、原告の要求を受けて本件建物の建設を決定し、その建設場所、面積、間取り等についても原告と協議し、事務所要領及び運用方針も原告の意見を求めたうえで策定したというべきである。また、前記二の2(一)ないし(三)の事実によれば、本件建物は昭和48年12月28日、鍵の交付をもって原告に引き渡されたものということができ、原告が、右引渡し後本件訴訟提起の直前に至るまで9年間以上にわたって(この事実は弁論の全趣旨によって認める。)本件建物を原告の支部事務所等として使用していたことは前記二の2(四)のとおりである。そして、原告は、これらの事実を根拠に、原・被告間に黙示の使用貸借契約の成立が認められる旨主張し、原告代表者及び長谷川証人の供述中には、右主張に副う部分がある。

2 しかし、他方、前記二の1(一)ないし(五)、2(六)ないし(八)並びに3(一)及び(二)のとおり、本件建物は、原告がその要求に係る部落解放センターの設置までの間の仮集会所としてその設置を要求し、被告も、右要求に対し、部落解放センターについては地域再開発事業の中で措置を執ることとし、あくまでも暫定的な措置として本件建物を設置することとしたものであること、本件建物は、他に適当な用地がなかったため、都市公園法所定の都市公園である保木間公園の資材置場に建設されることとなり、同法7条6号の「競技会、集会、展示会、博覧会その他これらに類する催しのため設けられる仮設工作物」に該当するものとして、被告が同法6条1項所定の公園管理者による占用の許可を受け、都市公園法施行令14条4号の定める3月の期間ごとに右許可の更新を受けていたものであること、本件建物が右のとおり都市公園法7条6号所定の仮設工作物として位置付けられることとなることについては、本件建物を位置付けることを考えたものの、同和対策推進のための施設として位置付けるべきであるとの原告の要求によりその変更を余儀なくされ、当時の長谷川区長が原告に対し「本センターが完成するまでの間、被告の同和対策事業を強力に進めるための場であることを確認する」との確認書を交付したという経過があったのであるが、原告の右要求も、使用貸借契約又はこれに類似する利用契約を締結することを何ら含むものではなく、本件建物の利用については、被告が原告に対しその意見を求めたうえで事務所要領(東京都同和対策協議会連絡事務所要領)を示したのみであって、原告と被告との間で使用貸借契約又はこれに類似する利用契約の締結が口頭で合意され、あるいはこれを内容とする文書が作成された事実はなかったこと、右事務所要領は、「同和対策審議会答申および同和対策事業特別措置法の精神に則とり、歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている人々の振興と福祉の増進を図ることを目的とする」(1条)、「(その)目的を達成するため、同和対策協議会連絡事務所を設置する」(2条)、「事務所には次の施設を設ける。一 会議室」(3条)、「施設の利用料は無料とする」(4条)並びに「利用者は、利用を終了したときは、利用した事務所の施設設備を原状に回復しなければならない」(5条)と定め、本件建物自体ではなく、施設設備の利用関係として規律していること、右事務所要領には、本件建物について、原告に対し使用賃貸契約又はこれに類似する利用契約上の権利を認めたものと解される記載が全くないが、これについて原告から特段の異論が出されなかったこと、被告は、本件条例、本件規則及び本件規程が普通財産の無償貸付について定めていた手続、すなわち、普通財産の無償貸付を受けようとするものが区長に対し無償貸付新鮮所を提出し、区長が運用委員会から調査・審議に基づく意見を徴するとの手続を何ら履践しなかったのであり、原告との間で普通財産の貸付契約書を取り交わすこともなかったこと、被告は、原告による利用についてその施設設備の利用関係としてこれを位置付け、本件建物内部に備え付けられた備品(消耗品を含む。)から燃料費、電話代に至るまでほぼ全面的にその費用を負担することとし、実際にもこれを負担していたこと、その後、昭和49年ころ東解連が設立されたことを契機として被告の同和行政が問題とされることとなったが、被告は、本件建物のことが区議会で取り上げられた際にも、あくまでも被告の同和対策行政のために本件建物を使用しているものと答弁し、同対委による本件建物の視察の際には、原告に本件建物の入口の支部事務所との掲示を取り外すように求めていた(原告もこれに応じた。)のであって、一般住民等から、本件建物の設置が原告に対する不当な便宜供与であるとの批判を受けることをおもんばかって、右批判に答えることのできるよう留意していたこと(この事実は前掲加須屋証言及び栗原証言により認める。)を認めることができる。

以上の事実によれば、被告は、原告による本件建物の運営・利用という事態を事実上容認しつつも、本件建物を被告の同和対策事業推進のための事務所とし、原告による利用についてもその施設整備の利用関係としてこれを位置付けることにより、本件建物を行政財産として取り扱い、被告の行政目的に供するとの形式をとっていたものということができる。そして、法238条の4第1項及び第3項によれば、行政財産については貸付け等はできず、これに反する行為は無効とされているから、前示のとおり、本件建物を行政財産として扱っていた以上、被告が、原告との間で使用貸借契約又はこれに類似する利用契約を締結する意思はなかったものというべきである。

3 以上の事実に照らせば、被告が先にみたとおり原告に本件建物を引き渡し、原告の使用を認めていたことに基づいて、原・被告間に黙示の使用貸借契約が成立したものと認めることはできないし、原告代表者及び証人長谷川三郎の前記供述部分を採用することもできない。

他に請求原因2の事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、請求原因2は理由がない。

四 請求原因3(黙示の目的外使用許可処分)について

1 本件建物が特別区である被告の所有に属する行政財産であることは、請求原因2が認められないことを前提として、当事者間に争いがない。

 2 いわゆる行政財産の目的外使用許可処分とは、私人その他の者に、本体の用途又は目的を妨げない限度において、当該行政財産の本来的目的以外の目的での使用を許可する行政処分をいうものと解される(法238条の4第4項)。そこで、本件において、原告の主張する目的外使用許可処分があったと認められるかについてみるに、前記3で説示したとおり、被告は、基本的に原告の本件建物に対する使用を被告自身の同和対策事業の一環として捉えていたものであり、このような見地からすれば、原告の本件建物の使用は、まさに本件建物の設置目的に合致するものである。そうすると、原告の使用は、「目的外」の使用とはいえないのであるから、この点において、原告の右主張は既に失当であるといわざるをえない。

3 もっとも、原告の右主張の真意は、被告が原告に対して本件建物を利用する特別の権限を認めたとして、いわゆる黙示的な特別使用の許可があったことをいうにあると解する余地がある。

そこで、この点について検討するに、なるほど、前記二の2(一)ないし(四)のとおり、被告が原告に本件建物の鍵の管理を委ね、原告がこれを使用していたことからすれば、このような処分がされたとの主張も全く顧慮する余地のないものとまではいえない。しかし、被告が、一般住民等から、原告に対する不当な便宜供与であるとの批判を受けることのないように、あくまでも建物自体は被告が管理することとし、原告の使用は、右建物内の施設設備の利用として認めることとしていたこと及び本件建物だけではなく、その施設設備に関する費用をほぼ全面的に負担していたことは、前記3に説示したとおりである。そうすると、これらの事実にもかかわらず、被告が原告に対して特別使用の許可というような強力な利用権を認める意思を有していたとはにわかに認め難い。

しかも、前記二の1(五)のとおり、事務所要領には、被告がこのような処分をしたことをうかがわせる文言はなく、むしろ、成立に争いのない乙第15号証に照らしても、右事務所要領の文言は、通常の一般使用の場合と全く同一のものにとどまることが認められる。

4 以上のとおりであって、他に請求原因3の事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、請求原因3も理由がない。

五 よって、その余について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第25部

裁判長裁判官 平手勇治

     裁判官 高世三郎

     裁判官 瀬戸口壯夫

物  件  目  録

所在 東京都足立区竹の塚3丁目8番1号

種類 事務所

構造 軽量鉄骨造平屋建

床面積 145・74平方メートル

(おわり)

 

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