第1章 テレビ『空飛ぶモンティ・パイソン』

第2節 構成


 モンティ・パイソンは、一回の放送で一つの作品という形式にかなり意識的であったと思われる。第一期初期の頃は個々のスケッチは互いに無関係に置かれているだけであった。しかし中期頃から徐々にスケッチが互いに侵食し始める。といっても、まだ第一期の頃は前後のスケッチに対して簡単な受け答えが行われる程度の関連づけであった。本格的な侵食は第二期に入ってからである。

 第二期第一回放送の構成は次のとおり。

 

 動物園の檻の中。司会者(クリース)と、隣の檻にいるIt's man(ペリン。第一期から常に番組冒頭に出てきて「It's」と言うだけの、ぼろぼろの服を着たキャラクター。それに続いて番組タイトルのアニメーションとなる)。司会の挨拶とIt's manの「It's」に続いてタイトル「Monty Python's Flying Circus」

 ここまではいつものとおりである。タイトルアニメが終わると報道特集と題し、司会者(アイドル)が内務大臣(チャップマン)と油にまみれた布にロンドンの住宅問題についてインタビュー。答弁が終わると司会者が「次は爆撃機長のインタビューです」

 爆撃機長(クリース)のインタビューをテレビで見ている主婦(ジョーンズ)。チャイムが鳴る。客「こんにちはロジャースさん」主婦「あら、ここ私のうちじゃなかったわ」自分の家(隣)に戻る主婦。テレビでは爆撃機長のインタビューが続いている。チャイム。新しいガス調理機が届けられる。しかし書類の名前が主婦のものと違う。配達人たちはみな役人仕事であるため書類どおりでないと仕事ができない。しかし主婦は持ち帰られると困ってしまうのでなんとか書類をごまかすことで調理機を手にいれようとする。そのため手続きが複雑になり家の外には配達人たちによる長蛇の列ができている。列はそのままアニメーションの中へと続く。

 列の手前を中世ヨーロッパ貴族人型飛行機がいくつも飛んでいる。そのうち一機が地上に降り、中からパイロットが出てくる。パイロットは部屋へ入ると髭剃り用クリームを顔面に塗り始める。顔全体がクリームで覆われるとパイロットは自分の頭部全てを剃り落とす。

 カードに文字が書かれる。「パイロット欠員一名求む」周囲に色々な伝言、募集事項等の情報。それを見て客(アイドル)が入ってくる。客は様々な情報を全て助平なものに連想し、店主(ジョーンズ)に購入を希望するが、どれも客が連想したようなものではない。仕方なく店主は本当に助平な情報を渡す。そこへ男(クリース)が新聞を買いに入ってくる。

 店を出ると男は奇妙な形で歩行し始める。その背後にはガス調理機配達人の列が見える。男が歩き続けると、その横に「バカ歩き省 Ministry of Silly Walks」の看板が現われる。男、中に入ると客人(ペリン)あり。「バカ歩き育成に補助金を」「英仏バカ歩き協会が一番です」

 二人のフランス人(クリースとペリン)。中央に布をかぶった物体。二人が布を取ると半身イギリス人半身フランス人(ジョーンズ)がいる。音楽にあわせ左右別々の歩き方で遠ざかっていく。ナレーションがかぶさる。番組案内。「BBC第一は『カエルのエセル Ethel the Frog』」

 「カエルのエセル」司会(クリース)「今日のテーマは英国暗黒街の暴力、禁固400年を命ぜられた暴力兄弟ダグとディンについて」以下二人についてのインタビューやドキュメントが続く。途中街頭インタビューの背景に調理機配達人の列がある。ディンについてのインタビュー。「ディンはいつも大きなハリネズミに見られている気がすると言っていた。ハリネズミは全長12フィート、ディンに元気がないと全長800ヤードに巨大化した」兄弟を逮捕した警官ハリー氏(ジョーンズ)の話。得意の変装で兄弟を追い詰めた。様々な変装の中でも「ラ・マンチャの男」の当たり役サンチョ・パンザが絶賛を浴びる。

 楽屋でメイクをするハリーと友人の警官(チャップマン)。二人外へ出ていくと前をバカ歩きの男が横切る。路上ではニュースが流れる。「ダグとディンの兄弟が脱走した」逃げ惑う人々。町から人の姿が消える。町を覗き込む大きなハリネズミ(アニメ)。「ディンはどこだ」クレジットがかぶさる。ディンを探し続けるハリネズミ。見上げている檻の中の司会者「それではまた来週」隣でミイラになっているIt's man。

 互いのスケッチそのものが無関係であるのには変わりないが、各スケッチが他のスケッチに入り込み、より複雑な構成になっていることがわかる。複雑な構成故、脚本も時間をかけて前後を考えて組まなければならない。まして「空飛ぶモンティ・パイソン」では楽屋落ちを一切排除したため適当にアドリブで誤魔化すという手は許されない。必然的に骨格のしっかりした、本来テレビの特徴である一回きりの垂れ流しにするには手の込みすぎている番組となっていく。

 このようにして、「空飛ぶモンティ・パイソン」は、単なるスケッチ集から毎回一エピソードの作品へと変化した。放送開始から25年以上過ぎたにも関わらず現在日本で観ることができるのも、鑑賞に耐えられるだけの骨格を持つからである。そしてこの構成は第二期第一回に限らず、これ以降の同番組のスタイルとなっていく。


「ラ・マンチャの男」 狂人ドン・キホーテの遍歴の旅を描くセルバンテスの風刺小説『才気あふれる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』(1605,15年)を原作とする戯曲。サンチョ・パンザはそのお供。↑戻る

アドリブで誤魔化す 一度だけ危うく素が出そうになる場面がある。第一期第二回でフランス人を演じるクリースとペリン。台詞は髭をつけることにより喋ることができるのだが髭は一つしかない。ペリンが自分の髭をクリースにつけるのだがなかなかうまくいかず、ペリンが必死で笑いをこらえているのがわかる。↑戻る

空飛ぶモンティ・パイソン VOL.3 空飛ぶモンティ・パイソン VOL.4 ラ・マンチャの男


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