決定稿第一部 金曜日
1 字幕「大東文化大学映画研究会」 2 研修棟裏 女、書類を抱え後ろを振り返りながら逃げてくる。 つまずき書類を地面にぶちまける。 急いで集め逃げようとするが、追手に追い付かれる。 女、振り替える。その手前にカッター。 しばしにらみ合い。 女、覚悟を決める。 突然奇声が聞こえる。 見上げる追手。 女目を上げる。奇声の主、建物の陰へと去っていく。 のびている追手。女後を追う。 もはや奇声の主が誰だかわからない。 女「ドラゴン番長…」 女、空を見上げる。 3 大学へと向かう坂道 坂の下から一人の男がやってくる。片手に鞄を持ち、少しうつむきながら、疲れた表情でゆっくりと歩く。 立ち止まり、見上げる。 突如背後から声。 女の声「泥棒ー!」 走る泥棒。追う女。 男、こぶしを握る。 後ろを気にしながら走る泥棒。 鉄拳がそれを阻む。 泥棒倒れる。走ってくる女。 握り飯が転がる。拾う女。 女「あ、あの、どうも有難うございました。お礼といってはなんですが、これを」 女、握り飯を男に差し出す。 男「せっかく取り返したんだ。俺が受けとったんじゃなんの意味もないだろう」 女、感激のあまり声が出ない。男に一礼し、振り返り去る。 男、女を見送り、再び坂を歩き始めようとする。 泥棒「待てよ」 立ち止まる男。 男振り返ると、泥棒地面に倒れたまま苦しそうに話を続ける。 泥棒「てめえ、何者だ」 男「生憎と、名乗るのは好きじゃないんでな。勘弁してくれ」 泥棒「そういうわけにもいかねえ。俺ぁもう先が短いんだ。誰にやられたかもわからずに逝くんじゃ、俺を産んでくれた冥土のおふくろに持ってく土産がねえ。餓鬼のころに先立たれた俺は、親孝行ってやつを一度くれえしてみてえんだよ。いくら俺が悪事を働いたっていっても、そのくれえのわがまま、許してくれたってよかあねえか?」 男「…俺は、大東亜帝国大学第壱格闘部我龍塾OB、BB福岡だ」 泥棒「BB福岡? そうか、あんたが…」 福岡「知ってたか。おふくろさんに伝えてやれ」 泥棒「化けてでてやるぜ、ドラゴン番長さんよ」 福岡「何?」 泥棒、絶命している。 福岡「ドラゴン番長? なんのことだ…」 福岡、空を見上げる。 4 オープニングクレジット 5 字幕「金曜日」 6 講堂 照明がつく。男が一人立っている。 男、演説を始める。 男「大学は今、荒廃している。風紀は乱れ、空気は淀み、黄金週間の終了した今、多くの新入生は、救いようのない孤独、例えようのない虚脱に襲われ、希望を失い、気力をなくしていく。最後の力を振り絞り、再びここへたどり着いても、そこに彼を待つのは絶望の一般教養と空洞の専門分野。我々にはモラトリアムさえも許されないのか。現学生自治会中央執行委員会会長廣岡公威、引き続き闘ってゆくことをここに表明する。投票は再来週、五月第四月曜日。以上だ」 幕が降り客席照明つく。拍手する学生達。 廣岡「愚民どもが」 その後ろに一人、拍手せずに見ている一人の学生。 7 バス停 歩いてくる福岡。 追う何者かの視線。 いきなり背後からの攻撃。 振り替える福岡。 落ちる鞄。 睨んだあとほっとしてサングラスをはずす。 福岡「久しぶりだな、王仁十三郎」 王仁「卒業式からまだ一月半だ。社会人てのは学生とは時間の経ち方が違うらしいな」 以下技をかけあいながらの会話。 福岡「今年は卒業するのか?」 王仁「そのつもりだ。今日はどうした。定休日か?」 福岡「有給だ。後輩達の元気な姿が見たくなってな」 王仁「なるほどな」 福岡「偶然会ったついでに一つ聞きたいんだが」 王仁「何だ」 福岡「ドラゴン番長って知ってるか」 王仁「ああ、お前の後を継ぐ、大学の守護神だ」 福岡「俺の後? 俺は守護神だったのか?」 王仁「そうらしい。お前の卒業後、大学は急速に荒れ始めてるからな」 福岡「ドラゴン番長がいるのにか」 王仁「お前と違って具体性がないんだよ。神出鬼没正体不明、もしかしたら単なる大学のフォークロアなのかもしれない」 福岡「なら、荒れるのもしかたなし」 王仁「そういうこと」 福岡「まあ、俺には関係ないことだな」 王仁「冷たいんだな」 福岡「じゃあな」 福岡、部室棟へと去る。 王仁、福岡を見ている。 8 部室棟裏口階段 最下階。扉開き福岡入ってくる。階段を上り始める。 数階上ったところで一休み。 煙草に火をつける。 壁に「寺田」と書かれている。 そのまま上ると次が最上階。 「大東亜帝国大学第壱格闘部我龍塾」と書かれた表札。 9 部室内部 扉開くと部員二人が飲んだくれている。 汚れている部室。 酒瓶をつかむ手。 部員A「入部希望の人?」 部員B「(瓶を置いて)そこに座っちゃってよ」 部員A「うちは名前はかたいけど、実際はそんなことなくって、全てのスポーツは格闘だってことで、季節にあわせていろんなことやってるんだ」 瓶を取り飲む。 部員B「いわゆるオールラウンド系ってやつだね」 部員A「ほのぼの楽しくってのが今年からの基本方針だから、みんな優しい先輩ばっかりだしね」 部員B「どうしたの? 座っちゃってよ」 福岡、いきなり部員Bを殴る。 悲鳴をあげる部員。 部員B失神。 部員A「ななな何なんだあんた」 福岡「OBのBB福岡だ」 部員A「え。ははは始めまして。おおおお噂はかねがね。どどどどうしたんですか今日はいったい」 福岡「お前、何年だ」 部員A「ににに二年です」 福岡「いつ入部した」 部員A「きょきょきょ去年のごごご五月くらいに」 福岡「見たことない顔だが」 部員A「ししし暫く休んでまして」 福岡「鬼が去って、部を改造しに戻ってきたってわけか」 部員A「いいいいえ改造されたから戻ってきたってわけで」 福岡「もっと自主性がないな。で、なんでこんなことになってるんだ」 部員A「いいいいやその話すと長くなりましてうわああああああ」 瓶をふりあげ襲いかかるがあっさりやられる。 部員A「卑怯者」 福岡「何?」 部員A「強い先輩がいない時を見計らってくるなんて、卑怯だとは思わないんですか?」 福岡「お前、泣いてるくせに度胸座ってるな」 部員A「泣き上戸なんですよ。今日は不意打ちだったから、明日、もう一度、来てください。あんただって、OBのプライドがあるはずだ」 福岡「明日もう一度来てどうする」 部員A「試合ですよ。俺達は今の部のやり方に納得してるんだ。明日あんたが勝ったらあんたのやり方に従うが、俺達が勝ったら今のやり方に口出ししないでほしい」 福岡「わかった。で、ルールは」 部員A「部室までの各階に一人ずつ、五人置く。あんたが全員倒して部室にたどり着いたらあんたの勝ちだ」 福岡「どっちが卑怯なんだ」 部員A「あんた腕に覚えがあるんだろう。ハンデくらいつけてくれよ」 福岡「わかった、条件をのんでやる」 ぼーっとしている部員。 閉まる扉。 10 部室棟出口 福岡出てくる。 王仁が待っている。 11 7・8号館 サングラス帽子上着をとる福岡。 座る王仁。 トレーニングをする福岡。 王仁のナレーション「かつては全日本大学格闘技選手権において三年連続優勝を果たし、大学の龍を呼ばれた男、BB福岡。彼は大学を卒業後、かつてのキャリアとは裏腹に、ペットショップに就職、労働に励んでいたが、五月、ゴールデンウィークあけの金曜日、有給をとり大学へと帰ってきた。荒れ果てた部室や後輩の姿に精神的に強く打ちのめされた彼は暴力行為に訴え、ついには明日の死亡遊戯へと事態は発展、偶然再会したかつての好敵手、大東亜帝国大学第弐格闘部虎之穴元主将王仁十三郎に見守られる中、トレーニングを開始した」 福岡、王仁の隣に腰を下ろす。 福岡「好敵手って、お前、一度でも俺に勝ったか?」 王仁「毎年学内代表決定戦は俺とお前だったろ。お前さえいなけりゃ俺だって全国いけたんだよ」 福岡「今年はいけるな」 王仁「ところが五年はいろいろと忙しくってな。お前は仕事忙しくないのか? 後輩の元気な姿見るってのは、試合するってことじゃないだろ」 福岡「忙しいけど、精神的に疲れてな。まあ気分転換にはなるだろ」 王仁「あんな後輩連中でもか」 福岡、無言。 王仁「月曜からは出社するんだろ」 福岡「明日次第だな」 王仁「しろよ」 12 アパートの一室 暗闇 男1「始めるぞ」 ライトつく。 スイッチ音。 男2「あの、他のみなさんは」 男1「順を追って話す。黙ってきいてろ」 男2「はあ」 男1「それじゃまず、例の書類盗難問題から知ってると思うが、今日午前、会議室から4・5条約締結文書が盗みだされた。菅原が後を追ったが、そこで邪魔が入った。なんだと思う」 男2「ドラゴン番長ですか」 男1「恐らくな。よって書類奪回は失敗、菅原は絶対安静のため欠席だ」 男2「盗んだ奴の目星はついてるんですか」 男1「(写真を出し)国際関係学部二年、蜂谷珠美だ」 男2「俺この女知ってますよ。同じ授業結構多いんですよ」 男1「どんな女だ」 男2「いつも一人で、友達いなさそうです。出席確認の返事以外口開けてるの見たことありません」 男1「それだけ?」 男2「はい」 男1「この女から早急に書類を奪回すると同時にドラゴン番長対策を練らねばならん」 男2「やっとBB福岡がいなくなったってのに、どうなってるんでしょうかねえ。あ、もしかして同一人物ってことはないですか」 男1「いや、別人てことが今日、愛川と山城からの連絡ではっきりした。菅原がドラゴン番長に襲われたのと同じ頃、BB福岡が大学坂下に現われた。軽く人助けをした後部室で後輩、つまり山城たちに指導、その際卑怯者よばわりされ逆上、汚名返上のため明日、死亡遊戯を行う。われわれはそこに刺客を送る。メンバーは召集済み。愛川は大学で待機、山城は明日のための準備で欠席だ。以上」 13 大学敷地内 書類をかかえこそこそ歩く蜂谷珠美。前から歩いてきた王仁にぶつかる。 蜂谷「あっ」 書類が地面に広がる。 急いでかき集める蜂谷。 一緒に集める王仁。 蜂谷「あっ」 王仁、一枚に目が止まる。 「部外秘 学内覇権についての取り決め 決定稿 管理総務部 学生自治会中央執行委員会 4月5日」と書かれている。 王仁、蜂谷を見る。 目をそらす蜂谷。 TOP | 五月のドラゴンTOP | モンティ・パイソンの理想郷 | ブログ | プロフィール |