ナアリブシ 

流れ星といえば誰もが夜空を連想するが、沖縄地方ではこれをナガリブシと呼び、地 域によってナアリブシと転訛する場合がある。特別な意味があるわけではないが、こ うした沖縄独特の言葉の響きを耳にすると、南島の夜空に想いを巡らしてその星の正 体を確かめたくなるのは不思議である。 【意 味】流れ星(転訛形) 【星座名】流星 【伝承地】沖縄県 【分 類】動き/知識/その他
2023/03/25 

ナナチョウ

利根川流域には、サンチョウボシという三つ星の呼称があるが、このナナチョウも同 じ流域で記録された。埼玉県加須市では、ナナチョウは明治30年代に生まれた人たち が使っていた星名であると伝えている。おそらく、この地域においてはごく一般的な 呼称であったと考えられ、当年代の伝承者以降は次第にナナツボシへ置換わったもの と推測される。伝承地は限られるが、サンチョウボシの見方をそのまま北斗七星に充 てたものである。サンチョウは「三星(サンショウ)」の転訛であるから、この場合 は「七星」と解するのが適当であろう。北斗七星を単純に七つの星と捉えている点で、 原意としてはナナツボシと同じである。ナナチョウボシともいう。 【意 味】七星(転訛形) 【星座名】おおぐま座北斗七星(αβγδεζη) 【伝承地】埼玉県、千葉県 【分 類】数/知識/数詞

ナナツブシ 

星を「フシ」「ブシ」「プシ」などどいう沖縄・宮古・八重山の各地方で、北斗七星 の最も一般的な星名である。オリオン座の三つ星と同様に、全国的な分布を示す事例 の一つであり、星の利用という観点からも重要な対象であった。ただし、沖縄地方で はナナチブシと呼ぶ地域が多く、より親しみやすい星名となっている。 【意 味】七つ星(転訛形) 【星座名】おおぐま座北斗七星(αβγδεζη) 【伝承地】沖縄県 【分 類】数/知識/数詞

ナナツボウ 

鹿児島県大隅地方南部の一部地域における北斗七星の呼び名である。同所では一般的 なナナツボシも伝承されているので、その転訛形ではなく別な意味を持った星名と考 えられる。確証はないがボウは「坊」で、いわゆる「〜坊」と称される類の意味を含 んだ呼び名であろう。因みに、沖縄県八重山地方の竹富島にはミツボウ(オリオン座 三つ星)という星名があり、対象は異なるものの地域を超えて共通する表現手法を見 出すことができる。 【意 味】七つ坊 【星座名】おおぐま座北斗七星(αβγδεζη) 【伝承地】鹿児島県 【分 類】数/知識/数詞

ナナツボシ

栃木県野木町では、おうし座のプレアデス星団をナナツボシと呼んでいる。この星は いくつかまとまって出てくるが、よく見ていないとわからないという。それでも七つ か八つは見えるというから、条件さえよければ呼び名どおりの星数を確認していたの かもしれない。肉眼でみる星の数は六つといわれるが、各地の伝承をみると七つか八 つ、時には十も見えるというから、6という数字のこだわる必要はないのかもしれな い。陽数である7で代用したとしても、間違いではないであろう。類似の名にナナト ボシなどがある。 【意 味】七つ星 【星座名】おうし座プレアデス星団 【伝承地】北海道、青森県、福島県、茨城県、栃木県、埼玉県、東京都、富山県、山梨県、      静岡県 【分 類】数/知識/数詞

ナナツボシ

北斗七星を単純に七つ星と呼ぶことは、オリオン座の三つ星とともに標準和名として ふさわしい星の名である。調査でも多くの地域で記録されており、ナナツブシを含め て全国的な分布をもつことがわかる。この星は、北半球の中緯度以北でほぼ周極星と なり、常に人びとの注目を集めていた。伝承にも、ナナツボシが北の空に9の字に上 がったら何時ころとか、冬の朝ナナツボシがせどの上に四つか五つ上がるのを確認し、 それから朝飯を食べて出かけたなどといわれている。これらは、北斗七星が夜空を転 回することにより示す方角、あるいは位置そのものが時を計る目安として利用された ことを示している。中国でも、古くから北斗の柄が示す方向で四季の移ろいを定めて いたことが知られている〔『五雑組1』文0066〕。類似の名にナナツボシサンやナナ ボシサマ、ナナツノホシ、ナナトセイなどがある。 【意 味】七つ星 【星座名】おおぐま座北斗七星(αβγδεζη) 【伝承地】北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、      群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、      山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、      兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、      香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、      鹿児島県 【分 類】数/知識/数詞

◇ 北の空で起ちあがった北斗 ◇

ナビゲエブシ 

沖縄地方の北斗七星に対する呼称は、七つ星を意味するナナツブシあるいはナナチブ シが一般的である。また、北斗といえば柄杓の形をした星としてもよく知られ、沖縄 本島や周辺の島の一部で、これをナビゲエブシと呼ぶところがある。ナビゲエは柄杓 やお玉(杓子)をさす言葉であり、文字通りの柄杓星に他ならない。糸満市東部の山 城地区では、伝承者が子どもの頃に南島特有のハジチ(手の甲に施す入墨)をもった オオオバから教えられたということで、古くから受け継がれてきた星名ではないかと 推察される。 【意 味】柄杓星(転訛形) 【星座名】おおぐま座北斗七星(αβγδεζη) 【伝承地】沖縄県 【分 類】配列/生活/用具
2017/12/25 

ニイヌファブシ

ニヌファあるいはニイヌファは、「子の方」を意味する南の島々のことばである。 沖縄・宮古・八重山地方などでは、北の方角は一般に「ニシ」と称されるので本来の 「西」と混同しないよう注意が必要である。意味としては、文字通り北極星を子(北) の方角にある星として捉えた代表的な呼び名であり、本州などではネノホシとして広 く知られている。多くの島々をかかえるこれらの地方においては、船の航海や漁撈の 際の指標星として重要であると同時に、広く人びとの暮らしに根ざした星でもあった。 それは、この星が古謡や教訓歌などに歌い込まれていることからもよく分かる。八重 山の竹富島では、ニイヌファはひとつ星でその近くにナナツブシがあると伝えている。 なお、沖縄・宮古・八重山の星の名では、島によりあるいは同じ島内でも地域によっ て呼称が微妙に転訛する事例が多くあり、この星名に関しても沖縄地方のニイヌワブ シを始めとして変化に富んだ分布を示している。宮古島にはニヌファブシやニヌファ ブスがあり、石垣島でもニヌハブシなどの事例がみられる。 【意 味】子の方星(転訛形) 【星座名】こぐま座北極星(α) 【伝承地】沖縄県 【分 類】方角/自然/地理

ニサッサオッノチウ 

北海道の調査において、唯一記録できたアイヌ民族に伝わる星の名である。1974年に 登別温泉の近くでアイヌ文化継承の活動をしていた70代の女性から聞いたもので、日 本の星名にはない独特の響きをもっている。『アイヌの星』〔文0380〕を著した末岡 外美夫氏によると、ノチウは星を意味するアイヌの一般的な言葉で、ニサッサオッは 「夜明けから逃げる」の意味であるという。登別のアイヌ女性も、夜明け前に出る大 きな星だと説明していた。同書の解説では全道的な分布を示しているが、近世の書で ある『藻汐草』〔文1387〕には、太白星(金星)のこととしてニシヤツシヤヲチが掲 載されている。地域によって多少の転訛や変化(意味に関して)がみられるのは、日 本の星でもよくあることで、アイヌの星も例外ではないようである。因みに、宵の明 星のほうはアロヌマンノチウ(アイヌの星)、キンマチスルグル(藻汐草)などと呼 ばれている。 【意 味】暁の明星(アイヌのことば) 【星座名】金星 【伝承地】北海道 【分 類】時・季節/自然/気象

ヌケボシ

流星を表すことばには、飛ぶ、落ちる、はしる、移るなどさまざまな表現が知られて いる。この星の名の場合、ヌケは抜けるという意味で、流れ星を夜空の星が抜け落ち たものとみた呼び名である。長野県高遠町では、ヌケボシが屋根に落ちるのを凶事と している。 【意 味】抜け星 【星座名】流星 【伝承地】長野県 【分 類】動き/知識/その他

ネノヒトツボシ

十二方位の子が示すのは、北方である。その北の空のほぼ中心に位置する北極星は一 つ星でもあり、方角と星の数の組み合わせによって表現された代表的な星名となって いる。 【意 味】子の一つ星 【星座名】こぐま座北極星(α) 【伝承地】北海道 【分 類】数/自然/地理

ネノホシ

ネノヒトツボシと同じであるが、単にネ(子)の星と称しているのは、北極星がほぼ 真北の方角にあってほとんど動かない星であるという認識に基づいたものである。伝 承によっては、「根の星」という見方もあるが、その位置に根を張って動かない星と いう意味であろう。ネノホシサンともいう。 【意 味】子の星 【星座名】こぐま座北極星(α) 【伝承地】神奈川県、福井県、愛知県、滋賀県、大阪府、兵庫県、和歌山県、鳥取県、広島県、      山口県、徳島県、香川県、高知県、福岡県、長崎県、熊本県、大分県 【分 類】方角/自然/地理

ネボシ 

本来は、ネノホシと同じように北の方位である「子」を意味するものと考えられるが、 漁労関係の伝承では別の意味として捉えられている場合がある。それは、北極星を北 の「根」になる星とみなしていることで、いずれもこの星の重要な役割を示した見方 といえる。なお「根」は海中の岩礁を意味する言葉でもあり、有用な漁場となる根に は各地域でそれぞれに固有の呼び名が付与されている場合が多い。一部の地域におい て、その根(漁場)の位置を把握する方法の一つとして、陸上の灯火や灯台の光と北 極星を縦に合わせる手法が伝承されてきたことを考えると、別な観点から北極星と海 の根の結び付きに注目する必要がある。 【意 味】子星 【星座名】こぐま座北極星(α) 【伝承地】宮城県、岡山県 【分 類】方角/自然/地理

ノトボシ

ノトボシは、ぎょしゃ座のカペラの星名である。この星は、おうし座のプレアデス星 団やアルデバラン(α)に先立って昇ってくることから、漁業において重要な指標と している地域が多い。なかでも日本海を中心とするイカ釣り漁では、一連の役星(イ カ釣りの目標とされる星)の先駆けとして利用されてきた。福井県三方郡美浜町地区 における調査では、ノトボシは9月なら夜の8時ころに北寄りの東天から昇る星とさ れており、「さあ、ノトボシがのぼるで魚がよく食うぞ」などと伝承されていた。こ の地区からは能登半島を直接望むことはできないが、かつては越前岬の辺りまで出漁 していたということであるから、そうした状況が〈漁獲の目安〉→〈カペラの出現〉 →〈能登半島〉という星の利用に関する定型的なパターンを育む背景になっていたも のと考えられる。伝承地は京都府の丹後半島から福井県の若狭湾にかけての沿岸地域 に及び、当該地の沿岸海域からカペラの出現を確認する場合は、地理・地形的にちょ うど能登半島の方角にあたることが由来の本意となっている。同様のパターンは他の 地域でも伝承されており、たとえば新潟県佐渡地方には、ヤザキボシがある。カペラ の出現に対する関心の高さを示す事例であるが、丹後・若狭地方の漁師らがノトボシ に託した漁労伝承は、その後思いがけない土地でめぐりあうことになった。  ノトボシが、丹後・若狭地方から遠く離れた北国において伝承されていたことを知 ったのは、1976年のことである。当時は、北海道の積丹半島沿岸地域をフィールドと して、イカ釣り漁における星の利用に関する調査を行っていたが、岩内郡岩内町に伝 承されたイカ釣りの役星のなかにノトボシがあることを確認し、何ともいえぬ驚きを 感じた。当地では越前出身の漁師が多く、能登半島と地形が似ているホリカップの岬 から出る星を郷里での呼び名にちなんでノトボシと呼んでいたのである〔『星の歳時 記』文0212〕。その後の現地調査では、実際に同様の伝承を記録することになり、海 を渡ったノトボシの存在は、いよいよ確実なものとなったのである。北海道では、岩 内町のほかに余市町や泊村、神恵内村でも確認することができた。そればかりでなく、 本州最北端の地、下北半島の大間町に近い風間浦村にもノトボシが伝承されていたの である。これは全く考えも及ばぬことで、予想以上に広い分布を示すものとして注目 された。積丹半島あるいは下北半島にしても、ノトボシが伝承されている地域には必 ず越前出身の人たちが居住しており、こうした移住者が重要な伝承の担い手となって きたことは間違いない。岩内町の場合は、ホリカップと呼ばれる岬から出現するカペ ラをノトボシとしてみていたと伝えられているだけに、そこには積丹半島と岩内町の 位置関係や海上からの眺望(地形など)が、郷里への想いに通じるところがあったか らではないかとみられる。しかし、下北半島については地理的あるいは地形的な類似 点を見出すことができないので、もっと別な理由が隠されていることも予想される。  さて、1950年ころまでのイカ釣り漁業は、ランプやカーバイトの明かりを頼りに専 用の釣り具を用いた夜間の一本釣りが主流であった。当時は春から夏にかけて日本海 を北上するイカ(スルメイカ)群を追って、山陰や北陸、佐渡、庄内の漁師らが、北 海道あるいは下北半島方面へ出漁していたことが知られており、漁具や漁法、星の利 用形態などの点において、たいへん興味深い歴史が展開されてきた。特に星の利用に 関しては、ぎょしゃ座のカペラにはじまって、おうし座のプレアデス星団やアルデバ ラン(またはヒアデス星団)、オリオン座の三つ星、おおいぬ座のシリウスと続く一 連の星の出にイカが釣れるという伝承が各地にある。そして、これらの星に対する呼 称にも地域それぞれの特色がみられる。東北地方北部や北海道南部の沿岸地域に伝承 されたイカ釣りの星の名には、大別すると二つの系統がある。一つは日本海を中心に 伝播・拡散したと考えられるタイプ、もう一つは東日本から太平洋岸に沿って伝播し たとみられるタイプである。このような傾向は、おうし座のプレアデス星団とオリオ ン座の三つ星において顕著に表れており、両者の分布はそれぞれのルートにかかわる 漁民の活動と密接な関係をもっている。ノトボシは日本海伝播タイプの代表的な事例 であり、しかも伝播経路が特定できる極めて希なケースといえるであろう。  イカ釣りを主体としていた日本海沿岸漁民の北国への移住については、いくつかの 文献で確認することができる。青森県下北郡大畑町の事例〔『回遊魚とタビ漁民』文 0040〕では、青森県から島根県に及ぶ広域からの移住がみられる。北海道においても、 1955年ころの統計資料で、渡島支庁管内へ出漁したイカの一本釣り漁船は、石川県を 筆頭に、富山・山形・秋田・青森各県の船が多いことが知られている〔『イカ漁業と その振興策』文0005〕。太平洋沿岸域では、岩手県からの出漁や移住が多い。積丹半 島沿岸地方は、かつてニシン漁で賑わったところであるが、その後もイカ釣りを主体 とした漁業が細々といきづいてきた歴史がある。そのような過程において、日本海お よび太平洋沿岸各地から漁民の移住・定着があったことは、現地調査における出身地 の確認からも、ある程度裏づけられている。いずれにしても、北国へのノトボシの伝 播が、このような漁民の移動・定住のなかで育まれてきたことは間違いないところで あろう。これは、イカ釣りにおける星の利用を考察するうえで重要な手がかりとなる ことが期待される。星の文化が人の移動を通じて伝播することを具体的に示唆した事 例としてたいへん貴重である。ただ、一つ気がかりなのは、なぜノトボシだけが北国 で伝承されることになったのかという点である。既述のように、ぎょしゃ座のカペラ には地名に由来する星の名として矢崎星(佐渡地方)が知られているが、この星に関 する伝承は北国には伝わっていない。 【意 味】能登星 【星座名】ぎょしゃ座カペラ(α) 【伝承地】北海道、青森県、福井県、京都府 【分 類】方角/自然/地理

◇ ノトボシとヤザキボシの伝承 ◇