2019/10/25
ハゴイタボシ
プレアデス星団をハゴイタボシと呼ぶところが、東京都西部の山間地にある。青梅市
では、こどものころに「ハゴイタボシが出た」といってよく夜空を眺めたといい、奥
多摩町ではこの呼び名を主に古い人たちが使っていたという。いずれも、プレアデス
星団の星の配列を、羽根突きの羽子板の形とみた呼び名である。東天から立ち上がる
ようすは、まさに夜空の羽子板を連想させる。羽子板といえば、正月の羽根突き遊び
を連想するが、これはスバルが冬の代表的な星であることと無縁ではなく、ごく自然
な発想であったと考えられる。近年は、羽子板というと豪華な押絵羽子板を連想しが
ちであるが、そんな華やかさとは縁遠い星の名であろう。この場合は、遊び用具とし
ての素朴な羽子板がふさわしい。
ところが、この星の名は東京湾沿岸の漁師の一部にも伝承されていたのである。こ
れは、木更津市の市街地に近い漁港の漁師から聞いたもので、通常はスバルと呼んで
漁の目安として利用されている。その別称がハゴイタボシであった。おそらく、漁師
自らの発想ではなく、内陸部から伝播した可能性が高い。また、神奈川県の事例は、
炭焼きを主な生業としていた時代の伝承であり、自然環境や社会構造など東京都西部
地域と多くの共通点をもっている。
関東以外では、岐阜県池田町の農家の伝承として、プレアデス星団の形を羽子板と
見た事例がある。そして「ハゴイタボシが西の山へ入るようになったら霜がおりる」
と言い伝えられていた。この星団が夜明け前に西へ没するようになるのは11月下旬か
ら12月上旬のころで、この地域においては冬の到来を告げる星であった。
このように、羽子板が連想された背景には、冬という季節に対する強い意識が隠さ
れているようである。
【意 味】羽子板星
【星座名】おうし座プレアデス星団
【伝承地】千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、奈良県
【分 類】配列/生活/用具