2020/03/25
アイボシ
簡素なイカ釣り具によってスルメイカを獲っていた時代には、冬空の代表的な星々が
漁獲の目標とされていた。しかも漁師らの視線は常に東の空一帯に向けられ、時の経
過とともに現れる一連の星をイカ釣りの役星として利用してきたのである。星に対す
る依存の度合いは、北方のイカ釣り漁でより高く、したがって利用された星の種類も
多い傾向を示しているようである。一般的には、ぎょしゃ座のカペラから始まり、お
うし座のプレアデス星団、アルデバラン(ヒアデス星団)、三つ星、おおいぬ座のシ
リウス、金星と続くが、青森県北東部にある下北半島沿岸の漁師らは、さらにいくつ
かの星を注視していたことが知られる。利用する星が増えれば、新たな呼び分けも必
要となり、そうして生まれたのが星同士の位置関係による呼称である。北国に伝承さ
れた星名体系では、プレアデス星団と三つ星を二つの重要な役星と捉え、それぞれに
サキボシ(先星)、マエボシ(前星)、あるいはアトボシ(後星)を設定した事例が
多くみられ、さらなる呼び分けの必要性から生まれたのが、このアイボシである。
アイは「間」の意味と考えられ、本来であればアイノホシ(間の星)とするのが適
切かもしれない。いずれにしても、特定の星の間に位置しながら、後先の関係では明
確に表現できない事情が感じられる命名である。そこで、青森県の事例をみると、全
体の星名体系と出現順位の関係から、アルデバランと三つ星の間に出現する星である
ことが分かり、役星としての条件を勘案するとオリオン座のγ星であるベラトリック
スが最も相応しい存在であろう。なお、別な地区ではサンコウノサキボシと呼び、三
つ星よりも先に現れる星という見方をしている。
【意 味】間星
【星座名】オリオン座ベラトリックス(γ)
【伝承地】青森県
【分 類】位置関係/知識/その他