流星の民俗

流れ星について

 夜空を眺めていると、ときおりスーッと星が流れていくのを見る機会があります。光っているのは1秒足らずの 僅かな時間で、あっという間に消えてしまいます。それでも、思いがけない場所で出会った時の感激は一入です。 ときには明るく、またときには暗く、あの広大な夜空を気ままに飛んでいくのが流れ星の神髄といえるでしょう。
 流れ星の正体は、宇宙(この場合は太陽系を想定)に漂う小さな物質です。それらは、地球に近づくと引力に よって引き寄せられます。こうして大気圏に突入し、燃え尽きるのです。まれに燃え尽きないで地上へ落下する場 合があり、これが隕石となります。いずれも大気中で光を発するため、それがわたしたちの目に流れ星や火球とし て認識されるわけです。特に彗星がまき散らしたチリの塊の中を地球が通過すると、一度に多くの流れ星を見るこ とができます。これが流星群と呼ばれるもので、毎年夏に出現するペルセウス座流星群はよく知られています。

しし座流星群
2001年11月19日に青木昭夫氏が撮影



流れ星と人の暮らし

 昔の人びとは、流れ星に対してさまざまな思いをもっていたようです。基本的な捉え方として、夜空をかける一 筋の光は不気味な存在であったに違いありません。流れ星には、地域によってさまざまな呼称があり、また多くの 伝承が記録されています。

【 流れ星の名前 】
 流れ星は、古い時代から注目されていました。この現象に関する古記録を見ると、「光り物」「奔星」「天火」 「飛もの」などが認められます。また、中国では天から流れ下る星を「流」とし、逆に低空から上空へと流れる星 を「飛」と見ていました。
 さて、日本人が名付けた流れ星の呼称をみると、よく知られた清少納言の『枕草子』にヨバイボシというのが出 てきます。これは、平安中期の『倭名類聚抄』に記された「一名奔星 和名与八比保之」を原意としており、後の 古文献にも屡々引用されています。ヨバイは古い言葉である「よばう」が婚い[よばい]に転訛した形態を示して おり、基本的に「求婚」を第一義に捉えています。つまり、流れる星が他の星を婚う(求婚する)という意味をも つと考えられます。
 これと類似する ホシノヨメイリ[星の嫁入り]という美しい名前が、和歌山県の 田辺市に伝えられていました。さらに遠く離れた南の沖縄地方では、ヤーウーチィブシ と呼んでいます。ヤーウーチィというのは、「屋移り[やうつり]」という意味で、南の島の人びとは星が流れる のは引っ越しをするためだと考えていたようです。
 そのほか、流れ星の現象をそのまま表現したトビボシ[飛星]、 オチボシ[落ち星]、ヌケボシ [抜け星]、ハシリボシ[走り星]などが知られています。 いずれも、夜空の星が落ちてくると想像したのでしょうか。同じように、星がどこかへ遊びに行くという見方もあ ります。
 ところで、流れ星にはもう一つ興味深い捉え方が知られています。それは、星が流れるのを尾の長い鳥が飛ぶ姿に 譬えた見方です。野生で尾の長い鳥というと種類は限られますが、この場合はヤマドリやキジなど、野山にいる大型 の鳥を想定しているのではないかと思われます。

【 流れ星の伝承 】
 流れ星に関する言い伝えは、日本の各地で記録されていますが、ここでは関東地方の伝承を紹介します。 まずは、流れ星の出現が凶事に繋がるという見方です。
◆星が流れると人が死ぬ(群馬県、埼玉県など)
◆流れ星が飛ぶと山火事が起る(東京都西多摩郡)
◆ヌケボシが屋根に落ちると、その家ではなにか悪いことがある(長野県上伊那郡)
◆星が流れると雨か嵐になる(東京都西多摩郡)
◆流れ星が飛ぶと縁起がわるい(埼玉県秩父郡)
 次は、流れ星の出現が幸運を招くとする伝承です。
◇流れ星が自分の方に向かって飛んでくればお金が入る(埼玉県所沢市)
◇流れ星を見たら、それが消えないうちに願い事をすれば叶えられる(神奈川県、埼玉県など)
◇流れ星を見つけたら、それが消えないうちに「ヨビャアボシ、ヨビャアボシ・・・・・」と何回も唱えると縁起がよい (東京都西多摩郡)

 このように、長い歴史を通して流れ星は常に人びとの暮らしに寄り添う存在であったことが分かります。



◆「流星の民俗」にもどる◆