秋の七草・オミナエシ
は じ め に
ようこそ「星の民俗館」へ! ご来館いただきありがとうございます。
当館は、1974年以来星の民俗に関する調査を行い、その間の聞き取りによる記録を分類整
理し、蒐集資料とともに一般に公開することを目的としています。日々の暮らしや仕事のな
かで、私たちが太陽や月、星とどのようにかかわってきたのかを振り返ることは、決して意
味のないことではありません。とはいえ「星の民俗」といっても、いったい何のことやらさ
っぱり分からないと思われる人も多いことでしょう。
今は、宇宙そのものが急速に身近な存在となり、社会全体がデジタル化の波に飲み込まれ
てしまいました。さらに、AIの活用に傾倒する時代を迎えようとしています。そうした状
況において、過去の伝承を振り返り、そこから学ぼうと考える人はほとんどみられなくなっ
たといえるかもしれません。経済的な豊かさを第一に追求する現代の暮らしは、私たちの心
をますます自然から遠ざけているように感じられます。自然との共生がいくら叫ばれても、
そこに相手を思いやる心がなければ互いに良好な関係を築くことはできません。自然によっ
て生かされているヒトが、それを超えることは不可能なのです。
天文学や物理学など科学的な対象としての「宇宙」は、人類にとって永遠なる未知の世界
です。その一方で、私たちは無意識のうちに神話や伝説の世界で、あるいは日常の暮らしに
おいて、もうひとつの「宇宙」とともに生きてきました。そうした何気ない話題にスポット
をあて、自然とともに生きた人びとの想いを探求したのが「星の民俗館」なのです。
日本人と星
かつて、日本人は星に対してほとんど関心をもっていなかったと考えられた時代がありま
した。近世までは、ごく一部の史料に星に関する記述が散見される程度でしたから、そのよ
うな捉え方も無理からぬことであったのです。しかし、その後の民俗学を中心とした常民文
化の調査が進展するなかで、日本では広範で豊かな「星の文化」が育まれてきたことが明ら
かとなりました。現在ではむしろ、日本人ほど星というものを自然の一部として純粋に捉え、
そして利用した民族も少ないのではないかと考えられるほどです。
星(太陽や月などを含む)の民俗は、日本で生まれた星の名前(和名)を始めとして、言
い伝えや俚諺などの伝承、星にまつわる信仰、行事や有形文化財にいたるまで、幅広い項目
を対象としています。従来は、これらを一元的に扱う取り組みがほとんどみられませんでし
た。ただし、日本の星名に関しては全国的な研究が進められ、既に体系化されています。星
に関する多くの著作を遺された野尻抱影氏は、その第一人者としてよく知られています。な
かでも、日本で命名、伝承された星の名(呼び名)を積極的に蒐集し、それらを集大成され
た業績は特筆すべきものがあります。また、内田武志氏や桑原昭二氏なども優れた業績をの
こされています。さらに、各地で独自の調査・研究に取り組んできた方々や現在も継続して
いる研究者は少なくありません。これら志を同じくする方々の記録や資料については、でき
る限り「文献資料」に整理してあります。
当館の調査は、単に星の名を記録するだけでなく、それが生業や暮らしのなかでどのよう
に利用されてきたのかという点を重視した取り組みとなっています。それでも、全国各地に
埋もれた星の伝承や有形・無形文化財の潜在性を考えれば、これまでに掘り起こされた記録
はほんのごく一部に過ぎません。星の民俗の世界は、私たちが思い描いていた以上に奥深い
領域に及んでいるのです。
〈左〉イベントの展示 /〈右〉月待信仰の紙札類
展示について
当館では、このような「人間と宇宙の文化誌」を対象として、人びとが星や太陽や月とど
のような関わりをもって生きてきたのかという点に着目しました。したがって、展示の構成
については、それらを分かりやすく解説することを重要な基盤としています。主な展示室は、
以下の仮想館内図で示したように主要な五つのテーマに沿ったもので、これらを分かりやす
く要約したジュニア版を別途用意しました。さらに、全国47都道府県の調査を随想として綴
った「星ところどころ」、展示内容を項目から検索ができる「さくいん検索」を入口(スタ
ートメニュー)に表示していますので、併せてご利用ください。
展示の内容は、ごく一部の資料を除きすべて当館の調査データをもとに構成しています。
地域的にはほぼ日本全国をカバーしていますが、調査密度は地域により偏りがあります。特
に西日本の各地あるいは関東甲信以外の内陸部の記録は、まだまだ十分なものではありませ
ん。また、この展示において未調査となっている地域やテーマ等の記録については「文献資
料」を参照してください。
記録について
公開するデータは、星の民俗館が調査した記録に基づくものですが、日本の星の民俗をす
べて網羅したものではなく、また展示内容も記録のすべてではありません。ここに展示され
ていない星の名や伝承、行事、習俗、文化財等については関連するそれぞれの文献や資料を
参照してください。
また、当館では星の民俗に関する各種資料の収集も重要なテーマの一つとなっています。
かつての生活用具や生産用具を始め、信仰・行事等に付随する有形資料、そして無形文化財
を記録した映像資料など、次代への遺産として継承すべく活動中です。
なお、
あるいは
を
付した項目は2008年8月以降の新着や改訂最新版であることを示し、さらに個々のデータにつ
いてはそれが最初に記録された年度を示すマーク
(2019年の場合は)
を付与してあります。
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