星の伝承 2019/12/25

ここでは、星座(星の名)以外の星一般を対象とした伝承をはじめとして、惑星、太陽、日・月食、流 星、彗星についてまとめました。それぞれに気象や暮らし、社会、信仰、吉凶の卜占などの分類を行い、 解説を加えてあります。事例については、項目別に北海道から沖縄県まで都道府県順に示しました。惑 星の伝承は、ほとんどが金星に関するものです。星一般を含め、星の名に関する伝承を扱った事例も混 在していますが、分類の関係でここに収録しました。なお、日食と月食に関しては、内容的に分割でき ない事例が多いことから、一括してとり扱っています。



天の川と気象 

かつてはどこでも見られた天の川ですが、伝承となると事例はわずかです。 《事例》 ○天の川がきれいに見えると翌日は晴れる 〔群馬県利根郡〕


金星と漁業

漁業における金星の利用は、イカ釣り漁において顕著です。伝承もその例外ではなく、特に北日本に集 中しています。 《事例》 ○ヨアケノミョウジョウ(夜明けの明星)が出るときはイカがよく釣れる 〔北海道積丹郡〕 ○夜中やってイカが釣れなくとも、ヨアケボシ(夜明け星)が出てから釣れることがある 〔北海道古平郡〕 ○夜中になんぼ釣れなくとも、メシタキボシ(飯炊き星)が出ると朝イカがつく 〔北海道古宇郡〕 ○アケノミョウジン(明けの明神)の出から日の出までは不思議とイカがつく 〔北海道古宇郡〕 ○アケノミョウジンの出から日の出にかけてはイカがよく釣れる 〔北海道古宇郡〕 ○晩方の七時からつくのがナドキイカで、メシタキボシの出るころになると朝イカがつく 〔北海道古宇郡〕 ○日暮れにはナドキイカがつき、朝イカはヨアケノミョウジョウにつく 〔青森県下北郡〕 ○ヨアケボシには朝イカがつく 〔青森県八戸市〕 ○夜明け前に大きな星が出るときはイカがよく釣れた 〔青森県三戸郡〕 ○ヨアケノミョウジョウが出ると、イカだけでなくほかの魚もよく釣れた。また、ヨイノミョウジョウ  が沈むときも魚がよくついた 〔山形県鶴岡市〕 ○朝早く、鯛釣り漁に使うアカエビをとりに行くときは、東の空に出るアサノヒトツ(朝の一つ)を目  あてに船を走らせた 〔千葉県銚子市〕 ○昔は「アケノミョウジョウが出てきたから漁をやめよう」などと言った 〔千葉県銚子市〕 ○朝早く網あげのために出漁するとき、東の空にヨアケノミョウジンを見て夜明けが近いことを知った 〔千葉県勝浦市〕 ○ヨアケノミョウジョウが上り始めると夜が明けるので、漁を始めたり終了する目安になった 〔神奈川県横須賀市〕 ○夜明け前、ヨアケノミョウジョウが出てから海面がうす明るくなることをハマジラメといって、この  ときが朝イカのナツキ 〔新潟県両津市〕 ○オオボシの出にはイカがつく 〔新潟県柏崎市〕 ○オオボシの出にはイカがいちばんよく釣れる 〔新潟県三島郡〕 ○アケボシ(明け星)が出たら、漁を終えて帰る 〔石川県羽咋郡〕 ○イワシのまき網漁では「トンキョボシ(頓狂星)が出たから早く網をあげなければ」という 〔静岡県沼津市〕 ○トンビアガリは夜明けを知らせる大きな星で、昔のアジ網漁ではこの星の出をみて、あといくつ網を  入れられるのか見当をつけた 〔静岡県伊豆市〕 ○夜明け前にヒトツボシが出るとエビ網をあげに出かけた 〔三重県尾鷲市〕 ○オオボシが出ると夜明けが近いといって、漁をやめて帰る 〔兵庫県明石市〕 ○ヨアサノミョウジョウ(夜朝の明星)が出る瞬間にハマチがよくさばる 〔島根県松江市〕 ○ヒトツボシ(一つ星)が小島の上に出たら、フクロ網をあげて漁を終えた 〔広島県福山市〕 ○漁のときはヨアケボシ(夜明け星)の出で時間をみていた 〔長崎県大村市〕 ○東の空にヨアケボシが出たら、ゲンシキ網を流す深さを変えた 〔長崎県島原市〕


金星と農業

調査事例では、金星と農業に関する伝承は多くありません。 《事例》 ○さつま芋掘りのときは、クレノミョウジョウを目あてにした 〔埼玉県所沢市〕 ○ヨアケノミョウジョウを目あてにして野菜の荷売りに出かけた 〔埼玉県浦和市〕 ○ミョウゾウの星に後光がさして見えるとその年は豊作である 〔東京都西多摩郡〕 【解説】金星の輝きから、作物の豊凶を卜う事例はめずらしいといえるでしょう。


金星と暮らし

日常の暮らしでも、明け方の金星に対する伝承が主体です。実際には、伝承以上にさまざまな利用が行 われていたものと推測されます。 《事例》 ○アケノホシは大きな星でこれが出ると夜が明ける 〔青森県東津軽郡〕 ○ヨアケボシが出たらもう夜が明ける 〔宮城県塩竈市〕 ○ヨアケノホシ(夜明けの星)は大きな星で、これが出ると夜が白みはじめる 〔茨城県南日立市〕 ○東の山の上にトビアガリ(飛び上がり)が出ると起床の時刻 〔埼玉県比企郡〕 ○トンビアガリが出たら朝飯の仕度をはじめる 〔埼玉県大里郡〕 ○明るい大きな星でも、てぬぐいの織り目をとおして見ると四つか五つに分かれて見える 〔埼玉県所沢市〕 【解説】かつては布を透かして星を見ることが実際に行われていたものと推測されます。 ○オオボシ(大星)が上がったらもう夜が明ける 〔千葉県富津市〕 ○昔は明け方になると「小便が近いからそろそろヨアケボシが出るべぇ」などと言った 〔千葉県南房総市〕 ○昔は「アケノミョウジョウが出たら、あとどれくらいで夜が明ける」などと言っていた 〔千葉県勝浦市〕 ○オオボシが出ると夜が明ける 〔千葉県鴨川市〕 ○ヒトツボシ(一つ星)が出ると夜が白んでくる 〔千葉県安房郡〕 ○大きい星は3回出る。朝に出て、お昼に出て、晩にも出る 〔東京都西多摩郡奥多摩町〕 【解説】白昼に見える星は金星で、古記録などにもしばしば登場し、近年までは意識的に観察されてい  たようです。基本的な条件として、太陽からの離角が大きく最大光度にあり、かつその日の気象条件  に恵まれることがポイントとなります。 ○夏の朝4時頃にオオボシが上がると「さあオオボシが出たから夜が明ける」などと言った 〔神奈川県横浜市神奈川区〕 ○夜の漁では「オオボシが出たからもう夜が明ける」などと言う 〔神奈川県横浜市金沢区〕 ○オオボシが上がると海の中が明るくなる。これをメアケという 〔神奈川県横須賀市〕 ○オオボシが上がりきると夜が明ける 〔神奈川県横須賀市〕 ○冬の間はオオボシが出ても夜明けは遅い 〔神奈川県三浦市〕 ○ママタキボシ(飯炊き星)が出ると朝飯の仕度をしなければならない 〔富山県氷見市〕 ○メシタキボシ(飯炊き星)は夜明けを知らせる星で、これが出ると朝飯の仕度をする 〔静岡県下田市〕 ○オオボシが出ると夜が明ける 〔兵庫県淡路市〕 ○「ヨアケノオオボシがあそこまできたら夜が明ける」などと言う 〔和歌山県東牟婁郡〕 ○オオボシが出ると夜が明ける 〔山口県宇部市〕 ○ヨアケノミョウジョウが出ると夜が明ける 〔福岡県北九州市〕 ○オオボシは太か星で、これが出ると夜が明ける 〔佐賀県東松浦郡〕 ○ミョウジンサンが出ると夜が明ける 〔熊本県上天草市〕 ○ヨアケノミョウジョウが出て一時間位すると夜が明ける 〔熊本県熊本市〕 ○ミョウジョウの星が上ったら夜が明ける 〔大分県宇佐市〕 ○ウゥボシという大きな星が出ると夜が明ける 〔大分県中津市〕 ○ヨアケメジョが出ると夜が明ける 〔宮崎県串間市〕 ○ヨアケメジョの出を見て時間を計った 〔鹿児島県志布志市〕 ○ユアケブシがアガリ(東)の空に高くなると夜が明ける 〔沖縄県石垣市〕


彗星と気象

彗星の出現も非日常的な現象の一つであり、それが大彗星の場合は、民間においても大きな関心の的で した。各地にのこる近世の日記などにも、その記録を散見することができます。ただし、伝承としての 彗星は、社会的な変事との関係が主体で、気象に関するものは多くはありません。 《事例》 ○ホウキボシ(箒星)が出ると雨が多くなる 〔埼玉県北埼玉郡〕 ○ホウキボシが出ると陽気が悪い。またその年はよくないことがある 〔埼玉県蓮田市〕 ○ホウキボシが出ると雨が降る 〔千葉県八千代市〕 ○ホウキボシが姿を現すと陽気が悪くなる 〔山梨県北都留郡〕


彗星と暮らし

暮らしや生業のなかで、彗星の出現を捉えようとした伝承もいくつか記録されています。 《事例》 ○ホウキボシが出たら人が死ぬ 〔山形県東村山郡〕 ○ホウキボシが現れると凶作になる 〔埼玉県比企郡滑川町〕 ○ホウキボシが現れると困窮(不作)になる 〔埼玉県大里郡川本町〕 ○ホウキボシが太陽の上がる方角(東向き)に見えるときはよいことがある 〔千葉県流山市〕 【解説】彗星の向きから吉事が生まれるという発想は、めずらしい事例でしょう。 ○ホウキボシを見ると病気になりやすい 〔東京都東大和市〕 ○ホウキボシは高ボウキの形に出る星でめったに見られない 〔東京都西多摩郡瑞穂町〕 ○ホウキボシの出る方角では火事が起る 〔山梨県北都留郡〕 ○ホウキボシは鍋底に火がついたように見える 〔山梨県北都留郡丹波山村〕


彗星と社会的な変事

彗星の出現を、さまざまな変事の前兆とみなした伝承が広く分布しています。大半は「戦争が起る」と いうものですが、時代の世相を反映した伝承といえます。 《事例》 ○ホウキボシが出ると不吉なことがある。子どものころホウキボシが見えて間もなく日露戦争が起った 〔福島県南会津郡〕 【解説】彗星の出現と戦争の関係は、日露戦争のような実体験によって必要以上に誇張されて伝播した  可能性があります。 ○ホウキボシが出ると騒動が起る 〔福島県耶麻郡〕 ○ホウキボシが出ると世が変わる 〔茨城県龍ヶ崎市〕 ○ホウキボシが出ると何かよくないことがある 〔茨城県牛久市〕 ○ホウキボシが出ると何かよくないことが起る 〔茨城県桜川市〕 ○ホウキボシが長い尾をひいて出ると縁起がわるい 〔茨城県桜川市〕 ○ホウキボシというのは戦ができる星で、この星が見えると国が荒れる 〔栃木県下都賀郡〕 ○ホウキボシがよく見えるときには災いが起る 〔栃木県足利市〕 ○ホウキボシが出るとよくない 〔栃木県下都賀郡〕 ○ホウキボシが出るとよくないことが起る 〔栃木県日光市〕 ○ホウキボシが出るとよくないことがある 〔群馬県各地〕 ○ホウキボシが出ると人災や天災が起る 〔群馬県安中市〕 ○ホウキボシが出ると不吉なことがある。または災い事がある 〔埼玉県各地〕 ○ホウキボシが出ると国に変事あり 〔埼玉県各地〕 ○ホウキボシが出ると戦争が起る 〔埼玉県各地〕 ○ホウキボシは世の変わり目に出る 〔埼玉県所沢市〕 ○ホウキボシが出るとその年は忌む年だという 〔埼玉県東松山市〕 ○ホウキボシが出ると悪いことがあるので、ぼたもちなどを供えて拝む 〔埼玉県北埼玉郡川里村〕 【解説】日月食のように、彗星そのものを信仰の対象として拝する行為はめずらしいものです。 ○ホウキボシが陽の昇る方角(東向き)に見えるときはよいことがある。また北向きに見えるときは悪  いことがある 〔千葉県流山市〕 ○ホウキボシが出ると何かよくないことが起る 〔千葉県東葛飾郡、印旛郡〕 ○ホウキボシが現れると人の魂が飛んだという 〔千葉県印旛郡〕 【解説】流れ星のように、彗星を人の魂とみた事例ですが、流れ星と混同している可能性があります。 ○ホウキボシが出ると戦争がある 〔東京都西多摩郡〕 ○ホウキボシが出ると異変がある 〔山梨県塩山市、北都留郡〕 ○ホウキボシが現れると三年もたたぬうちに戦争がある 〔山梨県北巨摩郡、北都留郡〕 ○ホウキボシが出ると何か悪いことが起る 〔奈良県山辺郡〕


太陽と気象

月暈と同様に、日暈も雨の前兆としてよく知られています。太陽が暈をかぶると、その環上に偽の太陽 が一つあるいは二つ現れることがあり、幻日と呼ばれます。本物の太陽を加えると、合計三つの太陽を 見ることができるわけですが、この現象は古くから記録に表れています。 《事例》 ○オヤグ(日暈)がかかると天気は下り坂 〔北海道函館市〕 ○太陽が暈かぶれば風が吹く 〔北海道松前郡〕 ○太陽が暈ひいたら、翌日かその次の日に雨が降る 〔青森県三戸郡〕 ○太陽に青い輪がかかったら雨さ降る 〔青森県東津軽郡〕 ○お天道さまや月が暈をかぶると雨が降る 〔青森県西津軽郡〕 ○太陽や月が暈をとると、翌日は雨 〔岩手県九戸郡〕 ○太陽が暈をかぶったら翌日は雨 〔岩手県下閉伊郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔岩手大船渡市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔宮城県牡鹿郡〕 ○日暈や月暈が出ると海が荒れる 〔秋田県男鹿市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が近い 〔秋田県男鹿市〕 ○太陽や月に暈がかかると雨が降る 〔秋田県山本郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔山形県鶴岡市〕 ○太陽さ暈かぶると雨になる 〔山形県飽海郡〕 ○夕方、太陽が西の水平線に接してからすべて没するまでの時間は日によって異なり、その時間が短い  と翌日は風が吹き、長い場合は凪になる 〔山形県酒田市〕 ○太陽が暈かぶったら雨が降る 〔山形県山形市〕 ○日暈は近々雨になる兆し 〔福島県いわき市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が近い 〔福島県いわき市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔福島県白河市〕 ○お天道さまの水上がり(太陽が水際から上ること)は雨が降る 〔茨城県北茨城市〕 ○太陽がお暈をかぶったら雨になる 〔茨城県ひたちなか市〕 ○「太陽の水上がり」といって、まわりに雲がない状態で太陽が水平線から上がると、一日か二日後に  雨か風となる 〔茨城県東茨城郡〕 ○お天道さまがお暈をかぶると雨が降る 〔茨城県潮来市〕 ○太陽に後光がさす(日暈のこと)と陽気がわるくなる 〔茨城県小美玉市〕 ○太陽がお暈をかぶると雨 〔茨城県日立市〕 ○太陽が水平線から上るのを「水あがり」といい、その二、三日後には雨が降る 〔茨城県日立市〕 ○太陽が暈かぶったら雨になる 〔茨城県つくばみらい市〕 ○太陽や月が暈かぶったら雨が降る 〔茨城県常陸大宮市〕 ○太陽のまわりに虹ができると雨になる 〔栃木県下野市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が降る 〔栃木県佐野市〕 ○太陽が暈をかぶると次の日は雨 〔栃木県日光市〕 ○太陽や月が暈をかぶると天気がくずれる 〔栃木県下都賀郡〕 ○日暈が出ると雨が近い 〔栃木県足利市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が降る 〔群馬県沼田市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔埼玉県比企郡〕 ○太陽の脇に小さな虹が出ると海が荒れる。これをコヒという ○太陽や月のまわりに暈ができると雨の前兆 〔千葉県富津市〕 ○太陽が暈をさすと風が吹く、あるいは雨が降る 〔千葉県安房郡〕 ○ヒヨウトリの西風も日が沈むと凪 〔千葉県旭市〕 【解説】ヒヨウトリは日雇いのことで、日中にいくら西風(北寄りの風を含む)が吹いても、太陽が沈  めば凪になるという意味です。 ○太陽や月が暈をかぶると雨になる 〔千葉県いすみ市〕 ○太陽が水際から上がると風が吹く 〔千葉県夷隅郡〕 ○お天道さまや月がお暈をかぶると二、三日後に雨が降る 〔千葉県夷隅郡〕 ○お天道さまが水際から上がると雨が降る 〔千葉県勝浦市〕 ○太陽や月が暈をかぶると翌日は雨が降る 〔千葉県勝浦市〕 ○めったにないが、太陽の両脇に虹のような光が見えることがあり、これを「太陽がコシをとる」とい  う。これが現れると陽気がわるくなる 〔千葉県勝浦市〕 ○太陽の両脇に現れる虹のような光を「太陽のコシ」と呼び、これが出ると二、三日たって天気がわる  くなる 〔千葉県勝浦市〕 ○朝の太陽が雲の上ではなく水際(水平線)から上がると天気が悪くなる 〔千葉県鴨川市〕 ○太陽のまわりに暈ができると翌日は雨が降る 〔千葉県鴨川市〕 ○太陽が水(水平線)から出ると時化が近い 〔千葉県南房総市〕 ○日の出の太陽が赤くなり、水をもつと雨が近い 〔千葉県南房総市〕 【解説】"水をもつ"というのは、出現した太陽の下部が「ハ」の字状になって海面とつながって見える  現象で、蜃気楼の一種と考えられています。 ○お天道さまが西へ動いて、あと二、三時間でお昼になろうかというとき、少し雲が出てくるとお天道  さまの右と左にコヒがみえることがある。これが現れると「アメナレェになる」といって、一、二日  のうちに海が荒れた(北東の風が吹いて雨が降る) 〔千葉県南房総市〕 【解説】コヒ(おそらく小日)は、いうまでもなく幻日のこと。この現象に注目した伝承は少ないよう  ですが、静岡県では類似の伝承がいくつか記録されています。 ○太陽のそば(多くは右側)にもう一つの太陽のような光が見えることがある。これをコヒといって 「コヒが出ると明日は時化る」と言われた 〔千葉県銚子市〕 ○太陽のまわりに虹の環ができると翌日か二日後に雨となる 〔千葉県南房総市〕 ○太陽がコヒをとったら雨になる 〔千葉県館山市〕 ○お天道さまが暈をかぶると雨が降る 〔千葉県袖ヶ浦市〕 ○太陽の脇に出る小さな虹をコシと呼び、昔から「太陽がコシをとると雨か時化になる」といわれた 〔千葉県安房郡〕 ○太陽が水から上がると雨になる 〔千葉県安房郡〕 ○太陽が暈をかぶると雨 〔東京都青梅市〕 ○めったにないが太陽の脇に虹を切ったようなコビが出ることがある。そうするとニシジケとなり、こ  れが北に出た場合はナレェジケ(北風が吹いて時化ること)になる 〔神奈川県鎌倉市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が降る 〔神奈川県三浦郡〕 ○太陽や月のまわりに大きな虹の環(デェマルと呼ぶ)ができると雨が降る。またデェマルが濃いほど  陽気がわるくなる 〔神奈川県横須賀市〕 ○冬の晴れた朝には、ときどき太陽の脇(両側あるいは片側)に虹を切ったような光が見られる。これ  をコウヒといって陽気がわるくなる 〔神奈川県横須賀市〕 ○太陽や月がまるとうなる(日暈や月暈のこと)と三日位で雨が降る。そして暈の色が濃いほど早く降  る 〔神奈川県三浦市〕 ○太陽のまわりに虹ができると天気が変わる 〔神奈川県三浦市〕 ○日の出のとき、太陽のまわりが赤く染まると陽気がこわれる 〔神奈川県三浦市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔神奈川県茅ヶ崎市〕 ○太陽の両側にコビが現れると陽気がわるくなる ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔神奈川県中郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔神奈川県小田原市〕 ○太陽や月が暈をかぶると翌日は雨が降る 〔神奈川県横浜市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔新潟県村上市〕 ○太陽が暈をかぶると時化になる 〔新潟県糸魚川市〕 ○太陽が暈をかぶると雨 〔新潟県村上市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が近い 〔新潟県柏崎市〕 ○太陽がワッカをかぶると雨か風の天気になる 〔富山県魚津市〕 ○太陽に暈ができると一週間後に雨となる 〔富山県氷見市〕 ○日(ひぃ)さまが暈をかぶると雨が近い 〔石川県鳳珠郡〕 ○太陽が暈をかぶると翌日は雨か風になる 〔石川県珠洲市〕 ○お日(ひぃ)さんが暈とったら雨になる 〔石川県輪島市〕 ○太陽が暈をつくったら、何かよくないことが起るから気をつける 〔石川県輪島市〕 ○朝日が燃えるように見えると風が吹く 〔石川県羽咋郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨となる 〔福井県小浜市〕 ○太陽の暈はやがて雨になる 〔福井県大飯郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨になる 〔福井県坂井市〕 ○夕方の日暈は、雨が降るといって嫌った 〔山梨県北都留郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨になる 〔山梨県西八代郡〕 ○日の暈、月の暈は天気がわるくなる 〔山梨県山梨市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔長野県諏訪郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると天気が変わる 〔長野県塩尻市〕 ○太陽や月が暈をかぶると次の日かその次の日に雨が降る 〔長野県東筑摩郡〕 ○お天道様が暈をかぶったら天気が変わる 〔長野県松本市〕 ○太陽がお暈をとると雨が近い 〔岐阜県下呂市〕 ○太陽が暈かぶらしたら雨が大降りになる 〔岐阜県揖斐郡〕 ○太陽のまわりに虹が出ると翌日は雨 〔静岡県伊東市〕 ○お天道さまが暈を背負(しょ)ったら海が時化る 〔静岡県伊東市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が降る 〔静岡県賀茂郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨が降る 〔静岡県沼津市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨か風になる 〔静岡県静岡市〕 ○お天道さまが暈をかたぐと雨になる 〔静岡県焼津市〕 ○日暈は天気がわるくなる兆し 〔愛知県田原市〕 ○太陽が暈をかぶると翌日は雨が降る 〔愛知県西尾市〕 ○太陽が暈をかぶると天気がくずれる 〔愛知県常滑市〕 ○太陽が暈をかぶると雨 〔愛知県知多郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔三重県鈴鹿市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔三重県鳥羽市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔三重県松阪市〕 ○太陽のまわりにコセが出ると日和がわるくなる 〔三重県鳥羽市〕 ○太陽が暈をかぶると雨になる 〔滋賀県長浜市〕 ○太陽が暈をかぶると雨 〔滋賀県高島市〕 ○太陽が暈をかぶると雨になる 〔滋賀県甲賀市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔京都府与謝郡〕 ○太陽が暈をかぶったら雨になる 〔京都府宮津市〕 ○太陽が暈をかぶったら次の日は雨 〔大阪府阪南市〕 ○太陽が暈をとると雨.ただし暈の中に星があると破れ暈といって雨は降らない 〔大阪府泉佐野市〕 ○太陽や月のまわりに虹の環ができると雨になる 〔兵庫県相生市〕 ○太陽のまわりに輪ができたら天気がわるくなる 〔奈良県山辺郡〕 ○太陽が暈をかぶると天気がわろうなる 〔奈良県山辺郡〕 ○太陽が暈かついだら雨になる 〔奈良県宇陀市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨になる 〔鳥取県鳥取市〕 ○太陽が暈かぶったら雨になる 〔鳥取県岩美郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔島根県出雲市〕 ○太陽が暈をかぶると天気がくずれる 〔島根県西伯郡〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔岡山県備前市〕 ○太陽が暈をさしたら陽気が変わる 〔岡山県備前市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨になる 〔岡山県倉敷市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔広島県呉市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔広島県江田島市〕 ○太陽が暈をかぶったら雨になる 〔広島県尾道市〕 ○ヒノコは太陽の両側に虹を切ったように出る光で、朝や夕方によく見られる。これが消えると間もな  く風が吹く 〔山口県長門市〕 ○太陽に雨暈がかかると三日以内に雨となる 〔山口県長門市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨になる 〔山口県宇部市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨になる 〔徳島県小松島市〕 ○太陽や月が輪をかいたら雨になる 〔徳島県海部郡〕 ○太陽が暈をかぶったらオチ日和になる 〔徳島県海部郡〕 ○太陽が暈をかぶったら三日のうちに雨が降る 〔徳島県三好市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨になる 〔香川県丸亀市〕 ○太陽が暈ひいたら雨になる 〔香川県さぬき市〕 ○太陽が暈かぶったら雨になる 〔香川県観音寺市〕 ○太陽や月が暈をかさぐと雨になる 〔愛媛県宇和島市〕 ○太陽や月が暈をかぶると雨 〔愛媛県南宇和郡〕 ○お日さんに輪がかかったら雨 〔愛媛県今治市〕 ○太陽が暈かぶったら翌日は雨 〔愛媛県大洲市〕 ○太陽が暈をかぶると雨 〔高知県幡多郡〕 ○太陽が暈をかぶったら雨 〔福岡県糸島市〕 ○太陽が暈をかぶると雨になる 〔佐賀県唐津市〕 ○太陽や月が暈をかぶると陽気が変わる 〔佐賀県東松浦郡〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降ったり風が出る 〔長崎県平戸市〕 ○太陽が暈さしたら雨になる 〔長崎県長崎市〕 ○太陽が暈かぶると雨が近い 〔長崎県大村市〕 ○太陽の横に小さく切れた虹が見えることがありヒノコという。これが出ると陽気がわるくなる 〔熊本県宇城市〕 ○太陽の脇にヒノコ(虹を切ったような光)が出ると天気がくずれる 〔熊本県天草郡〕 ○日暈は雨のもと 〔熊本県天草郡〕 ○太陽が暈かぶっとるとじきに雨 〔熊本県葦北郡〕 ○太陽が暈かぶっちょると雨になる 〔大分県国東市〕 ○太陽が暈をかぶると雨が降る 〔大分県津久見市〕 ○太陽が暈をかぶったら二、三日後に雨になる 〔宮崎県日南市〕 ○太陽が暈をかぶると雨 〔宮崎県延岡市〕 ○太陽の脇にヒノコが出ると風になる 〔鹿児島県阿久根市〕 ○太陽や月が暈をかぶったら天気がくずれる 〔鹿児島県肝属郡〕 ○太陽が暈をさしたら雨になる 〔鹿児島県肝属郡〕 ○ティダ(太陽)に暈がかかると天気がくずれる 〔沖縄県宮古島市・石垣市〕

日暈(暈の内側は暗い)


太陽と暮らし

太陽をめぐる暮らしとの関係では、日の出(夜明け)や日の入り(日没)などを中心とした伝承がいく つかみられます。 《事例》 ○冬の夜明けはアケアケ三里 〔千葉県勝浦市〕 【解説】これは、東の空が白み始めてから太陽が上がるまでに三里も歩くことができるという意味で、  逆に春の夜明けは早く、また秋の夕日はつるべ落としといわれます。


太陽と信仰

信仰の対象として、あまりに身近な存在だからでしょうか、特に伝承というかたちではのこされていま せん。わずかに、オテントウサマへの素朴な信仰の名残が窺える程度です。 《事例》 ○昔は日の出や日の入りに手を合わせて拝んだ 〔福島県二本松市〕 ○お日さまが沈むところは見るものでない(もったいないことである) 〔埼玉県所沢市〕 ○昔の人は、朝起きると必ず太陽を拝んでいた 〔埼玉県入間郡〕

幻想的な朝の風景


日食・月食と暮らし

暮らしとのかかわりでは、より現実的な伝承が多くみられます。また、実際に日食を体験した話も少な からず記録されています。 《事例》 ○日食や月食のときは外出をしない 〔埼玉県比企郡〕 ○日食のある年は温度が上がらなくなるのでよくない 〔埼玉県北埼玉郡〕 ○日食のときは直接太陽を見ないでタライの水に映して見る 〔東京都武蔵村山市〕 ○若いころ山で日食を見た。八分ほど太陽が欠けたので、星もいくつか見えた 〔東京都西多摩郡〕 ○大正時代にあった日食は、太陽が八分以上も欠け、辺りが夕暮れどきのように暗くなって、目だった  星もいくつか見ることができた 〔東京都西多摩郡〕 ○子どものころに、八分ほど欠けた日食をみたことがある。あたりが夕方のように暗くなった 〔山梨県北都留郡〕 ○日食のときは洗面器に水を入れ、そこに太陽を映して見た 〔広島県福山市〕

オーストラリア日食(撮影:箕輪敏行氏)


日食・月食と信仰

日食や月食は、非日常的な天象において人々の暮らしに対し大きな影響力をもった現象の一つです。と くに食分の大きな日食は、文字どおり天変地異として受けとめられていました。民間伝承では、このよ うな現象に対して、太陽や月が病気になったとする見方が一般的です。しかも、多くは人間の代わりに 病気を患っているとの認識がその根底にあります。したがって、伝承のタイプとしては、現象の認識に ついて説明したものと、次のステップである現象への対応行動を説明した二つの類型が認められます。 《事例》 ○日食のときは、お天道さまが病気で悪いことがあるから、ローソクを立てて太陽を拝んだ 〔茨城県北相馬郡〕 【解説】太陽や月が病気になった状態と捉えた見方は各地にあり、一つの典型的な伝承パターンを形成  しています。 ○日食や月食のときには、年寄が太陽や月を拝んでいた 〔茨城県新治郡〕 ○日食や月食が起るのは、人間が悪いことをするとお天道さまやお月さまが怒って隠れてしまうから 〔茨城県北相馬郡〕 【解説】この事例は、人間の行動によって太陽や月が姿を隠すというパターンを形成しており、類似の  事例はほとんどみられません。 ○日食というのは、お天道さまが天の岩戸に隠れてしまうもの 〔栃木県下都賀郡〕 ○日食というのは、太陽が少し病気になったので暗くなる 〔埼玉県羽生市〕 ○日食は太陽が病んでいる。また月食は月が病んでいるといい、そういうときにはご飯などを供えて太  陽や月を拝んだ 〔埼玉県児玉郡〕 ○昔は、日食があると庭に線香を立てて太陽を拝んだ 〔埼玉県各地〕 ○日食というのは人間の代りに太陽が病気になってくれるものなので、堆肥場などにムシロをかけた 〔埼玉県深谷市〕 【解説】病気型にその対応行動が付加されたパターンで、行動自体にもいくつかのバリエーションがあ  ります。この事例では堆肥場に莚をかけるとしていますが、他にも井戸や田畑など、人の暮らしの重  要な場所に覆いをするという行動が伝えられています。これらは、病気を感染させないための防衛策  と考えられます。 ○日食のときには太陽を拝み、井戸になどをかけて蓋をした 〔埼玉県本庄市、児玉郡〕 ○日食や月食のときには、ご飯などを供えて太陽や月を拝んだ 〔埼玉県児玉郡〕 ○大正時代までは、日食や月食のときに井戸に筵やゴザをかぶせていた 〔埼玉県大里郡〕 ○月食というのは月が病むものなので、その晩は井戸にカサ(どんな笠でもよい)をかぶせた 〔埼玉県秩父郡〕 ○月食のときには、つり井戸に莚をかぶせて蓋をした 〔埼玉県秩父郡〕 ○日食や月食のときには、灯りをあげて月や太陽を拝んだ 〔埼玉県秩父郡〕 ○日食は、太陽が病気になることなので、どこの家でも井戸に蓋をした。また井戸端にツケギを置いた  家もある 〔埼玉県比企郡〕 【解説】ツケギは、火を焚きつけるための「つけ木」のことです。10a×4aほどの薄い木片に硫黄を  塗ったもので、かつては商店で販売されていました。これを井戸端に置く意味についてはよくわかり  ません。 ○日食というのは、人間が浮世の中で苦しんでいるのを太陽がその苦しみを和らげるために自分で苦し  んで人間を救っている。だから太陽はほんとうにありがたいものだ 〔埼玉県所沢市〕 ○日食というのは太陽が厄を祓うものである 〔埼玉県所沢市〕 ○日食のときにはお日様さまが隠れるところを見るものではない 〔埼玉県所沢市〕 ○日食や月食というのは、太陽や月が人間の病気を患ってくれているので手を合わせて拝む 〔埼玉県各地〕 ○日食や月食は、みんなの代りにお天道さまや月が病気になってくれているものなので、そういうとき  にはお天道さまや月を拝んだ 〔千葉県東葛飾郡〕 ○日食はお天道さまが病気をしているので見てはいけない。もし日食を見たら病気になる 〔東京都東大和市〕 【解説】この事例では、病気説を飛躍させ、人への感染を忌む内容となっています。その背景には、日  食をみてはいけないという基本的な姿勢が窺えます。 ○昔は、日食があると年寄りたちが「暗くなった世の中が再び明るくなるように」と太陽を拝んでいた 〔神奈川県津久井郡〕 ○日食や月食のときは井戸にふたをした 〔神奈川県津久井郡〕 ○日食はお天道さまが国民に代って病んでくれるもので、もっとも欠けたときにはいちばん苦しいとき  だからといってみんなでお祈りをした 〔山梨県北都留郡〕 ○月食のときには洗面器に水を入れ、これに映して見ると月の病が早く治る 〔山梨県南都留郡〕 【解説】月食という特異な現象に対して、通常の月がもつ以上の力(霊力)を感じたのでしょうか。 ○日食のときは年寄りが手を合わせて太陽を拝んだ 〔岐阜県下呂市〕 ○日食のとき「どうか世の中を明るく照らしてください」などと唱えながら太陽を拝んだ 〔岐阜県揖斐郡〕


星と気象

総体的な星と気象に関する伝承は、その瞬きと風について説明したものが主体です。ほぼ全国的な伝承 であり、観天望気の代表といえるでしょう。 《事例》 ○星が光ると翌日はしばれる(寒くなる) 〔北海道函館市〕 ○星がキラキラよく光ると翌日は風が強くなる 〔北海道函館市〕 ○星が光ると風が吹く 〔青森県三戸郡〕 ○星が光ると翌日は風が吹く 〔岩手県九戸郡〕 ○星が光ると天気が変わる 〔岩手県下閉伊郡〕 ○星がチカチカすると風が出る 〔岩手県釜石市〕 ○星が冴えると風が吹く 〔宮城県宮城郡〕 ○星がピカピカ光ると翌日はよい天気になる 〔宮城県塩竈市〕 ○星がチカチカまたたくと風が強くなる 〔宮城県本吉郡〕 ○星がチカチカまたたくと風が出る 〔宮城県気仙沼市〕 ○星がキラキラすると風が吹く 〔秋田県男鹿市〕 ○星がチカチカすると風が出る 〔秋田県にかほ市〕 ○冬になり、星がはっきり見えるときは天気がくずれる 〔山形県鶴岡市〕 ○星がピカピカ光ると風が出る 〔山形県飽海郡〕 ○「星に風をあてる」といって、星がキラキラするときは風が出る 〔福島県いわき市〕 ○星がチカチカ光ると風が出る 〔茨城県北茨城市〕 ○星がキラキラ光ると風が吹く 〔茨城県ひたちなか市〕 ○夜朝に空を見て、いつもより星が光ると風が出る兆しである。そうするとナリ(海鳴り)を聞いてその  風向きを予測した。南のナリが強ければ南風が、北のナリが強ければ北風が吹く 〔茨城県東茨城郡〕 ○星がチカチカするとその翌日は風が吹く 〔茨城県神栖市〕 ○西にある奥山の平らな稜線の上にいくつか星が見えると、翌日は入道雲が出て天気が変わる 〔群馬県沼田市〕 ○星がピカピカ光ると風が出る 〔千葉県浦安市〕 ○星が強く光る(またたく)と風が出る 〔千葉県木更津市〕 ○冬の間、テンパレで星がチカチカすると風が吹く 〔千葉県富津市〕 ○星がチカチカすると風が吹く 〔千葉県安房郡〕 ○星がはっきりと見えチカチカするときは、上空の塵が吹き払われている証拠なので、やがて風が出る 〔千葉県南房総市〕 ○星のまたたきが強いとよい天気が続く 〔千葉県南房総市〕 ○寒に入り、星がピカピカ光ると翌日は南西の風が吹く 〔千葉県鴨川市〕 ○星がチカチカまたたくと風が出る 〔千葉県勝浦市〕 ○冬、夜空が天晴れとなり、いつもより星がチカチカすると翌日は風が出る 〔千葉県勝浦市〕 ○夜によく光る星がまたたいて見えると、その星がある方角から風が吹く ・宵の口に星がキラキラしていると翌日は風が吹く ・星が光ると翌日は風 〔千葉県夷隅郡〕 ○星の光が強いと、やがて風が吹いてくる 〔千葉県いすみ市〕 ○星がよく光る(またたく)と風が吹く 〔千葉県いすみ市〕 ○星がギラギラ光ると翌日は風が出る 〔千葉県山武郡〕 ○星がいつもよりチカチカすると翌日は風が吹く 〔千葉県山武市〕 ○星がチカチカしていると風が吹き、どんよりしていると凪になる 〔千葉県銚子市〕 ○星がキラキラすると時化になる 〔千葉県銚子市〕 ○キラ星は雨のもと(星がキラキラすると翌日は雨) 〔千葉県安房郡〕 ○夜、星がぎらついて見えると翌日は風が出る 〔東京都江戸川区〕 ○星がうるむと雨か雪が降る 〔東京都西多摩郡檜原村〕 【解説】星がうるむとは、空にうす雲がかかって光が弱くなって滲んで見える状態をさしなすが、これ  を「潤む」と表現したものでしょう。 ○星がうるむと天気が変わる 〔東京都西多摩郡五日市町〕 ○星がキラキラ光ると風が出る 〔神奈川県横浜市金沢区〕 ○星が透き通って見えると風が吹く 〔神奈川県横須賀市〕 ○夜、上空で星がチカチカするときは風が吹く 〔神奈川県横須賀市〕 ○星がギラギラ光ると風が吹く 〔神奈川県横須賀市〕 ○夜に風が強いと星がチカチカする 〔神奈川県三浦郡〕 ○星がチカチカすると上(空)は風が吹く 〔神奈川県鎌倉市〕 ○天竺がきれいだと風が吹く 〔神奈川県鎌倉市〕 【解説】「天竺がきれい」とは、夜空が澄んで星がギラギラ輝く様子を表現した言葉です。 ○星がキラキラすると風が出る 〔神奈川県中郡〕 ○夜空が晴れて、星がくっきり見えると翌日は風が吹く ○星がピカピカ光ってよく見えるときは、翌日天気がくずれる 〔新潟県村上市〕 ○星がキラキラまたたくと風が出る 〔富山県魚津市〕 ○星がいつもより光ると嵐が近い 〔富山県射水市〕 ○いつもより星がチカチカするときは風が強くなる 〔富山県氷見市〕 ○星がチカチカすると陽気がわるくなる 〔富山県下新川郡〕 ○「星に風がかかる」と星がチカチカする。そして風はその方角から吹く 〔石川県鳳至郡穴水町〕 【解説】星の瞬きが、風の影響によるものという認識に立った見方です。 ○星がチカチカすると翌日は風が吹く 〔福井県三方郡〕 ○星がよく光ると時化になる 〔福井県小浜市〕 ○星がチカチカして見えると翌日は風が出る 〔福井県丹生郡〕 ○星のまわりに雲があると風が吹く。その雲が東に流れると天気になり、西へ流れると雨になる 〔山梨県北都留郡上野原町〕 ○星の光がキラキラときれいに見えると翌日は西の風が吹く 〔静岡県伊東市〕 ○星がキラキラ瞬くと風が出る 〔静岡県沼津市〕 ○星がよく見えると翌日は晴れる 〔静岡県富士宮市〕 ○星がチカチカすると風が出る 〔静岡県静岡市〕 ○冬なって、星がよく光って見えると翌朝は冷える。また風が出る 〔静岡県焼津市〕 ○星がチカチカ光ると風が出る 〔静岡県牧之原市〕 ○星がチカチカして見えると翌日は風が吹く.また星がぼんやりと見えたら海は凪ぐ 〔愛知県田原市〕 ○星がチカチカしてよく見えるときは翌日風が強い 〔愛知県常滑市〕 ○空が晴れて星がよく見えると翌日は日和がよい 〔愛知県蒲郡市〕 ○星がまたたくと翌日は風が吹く 〔愛知県蒲郡市知多郡〕 ○星が光ると翌日は風が吹く 〔三重県北牟婁郡〕 ○星がチカチカすると上空は風が強い 〔三重県鈴鹿市〕 ○星がまたたくと風が強くなる 〔三重県鳥羽市〕 ○星のまわりに小さな輪が見えたら「暈が来た」といって雨が降る 〔京都府相楽郡〕 ○星がキラキラすると風が吹く 〔大阪府泉佐野市〕 ○星がいつもよりチカチカすると風が出る 〔大阪府阪南市〕 ○日が暮れて、夜空に星が冴えとると風がくる 〔兵庫県明石市〕 ○星がチカチカすると風が吹く 〔兵庫県明石市〕 ○星がチカチカまたたいて見えると翌日は風 〔兵庫県淡路市〕 ○星がキラキラ光ると風が吹く 〔兵庫県姫路市〕 ○星がチカチカすると風が吹く 〔和歌山県和歌山市〕 ○星が光ると翌日は風が吹く 〔和歌山県田辺市〕 ○星が大きく見えると翌日は風が強い 〔鳥取県西伯郡〕 ○星がチカチカして明るく見えると風が吹く 〔島根県浜田市〕 ○星がキラキラ輝くと風が吹く 〔岡山県備前市〕 ○星がチカチカ光ると風が出る 〔岡山県備前市〕 ○星がチカチカして輝いて見えたら、じきに風が吹く 〔岡山県倉敷市〕 ○星が光ってよく見えると風が吹く 〔広島県呉市〕 ○星がくっきり見えると翌朝は冷える 〔山口県下関市〕 ○星がいつもよりチカチカ見えたら風が強くなる 〔徳島県海部郡〕 ○星がギラギラまたたくと風が出る 〔徳島県海部郡〕 ○星さんが光ると風が吹く 〔愛媛県今治市〕 ○星がチカチカすると雨になるか風が吹く 〔愛媛県伊予市〕 ○星がピカピカ光ると翌日は風が吹く 〔高知県土佐清水市〕 ○いつもより星がチカチカすると翌日は風が吹く 〔福岡県豊前市〕 ○空気が澄んでくると、星がピカピカまたたいて風が強くなる 〔福岡県福津市〕 ○星がチカチカまたたくと翌日は強い風が吹く 〔佐賀県唐津市〕 ○星がチカチカして見えるときは風が出る ○星がピカピカ光ったり、月がビラビラ輝くと時化になる 〔長崎県平戸市〕 ○星がいらつくと風ば吹きよる 〔長崎県大村市〕 ○星がキラキラすると風が吹く 〔熊本県宇城市〕 ○星がキラキラ光ると風が出る 〔大分県国東市〕 ○星がチカチカすると日和が二日しかもたず、やがて雨が降り風が吹く 〔大分県宇佐市〕 ○星がキラキラ光ると風が吹く 〔大分県津久見市〕 ○星がいつもより光って見えると風が吹く 〔宮崎県日南市〕 ○星がキラキラ光ると風が吹く 〔宮崎県串間市〕 ○いつもより星がキラキラと光ったら翌日は風が強くなる 〔宮崎県延岡市〕 ○ブス(星)がチカチカするときはカジ(風)が出る 〔沖縄県宮古島市〕 ○フシ(星)がチカチカすると海が荒れる 〔沖縄県うるま市〕 ○フシ(星)がチカチカすると天気が荒れる 〔沖縄県国頭郡〕


星と凶事

事例はわずかですが、星の出を凶事と捉えている伝承があります。 《事例》 ○星が三列に並んで出ると、よくないことがある(たとえば米がとれなくなるなど) 〔埼玉県北埼玉郡〕 【解説】星の特定はできませんが、三つあるいは三列の星の出が不吉な前兆として捉えられている点は  興味深いものがあります。


星と生業

農業や漁業において、特定の星を対象としない、あるいは星を特定できない伝承が記録されています。 《事例》 ○イカ釣りの目あてとなる星の出は時間の経過を示し、それによって潮が変わるのでイカが釣れた 〔北海道上磯郡〕 ○星が出ると潮が変わるのでイカが釣れた 〔北海道松前郡〕 ○星の出にはイカが釣れる 〔青森県西津軽郡〕 ○三つ並んだ星の出や月の出にはイカが釣れた 〔岩手県九戸郡〕 ○秋口になると、夜明け前に南の中空に出る明るい星を目あてに出漁した 〔茨城県北茨城市〕 ○昔は、日が暮れて星が見えはじめると、その星を目あてに海へ網を入れた。これを二番ガイという 〔千葉県安房郡〕 【解説】当該地では底立網、底曳網、浮流し網、定置網、刺網などの網漁が行われていたようですが、  この伝承が特定の漁に限られたものかどうかは不明です。また、目あてとなる星は宵の明星などの明  るい星が考えられます。因みに、一番ガイは昼間の網入れです。 ○かつて、館山湾内で漁をする磯舟の漁師らは、ある特定の星と山のシルエットを合わせることによっ  て漁場の識別を行っていた 〔千葉県館山市〕 【解説】湾内は、複雑な地形によってさまざまな生きものが生息し、それぞれの漁に適した漁場の把握  が必要であったと推測されます。 ○夜の漁では、星が真上にくると上げ潮になる 〔東京都江戸川区〕 ○秋の麦播きは、星を頼りに時期を定めた 〔神奈川県津久井郡〕 【解説】周辺地域の事例から、この星はからす座の四辺形かうしかい座のアルクトゥルスなどが想定さ  れます。 ○イカがどの星の出につくかは日によって異なる。星の出に間があるときは寝て待った 〔新潟県両津市〕 ○あまり漁がない時は、わざわざ星の出を待って網を揚げた 〔新潟県三島郡〕 ○イカ釣り漁では、星の出方や輝き方によって釣り具の照明の色を変えた 〔新潟県三島郡〕 ○ホッサン(星さん)の出や入りにはイカが釣れる 〔福井県丹生郡〕 ○夜の漁では星の出や動きで時間を計ったが、そうした時間の区切りでイカが釣れたり魚がついた 〔島根県浜田市〕


木星と暮らし

金星以外の惑星では、木星に関する伝承がわずかにみられる程度です。 《事例》 ○ヨナカノミョウジョウ(夜中の明星)が真上にくると夜中になる 〔埼玉県秩父郡〕 【解説】内惑星である金星は夜中には見られないので、この場合の明星は木星のことになります。


流星と気象

流星の出現を気象の変化と結びつけた伝承は各地にありますが、調査では数例だけ記録されています。 《事例》 ○流れ星が東へ流れれば東から、沖へ流れたら沖の方から風が吹く 〔千葉県いすみ市〕 ○星が流れると雨か嵐になる 〔東京都西多摩郡五日市町〕


流星と吉事

流星を幸運の星と捉えた伝承が各地に分布しています。多くは、流星の出現時にとるべき行動が主体と なっており、いくつかの類型がみられます。 《事例》 ○流れ星を見たら、それが消えないうちに願い事をすれば叶えられる 〔宮城県塩竈市〕 ○流れ星を見たら願い事をすれば叶う 〔山形県東村山郡〕 ○流れ星を見たらポケットを開けるとお金が入る 〔栃木県下野市〕 ○流れ星が消えないうちに願い事をすれば運がよいが、それができないと運がわるくなる 〔群馬県安中市〕 ○流れ星が自分の方へ向かって飛んでくればお金が入る 〔埼玉県所沢市〕 ○流れ星が消えないうちに「・・・・・一升」といえばお金が入る 〔埼玉県入間郡〕 【解説】流れ星を見たときに、願い事をしたり、きまり文句を唱えたり、特別な動作をするとそれらが  叶うという伝承は各地にあり、さまざまなバリエーションがみられます。 ○流れ星を見たら、それが消えないうちに願い事をいうと叶えられる 〔埼玉県東松山市、比企郡〕 ○流れ星を見るとよいことがある 〔千葉県印西市〕 ○流れ星を見ると何かいいことがある 〔千葉県成田市〕 ○流れ星を見つけたら、それが消えないうちに「ヨビャアボシ、ヨビャアボシ・・・・・」と何回も唱えると  縁起がよい。昔はこれをやって博打で儲けた人がいる 〔東京都西多摩郡〕 ○流れ星を見たらそれが消えないうちに願をかける 〔神奈川県津久井郡〕 ○流星に願いごとをすれば叶う 〔山梨県北都留郡〕 ○流星を見ると運がよい 〔山梨県北都留郡〕 ○流れ星を見るとよいことがある 〔長野県塩尻市〕 ○流れ星を見たら消えないうちに願い事をすると叶えられる 〔長野県東筑摩郡〕 ○流れ星を見たら両手で顔を被うと顔がきれいになる 〔愛知県西尾市〕 ○流れ星を見ると何かよいことがある 〔大阪府泉佐野市〕 ○流れ星が出たら消えないうちに願い事をすれば叶う 〔徳島県三好市〕 ○流れ星を見たら願い事が叶う 〔香川県丸亀市〕 ○星は流れて違う星に生まれ変るので、それを見た人も同じように生まれ変わる 〔沖縄県宮古島市〕


流星と凶事

凶事との関係では、人の死や火災などに結びつけた伝承が主体となります。 《事例》 ○流れ星が出る方角によってよくないことがある 〔栃木県那須烏山市〕 ○星が流れると人が死ぬ 〔群馬県多野郡〕 ○流れ星を見ると不吉な予感がする 〔群馬県利根郡〕 ○流れ星が飛ぶと人が死ぬ 〔埼玉県飯能市〕 ○流れ星が飛ぶと縁起がよくない 〔埼玉県秩父郡〕 ○流れ星が飛ぶと山火事が起る 〔東京都西多摩郡〕 ○星が流れるのはヒトダマで、これが見えると不幸や災害が起る 〔東京都西多摩郡檜原村〕 ○流れ星を見ると人が死ぬ 〔山梨県北都留郡〕 ○ヌケボシ(抜け星)が屋根に落ちるとその家では悪いことがある 〔長野県上伊那郡〕 ○流れ星を見たら身内に不幸が起るので、その時は寺で厄除けをしてもらう 〔香川県仲多度郡〕


流星と生業・暮らし

日々の暮らしのなかで、流星とのかかわりを捉えた伝承が記録されています。 《事例》 ○流れ星は手前(自分の方)にはこないで先へ流れる 〔埼玉県吉川市〕 ○流れ星は秋に多く飛ぶ 〔埼玉県秩父郡〕 ○ヨバイボシには赤いものと青いものがあり、赤いヨバイボシはよいが青いのはよくない 〔東京都西多摩郡〕 ○ヨバイボシは流れずに落ちるものだから、藪で拾った人もある 〔東京都西多摩郡〕 ○流れ星は空を流れてほかの星にくっつく 〔東京都西多摩郡〕 ○尾をひいて流れる星があるが、これは鳥が飛んだときにその尾が光るからである 〔東京都西多摩郡〕 ○流れ星は朝方に多く飛ぶ 〔神奈川県横須賀市〕 ○星が横に流れるのをヤマドリが飛ぶといい、上から落ちてくるものを流れ星という 〔神奈川県津久井郡〕 【解説】流れ星を、ヤマドリやキジなど尾の長い鳥が飛ぶ姿に見立てた事例は少なくありません。山間  地では、小鳥が夜空を飛ぶときに光って見えるので、流星と見間違えたという伝承も聞かれます。 ○星が流れると漁がよくない 〔新潟県三島郡〕 ○ヨビャアボシは、今あった星がひょこっと落ちる 〔山梨県北都留郡〕 ○星が流れるのは尾長鳥が飛ぶからだ 〔長野県上伊那郡〕


流星と人魂

流星を人魂とみている伝承は古く、各地に分布しています。地域によっては、これを流星の色で呼び分 けている伝承もあり、その場合は青色と赤色が一般的です。 《事例》 ○流れ星は、人の魂が飛んだもの 〔栃木県下都賀郡〕 ○流れ星を二十歳前に見ると、その後は人の魂が流れるのを見ることができる 〔埼玉県行田市〕 ○流れ星は「人の魂」だという 〔埼玉県比企郡〕 ○流れ星を見ると「ヒトダマが飛んだ」という 〔埼玉県大里郡〕 ○夜空を火の玉が飛ぶとき、赤いのを飛玉、青いのはヒトダマという 〔埼玉県入間郡〕 【解説】この伝承は、色によって火の玉と人魂を呼び分けている事例です。 ○流れ星はヒトダマという 〔千葉県野田市〕 ○赤い火の玉はカネダマ、青い火の玉はヒトダマという 〔東京都西多摩郡〕 ○人の魂が飛ぶと流れ星になる 〔香川県三豊市〕


その他の伝承

天体あるいは気象のいずれとも判断しがたい事例を集めてみました。 《事例》 ○明け方の東の空や夕方の西空に短い虹が立つことがあり、アサゴシあるいはヨイゴシと呼ぶ。これが  現れると一日か二日で時化になる 〔千葉県鴨川市〕