星座と星の名の伝承 2019/12/25

星の名に関する伝承は、おうし座、オリオン座、おおぐま座などを中心に11個の星座で記 録されています。また、複数の星座にかかわる伝承が各地にみられます。これらは、農業や 漁業、暮らしの領域で、星がどのように利用されていたのかを知る手がかりとして重要です。 伝承は、星座と項目により整理し、事例を都道府県順に示したほか、一部解説を付したもの があります。なお、記載された星の名については星の名の民俗において由来などを解説して いますので参照してください。


おうし座と気象

気象との関係では、一般的に漁業などにおいてプレアデス星団が西へ没する時期に風が吹くという事例が 多くみられますが、調査の記録は観天望気に関するものです。 《事例》 ○モッコボシ(もっこ星)に出会うと西風が吹く 〔山形県鶴岡市〕 ○オマツルサマ(お六連さま)がよく見えると天気になる 〔埼玉県幸手市〕 ○ハゴイタボシ(羽子板星)が西の山へ入るようになると霜がおりる 〔岐阜県揖斐郡〕 ○スマルの入りには風がくる 〔愛媛県伊予市〕 ○スバルの入り西におとす 〔佐賀県伊万里市〕 【解説】スバルが西に沈むと西風が吹いて海が荒れるという意味です。 ○スワリ(坐り)が西へ入る頃は天気がくずれる 〔熊本県天草郡〕


おうし座と漁業

漁業における利用の対象は、プレアデス星団に集中しています。 《事例》 ○カップ〈プレアデス星団〉がかしがって(傾いて)きたら潮が変わり、イカが釣れる 〔北海道松前郡〕 ○イカ釣りではアカボシ〈アルデバラン〉の出まで待つ 〔北海道函館市〕 ○秋になってジャクボシ〈プレアデス星団〉が出たら、イカ釣りをやめてひきあげる 〔宮城県本吉郡〕 ○スバルがどれくらい上がったら漁があるといって、目当てにした 〔千葉県木更津市〕 ○六月の末頃、東の空にスバルが上がるようになると、そろそろ夜が明ける。そうするとウタセアミ(底  曳網)漁を終え、網を引きあげて帰ってきた 〔千葉県富津市〕 【解説】ウタセアミは打瀬網で本来は帆掛け舟が曳く網漁法でしたが、当該地では機械船による底曳網漁  も含めた呼称となっています。 ○スバリボシが東の空に現れると、サワラが海面近くに浮いてきて流し網にかかる。 しかし、いったん  この星が上がってしまうとサワラは海底に沈んでしまう 〔千葉県南房総市〕 ○夜のミアミ(刺網)漁では、東からスマルが上ると夜が明ける 〔岡山県備前市〕 ○3時ころ、スマルが東の空に上ると魚がさわぐ。そしてタイやイサキ、アジなどさまざまな魚がよく釣  れる 〔山口県長門市〕 ○出漁から帰るときは、スバルの位置と向きから方角を見定めた 〔長崎県平戸市〕


おうし座と暮らし

暮らしの伝承では、一般的にプレアデス星団の出没や位置に注目した事例がみられます。 《事例》 ○ホウキボシ〈プレアデス星団〉が出たら早くやすむ 〔埼玉県比企郡〕 ○スバリが東の空に出ると夜が明ける 〔千葉県館山市〕 【解説】昔のスズキ漁では、すぐ沖にある磯のネから網を入れますが、西風が吹くと網を引き上げること  が出来なくなるため、夜通し見張りをしていました。そんな時、東からこの星が現れ「ああ、スバリが  出たからもう夜が明ける」などと言っていました。 ○スバルボシが真上にくると夜中の12時である 〔神奈川県横須賀市〕 ○スマルサンが出ると夜が明ける 〔岡山県倉敷市〕 ○スバイドンは夏の間高く見えているが、冬になると西へ入る 〔鹿児島県肝属郡〕


おうし座と農業

漁業に比べると、農業とのかかわりは少ないようです。 《事例》 ○昔はムルブシ〈プレアデス星団〉を見て米を作っていた 〔沖縄県石垣市〕


おおぐま座と気象

気象に関する伝承は稀で、北斗七星の見え方から天候予測をした事例があります。 《事例》 ○北斗七星の星がいつもより暗く見えると天気が変わる 〔愛知県知多郡〕


おおぐま座と漁業

北極星の周囲をめぐる北斗七星も、北の方角を示す目標とされていたようです。 《事例》 ○ナナツボシ(七つ星)が上がるとそのキラキラした光で真鯛が迷い、一カ所に集まってくる 〔山形県鶴岡市〕 ○沖から帰るときはホクトシチセイを目あてにした 〔神奈川県三浦市〕 ○キタノオオカジ(北の大舵)は、かつて北前船が目あてにした星 〔石川県珠洲市〕 ○マオキ(神戸方面)へ向かって船をはしらせるときは、ナナツボシ(七つ星)を横に見て進む 〔大阪府泉佐野市〕 ○漁師はシソウ(四三)を注視し、七つある星のうちいくつ上ったかを見て時間を計った 〔福岡県北九州市〕 ○沖へ出て夜帰るときにはナナツボシを見て北の方角を確かめた 〔大分県国東市〕


おおぐま座と暮らし

北の空にある北斗七星は、端正な七つの星として注目され、北極星を回る一晩の動きや季節的な位置の変 化が注目されてきました。 《事例》 ○ナナツボシ(七つ星)は北の空にあるので、方角を知る目あてになった 〔宮城県牡鹿郡〕 ○冬場、ヒチヨウノホシ(七曜の星)が尻をふると夜が明ける 〔埼玉県秩父市〕 ○ヒチジョウノホシ(七星の星)は北から出て北へ入る 〔埼玉県秩父郡〕 【解説】北斗七星は、緯度が高くなるほど周極星としての特性が強まりますが、秩父 のような山間地では、  北の山から出入りする星として捉えられていたようです。 ○ヒチヨウノホシが尻をふるようになると夜明けが近い 〔東京都西多摩郡奥多摩町〕 【解説】この状況は、主に冬場の北斗七星の動きを見たもので、奥多摩町などでは 炭焼きの生活とかかわ  りの深い利用が図られていました。 ○シャク(杓)が下がると夜が明ける 〔福井県小浜市〕 ○ヒシャクボシ(柄杓星)は北の空を回りながら向きを変えるので、季節を知る目安になった 〔愛知県常滑市〕 ○昔はナナツボシの動きで時間をみていた 〔大阪府阪南市〕 ○ナナツボシの位置によって時間をみた 〔広島県尾道市〕 ○ナナツボシは北の空をまわっているので、目あてにしていた 〔佐賀県唐津市〕 ○ナナツボシの動きで時間をみた 〔大分県国東市〕


オリオン座と気象

一般的には、三つ星の出現をもって冬の到来を認識するという伝承が主体ですが、調査事例は天候予知的 な内容を示しています。 《事例》 ○サンチョウサマ(三ちょう星)がよく出なければ、雨が降る 〔埼玉県大里郡〕 ○ミツボシは軒先にぶら下がったように三つ出てくる星で、その出方がまっすぐだっ たり、少し斜めに  なったりするのを見て風が吹くかどうか判断した 〔千葉県勝浦市〕 ○朝起きて「ミツボシが何間あがったらシモがきれる(明るくなる)」という 〔東京都西多摩郡檜原村〕 【解説】これは、夏に暁天の三つ星に注目した事例です。起床あるいは出かける際の目安として利用され  たものと考えられます。


オリオン座と漁業

漁業における利用の対象は、三つ星を中心とした小三つ星などを含めた星群に集中しています。 《事例》 ○イカがつかないときは、マスボシ(桝星)の出まで寝て待つ 〔北海道余市郡〕 ○イカは、サンコウ(三光)の出のときがいちばん釣れる 〔北海道岩内町〕 ○サンコウが上がってくるとイカが浮く 〔青森県八戸市〕 ○サンコウは三つ並んだ星で、これが遅く上がってくるようになったらイカ釣りをやめて帰る 〔青森県三戸郡〕 ○ムヅラ(六連)が上がるとイカがつく 〔岩手県下閉伊郡〕 ○ムジナ(六連)の星が出てもイカが釣れなければ漁をやめて帰る 〔宮城県本吉郡〕 ○秋の夜は、東から南へ動くミツボシを眺めながらコハダ(コノシロの若年魚)漁を行った 〔千葉県船橋市〕 ○サンズイボシ(三ずい星)は三つの星が間をおいて出てくるもので、漁ではもっぱらこの星を利用した 〔千葉県富津市〕 ○夏(7月の終わりころ)になって、サンゲンボシ(三間星)が出るようになったらブリがくるだろうと  いう。それまではブリがいても、この星が上がるようにならなければブリはとれない 〔神奈川県横須賀市〕 ○イカはカラスコ(唐鋤)の出によく釣れる 〔新潟県佐渡郡相川町〕 ○昔は明け方までサクラエビ漁を行い、夜明けが近づくと「もうミツボシがあがった」などという 〔静岡県静岡市〕 ○朝漁に出るときにはムツガミサン(六つ神さん)を目あてにした 〔静岡県下田市〕 ○秋の夜中、サンボシ(三星)が上がる時刻をみてイカを釣った 〔静岡県加茂郡〕 ○サンコウサン(三光さん)が西の山にかかるのを見て漁の目安としていた 〔愛知県西尾市〕 ○カラツキが山の端に出るとイカや魚がよく釣れた 〔島根県出雲市〕 ○ミツボシサンが出ると夜明けが近い.昔はこの星の出を見てお湯を沸かし、茶を一杯飲んでから最後の  竿を入れて漁を切り上げた 〔愛媛県今治市〕


オリオン座と暮らし

暮らしとの関係では、三つ星に利用が集中しています。多くは、その位置によって時の目安としたり、一 定の動きを捉えて時の経過を計ることが行われてきました。こうした具体的な事例が各地で記録されてい ますが、そこには子どもたちが日々の暮らしのなかで大人(父母や祖父母)から学んだと思われる伝承も 多く含まれています。 《事例》 ○三つ星のまん中の星と小三つ星を結ぶ線は、真南をさす 〔茨城県土浦市〕 ○サンチョボシ(三ちょうの星)が西へいくと眠くなる 〔茨城県猿島郡〕 【解説】これは、夜なべ仕事か何かをしている状況で、三つ星が西へ傾き、夜更けて眠気をもよおすこと  を表現したものです。かつての農村部や山間地では、このような暮らしのスタイルが一般的でした。 ○サンボシ(三星)の位置によって時間を見ていた 〔茨城県神栖市〕 ○サンチョウサマが見える位置で時間を知った 〔栃木県足利市〕 ○サンジョウサン(三星さん)が山へ入ったら夜が開ける 〔群馬県吾妻郡〕 ○時計がなかったころは、サンチョウボシが上るとご飯を食べて出かけなければならなかった 〔埼玉県浦和市〕 ○サンチョウサマが出たら夜なべ仕事を終える 〔埼玉県八潮市〕 ○ミツボシが西へ沈むころになると「もう遅いから寝ろ」という 〔埼玉県所沢市〕 ○昔はミツボシサマが西に傾くころまで奉公人を働かせていた 〔埼玉県入間市〕 ○冬場はミツボシの高さを測って時を知り、朝食を食べると草鞋をはいて家を出た 〔埼玉県入間郡名栗村〕 ○サンジョウサマ(三星さま)がおひる(真南へくること)になるまで夜なべ仕事をした 〔埼玉県大里郡〕 ○サンジョウサマが見えはじめた(上がる)ときや頭の上にきたときなどで時間をみていた 〔埼玉県大里郡〕 ○冬の間は、ムジン(寄り合い)で遅くなると「サンチョウボシがひっくりけぇったから、そろそろ帰る  べぇか」という 〔埼玉県羽生市〕 【解説】ひっくりかえるというのは、東の空から昇るときに縦一列に並んだ三つ星が、西の空で横になる  ことを表現したものである。 ○ミツボシが出たら早くやすむ 〔埼玉県比企郡〕 ○サンジョウサマがどのあたりにきたかを見て夜明けを知った 〔埼玉県秩父郡〕 ○寒に入るころ、「ミツボシサマが横になったからもう夜の11時ころだ」などと言っていた 〔埼玉県秩父郡横瀬村〕 ○サンジョウサマが西へいくと夜があける 〔埼玉県秩父郡〕 ○ミツボシサマが、太郎坊と次郎坊の山の上にきたら起きる時刻 〔埼玉県秩父郡〕 【解説】この伝承は、かなり限定された場所での状況を示しており、それを検証してみました。吉田町の  この地区から南西方向を眺めると、写真のような標高518bの二つのピークが目につきます。地元で  はこれを「太郎坊」「次郎坊」と呼んでおり、伝承はこの山の上にオリオン座の三つ星がきた時をもっ  て朝起きの時間と認識していたことになります。そこで、この伝承に適合した観察ポイントを再現する  と、まず、伝承者が現在居住している地点(標高約300b)で考えた場合、この地点から見た山頂の  みかけの高度は約12.3度で、この地点から二つのピークの中間点までの真北からの方位角は約  223度となります。朝4時を想定するとこれは11月12日頃になり、このときの高度は44度前後  です。この位置では、三つ星が高いので「山の上に・・」という感覚には合わないようです。そこで、今  度は少し標高の低い場所(約260b)を設定して、同様の検証を行いました。その結果、12月8日  ころの朝4時に高度約27度で二つの山頂の間に三つ星がかかることが判明しました。このように、山  間地における伝承では、周辺の地形や星を確認する標高などによって、星の捉え方はさまざまに変化す  ることがわかります。これは、その典型的な事例といえるでしょう。

ミツボシサマの伝承

○サンチョウサマの位置で時間をはかった
〔千葉県野田市〕

○夜中の漁で3時頃に東の空から三つ並んだ星が出てくると「サンギ(算木)が出たからもうじき夜が明
 ける」という
〔千葉県袖ヶ浦市〕

○夜の漁では、サンボシ(三星)が上がると夜が明ける
〔千葉県安房郡〕

○ミツボシが西へ傾くと夜が明ける
〔千葉県夷隅郡〕

○サンボシは7月になると出てくる三つの星で、朝寝坊などすると「ほれ、サンボシが 天井くらい上が
 っているからもう起きろ」という
〔千葉県鴨川市〕

○サンボシ(三星)が上がると夜が明ける
〔千葉県いすみ市〕
○サンゲンボシ(三間星)の動きを見て時刻をはかった
〔神奈川県横須賀市〕

○サンゲンボシ(三間星)が真上にくると夜が明ける
〔神奈川県横須賀市〕

○昔はサンコウ(三光)の出によって時間をみていた
〔石川県鳳珠郡〕
○ミツボシサンは宵の口に出て夜中には高くなり、夜明けころ西へ入る
〔長野県諏訪郡〕
○ミツダナサン(三つ棚さん)が出ると夜明けが近い
〔静岡県賀茂郡〕

○昔はミツボシの動きで時間を見ていた
〔静岡県焼津市〕

○ミツボシサンが西へかしいだら、夜業の石臼挽きをやめた
〔静岡県焼津市〕

○ミツボシが上ると夜が明ける
〔三重県松阪市〕

○ミツボシは夜中西へ動いて横になる
〔滋賀県甲賀市〕

○秋にはカラスキ(唐犂)が西に入るまで夜が明けない
〔和歌山県田辺市〕

○夏の朝、ミツボシサマが上ると夜が明ける
〔宮崎県日南市〕


オリオン座と暦

三つ星の出現や動きは、夜空の暦として利用される場合があり、各地に伝承がみられます。記録では、夏 季と師走における三つ星の動きが伝承されています。 《事例》 ○師走のミツボシは宵に果てる 〔埼玉県入間郡名栗村〕 【解説】師走の三つ星は夕暮れに東天に現れ、夜明け前に西へ没します。つまり夜通しで東から西へ移動  するわけです。この動きを表現した俚諺が各地に伝承されていますが、表現方法はさまざまで、この事  例のように簡略化されたのではないかと思われるものが散見されます。本来は「師走の三つ星は宵に出  て夜明けに西へ果てる」というべきところを、単に「宵に果てる」と省略したものと推測されます。 ○夏のミツボシは「昼通り」といって、昼間のうちに空を通り抜ける 〔山梨県北都留郡〕 【解説】夏の土用の明け方に東天から昇る三つ星は、昼の間に空を駆け抜けて夕方には西空に没して見る  ことができなくなります。こうした星の動きにも関心を寄せていたことが各地の伝承に表れているわけ  です。 ○ミツボシは夏の土用の始めに一つ見え、二日目に二つ、三日目に三つ出る 〔愛媛県今治市〕 【解説】三つ星が夜明け前の東天に姿を見せるのは夏の土用の頃で、午前3時から4時の時間です。土用  の入りは例年7月19日頃ですから、三つ星は夜明け前ぎりぎりの時間帯に上ってくることになり、こ  の星を利用する人びとにとっては久しぶりの再会となります。この伝承は、季節による星の動きを三連  の星の見え方で表現した事例として傑出した存在といえるでしょう。


オリオン座と信仰

信仰にかかわる伝承とみられるものがいくつか記録されています。 《事例》 ○ミツボシには、おうしのような影がある 〔福島県耶麻郡北塩原村〕 【解説】おうしとは、煙が立ちのぼることを意味します。影ということばからは、三つ星の下にある小さ  な星の列が想定されます。 ○ミツボシサマを見たら「ツルコ、ヒカリコ、タマアリコ」と唱える 〔埼玉県比企郡小川町〕 【解説】三つの星の光を、それぞれに神聖な対象として拝していたものと考えられます。


からす座と暮らし

関東地方の西部山間地などでは、からす座の四辺形に対する依存度の高さが際立っています。日々の生活 や農業での利用が主ですが、オリオン座の三つ星とともに重要な指標星でした。 《事例》 ○秋にヨツボシ(四つ星)が東の空に顔を見せると麦播きをはじめるが、四つの星が全部上がってからで  は、麦播きはもう遅い 〔埼玉県所沢市〕 【解説】ヨツボシはγ星を先頭にして、最後にβ星が現れます。この伝承の背景には、星の出現と伝承地  域の麦の播種期が同期している事実があります。 ○カワハリサマ(皮張り星)は寝るころに山に入る 〔埼玉県入間郡〕 ○カワハリは莚のような形の星で、この星が沢をまたぐと夜が明ける 〔埼玉県秩父郡〕 ○カーハラサマが二子山付近から全部出きると夜が明ける 〔埼玉県秩父郡〕 ○カーハリが出たら夜が明ける 〔東京都西多摩郡五日市町〕 ○夜なべ仕事をしたときは、カーハリが二つ見えたら明日にさしつかえるといって仕事をやめた 〔東京都西多摩郡檜原村〕 ○カーハリ(皮張り星)が二つ出たら、起きなければもう遅い 〔東京都西多摩郡〕 ○カーハリ丈上がってからでは麦播きはもう遅い 〔東京都西多摩郡〕 【解説】カーハリ丈とは、夜明けに南東の空で四つの星が出そろうことを意味します。


ぎょしゃ座と漁業

北よりの東天に現れるカペラを、漁労の目標とした事例が記録されています。 《事例》 ○ノトボシ(能登星)が出たらイカがつく 〔青森県下北郡〕 ○ノトボシが上がると魚がよく喰う 〔福井県三方郡〕 ○ノトボシは能登半島の方角から上る星で、昔は漁の目あてにしていた 〔京都府京丹後市〕


こぐま座と漁業

北極星は単に北の方角を示すだけでなく、漁労の目標としても利用されていました。 《事例》 ○北極星は北にあって動かない星なので、昔はこの星をあてにしていた 〔秋田県にかほ市〕 ○飯岡沖の底曳網漁では、キタノヒトツ(北の一つ)と飯岡の集落の中で目立つ灯りの位置を見て漁場を  確認していた。たとえば、キタノヒトツが目印とする灯りよりも右側に見えるときは、海底に岩礁があ  るので気をつけなければならない 〔千葉県旭市〕 ○飯岡の灯台とヒトツ〈北極星〉の間に指を入れて合わせ、さらに犬吠埼の灯台と石山のモダレを合わせ  たところ(二つの線が交わう場所)がホリカワイソとカダカイの漁場である 〔千葉県銚子市〕 【解説】モダレとは、"凭れる"ことで目標となる二点が互いに重なり合う状態を表現したものです。 ○ヒトツボシは北の空にあって動かない星で、昔はこの星を目あてに船を出した 〔千葉県南房総市〕 ○かつて伊豆大島近海へカツオ釣りに出漁していたときには、帰港の際に江の島灯台と北極星を合わせて  目標とした 〔神奈川県藤沢市〕 ○ムツやキンメ、サバ漁などで大島や三宅島方面へ出漁したときには、帰港の際にヒトツ(一つ)を右に  見て方角を定めた 〔神奈川県横須賀市〕 ○夜に海上で霧が出たときには、ヒトツボシを目あてにした 〔石川県七尾市〕 ○ヒトツボシ(一つ星)は北の空で動かない星で、新島方面から帰港するときは北の方角を知る目安にな  った 〔静岡県伊東市〕 ○昔は漁から帰るのに北極星を目あてにしていた 〔静岡県賀茂郡〕 ○昔は北極星を目あてに漁をしていた 〔静岡県牧之原市〕 ○海上において陸地が見えないときにはヒトツボシを目あてに船を走らせた 〔愛知県田原市〕 ○ネノホシ(子の星)は動かないので、この星と地上の目立つ山などを合わせて漁を行っていた 〔愛知県蒲郡市〕 ○漁業ではキタノヒトツボシを北の目あてとしていた 〔和歌山県田辺市〕 ○昔はキタノホシをあてにした 〔和歌山県有田郡〕 ○ネノホシは北の空で動かないので、いつ、どこにいても目あてにしていた 〔高知県土佐清水市〕 ○ネノホシを目あてに漁をした 〔高知県高知市〕 ○ヒトツボシは北の空にあるので、目あてになった 〔佐賀県唐津市〕 ○ネノホシは動かない星で、北の目あてにした 〔福岡県豊前市〕 ○ネノホシは北の目印になるで、少しだけ動く ⇒ 昔、漁師の嫁さんが一晩に格子戸の格子一つ分 (約1.5寸)だけ動くのを見つけたので夫に教えた 〔大分県宇佐市〕 【解説】北極星が不動の星ではなく少しだけ動くという伝承は各地にありますが、そのことを発見したの  が漁師の嫁であったというパターンはめずらしい事例といえるでしょう。 ○キタボシ(北星)は北の目印で、羅針盤代わりに利用した 〔鹿児島県肝属郡〕 ○昔はニヌファブスを目あてに船を走らせた 〔沖縄県宮古島市〕 ○ニヌハブシは北にあって動かない星で、この星を目あてに船を走らせた 〔沖縄県石垣市〕 ○昔はニイヌファブシなどの星を使って海上での位置を覚えていた 〔沖縄県うるま市〕


さそり座と漁業

さそり座では、アンタレスを中心とした三星が伝承の主体で、内容的には星の色や配列に注目した事例と なっています。 《事例》 ○オヤコボシ(親子星)の真中の星は赤くて大きく、この星が強く光るとその日は大漁になる 〔山形県鶴岡市〕 ○ダワボシ(撓星)が山の端に出るとイカがさばる 〔島根県松江市〕


星座とイカ釣り漁

北国を中心としたイカ釣り漁においては、特定の星の出にイカが釣れるという伝承が広く分布します。そ の一部は、おうし座のプレアデス星団やオリオン座三つ星、おおいぬ座のシリウスで紹介していますが、 多くはいくつかの星の組み合わせで成り立っています。また、月との関係や潮流との関係も重要なポイン トです。 《事例》 ○シバリ、アカボシ(赤星)、ミツボシなど、星の出にはイカが騒ぐ 〔北海道岩内郡〕 【解説】イカが騒ぐという表現は、海面近くに浮遊してくる状態を示すものと考えられます。 ○日暮れにはナドキイカがつくが、メシタキボシ(飯炊き星)が出ると朝イカがつく。星の出はサンコウ (三光)のときがいちばんイカが釣れる 〔北海道岩内郡〕 【解説】夕暮れと明け方にイカが釣れるというのは、ほぼ共通した見方です。ナドキは、暮れ前の夕七つ  どきを示したものといわれています。 ○アカボシ〈おうし座〉という星もイカがつくが、アオボシ(青星)がいちばんよくつく 〔北海道積丹郡〕 ○イカがいちばん釣れるのは日暮れ(ナドキイカ)と明け方(朝イカ)で、夜はマスボシ(桝星)によく  つく 〔北海道積丹郡〕 ○ムジナ(六連星)の出る前にはナドキイカがつき、ムジナノアトボシからサンコウ〈三つ星〉の出にか  けてはいちばんイカがつくが、サンコウノアトボシからは次第に釣れなくなりメシタキボシ〈金星〉が  出ると朝イカがつく 〔北海道積丹郡〕 【解説】指標となるのは、プレアデス星団からシリウスにいたる星が主体で、これらを十分に活用できる  のは、10月から11月にかけての季節となります。 ○星の出にはイカが釣れるので、たとえ釣れなくともアオボシ〈おおいぬ座〉が出るまで寝て待つ 〔北海道積丹郡〕 【解説】このような伝承は、シリウス以外にもオリオン座の三つ星や金星などで伝えられています。単に  星の出を待つということではなく、待ち時間を休息にあてていたというのが実態でしょう。 ○イカがつかないときは、シバリの出やサンコウの出まで寝て待つ 〔北海道小樽市〕 ○シバリが出るとナドキイカがつき、アオボシには朝イカがつく 〔北海道古宇郡〕 ○アカボシやアオボシには長い時間イカがつくが、ノトボシ(能登星)やアケノミョ ウジョウにつくの  は瞬間的である 〔北海道古宇郡〕 ○イカは十のうち七割位はノトボシ〈ぎょしゃ座〉につくが、つかないときはシバリにつく。そしてマス  ボシにもよくついた 〔北海道古宇郡〕 ○ウズラボシ(六連星)やマスボシ、アオボシの出にはイカがつく 〔北海道増毛郡〕 ○スルメイカ漁では、サンコウの出やアオボシの出を待ってイカを釣った 〔北海道函館市〕 ○ムジラ〈プレアデス星団〉やサンコウ、アオボシなどの星の出にはイカが釣れる 〔北海道北斗市〕 ○イカ釣りでは、アオボシやアケノホシのような大きな一つ星を目あてにした 〔北海道松前郡〕 ○ミヅラボシ(六連星)にはナドキイカがつき、朝イカはアケノミョウドウ〈金星〉につく 〔青森県下北郡〕 ○ムツナボシ(六連星)が出るころナドキイカがつき、朝イカはアケノミョウドウにつく 〔青森県下北郡〕 ○イカが釣れるのは、ナドキと月の出がいちばんで、タケノフシ(竹の節)にもよくついた 〔青森県八戸市〕 ○マスボシの出とアオボシの出にはイカがよく釣れた 〔青森県東津軽郡〕 ○サンンコウやアトボシ(後星)などの星の出にはイカがつくが、上ってしまうとつかなくなる 〔岩手県九戸郡〕 ○オクサ〈プレアデス星団〉やムヅラ〈オリオン座〉、オオボシ〈おおいぬ座〉の出にはイカが釣れる.  夜中休んでいても星の出にはまた釣り始めた 〔岩手県釜石市〕 ○昔はジャグ〈プレアデス星団〉の出やムジラ〈オリオン座〉などをあてにしてイカを釣った 〔宮城県本吉郡〕 ○星の出はどれがいちばん良いかというと、カラスコ(唐鋤)の出には比較的イカが釣れるが、日によっ  てはアカボシだったりする 〔新潟県佐渡郡〕 ○ミツボシやアオボシの出にはイカがよく釣れる 〔新潟県三島郡〕 ○星の出あい(ナナツボシ、ミツボシサン、アオボシサンの出)にはイカが釣れる 〔富山県魚津市〕 ○スバリ、カラツキ、アオボシサンなどの星の出にはイカが騒ぐ 〔富山県氷見市〕 ○スマルの上り、カラツキの上りにはイカが釣れる 〔鳥取県鳥取市〕 ○スマルの上り、カラツキの上りにはイカがさばる 〔鳥取県東伯郡〕


星座と生業・暮らし

特定の星名に限定されない伝承で、生業や暮らしとかかわりのあるものをまとめてみました。特に一般漁 業においては、イカ釣りと同様に星の出などを頼りとした漁法の展開がみられ、漁獲量とのかかわりを示 唆する伝承も各地にあります。 《事例》 ○夏の夜まき網漁をしていると、明け方近くになってサンボシ(三星)が上がり、ヨアケノミョウジョウ  も出てくる。そうすると「そろそろ帰るべぇ」などと言って漁を終えた 〔千葉県市川市〕 ○昔はホウキボシ〈プレアデス星団〉やナナツボシ〈北斗七星〉の位置によって時間をみていた 〔千葉県富津市〕 ○スンバリ、カラツキ、ミョウジョウサンのどの星も、出るときには魚がよく釣れる 〔福井県三方郡〕 ○昔はコンパスがないときなどにヒトツ〈北極星〉やヒシャクボシ〈柄杓星〉を見て北の方角を知った 〔静岡県賀茂郡〕 ○昔はミツボシとオシャリサン(御舎利さん)の動きを見て時間を計っていた 〔愛知県常滑市〕 ○スバル〈プレアデス星団〉やカラスマ〈三つ星〉の星の出には風が吹く 〔大阪府泉佐野市〕 ○スマルサンやミツボシ、フタツボシ〈ふたご座〉の動きを見て時間を知った 〔岡山県備前市〕 ○ミツボシ、オオボシ〈おおいぬ座シリウス〉、ヨアケノミョウジョウなどの大きな星の出や動きを見て  漁の目安とした 〔高知県香南市〕 ○スバル〈プレアデス星団〉やヨコジキ〈オリオン座〉の入りには日和が変わる 〔佐賀県唐津市〕 【解説】ヨコジキは横関で漁網の一種。これらの星が西に沈むと陽気がわるくなるという意味です。 ○夜明けが近づくとヨアケノミョウジョウが出て、それからミツボシが上がると夜が明ける 〔宮崎県児湯郡〕 ○ブリブシ〈プレアデス星団〉とミツブシ〈オリオン座〉は漁の目安になった 〔沖縄県国頭郡〕

ふたご座と漁業 

ふたご座の伝承は、カストルとポルックスの二星に集中しています。「二つ」という数的な認識の一方で 具体的な事象としても捉えられています。 《事例》 ○ガニメ(蟹目)が西へ傾いたら、ヒチサン(7:3)の方角に見て船をはしらせると神戸方面へ行ける 〔大阪府泉佐野市〕


ペガスス座と生業 

ペガスス座では、一部アンドロメダ座の星を含めた大きな四辺形に対する伝承が記録されています。 《事例》 ○秋にトマスノホシ(斗桝の星)が出ると豊作になる 〔埼玉県南埼玉郡宮代町〕 【解説】斗マスとは、穀物などを計量する一斗桝のことです。これには、開口部が四角形や円形、さらに  楕円形をした斗桶などがありますが、この伝承は秋の天空を通る大きな四辺形に注目したものです。

筋違いの把手をもつ一斗枡


りゅうこつ座と気象

カノープスにまつわる伝承は、茨城県から西日本一帯にみられますが、関東付近では、気象に関する内容 が記録されています。 《事例》 ○メラボシは南の空に出る星で、これが上がると二、三日は日和が悪くなる 〔千葉県鴨川市〕 ○メラボシは、房州の洲崎の山上にまるで浮いているように見えて沈まない星で、これが見えると陽気が  悪くなる 〔神奈川県横須賀市〕


りゅうこつ座と漁業

関東南部には、カノープスの星の名が広範囲で記録されていますが、一部の地域では、漁労とかかわりの 深い伝承がみられます。 《事例》 ○メラボシは、冬に南東の方角に出る明るい星で、昔布良の漁師がたくさん海で死んだので、それがこの  星となって現れるという 〔千葉県館山市〕 ○メラボシというのは明るい星で、昔は漁の目あてになった 〔神奈川県横須賀市〕