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表層施用で微生物が働く 作物が変わる
──「土ごと発酵」の世界(その1)

米ヌカおから
そして雑草があれば、それでいい

白柳 剛 

米ヌカ+おからをウネ間に追肥する筆者(赤松富仁撮影、以下※)

 資材は、米ヌカとおからが中心。葉面・根圏微生物と作物との共生関係を活かし、雑草を積極的に生やして栽培するこの農法を、私は「微生物活用農法」とよんでいます。

 私は税理士で、農家の方々とのお付き合いは20年以上になります。しかし、近頃の作物の味が落ちてきたとか、関与先の農家一軒一軒の経営に昔以上に差が開き、こんなことでは今後の農業経営は大丈夫だろうか……とも感じていました。また、自分でも料理するので、良い食材を欲しかったことも事実です。そんなこんなで、8年くらい前からこの農法を研究して参りました。当初は、家庭菜園レベルで実験しましたが、現在は仲間と一緒に「育土会」という会をつくって実践したり、農家の方達にも広めています。

 今回、この農法が私にとって完成レベルに到達したと感じ、多くの皆様にも是非おすすめしたく、発表することにしました。

 

株元にもびっしり米ヌカ+おから。米ヌカの乳酸菌でヌカ漬け状態になっているせいか、土の表面で腐敗することはない(※)

葉面・根圏微生物が作物を守り、作物が彼らを守る

 「そんなうまい話があるか」と言われそうですが、実際にあるのです。米ヌカ・おから・雑草だけで、完全無農薬・無化学肥料で本当に美味しくて日もちする「抗酸化力の強い作物」が収獲できています。

 作物は本来、作物だけで育ち繁殖するのではなく、葉面・根圏微生物と共生して、初めて強く生長・繁殖ができるのです。葉面微生物は悪玉菌と葉面で戦ったり、根圏微生物は栄養物を作物が吸収できる可給態にしたりしています。また、葉面・根圏どちらの微生物も、生理活性物質・拮抗物質・酵素・生長ホルモン・ビタミンなどを創り出し、作物を病気に強く、生長や着果を良好にします。

 善玉菌と悪玉菌は、いつも綱引き状態で、悪玉菌が勝つと病気になり、善玉菌が勝つと病気を抑えます。ところが農薬は、両者とも殺してしまいます。農薬を散布するとかえって病気に罹りやすくなったり、害虫に犯されやすくなったりします。ワックス層、クチクラ層を傷めると、作物は自分自身を守れなくなってしまうのです。

 こうして葉面・根圏微生物は作物を守り、代わりに作物は自分の作り出した栄養分の10〜20%を彼らに分け与えているとのこと。まさに共生関係なのです。

雑草の中で育つ無農薬ミニトマト

雑草は宝物 積極的に生やす

 「上農は草を見ずして草を抜く、中農は草を見て草を抜く、下農は草を見て草を抜かず」と、昔から雑草は農業の敵とされてきました。

 しかし、この農法では積極的に草を生やします。私は、草には次の五つの働きがあると考えています。

1 天敵のすみか、繁殖の場

雑草を抜いてしまうと、天敵が困ります。

2 水分保持効果

干ばつ続きの年でも、かん水はほとんど不要。雑草自体が水を保つとともに、日光を遮って土壌からの過度の蒸散を防ぎます。

3 次作の肥料に

雑草は、いわば、太陽エネルギーで土中や空気中の栄養分を集め、固定化した存在。いい肥料となります。

4 根圏微生物の多様化

いろいろな雑草の混植効果で、多様な根圏微生物が混在。土壌の微生物相が豊かになります。連作障害や病気とも無縁に。

5 団粒構造促進

生のまま放置することで、土中微生物やミミズなどの小動物のエサに。結果として、透水性・保水性・保肥力のいい団粒構造の土ができます。

邪魔になる草だけを刈る

 作物と雑草の戦いはただ一つ。太陽の光の奪い合いです。よく、栄養分の奪い合いのことをいわれますが、これはまったく嘘だと思います。

 そこで雑草は、作物の高さ以上にならない場合はそのまま生やしておきます。大きくなりすぎる草は、刈り取ってウネ間に放置。気になる場合は、その上から米ヌカなどをまいておきます。夏作は草がどんどん大きくなるのでウネ間をモアーで刈り取り、株元の草は手で引き抜きます。その場合でも圃場全体を一気にはやらず、天敵の生活の場・繁殖場を常に確保してあげます。

 雑草は、作物の丈より伸びなければ刈らないので、丈の低い作物の場合は刈り取り間隔が短くなりますが、それでも40cmから50cm伸びてから刈るようにしています。果菜類などは、収獲が始まったら、通気性を良くするために株元だけは多少抜き取ります。

 雑草は、作物が飲み込まれない限りは、抜き取ったり刈り取ったりしないことが大切です。

株元を掘ってみると、ミミズが大量に出てきた土は団粒化している感じ。モグラの穴もあった(※)
長雨続きでも雑草の中のナスは元気(※)

耕耘はしない、 上から菌が耕してくれる

 土壌改良は、米ヌカに付着している微生物や土着の微生物、おから、雑草、作物残渣等によって行なわれます。ここで大切なことは、米ヌカに付着している善玉菌を、応援団として常に送り込んであげることです。

 耕耘も、基本的にはしません。しかし、作物残渣の処理や作業の都合上、耨耕(表面を引っ掻く程度に耕す)くらいはすることがあります。酸素の好きな微生物は上層に、酸素の嫌いな微生物は下層にと、せっかく自然に繁殖しているのに、深耕するとその微生物層が壊れてしまいます。さらに、水みちや空気道を潰してしまいます。

 「微生物活用農法」は、自然・生態系の上に成り立っています。作物は、決して弱い存在ではなく、時には雑草より強いとさえ思えます。最初に害虫が出現したら「あっ、天敵のエサが出てきたな」と私は考えます。そのまま放置しておくと天敵が増えて来て、自然と害虫は減っていきます。自然界には一人勝ちはあり得ません。なのに、そこで慌てて農薬を散布すると、天敵を殺したりして、かえって害虫が増えたりしてしまうのです。

育土会での実践より

▼米ヌカをまいてから、残渣処理

 「育土会」には今年、この農法に切り替えて一年目の畑(約10a)があるので、そこでの実践を通して「微生物活用農法」を説明していきます。

 最初は、米ヌカ300kgくらいを全面にまいて、トラクタで乗り込み、雑草をすき込むことから始めました。すき込むといっても、正確には「土とかき混ぜる」程度の耨耕です。せいぜい10cm程度の耕耘を行ないました。

▼夏作はウネ間広く、葉物は密播き

 次に、刈り取った前作の残渣や雑草が落ち着いてから、ウネ立て機でウネを作りました。夏作か冬作かでウネ間は変えます。夏作では、もうもうと繁った雑草をモアーで刈ることも多いので、機械が通れる幅以上に広くします。冬作では雑草があまり生えないので、やや狭くても大丈夫。

 ウネ立てをしたら、すぐに作付け。前作の作物残渣や雑草の葉や、茎や根っこが露出していても大丈夫です。葉物作物は、草に負けないよう密植しました。

 ちなみに、「育土会」は混作混植を常としています。作目が多いと、それだけ作物ごとにつく根圏・葉面微生物が違うので、連作障害を防ぐのに役立つとともに、土壌の微生物相の単純化を防ぎます。

▼葉にも土にもかかるように、 米ヌカ+おから追肥

 作付け後はすぐに、播いたタネの辺り、植えた苗の株元に、ひとつかみくらい米ヌカをまきました。苗の場合は葉に米ヌカがかかるように、上からもまきます。

 それからは、生長するに従って米ヌカ+おからを株元を中心に、どんどん追肥。基本的には土中に埋め込みません。肥料は上からまくのです。この場合でも、不都合がなければ積極的に葉にかかるようにまいていきます。

 おからは微生物のエサであると同時に、肥料分としての意味もあります。おからをまくと腐るのでは?という人もいますが、私の経験では腐ったことはありません。おからは水分が多いので、米ヌカと混ぜることで60〜65%くらいの水分(握って開いてつつくと多少割れる程度)に調整しておけば、まず問題はありません。混ぜる量の基本はおからと米ヌカ1:1ですが、おからの水分が多いときは1:1.5になることもあり得ます。

 米ヌカとまんべんなく混ぜれば、米ヌカにいる乳酸菌や酵母菌・バチルス菌がおからにもつくので、発酵の方向に向かいます。混ぜて二時間もすると、おからが熱くなってくるのがわかります。少し発酵が始まってからまいてもいいですし、混ぜてすぐに畑にまいても問題はありません。

 あとはどんどん収獲です。そして、追肥の米ヌカ+おからの繰り返しです。「暇なときにまく」という感じですが、三週間に一回くらい、キュウリやトマト100本当たり米袋五袋分くらいの「米ヌカ+おから」をまいています。今までの経験では、それ以外何もいりません。

▼生殖能力が高く、遅くまで収穫できる

 慣行農法とは樹の様子がまったく違い、葉が厚く若草色で、節間が短く、葉柄がピンと立ち、わき芽がどんどん出ます。仕立てるのを怠るとすぐにジャングルになってしまいます。

 葉色は決して濃くありませんし、樹勢は貧相なくらいです。しかし生殖能力は高く、大きな花がたくさんつき果実は本当にたくさんなります。なお作物が丈夫に育つため、耐寒性も強くどの作物も遅くまで収獲できています。

 「微生物活用農法」では、本当に美味しく、栄養価の高い抗酸化力の強く長持ちする作物が収獲できます。多かん水・多肥料ではまずく、日持ちのしないとろける野菜がしかできません。「育土会」は収穫した野菜を「育土創健野菜」と名付け「おすそわけ」の気持ちで出荷しています。

 「微生物活用農法」はトータルな農法です。一部分だけを取り出して真似るのではなく、理論を大事に実践してください。もちろん、どこでも指導に出かけます。

(愛知県豊橋市 白柳経営会計事務所)

 

 

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