嫌気性微生物の堆肥と好気性微生物による堆肥

生ごみは、なぜ燃やしたり、コンポスターや生ごみ処理機械で処理してはいけないのか?

 生ごみは、活かせば貴重な資源です。それを簡単に燃やせば、ごみになってしまいます。通常の燃焼もコンポスターや生ごみ処理機による完熟堆肥作りも燃焼です。

間違った常識を打破しよう!!

 土つくりには完熟堆肥を施す、というのはいまや完全な常識。同時に、未熟な有機物は作物に有害だとされている。圃場の外に積み、何度も何度も切返しをして、完熟にするのがいいのだという。さらにはフォークですくえるようでは完熟堆肥ではないという指導まであるとも聞く。実際には、厩肥や未熟な有機物を施用している例も少なくはないが、あくまでもそれは、やむをえない措置とされている。理想は完熟なのである。
 好気性微生物の活用で作成した完熟堆肥の問題点は、完熟堆肥にはエネルギーがないということである。有機物がもっていたエネルギーは、堆肥をつくる発酵の過程において発酵熱や炭酸ガス、アンモニアなどとなって大部分が消失してしまっているのである。すなわち完熟堆肥というのは、いわば燃えかすのようなものであり、有機質材料の大いなる損失をもたらしているのである。有機物をより効果的に利用しようということで、これまでにもさまざまな微生物資材が研究・普及されてきた。ところが、"好気にあらずんば菌にあらず"という間違った考えで、何度も切返しながら完熟堆肥をつくるという技術にとどまってしまっている。その結果、多大な労力のいる割には、その効果もいまいちというのが現状ではないだろうか。

 なぜ、生堆肥が危険な堆肥となってしまったか?

    
そして、農家は米糠・籾殻・稲藁の三つの宝を失った。

 昭和30年代以降、農家は稲刈りにコンバインを導入するようになりました。そして、それは堆肥つくりにも多大な悪影響を及ぼしました。
1.コンバインで稲刈りを行うということは、稲わらを刈ったついでに田圃に戻してしまうということです。
2.出稼ぎで都会に農民が出たり、農機の導入により農作業の委託も一般化するという状況になり、籾摺り、精米も農家が行うのでなく、農協などのライスセンターに委託するようになった。
3.堆肥置き場に乳酸菌や酵母、バチルス菌を多く付けた稲わらや米ぬか、作物残渣、生ごみが投入されなくなり堆肥が醗酵堆肥でなく、腐熟堆肥となってしまった。
4.その腐熟した堆肥を田畑に施用したので、そこで病気が多発した。
5.その結果、生堆肥を施用すると病気が出るということになり、堆肥は完熟でないと駄目だということに成ってしまった。


嫌気性微生物でも人間の役に立つのは多い

 有機物の分解にかかわる微生物について、好気性は善玉、嫌気性は悪玉という色分けが定着してしまったかにもみえる。しかし嫌気性微生物でも、日本酒、ビール、ワイン、味噌、醤油、酢、など、アルコール発酵によって酒をつくる酵母菌は代表的な嫌気性菌である。フランスの有名な化学者パスツールは発酵の生物学的定義として「発酵は酸素のない状態での生命活動の帰結である」とまで述べていち好気と嫌気の違いを善玉.悪玉という基準で分けることがいかに無意味であるか。ちなみに、畜産におけるサイレージの調製は嫌気性発酵を応用したものである。
なぜ、有機質肥料をそのままで使わなかったのか?
 その理由に大きく分ければ2つ有ると思います。1つは、リービッヒの無機栄養説が最近までまかりとおっていたからではないでしょうか。リービッヒの無機栄養説とは、植物は無機質の養分でなければ吸収できない、という学説です。この学説のために、有機質肥料を発酵させる場合はアンモニアまで分解させなければいけない、無機化しなければ利用できない、と考えられてきました。しかしその後、有機物が直接植物によって吸収され、そのまま代謝経路に組み込まれていくことが、研究者によって証明されました。
このことは実際の施肥の考え方を大きく変える重要な発見です。つまり、これまでは、肥料としてアンモニア態窒素を施しても、土壌中で硝酸態窒素に酸化されてから作物に吸収され、作物は吸収した硝酸態窒素を再びアンモニア態の窒素に還元したうえでアミノ酸を合成すると考えられていたわけです。ところが、作物が直接アミノ酸を吸収して、そのまま利用できるとなれば、硝酸からアミノ酸をつくる工程が必要でなくなるわけです。これまで硝酸同化のために消耗していたエネルギーが余ることになりますから、それを根群の発達や茎葉の発育に利用できるようになります。とすれば、有機物の発酵も、腐敗発酵させて無機化を図ってアンモニアをつくりだすよりも、有機物からアミノ酸をつくりだして、そのまま作物に吸収利用させる発酵を考えればよくなります。
もう1つは、未熟な堆肥だと、有害微生物が付着しているということです。とくに、嫌気性微生物は、往々にして、その全てが有害だと誤解されてきました。
 現在は、上記の2つがきちんと解明され、嫌気性微生物資材を使用すれば、楽に、確実に効く堆肥が作成できます。場合に依れば、堆肥すら作らなくとも直接資材と材料を土に漉き込むことが可能です。資材メーカーでは、直接漉き込むことを推奨しているところさえあります。
 


参考文献

「EM普及講座テキスト」 中部EM普及協会 編
「発酵肥料の作り方・使い方」 薄上 秀男 著
「EMで生ごみを活かす」 比嘉 照夫 著
「未熟微生物を生かす」 嫌気性微生物農法 嫌気性微生物研究会 編
「土着微生物を活かす」 韓国自然農業の考え方と実際 趙 漢珪 著
「ボカシ肥の作り方使い方」 農文協 編
「緑肥を使いこなす」 橋爪 健 著
「現代農業」1998年10月号 98年土肥特集 農産漁村文化協会 発行
「現代農業」1999年10月号 99年土肥特集 農産漁村文化協会 発行
「現代農業」2000年10月号 00年土肥特集 農産漁村文化協会 発行

menu ホームページへ。