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フクシマ・ゴーストタウン
―全町・全村避難で誰もいなくなった放射能汚染地帯
 












 
根津進司/著
出版元: 社会批評社 
A5判 176頁 並製
本体1500円+税
ISBN4-916117-95-3 C0036

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まえがき
 
 私は、本書のタイトルを編集部とも話しあい、あえて、「フクシマ・ゴーストタウン」として付けることにした。しかし、多くの読者は、このタイトルに違和感を覚えるかもしれない。特に、今なお放射能汚染に苦しむ被災地の人々は、不愉快な気分に陥るかもしれない。
 だが、私たちがあえてこのタイトルに拘るのは、実際の原発事故後の被災地の実状をありのままに伝えることが必要と判断したからだ。この本でリポートするのは、原発事故で被災した地域の実態である。
 私は、フクシマの原発被災地、特に警戒区域・計画的避難区域などに指定されている、11の市町村を歩いた。ほとんどが、全町・全村避難している地域だ。そこで見たのは、まったく人がいなくなった街や村だ。人だけではない。そこには、イヌやネコなどのペットも、牛やブタ、ニワトリなどの家畜もまったく見かけない。いや、鳥の鳴き声や昆虫の姿さえ、ほとんど聞こえず見なかったのは、私の錯覚なのか?
 豊かだったはずの田や畑は、耕すものがいなくなり、雑草がぼうぼうと伸び放題に生えている。避難区域になったこの地方は、本来、高原野菜や山菜、コメなどの作付けで田畑は緑豊かになっていたはずだ。ホットスポット地帯になってしまった森や林も、荒れ放題である。
 人通りがまったくなくなった街を白昼でもただひとりで歩くのは、本当に怖い。背筋に寒気さえ覚える。映画が好きな私は、かつて人類が絶滅した後のSF映画をいくつか観たことがあるが、全町・全村避難したこれらの街や村は、人類絶滅後のまさしく、「ゴーストタウン」だ。人類が制御できない原発という「怪物」をつくった政府は、まさに、「人類に対する罪」を犯しているというべきだ。
 二度とフクシマの原発被災を繰り返してはならない。原発事故後の避難地域の、本当の実状を伝えなくてはならない。そのように思い、私はあえて、政府に警戒区域として指定され、立入禁止区域(罰則あり)とされている20キロ圏内の街にも立ち入った。政府がメディアを含めて立ち入りを拒むのは、何か隠さねばならない事態が起きているにちがいないと考えたからだ。
 政府は、3月11日の原発事故後、福島第1原発のメルトダウンを含めて、事故のほとんどを押し隠してきたが、この形式的な警戒区域などの設定も、何らかの意図があると思われても仕方がない。その実態は、本文で報告する。
 3月の原発事故後、5カ月あまりが経った今日、政府や被災自治体では、避難区域設定の一部解除や避難民の帰還などか話し合われている。また、そのための汚染された放射能の除去や、汚染土の処理なども検討されている。しかし、時期尚早の避難解除は、新たな放射能汚染を拡大する。政府が避難解除を急ぐのは、避難した人々への積み重なる補償や、今後予想される膨大な賠償請求を恐れてのものとしか言いようがない。
 放射能汚染土の除去は、校庭や公園、家・道路などで一部ができたとしても、すべてにわたって除去ができるわけがない。汚染された膨大な森や田畑は、取り除きようがないのだ。そして、一部を除染したとしても、政府が最近、福島県に提案したように、それは「中間貯蔵施設」でしかなく、永久保管すべき場所はない。全国の既存の原発の廃棄物や使用済み燃料の行き場所(六ヶ所村再処理工場など)の実態をみれば、明らかだ。
 原発事故で放出され、蓄積される汚染された土や水は、なくなることはない。ある人の言葉を借りれば、「除染とは、放射性物質を消すことではない。どこかへ汚染物質を移動することだけ」なのだ。
 だがしかし、およそ10万人と言われるフクシマの原発被災で避難した人々の今後をどうするのか? 崩壊しつつある被災地域の街や村をどうするのか? 土地・田畑、家や仕事・生活をどうするのか? すでに被曝した子どもたちと、今後の彼らの被曝を防ぐためにどうするのかが、根本的に問われる。
 原発が生み出したのは、現代の「ディアスポラ」(離散)であり、「失われた土地」だ。66年前のあの戦争で、ヒロシマ・ナガサキから発せられた、「核(原発)と人類は共存できない」という叫びを、今こそ実現しなければならない。
 東日本大震災とツナミ、そしてフクシマで起こった事態は、すべての技術と専門家なるもの、そしてそれを統制するメディアと国の完全な崩壊だ。言いかえれば、これらの神話崩壊後の世界を、私たちは廃墟の中から自ら創り出さねばならない時代に入ったということである。
                                2011年8月31日
                                         根津進司
 
目  次
はじめに
第1章 フクシマ原発・警戒区域内を行く 9
  戒厳下≠フ南相馬市・小高地区には人も動物もいなかった!
 
  ●20キロ圏内のすべての道路は機動隊によって封鎖された 10
  ●復旧のメドがなく放置された常磐線の駅と線路 12
  ●小高地区へ突入、そこは人も動物もいないゴーストタウンと化していた 14
  ●地震の傷痕が至るところに残り放置されたままの住宅と道路 20
  ●急いで避難したのか畑や街に車も放置された 22
  ●無人となった常磐線・小高駅 24
  ●山も近く海も近い美しい小高地区の全景 26
  ●20キロ圏内の警戒区域指定などは果たして妥当なのか? 28
 
第2章 政府・東電が押し隠すホットスポット地帯 33
   そこは立ち入り厳禁の厳戒地域であった
 
  ●最大のホットスポット浪江町・津島―赤宇木地区は立入厳戒地域に 34
  ●ガイガーカウンターがレッドゾーンを示し続ける津島中学校グラウンド 36
  ●津島小学校グラウンドもレッドゾーン 38
  ●警戒区域・計画的避難区域に指定された浪江町 40
  ●もうひとつのホットスポット、国道399号線・いちづく坂峠 42
  ●飯舘村入口の長泥展望台もホットスポットだった 44
  ●南相馬市・鉄山ダム周辺の林もホットスポットになっていた 46
  ●避難区域内外の無数のホットスポット 48 
 
第3章 ゴーストタウン化した村や街 49
   20キロ圏外の地域に人も動物も見かけなかった
 
  ●全村避難で人影がまったくなくなった葛尾村 50  
  ●村役場をはじめ、すべて閉鎖された村の施設 52
  ●放射線量の高い葛尾村の小・中学校 58   
  ●二つに分かれた「避難区域」で全村が避難した川内村 64 
  ●モダンな造りの川内村小学校はどうなるのか?  68
  ●通りに人影もなくすべての建物が閉鎖された村 70
  ●街の一部が「警戒区域」に指定された田村市都路町 72
  ●地震・ツナミ・原発被災の中で全町避難した街・広野町 76
  ●町民たちは県内各地へ、役場はいわき市などへ移転 78
  ●広野の海岸には津波も押し寄せ橋と堤防を破壊した 82
  ●放棄された広野町の田畑には雑草が生い茂る 84
  ●超厳戒態勢下に置かれた楢葉町と国道6号線 86
  ●自衛隊の装甲車・特殊防護車も待機するJヴィレッジ 88
  
第4章「計画的避難区域」に住み続ける飯舘村の人々 93
  しかし、村は田畑も通りも荒れ果てていた
 
  ●阿武隈高地の美しい山に囲まれた飯舘牛の村 94
  ●飯舘村役場の前に設置されたガイガーカウンター 96
  ●全村避難の村に残されたお年寄りたち 98
  ●人影のない村をパトロールする「いいたて全村見守り隊」 100
  ●名産・飯舘牛の村に牛たちはいなくなったが…… 102
  ●モダンな飯舘中学校・飯樋小学校も放射線量はハイレベル 106
  ●福島市へ移転した相馬農業高校飯舘分校 108
  ●閉鎖されたままの村のドライブイン・レストラン 112
  ●畑も田んぼも雑草が生え放題となった村の風景 104
 
第5章 地震・ツナミ・原発被災の三重苦に遭った街 117
   私たちはこの人々にどう寄りそうべきなのか?
 
  ●市民が戻り盆踊りまで開かれていた南相馬市 118
  ●ツナミで破壊された南相馬市の海辺の村々 122
  ●福島一の港・松川浦漁港が壊滅した相馬市の海岸地帯 134
  ●電車も駅も街もツナミで流された新地町 148
  ●地震・ツナミ・原発の三重の被害に遭ったいわき市の海岸地帯 156
  ●道の駅・四倉漁港はツナミで壊滅した 158
  ●いわき市最大のツナミ被害に遭った久之浜地区 162
 
結語 脱原発への大きなうねりを創り出そう 170
 
凡例 本文で記述したガイガーカウンターの放射線量測定は、特別の記述をしない限り、すべて1メ
ートルの空間線量を測定した。測定にあたっては、4〜5回ほど測り、その平均値を記述した。
 なお、表紙カバー表の写真は、南相馬市小高地区の駅前通りである。また、表紙カバー裏の写真は、
常磐線小高駅近くの線路であり、小高駅前の風景である。本文の写真を含むすべての撮影は筆者。
 
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