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凍てつく閉鎖病棟
―青年精神科医の見たその現実
 


       
      
          

 
定塚 甫/著
出版元: 社会批評社 四六判 238頁 並製
本体1600円+税
ISBN978-4-916117-82-3 C0036

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はじめに
 
 ここに書かれていることは、全てが真実である。
 一人の若き精神科医が、医師として初めて体験した日々の記録である。ここに記載されている内容は、この青年精神科医の日記をもとに書かれている。出てくる人たちは、全てが実在の人たちであり、一切のフィクションは記載されていない。
 この本は、日本の精神医療の歴史にあって、人間として扱われなかった人たちの証言である。彼らは、如何なる罪を犯したわけでもなく、社会に対して如何なる反抗も行ったことがなかった。それにも拘わらず、彼らは、理不尽な個人の勝手と社会の力により、鉄格子の中に閉じ込められていた。
 数十年を経た今日、ある人たちは、既に鉄格子に囲まれた小さな部屋で他界しているだろう。青年であった生きている人たちは、やはり同じところで老人となっているだろう。
 これらの人たちは、現在こそ閉鎖された中での生活を送っているが、ほとんどの人たちは、ほんの短期間、鉄格子のない、外での自然に触れる生活をしていたことがあった。このような体験があるばかりに、彼らは、より悲愴な想いに陥っており、いつも自由で、幸せで、人間らしい生活があったことを想い起こしている。彼がここで紹介している人たちは、今もなお、精神科施設に収容されている。
 彼は、ありったけの力で、これらの人たちの援助を試みたのである。しかし、最終的には、失敗に終わった。なぜなら、彼の考えに頑強に抵抗する人たちがいたからである。改革するには、国家という勢力は余りにも強力であった。
 彼は、「精神障害者たちに自由を」と主張しながらも、この社会的実現から逃げ出したことを、心から詫びたいと思っている。しかし、彼の望むのは、この問題の困難さの現実のなかで、なおかつ、この悲惨な現状に打ち勝つだろうということである。
 この10年の間は、少なくとも精神障害者には静かな期間であったのだが、今もなお日本では、彼の試みた目標としたレベルには達していないようだ。
 一人でも多くの人たちがこの本を読まれ、日本は、「精神障害者については、発達途上国である」ことを、知っていただきたい。
注 本書は、2006年1月発行の拙著『私たちも人間として見てほしい』[日本文学館刊]を、ドラマの脚本として読まれるべく書き直されたものである。
                                      著 者
 
 
目  次
 
はじめに―――――――2
 
第1章 精神科医への道―――――――11
 
 
   明日への再出発  11
   悲愴な生い立ち  12
   「何で生まれてきたのよ?」 17
   父の死で医学の道へ  20
   貧乏な∴繩w生  21
   検診医のバイト  25
   安保闘争の時代  27
   カルチャー・ショック  30
 
第2章 鉄格子で囲まれた閉鎖病棟―――――――33
 
   地域の精神病院への赴任  33
   無表情の患者たち  36
   外出してはしゃぐ患者たち  38
   「お百姓さんの手伝いをしよう!」 42
   無用な拘束禁止を命令  44
   若き精神科医のもがき  46
   監視と管理が業務!  50
   気づいたら 50年も入院  54
   初恋を想い起す  57
   「宇宙」からの声を聞くのりちゃん 60
 
第3章 閉鎖病棟から開放病棟へ―――――――63
 
 
   電気ショック療法  63
   病院の中の見知らぬ世界  68
   患者に暴力をふるうな!  70
   金品を巻き上げる看護師たち  72
   患者による、患者のための喫茶店  76
   病院でのビールパーティー  79
 
第4章 変革された精神医療―――――――85
 
 
   閉ざされた世界で  85
   飴1個の「作業療法」 87
   治療としての地域との交流  91
   何十年ぶりの買い物  95
   患者たちのレクレーション  99
   精神障害者の人権運動の始まり  101
   街へ出勤する患者たち  104
   患者と職員のバンド誕生  107
   「働く理由がない!」 112
   金魚が飼える病室のために  117
   病院の中で会社設立  119 
 
第5章 病棟の中の悲惨な事件―――――――123
 
   外出中の行方不明  123
   ストリートガールに戻った患者  125
   アルコール依存症患者の死  129
   「尻電」事件  133
   芸術療法を行う「若き秀才医師」 137
   化粧品泥棒の正体  141
   天女の舞を最後に自死  143
   人間性を奪う保護室  146
   手首から先をつなぐ手術  153 
 
第6章 解き放たれた精神障害者たち―――――――159
 
 
   職員のための年中行事!  159
   初めての初詣  160
   踊り出した野外コンサート  165
   地域住民参加の夏祭り  171
   「開放病院宣言」をした運動会  176
   翌朝まで踊ったクリスマス  179
   「国際障害者年」の転換  184
 
第7章 病棟での患者の恋愛と結婚―――――――187
 
 
   恋愛を禁止すべきか?  187
   1階と2階の恋  190
   初の結婚披露宴  194
   出産の解禁  200
   子供との生活の始まり  206
   保護室で作られる患者  208
   作業療法か? 労働報酬か?  211
   「冬の季節」へ  216
   元職員たちの破壊工作  217
   二人の再入院と破綻  219
 
第8章 再び閉ざされた病棟―――――――223
 
   一つの事件の影響  223
   新しく作られた鉄格子  225
   行政官僚の従順な下僕となった院長  228
   それからの患者たち  232 
   新たな旅立ち  235
 
おわりに―――――――237