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たたかう! 社会科教師
―戦争の真実を教えたらクビなのか?
 














 
増田都子/著
出版元: 社会批評社 
四六判 249頁 並製
本体1800円+税
ISBN978-4-916117-77-9 C0036

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推薦文
   人間性回復のための戦い
                                    辻井 喬
 
 教育の現場が崩壊している。その一番の原因は指導者になる資格のない人間が、イメージ操作とか、優越的地位を悪用した偽の恩恵バラマキによって責任ある地位を占拠しているからである。勿論、それを許してしまった民主主義者の側にも責任はある。
 しかし正義と基本的人権が侵されている時、まずはそれを回復することが先決である。
 増田さんの戦いは今孤立しているように見えるが、それは事実ではない。本質的には圧倒的な多数派である。しかしそれはまだ表立った意見にはなっていない。私たちは、声なき声を聴く力を強めるために事実を知ること、正しい主張にも論理性と同時に思想の美しさを知らせる方途を持たなければならない。
 この本はそういった点でもこれからの、主権在民と平和のために戦う人たちにとっての教訓に満ちている。
 本書を読んだ人々が、記述の底を流れている「敵を味方にするという人間の最も美しい力」を発見する時、はじめて教育は人間性を回復し、教育現場は強制ではない倫理性・人間性を基礎にした秩序を回復するに違いない。
                       (つじい たかし 作家・詩人)
 
 
 刊行によせて
   都教委・獅子身中の虫
                                    鎌田 慧
 
 わたしは、この本の著者である増田都子さんを、「女東堂(とうどう)」と秘かに呼んで畏怖している。いうまでもなく、「東堂」は大西巨人の大ロングセラー『神聖喜劇』の主人公・東堂太郎のことである。彼は戦時中、朝鮮海峡に面して、全島要塞化されていた対馬・鶏知(けち)町にあった砲兵隊に補充兵として召集され、その隊内にあって帝国陸軍の兵卒として、暴力とともに教育馴致しようとする軍隊内権力にたいして、知力を尽くして抵抗する。その抵抗の魂が、増田さんの孤軍奮闘を想起させるのである。
 東堂太郎の武器は、「軍隊内務書」である。わたしたち軍隊未体験のものは、軍隊を超法規の無法地帯と思いこんでいる。横に並ばせてはり倒す鉄拳制裁は、戦後の学校にまで持ち込まれた「愛の鞭」だが、そのような軍隊の「真空地帯」ぶりは、隙あらばでてくる、軍隊的規律をもとめるノスタルジーとして、隊外に流れだしていた。ベトナムを侵略した米軍の新人教育もまた、映画『プラトーン』に描かれたような、理屈抜きの暴力による教育訓練だったようだ。
 ところが、東堂太郎は、軍みずからが制定した「軍隊内務書」に依拠して、その法治主義と成文法主義の徹底を追及しようとする。「規則」を逸脱する「命令」にたいする不服従の領域をつくりあげようとする。彼の強靱さは、まず「軍人が睾丸を袴下の左側に入れるというのは、なぜでありますか」との上司にたいする質問からはじまる。
 「被服手入保存法」の一節に、「睾丸ハ左方ニ容ルルヲ可トス」とあることについての質問である。この珍妙な質問に激怒した大前田軍曹(班長、この小説での「悪役」)は、東堂を呼びつけて平手打ち2発を食らわすが、それ以上の暴力は振るうことはできない。無学な庶民としての大前田にとっても、法治主義を無碍に否定しきることはできない。むしろ、「学校出」の連中の方が、俗悪無法である。
 果たして、自分の抵抗は「ゴマメの歯軋り」なのかどうか、と東堂自身も悩んでいるのだが、日本帝国陸軍のまっただなかにいて、その軍隊の粗暴な下級幹部の「命令」にたいして、「規則」を盾に敢然と対峙する心意気は、わが増田都子を彷彿とさせてやまない。
 
 増田さんの抵抗の記録としては、先に足立十六中学校での平和教育を弾圧した、土屋たかゆき、古賀俊昭、田代ひろしら都議3人組との闘争を描いた『教育を破壊するのは誰だ!』(社会評論社)がある。これによって、わたしは彼女の敢闘精神と記録精神に感嘆させられたのだが、その教員としての熱意と独創性とすぐれた資質は、10年前に出版されていた『中学生マジに近現代史』(ふきのとう書房)にみごとにあらわれている。
 彼女が教室で実践してきた、日本の戦争責任と平和についての考えを深める教育の成果は、この本に引用されている子どもたちの文章にもよくあらわされている。そして一方の、都教委の指導主事など、教育を取り締まる連中や大騒ぎして彼女の分限免職をしかけた3都議の醜悪さも明らかにされている。
 この本は、「ふたたび教え子を戦場に送らない」とする、戦後日本の教師の誓いを、いまなお身体を挺して実践している教員の未来にむけた記録であり、東堂太郎のように、法律や規則によって法治主義を徹底させようとした果敢な闘争記録であり、かつて「伏魔殿」と呼ばれるほどに利権王国だった東京都が、いまや平和と人権教育殺しの最先端と成り果てた、石原都政の教育現場からの暴露である。
 都の教育委員会は、教員の査定(考課)や「主幹」制度の導入、職員会議の空洞化、日の丸・君が代処分などを乱発し、日本のフアッシズム化の元凶となっている。その連中からもっとも憎まれていたからこその、増田攻撃だったのだ。
 たったひとり、石原強権都政とむかいあった増田さんの闘争は、充分に理に適っていて、ドタバタ都議たちなど歯が立つものではなかった。彼らは名誉毀損で訴えられて罰金を支払い、「増田東堂」は都教委全体と対等に渡りあってきた。理は彼女にあったからだ。
 ついに暴力的な排除としての、八つ当たり「免職処分」をだすしかなかった都教委は、その時点ですでに敗北していた。いま進行中の取り消し裁判闘争によって、法的な決着をつけられるのは明らかだ。それは冷静な判断を欠いた帝国陸軍が、民衆を巻き添えにして自滅したように、石原都政とそのアナクロ教育体制にしがみついている連中の敗北のときであり、その権力体制が解体されるときである。
                       (かまた さとし ルポライター)
  
     
 
 目  次
 
推薦文
刊行によせて  
第1章「平和教育」を行ってなぜ分限免職か 1
 
  ポストに「分限免職」の紙 2
  分限免職とは? 4
  研修センターとは? 指導主事とは? 6
  教育を破壊する「悪の枢軸」=「茶色の朝」 9
  一母親が起こした「足立十六中事件」 12
  都教組(全教)は所属組合員を売った 16
  困った「人権派」弁護士 19
  右翼都議・産経新聞・都教委などの総攻撃 22
  都教委の不法行為は裁判で認定 25
  裁判官の資質は? 26
  第2次攻撃としての免職処分  29
  扶桑社も扶桑社教科書を「右寄り過ぎ」と 32
  不適格都知事下の不適格教育委員会 33
 
第2章 処分対象とされた社会科「紙上討論」 37
     
 「紙上討論」の実際 38
  3・1のノ・ムヒョン演説全文を紹介 52
  処分対象となった紙上討論 57
  ノ・ムヒョン大統領への手紙 80
  皇国史観の保護者が都教委に密告 84
  校長・副校長の公務を妨害した千代田区教委 89
  都教委の下僕・千代田区教委指導課長 90
  校長に強要して「事故報告書」 92
  産経新聞の著作権法違反 95
  新聞記者から「処分」の通知 96
  授業を剥奪、懲罰研修 98
  同僚の8割が「研修取り消し」請求署名 100
 
第3章 教職員研修センターという名の「強制収容所」 103
 
 「研修」が必要なのは誰か? 104
 「指導」主事の知的レベル 107
  生徒からのメールに涙 110
  生徒への返信 112
  2週間後に分かった「研修」内容 114
  都教委によるイヤガラセ懲罰研修 116
 「テープ録音による証拠保全」がイヤ? 119
  トイレに行く時間まで「監視日誌」に 125
 「トイレ監視」への抗議文にさらなる脅迫 129
  背面監視日誌の撮影に成功 131
 
第4章「懲罰研修」による教員の思想統制 135
 
  インターネットで公開したら脅迫 136
  正しい批判を「間違っていた」 137
  侵略の生々しい実態は教えるな! 140
  笑える「課題」レポート 148
 「扶桑社教科書が大好き」の都教委 152
  誰が誹謗中傷をしているのか? 156
  教頭は教諭の上司ではない! 160
  戦争の加害責任を教えるな! 163
  異動内示直後の懲戒免職 167
  生徒の手紙やメール 169
 「紙上討論」で社会科が好きになった 175
 「免職処分」を知った生徒からのメール 181
 
第5章 海外の人々の反応 183
 
  日本の報道と海外の報道の違い 184
  人民日報の報道 185
  ハンギョレ新聞の報道 190
  韓国のテレビ報道 193
  米国新聞の報道 197
  韓国KBSテレビ・SBSテレビ、相次ぎ放映 202
  英国『CH4』の報道 205
  韓国・釜山の市民・教員達の前で講演  207
  ノ・ムヒョン大統領からのメッセージ 213
 
第6章 都教委は「免職処分」を取り消せ 217
 
  裁判の現状と争点 218
  原告増田の陳述 220
  中学生には「理解能力がない!」 223
  米国のラッソー事件判決 225
  森正孝氏の意見書 227
  歴史の歯車を逆転させようとするのか 240
  平和教育への誇り 243
 
あとがき 245
 
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