書籍検索:紹介 |
|
特攻兵器 蛟龍艇長の物語
―玉音放送下の特殊潜航艇出撃
|
|
宗像 基著/
堀口洋子[聞き書き]
出版元: 社会批評社
四六判 204頁 並製
本体1600円+税
ISBN978-4-916117-75-5 C0036
注文はこちらで
|
はじめに
特攻という言葉から、人が思い浮かべるものは何だろう。
零戦、急降下して敵艦に体当たりするカミカゼ、真珠湾攻撃、白いマフラーの特攻隊員……。
人間そのものを兵器にするという、世界に類を見ない戦法は、常軌を逸していた。それを軍神と称え、「進め一億火の玉だ!」と煽っていた時代があった。
特攻は零戦の体当たりだけではなかった。人間魚雷「回天」は、映画『出口のない海』で知った人も多いだろう。しかし、特殊潜航艇という「特攻兵器」があったことは、あまり知られていない。真珠湾攻撃のとき、初めて使われ、乗員10名のうち9名が戦死し、当時は「9軍神」として大々的なキャンペーンが繰り広げられた。
私はその特殊潜航艇の艇長を務めていた。生きて還れるとは思っていなかった。それどころか、「クリスチャンこそ、忠良なる臣民でなければならない」「立派なクリスチャン軍人として戦おう」と、大真面目に考えていたのである。私が生きて還れたのは、「悪運」が強かったからだ。戦争では生きて還るのも死ぬのも、紙一重だ。
私は旧植民地の台湾で生まれ、アジア太平洋戦争の開戦1週間前に16歳で海軍兵学校に入校した。そして、1944年3月、この戦争の敗勢情勢の中で兵学校を卒業し、巡洋艦の乗組員を経て特殊潜航艇の搭乗員となった。
私たちの海軍兵学校第73期卒業生は898名であったが、そのうち283名が「戦没者」となった。およそ3分の1が戦争で亡くなったわけである。年はみんな20〜21歳であり、もっとも悲惨な運命に弄ばれた青年たちであった。
私が教会員の人たちから一番よく聞かれるのは、「あなたは、なんで特攻隊から牧師になったのか」というものだ。その答えは一言では言い尽くせない。
この齢80を超えた男の話を、若い人々、子どもたちに、ぜひとも聞いていただきたい。日本が再び戦争を起こさないために。世界から戦争をなくすために。
2007年7月20日
宗像 基
はじめに
第1章 戦時下植民地の台湾 13
クリスチャンの父 14
「ヤソ!」と差別されたクリスチャン 15
軍隊へ召集された3人の兄 17
レッドパージを受けた長兄 20
立派な「クリスチャン軍人」の道へ 22
クリスチャンと神社・天皇 25
差別された台湾人と台湾生まれ 28
戦時下の台湾 31
海軍兵学校への合格通知 33
第2章 アジア太平洋戦争下の海軍兵学校 35
開戦1週間前の入校式 36
あこがれの短剣 37
早飯、早糞、早支度 41
1人のドジで連帯責任 42
海軍式精神教育 44
天皇への忠誠心 47
海軍名物の飛び込み 49
ケツにタコができるカッター訓練 50
兵学校の楽しみ 53
待ち遠しい酒保と休暇 55
同じ釜のメシを食う仲 57
食糧の豊富な兵学校 59
楽しみは倶楽部で大食 60
兵学校名物の鉄拳制裁 64
スマートな海軍 66
エリート意識の兵学校出身者 68
海軍とクリスチャン 70
英語教育を守った井上校長 71
祀られた「9軍神」 73
高松宮臨席で卒業式 75
天皇への拝謁 77
第5艦隊の乗組員 78
第3章 特攻兵器・特殊潜航艇の艇長 81
特攻兵器「蛟龍」の基地 82
特殊潜航艇の訓練 84
海底105メートルの底で 87
助けた部下からの手紙 88
難しい潜航艇の指揮 89
甲標的・蛟龍 91
人を兵器にした海軍 94
ある予備学生の事故死 97
事故が続出した潜航艇 101
海軍中尉への任官 103
人間魚雷・回天との訓練 105
死への囚われ 108
潜航艇の実戦配備 109
軍港・呉の大空襲 113
ピカッと光った原爆投下 115
玉音放送の中での出撃 117
船とともに死す艦長 119
第4章 特攻として逝った若き同期生たち 123
立ち直れるのか? 124
特攻攻撃での戦死者 125
回天・神風特攻での戦死 127
敗戦後「自決」「事故」での死 130
特攻兵器とは何だったのか? 131
日本軍はなぜ敗れたのか? 135
復員船の航海長 137
米軍の連絡将校に 140
公職追放で職を転々 142
奈落の底から教会へ 144
神学校での牧師への道 146
家も仕事も失った父 148
呉平安教会の「偉人」 151
新米牧師の最初の赴任 152
平和の都・ヒロシマへ 153
第5章 平和と宣教への旅立ち 155
ブラジルへの船出 156
貧窮したブラジルの生活 159
軍政批判で逮捕された息子 161
ノンビリした軍事裁判所 164
酒巻少尉との出会い 165
帰国後、広島で平和運動 168
私の宗教観 170
平和への使命 172
参考資料・海軍兵学校関係 175
●凡例 写真は毎日新聞社提供を「毎日」、米軍撮影のものを「米軍」と表記。表記していない写真・イ ラストは、著者及び社会批評社編集部提供。表紙は、1945年「長崎造船所」で建造中の甲標的・蛟 龍(「米軍」撮影)。