|
書籍検索:紹介 |
|
ネコでもわかる? 有事法制
―イヌでもわかります!
|
|
小西誠・きさらぎやよい/編著
出版元: 社会批評社
四六判240頁 並製
1600円+税
ISBN4-916117-52-2 C0036
|
|
目 次
はじめに 7
PART1 還らなかった動物たち 11
●かつて、ネコ、イヌ、ウマ、ハトも有事に動員された!
撲殺されたイヌたち 12
連絡・ゲリラに使われたイヌ 19
ネコ・ウサギの毛皮も徴発 22
一頭も還ってこなかった「軍馬」 26
「物言わぬ戦士」たちの最後 30
ハトは平和の象徴ではなかった 35
戦時下の上野動物園 38
最後は餓死させられたゾウ 42
ゾウを守り抜いた園長さん46
PART2 戦時基本法 武力攻撃事態対処法案の徹底批判 51
●そして今、疎開や価格統制・配給が実施される!
「戦死者」の火葬・埋葬 52
甦った「捕虜」という言葉 55
「一木一草」を動員する有事態勢 58
偶発的事件にも武力攻撃発動! 61
武力攻撃事態という奇妙な概念 64
武力攻撃事態と周辺事態 70
対処基本方針の国会による承認 72
当初から日米共同作戦を想定 79
武力攻撃事態対策本部の設置 81
自治体の「責務」という強制 86
民間企業の動員と報道統制 88
国民の協力は義務か? 90
国民の自由と権利の制限 93
PART3 国民を総動員する自衛隊法改定案・国民保護法制 97
●そしてまた、ヒトもモノも戦争に動員される!
現行自衛隊法の有事規定 98
強制力(罰則)を伴う保管命令 102
従事命令=徴用される労働者 105
有事に西日本全域に全軍が終結 110
家も土地も「使用」される! 113
出動待機命令下の防御陣地構築 117
戦闘下では超法規的行動を行うのか? 121
国民保護法制とは 125
保管・従事命令への罰則 127
PART4 初めて公開する自衛隊内の有事下の総動員規定 131
●自衛隊の教科書は、現地調達・国家総動員・交通の統制を謳う!
「現地調達」を掲げる自衛隊教範132
有事の「国家兵站」を規定する教範 136
国家総力戦を規定する教範 139
交通(輸送)の統制 142
有事下の道路使用の統制 145
各国鉄支社内に輸送統制隊分遣隊! 148
船舶・航空の統制と輸送 151
敵・味方の戦死者の処理 154
防衛出動下の戦争法規の適用 159
自衛隊の捕虜の処置とジュネーヴ条約 163
軍事郵便制度の設置 166
三矢研究は活きているのか? 170
PART5 戦後憲法体系を全面否定する有事法制 175
●有事法制を阻む論理と倫理
憲法第九条を全面否定する有事法制 176
憲法体系の停止を宣言する有事法制 179
良心的軍事・戦争の拒否 181
非武装国家の論理 186
「戦争の輸出」を行うブッシュ政権 189
北朝鮮脅威論の虚構193
命どぅ宝―あとがきにかえて 197
資料 有事法制関連三法案 201
●武力攻撃事態対処法案 202
●自衛隊法改定案 215
●安全保障会議設置法改定案 236
本文・表紙イラスト 葉瀬りぼん 装 丁 佐藤 俊男
写真提供 毎日新聞社ほか
はじめに
テレビドラマ「はぐれ刑事純情派」は、息の長い人気番組。主人公の刑事は、現実にはまずいないような、純朴な男である。通いつめている小料理屋の女将に、いまだにアタックできないでいる。お互い独身なんだから、なんでモタモタ、とはこちらの勝手な言い分だが、この主人公を演じているのが、藤田まこと。まことに役にはまっている。
この藤田さんがあのような思いを抱えていた人だとは、先日の新聞を読むまでは知らなかった。
夏ごとに、新聞は「あの戦争」についての特集を組む。八月二九日付『朝日新聞』の「八月の空に」もそのひとつだった。読者の投稿で構成されているのだが、「反有事法語る俳優藤田さん」の見出しが目に飛び込んできた。七三歳の方からのものだった。
藤田さんは、公演の中の歌謡ショーで、二、三曲歌ってから観客に語りかけた。「小泉さんは嫌いではないが、有事立法にはどうしても納得がいきません」と。
彼は古いハガキを手にしていた。敗戦一年前の八月四日付の、お兄さんからの最後のハガキだった。その数日後、船で沖縄に向かう途中に撃沈され、帰らぬ人になったという。
お兄さんは、どんな気持ちでハガキをしたためたろう。検閲され、軍事郵便で届けられるそれを。兄の死を知らされたときの、藤田少年の悲しみはどれほどであったろう。
藤田さんは切々と訴えた。「いま、アメリカがイラクを攻撃しようとしています。もし、戦争になったら、また自衛隊を海外派兵するでしょう」。
「はぐれ刑事」は、このような悲しみ、思いを胸に秘めた俳優の演技だった。
戦争中、戦地には多くの芸能人が慰問に行った。吉本興業は率先して協力し、「笑わし隊」を組織して派遣した。「笑い」までもが「お国のため」に、戦意高揚のために使われたのである。
しかし、兵士たちは心の底から笑えただろうか。殺し、殺される戦地での笑いは切那的なものでしかない。真の笑いは、平和の中にしか存在しない。
藤田さんは、戦後、コメディアンとして活躍していた。白木みのるさんと「てなもんや三度笠」で茶の間をわかせていたことを、覚えている人は多いだろう。あれは、人々に心からの笑いを取り戻してほしいとの願いをこめた芝居だったのだろうか。白黒テレビの「てなもんや」は、今でも鮮やかに思い出せる。
秋風がたつようになってからも、新聞の投稿には戦争についてのものが多い。しかし、それは過去を語るのみでなく、現在の、そして近づきつつある戦争への恐れに満ちた声である。
八月三一日付『朝日新聞』に掲載された「戦争しないと胸を張れるか」はその一つだ。
投稿者は三四歳の女性。六歳の息子を、上野動物園に連れていった時のことが綴られている。
去年『かわいそうな ぞう』の絵本を読んでもらったその子は、「ゾウさんのお墓に行きたい」と言った。戦争の犠牲になったゾウたちが、動物園のお墓に眠っていると書かれていたのを覚えていたのだ。彼は動物園の象舎の裏手にひっそりとあった動物たちの慰霊碑の前で手を合わせ、「もう大丈夫だよ」と話しかけた。
投稿は、こう結ばれている。
「もう戦争はないよと伝えたということです。『きっと平和になってよかったねって言ってるよ。ゾウさんの一番うれしいことだよ』と私は答えました。答えながら心にはスッキリしないものが残りました。『日本はもう戦争しないよ』と、今、子どもたちや犠牲になった動物たちに胸を張れる日本なのだろうか、と。
雲行きが怪しくなってきた日本。ゾウたちの叫びと願いに耳を傾けようと、私も息子と共に静かに手を合わせました」
『かわいそうな ぞう』は、金の星社から出版されている、一九七〇年初版のロングセラーである。