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自衛隊の島嶼戦争
―資料集・陸自「教範」で読むその作戦









 

小西 誠/編著
出版元: 社会批評社 
A5判352頁 並製
本体2800円+税
ISBN978-4-907127-23-7 C0036



 
目   次
●はじめに 「東シナ海戦争」を誘発する
              自衛隊の南西シフト下の「島嶼防衛」態勢 4
●資料解説
 情報公開請求で捉えた陸自教範で記述される「島嶼防衛」戦            10
 
●情報公開法で捉えた「島嶼防衛戦」資料
 陸自最高教範『野外令』の「離島の作戦」            陸上幕僚監部  18
 陸自教範『離島の作戦』                     陸上幕僚監部 37
 陸自教範『地対艦ミサイル連隊』                陸上幕僚監部 153
 自衛隊の機動展開能力向上に係る調査研究」           統合幕僚監部 296
 日米の『動的防衛協力』について」         防衛政策局日米防衛協力課 332
 日米の動的防衛協力について」別紙1         統合幕僚監部防衛計画部 340
 「沖縄本島における恒常的な共同使用に係わる陸上部隊の配置」                              別紙2 統合幕僚監部防衛計画部    345
 
はじめに
  「東シナ海戦争」を誘発する
      自衛隊の南西シフト下の「島嶼防衛」態勢
  
 正確な判断が必要な「戦争の危機」
 2017年の4月以降、政府・メディアは、凄まじい勢いで朝鮮半島での戦争危機を煽っている。全国においても、地域や子どもたちを巻き込んだ「ミサイル避難訓練」まで始まった。この狙いは、まさしく国民全体に「戦争の恐怖」を植え付け、実際の「戦争動員態勢」を作り出すことにあることは明らかである。
 
 しかし、今にでも朝鮮半島での戦争が起こるかのような日本の風景と比較して、韓国は冷静だ。なぜなら、朝鮮半島での全面戦争は、朝鮮(北朝鮮)の崩壊だけでなく韓国の全面崩壊さえ引き起こすからだ。
 
 現実に、朝鮮は、弾道ミサイルなど使うまでもなく、その通常砲弾はソウルに届き、短距離・中距離ミサイルは、韓国南部に配置・稼働する25基の原発を破壊できる。つまり、もはや韓国国内では(日本も同様だが)、戦争は不可能になっている。言い換えると、朝鮮は「韓国を人質」にしているからこそ、アメリカを相手にして、瀬戸際政策を進めることが出来るし(要求は米朝の平和条約締結)、アメリカもまた、この事態を認識しているからこそ、同様な瀬戸際政策(砲艦外交)を行っているのだ。
 
 したがって、朝鮮半島では、2010年に見られた一定の軍事衝突はあり得るが、全面戦争はあり得ない。この正確な状況認識なしに、いたずらに朝鮮半島での戦争の危機を煽るのは、安倍政権の戦争態勢に組み込まれることになるだけだ。歴史は、いずれの支配者も「戦争の危機」を叫びながら、民衆をそれに動員していく。
 
 南西重視戦略下の約1・5万人の事前配備
 さて、メディアが煽る「朝鮮半島の戦争危機」とは異なり、実は本当の戦争の危機が、ヒタヒタと迫っていることをほとんどの国民が知らない。その本当の危機は、「東シナ海戦争」(東中国海、便宜上記述)にある。
 
 新聞もテレビも、ほとんど報じない、この「東シナ海戦争」の危機とは、「尖閣戦争」ではない。それは、これから述べる自衛隊の軍事力配置で一見明らかだ。同様に、この軍事力配置を見れば、自衛隊の「戦略目標」が朝鮮半島ではないことも一見して明白だ。
 
 現在、自衛隊では南西シフト(南西重視戦略)と呼ばれる、与那国島・石垣島・宮古島・沖縄本島・奄美大島・馬毛島・九州への新配備が、急ピッチで進行している。
 
 その態勢は、与那国島に陸自の沿岸監視隊・空自の移動警戒隊、合わせて約200人、石垣島に対艦・対空ミサイル部隊・警備部隊約600人、宮古島に対艦・対空ミサイル部隊とその司令部、警備部隊合わせて約800人、奄美大島に対艦・対空ミサイル部隊、警備部隊、移動警戒隊合わせて約600人などの、当面の部隊として合計約2200人の新配備が始まっている。
 
 これに、佐世保の水陸機動団約3千人(+オスプレイ17機+ 水陸両用戦車52両)と沖縄本島の増強部隊約2千人が加わり、現沖縄配備部隊(現在8050人)と合わせると約1・5万人強の南西諸島への事前配置という大部隊だ(種子島近海にある馬毛島に、南西投入のための「事前集積拠点」としての海空基地設置が決定)。
 
 この南西シフト下の新配備は、与那国島では2016年3月に完了し、奄美大島では、2016年から駐屯地の整地工事が大々的に始まり、宮古島では、2017年冬以後にも駐屯地工事着工が予定され、石垣島では、駐屯地建設予定地が2017年5月に発表されている(同島の平得大俣地区など)
 
 そして、この急ピッチで始まっている自衛隊配備・工事に対して、現地の島人たちの必死の孤立した闘いが始まっている。間違いなく、この先島諸島などの闘いは、辺野古・高江を上回る闘いに発展するだろうし、そのようにせねばならない。
 
 さて、これら自衛隊新配備の目的は何か? 産経新聞などでは「尖閣対処」として危機を煽るのだが、実際はその軍事力の配置で分かるがそれとは全く異なる。「尖閣」は、国民を煽動するには好都合というだけだ。現実に尖閣危機が生じたのは、2012年の日本政府による同島の国有化後である。しかし、これら自衛隊の先島などの配備構想は、それ以前の2000年から始まり(陸自教範『野外令』改定による「離島防衛の策定」)、2004年の防衛計画大綱などで「島嶼防衛戦」として公表され、その直後からは島嶼防衛演習「ヤマサクラ」などの日米共同演習が、毎年のように繰り返されている。
 
 琉球列島弧を「万里の長城」に例える
 地図では一見明らかだが、先島から沖縄を経て九州南部に至る琉球列島弧―このちようど中国大陸の大陸棚にかかる線を、米軍と自衛隊は(中国も)「第1列島線」と呼んでいる。つまり、先島から九州に至る、この琉球列島線へ沿った自衛隊の新配備の目的は、大隅海峡・宮古海峡などで中国側を東シナ海に封じ込める海峡阻止作戦(軍事的には通峡阻止作戦)だ。アメリカでは、この列島線を「天然の要塞」「万里の長城」(米海軍大学トシ・ヨシハラ教授)と見立てて、中国軍だけでなく同国の民間商船をも封じ込めるとしている。
 
 この目的のために、与那国・石垣・宮古島・沖縄本島・奄美への、琉球列島弧に沿って陸自の対艦・対空ミサイル部隊を主力とする部隊が配置される(沖縄本島は既配備)。要するに、ミサイル部隊をこの琉球列島線にズラリと並べて、中国軍への海峡阻止・封鎖作戦を行う、中国を東シナ海内へ封鎖するということだ。同時に、世界NO.1という海自の機雷をこの琉球列島線の全ての海峡にばらまき、米海軍に次ぐ世界NO.2と言われる、海自の潜水艦隊・イージス、対潜哨戒機部隊が、中国軍を大陸棚の内外で待ち構える、というわけだ。
 
 ただ、ご覧の通り、琉球列島弧―第1列島線の南端には、フィリピンのバシー海峡があり、ここも中国の太平洋への通路になっており、したがって、フィリピンの獲得を巡る、日米と中国の攻防が激しくなっている。現在の南シナ海を巡る攻防も、この中国の経済・貿易ルートの封鎖のための争いである。
 
 というのは、すでにアメリカは、2010年からマラッカ海峡封鎖を目的とする沿岸戦闘艦の配備(シンガポール、チャンギ軍港)を開始し、渡洋能力のない中国軍への、この海峡での封鎖態勢をつくり出している。これが、米軍の最近発表された、エア・シーバトルに替わるオフショア・コントロールという戦略だ。つまり、中国を経済的・政治的・軍事的に、東シナ海の中国沿岸に封じ込めるという戦略である。
 
 このように見てくると、多くの人々はかつて似たような戦略を耳にしたことがあるだろう。冷戦下での、旧ソ連を封じ込める「三海峡防衛論」「日本列島不沈空母論」だ。この冷戦下の対ソ抑止戦略を、そのまま当てはめたのが中国脅威論=対中抑止戦略に基づく、琉球列島弧の海峡封鎖作戦であり、島嶼防衛戦争である(北方シフトから南西シフトへ)。
 
 対ソ抑止戦略下の三海峡防衛論との比較
 この対ソ抑止戦略下の「三海峡防衛論」では、三海峡を封鎖する自衛隊に対し、旧ソ連は海峡突破のため、北海道の一部占領を狙うとしたが、同様に琉球列島弧の海峡封鎖作戦でも、自衛隊は敵の「先島諸島占領」を想定する。琉球列島弧―東シナ海に封じ込められた中国が、先島などに配備された「ミサイル部隊を無力化」するために、海峡突破作戦―上陸作戦を敢行するというのだ。
 
 そして、かかる中国側の上陸作戦に対し自衛隊は、先述の事前配備部隊に加えて、緊急増援部隊3個機動師団・4個機動旅団(約4万人)の新編成を決定(新中期防衛力整備計画)、すでにその編成が始まっている
 
 だが、自衛隊制服組によるアジア太平洋戦争下の島嶼防衛戦―サイパン、テニアン、沖縄などの研究によっても、また現実的にも「島嶼の防衛」は実際は不可能とされている。その原因は、宮古島を始めこれらの島々は、面積も小さく縦深もなく、防御戦に適していないとされる。つまり、島々の防衛には「上陸可能地点への全周防御」が必要だが、それは兵力的に不可能ということであり、また、島嶼防衛戦における南西諸島の「全島防御」も、分断された地域では現実には不可能であるということだ。
 
 戦前、宮古島約3万人、石垣島約1万人、沖縄本島約7万人の日本軍が配備された。宮古島・石垣島では空襲だけであったが、沖縄本島では、その4倍以上の米軍によっていとも簡単に上陸を許してしまった。これは、サイパン、テニアンなどの島嶼防衛戦でも同様である。
 
 このような研究の結果、今日自衛隊が策定したのは、「事前配備・緊急増援・奪回」という島嶼防衛戦の「三段階作戦」である。その戦略の軸は、宮古島などの島々があらかじめ敵に占領されることが想定されているということだ。
 こうして、「占領した敵からの奪回」を担う部隊が、今年度中に発足する水陸機動団(佐世保の西部方面普通科連隊の1個から3個連隊[旅団]への増強・日本型海兵隊)である。
 
 付け加えると、今年度発足の 水陸機動団には、2個連隊が増強されるが、この配備先に予定されているのが、沖縄のキャンプ・ハンセン、キャンプ・シュワブである。この理由は、すでに2006年の沖縄ロードマップで、同基地の日米共同使用が決定されていることもある。しかし、それ以上に大きな要因がある。それは、 水陸機動団が先島諸島への「奪回作戦」を行うには、九州から先島諸島までの距離は、「戦略的脆弱性」をもつということだ。つまり、兵力の動員・機動においても自衛隊に不利だけでなく、その兵站線が長大過ぎるということである。このキャンプ・ハンセンなどへの配置計画は、すでに、防衛省・自衛隊の文書で明らかになっている(後述)。
 
 「東シナ海戦争」となる島嶼防衛戦
 このような、島嶼防衛戦による島々の「占領・奪回」で明らかなのは、その凄まじい破壊だ。この戦闘で島々には、一木一草も生えなくなる。それは配備されるミサイル部隊を見れば一目瞭然である。ミサイル部隊は、全てが車載式の移動型のミサイルであり、島中を移動し、発射→隠蔽→発射→偽装を繰り返すのだ。これは、中国側から発射される巡航・弾道ミサイルからの攻撃を避けるためだ(ミサイル戦は、唯一中国軍側に優位性がある)。
 
 ミサイル戦争に加えて、島々には海と空からの絨毯砲爆撃が始まる。周知のように現代戦の勝敗は、海上・航空優勢の確保で決まるから、島々の内外で凄まじい破壊戦が行われる。
 
 すでに述べたが、これら戦争全体を米軍・自衛隊は、オフショア・コントロール戦略=海洋限定戦争と称する。つまり、米軍の介入を必要最小限とし(本土の戦場化の回避)、自衛隊を主力として戦う東シナ海戦争(先島戦争)だ。
 
 この東シナ海戦争は、法的にも政治的にも、自衛隊を主とし、米軍を従とする戦争である。もちろん、全体の戦争は、日米共同作戦であるが、日米のガイドラインの規定からして「日本防衛」には、自衛隊が主力となるのである。もっとも、戦術的にも、中国の圧倒的に優勢な弾道ミサイル攻撃を避けるため、在沖米軍・米空母機動部隊などは、グアム以遠に一時的に撤退することが予定されている。
 
 そして、「海洋限定戦争」「先島戦争」というのは、米中・日中の経済の相互依存性の中で、戦争を「中国に戦略的打撃を与えない程度に押さえ込む」という、意味があるとされている。
 
 これは、現実離れしているかのように見えるが、残念ながら島嶼防衛戦争はリアルだ。少なくとも、自衛隊の先島配備が完了すれば一挙に事態は悪化する。自衛隊の新配備は、国境線への実戦部隊の投入であり、中国には戦争挑発と映るのだ。中国側にとって琉球列島弧の海峡封鎖態勢は、中国軍だけではなく民間商船も封じ込められることであり、その世界貿易をも遮断されるということだ。
 
 現在始まっている事態は、米日中のアジア太平洋の覇権争い、軍事外交である(砲艦外交、朝鮮への威嚇外交を見よ)。これはまた、東アジア・南アジアでの激しい軍拡競争として始まろうとしている。だからこそ、この島嶼防衛戦なるものが、限定されるとするのは間違いである。この戦争は、当初は「限定」されるかも知れない。だが、中国側の軍事力増強とともに、紛れもなく東シナ海戦争=太平洋戦争へと拡大していくだろう。その行き着く先は?
 
 重要なのは、現情勢は一定の事態では、偶発的な戦争として現出するということだ。現在でも「尖閣」を巡る緊張の中で、日中の空軍機同士は、「ミサイルのロックオン」や「チャフ散布」(アルミ片による電波妨害)を繰り返している。この事態は、自衛隊の先島諸島配備完了という状況の中で、一気に一触触発の緊張状態へ突入しかねない。
 
 また、決定的なのは、日中にはこの偶発的衝突を防ぐ「海空連絡メカニズム」(ホットライン)さえ確立していない(米中は2014年締結)。したがって、自衛隊が想定するように、島嶼防衛戦争は、平時から有事へ、シームレス(途切れなく)に発展していくことになる。
 
 南西諸島の「無防備地域」宣言
 このような自衛隊の先島―南西配備が急激に進行し、戦争の危機が訪れているなかで、先島―沖縄民衆が生き残るには、先島諸島の「無防備地域宣言」を行う以外にはない。この宣言により、一切の島々の軍事化を拒むべきである。これは国際法で認められた非武装地域の宣言であり、歴史上にも幾多の例がある。そして、重要なのは「無防備地域」を宣言した場所への攻撃は、国際法違反になることだ。
 
 実際に沖縄は、1944年3月、日本軍が上陸し要塞化するまでは、国際的にも認められた無防備地域であった。これは、1922年のワシントン海軍軍縮条約で、日本の提案によって「島嶼の要塞化禁止」が締結されたことによる。アジア太平洋地域では、サイパン、テニアン、グアム、パラオ、奄美大島などと同様、先島を含む沖縄全島が無防備地域に指定されたのだ。だが、日本は1934年、この条約を破棄し、1936年に条約から脱退し、沖縄などの要塞化を推し進めていったのだ。この結果は、あの戦争での唯一の悲惨な地上戦が沖縄で引き起こされ、宮古島などの先島諸島においても、激しい空爆に見舞われたのだ。
 
 重要なことは、この時代でさえもアジア太平洋地域の島嶼を巡る軍拡の危機に対して、各国の島嶼の非軍事化が推し進められたということだ。
 
 もちろん、無防備地域宣言は、これだけでは事足りない。日本と中国の、政治的・経済的結びつきのいっそうの強まりとともに、社会的・文化的にも交流を深め、この宣言を契機として相互に信頼を醸成していくことが必要である。
 
 
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