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核兵器は禁止に追い込める
―米英密約「原爆は日本人に使う」をバネにして





 
岡井 敏 著
出版元: 社会批評社 
4-6 287ページ 並製
1800円+税
ISBN4-907127-18-3 C0036
 


「ハイドパーク覚書」を知っていますか? 
これは1944年9月、ルーズベルトとチャーチルによる「原爆は日本人だけに使う」という秘密協定。この日本人へのホロコーストとも言える、米英密約を初めて暴き、核兵器廃絶へのバネにしようという世界への提言が描かれる。

目 次

一 「ハイドパーク覚書」を知っていますか
   ――われわれに人種差別の刃が向けられた
     
二 「原爆は日本人に対して使用」で「日本に」ではない
   ――発掘した真実  
        
三 ヒバクシャも「ハイドパーク覚書」なんかどうでもいい
                 
四 原爆資料館への訴訟を試みて利用された
   ――味方が敵になった 
             
五 「国家は中心より滅ぶ」という父
   ――判事ながら東条首相への糾弾の手紙で懲戒免職
           
六 父も戦後の時代も重荷になった私
  ――たどり着いた「一つの文化」が強固な足場に 
                  
七 私に対する批判と私の反論
  ――事実と論理を尊べ 
                    
八 再び原爆資料館と論争
  ――論理が分からない資料館
                    
九 知識人・原水禁・被団協などとハイドパーク覚書
  ――議論拒否の人たち
          
十 朝日新聞を批判する
  ――事実を尊ばないマスコミの謎
                  
おわりに
  ――今や核は禁止兵器にすることができる状態になっている 

あとがき             


一「ハイドパーク覚書」を知っていますか
   ―――われわれに人種差別の刃が向けられた
     

 一九四五年、八月六日と九日の二度にわたって原爆が日本に落とされた。今アメリカは、原爆の使用は太平洋戦争の終結を早めるためであり、同年十一月予定の日本上陸作戦で、五十万人とも予想された米軍犠牲者を出さないために必要だったとして、これがほぼ米国の公式見解となっている。一方、これに対する日本側の公式見解は出されていない。しかし本当のところアメリカは軍事的必要も無いのに新兵器だから使ってみたかっただけで、しかも「日本人に対して」だったから使ったのである。まずその証拠を示しておかなければならない。

 それは、日本・ドイツが共に米英と戦っていた時の「ハイドパーク覚書」というものを見れば分かる。その原文のコピーが日本にもあって、これには「日本人に対して使用」"be used against the Japanese" とはっきり書いてあり、当時の米大統領・ルーズベルトと英首相・チャーチルの手書きによる FDR WCC の赤インクの署名まである。

  TUBE ALLOYS
Aide-memoire of conversation between the President and the Prime Minister at Hyde Park, September of 18, 1944.
1. The suggestion that the world should be informed regarding Tube Alloys, with a view to an international agreement regarding its control and use, is not accepted.
The matter should continue to be regarded as of the utmost secrecy; but when a "bomb" is finally available, it might perhaps, after mature consideration, be used against the Japanese, who should be warned that this bombardment will be repeated until they surrender.
2. Full collaboration between the United States and the British Government in developing Tube Alloys for military and commercial purposes should continue after the defeat of Japan unless and until terminated by joint agreement.
3. Enquiries should be made regarding the activities of Professor Bohr and steps taken to ensure that he is responsible for no leakage of information, particularly to Russians. 
                     FDR WCC 18.9

 管用合金
 一九四四年九月十八日、ハイドパークでの大統領と首相の会話に関する覚書

一、管用合金の管理と使用については、国際協定を目指して、管用合金を世界に公表すべきであるとの意見があるが、この意見は受け入れられない。この問題は、極秘にし続けるべきものである。しかし「爆弾」が最終的に使用可能になった時には、熟慮の後にだが、多分日本人に対して使用していいだろう。日本人には、この爆撃は降伏するまで繰り返し行われる旨、警告しなければならない。

二、管用合金を軍事目的、商業目的に開発する米英両政府間の完全な協力作業は、日本敗北後も、両政府の合意によって協力が停止されない限り、継続されるべきである。

三、ボーア教授の活動については調査する必要がある。教授には、特にロシア人に対してだが、情報を漏らさない責任があり、この保証措置を取らねばならない。       
九月十八日
                       ルーズベルト チャーチル

 管用合金とは原子爆弾の暗号である。この「ハイドパーク覚書」の原文は私にとっては、最初から手にすることが出来たものでなかったが、その話は後に回すことにして、まずこの、絶対者からの宣告ともいうべき文言「原爆は日本人に対して使用」を知った時、日本人がどんな反応をしたか、それを語らねばならない。

 結論を言うと、驚くべきことに、日本の社会はこれに無関心であり、その冷淡さは反核団体も同様であった。まして、これをもとに核廃絶に進もうとは考えない。それは、原爆で殺された広島・長崎の犠牲者を裏切ることではないか。彼等は日本人であるがゆえに、残虐なやり方で殺された。世界を舞台にして人種差別が行われたのである。それが、同胞の胸に響かないのだろうか。

 人種差別と言えば、アメリカで公民権運動の頃、黒人に対して公の人種差別があったとしても、それを露骨な形で直接受けたのは一部の黒人だけだっただろう。例えばバスの座席に仕切りが設けられたと言っても、それは、南部の限られた地区に過ぎなかったはずだ。虐殺もあったが、それは特に語り継がれるほどの稀なものだった。しかしアメリカの黒人は、自分たち全体が被害者だとして団結した。そして人種差別の撤回を獲得した。被害者が抗議しなかったら、一体誰が抗議しただろうか。広島・長崎への原爆では、日本人全体が被害者なのである。「原爆は日本人に対して使う」の傲慢さ。これに憤らないのか。「貴方は日本人ではないのですか」。

 私は一九三〇年生まれの老人で、残された時間はもう僅かしかない。そして最近、思う。私が死んだら「原爆は日本人には使っていいな」の言葉は恐らく消えてしまうだろうと。私は危機感を覚える。私は叫ばずにはいられない。

 私が最初に「ハイドパーク覚書」のことを知ったのは何年前だったか。もう思い出せなくなっているが、今もはっきり記憶に残っているのは次の二つの印刷物で、いずれも、覚書の記述は「原爆は日本に使用」となっていた。

"be used against the Japanese"

「日本人に対して使用」が二つの場合とも誤訳されていたのだが、私は当時、そこにミスがあるとも思わなかったから、これからの話では先ず最初のうちは、覚書の原文も実際に「日本に使用」と書いてあったとして、それで進めていくことにする。

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