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問う! 高校生の政治活動禁止
―18歳選挙権が認められた今
               








 
久保友仁・清水花梨・
小川杏奈/編著
出版元: 社会批評社 
四六判220頁 並製
本体1800円+税
ISBN4-907127-15-2 C0036
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 目次
 
はじめに 6
 
第一章 制服向上委員会の挑戦――中高生「社会派アイドル」の経験から 11
 
  ・一人ひとりが自分の意見を持てる社会に 13  
            小川杏奈(制服向上委員会3代目会長・大学3年生)
 
  ・未来にとって良くないことは良くない 20
            清水花梨(制服向上委員会10代目リーダー・大学1年生)
 
  ・政治について発信することが未来を変える 27
            橋本美香(制服向上委員会名誉会長)
 
  ・私が想う学校、社会、日本、世界そして個人について 29
            高橋廣行(制服向上委員会プロデューサー)
 
  ●インタビュー 31 
     小川杏奈(会長)
     清水花梨(10代目リーダー)
     司会 久保友仁
 
第二章 「高校紛争」と「69通達」 57
  1、高校紛争前史――教育基本法制定から60年安保まで 58
  2、高校紛争はいつ起きたのか 70
  3、高校紛争は何を訴えたか 74
  4、学芸大附属高校(東京)の事例 88
  5、判例から読む高校紛争 95
 
第三章 「69通達」と教育基本法・子どもの権利条約 111
  1、今日も生きている「69通達」 112
  2、教育基本法は高校生の政治的活動を禁じ得るか 115
  3、子どもの権利条約批准で問題となった「69通達」 126
  4、条約実施状況に関する初回審査で既に問題視されていた 131
  5、国連委員会が是正勧告を明示した第2回報告審査 142
  6、第3回報告審査も行われたが 150
 
第四章 18歳選挙権と「69通達」 157
  1、公選法改正案提出まで 158
  2、衆議院「一部を見直すんじゃなくて廃止すべき」 162
  3、参議院「通達の撤回というものは当然だ!」 182
  4、18歳選挙権法案成立のその後 191
 
 あとがき 197
 
 ●巻末資料 205 
 *「高等学校における政治的教養と政治的活動について」 205
 *児童の権利に関する条約 214
 *旧教育基本法 216
 
まえがき
 
 声を上げる高校生
 
 2011年9月19日、東京・明治公園で開かれた、「さようなら原発・1000万人アクション」の反原発集会において、アイドルユニット「制服向上委員会」の9代目リーダー・小川杏奈さん(18歳・当時)は、6万人の聴衆を前に、次のように訴えた。
 「私たちが脱原発の歌を歌うようになってから、『子どものくせに』とか『何にも知らないくせに』という批判もたくさんありました。」
 「この原発事故は、私たち中高生にも関わる大きな問題です。 だから、 自信を持って大きな声で、脱原発を訴えていきたいと思います!」
 筆者もこの日の集会に参加していたが、この決意表明は、会場中から熱烈な拍手と激励をもって迎えられたことは付記しておきたい。
 
 1969年の文部省通達(「69通達」)とは
 
 この制服向上委員会の発言が、なぜ驚きをもって迎えられたのか。時は1960年代にまでさかのぼる。
 1969年1月の東大闘争(安田講堂決戦)に象徴される学園闘争は、全国の大学に波及するに留まらず、全国の高校にも、高校「紛争」という形で広がりを見せた。高校紛争は、全校集会、バリケード封鎖、対教師糾弾、卒業式粉砕、反戦送答辞など様々な形を見せ、全国的に多くの逮捕者や退学処分を乱発した。
 そんな中で文部省(当時)が1969年10月31日に出した通達「高等学校における政治的教養と政治的活動について」(以下「69通達」という)が、国家・社会としては未成年者が政治的活動を行なうことを期待していないし、むしろ行なわないよう要請している≠ニして出され、これが今日的にも多くの問題を包含しているのである。
 高校紛争とは一体何であったのだろうか。
 ところで、1989年、国連は「子どもの権利条約」を採択、日本では、署名・批准の閣議決定・国会承認を経て、1994年5月22日発効するに至った。この子どもの権利条約の視点から、「69通達」は認められるものであろうか。
 筆者は、2001年9・11米国同時多発テロが起きた時、高校2年生であった。アメリカによるアフガニスタン侵略戦争、続くイラク侵略戦争に黙っていることはできなかった。連日のようにデモに参加したり、署名を集めたり、時には高校生として集会で発言したり、記者会見を開いたりもした。ちょうどその頃になって「69通達」の存在を知るのである。
 本書で詳細を明らかにしているが、筆者は当時、子どもの権利条約に関して活動を行っていた「子どもの声を国連に届ける会」の事務局員であり、2004年に行われた国連審査に際して、この「69通達」の問題を取り上げた。国連委は、この時の審査で是正勧告を出している。
 それから11年。2015年になって、長過ぎる空白期間の後、文科省は18歳選挙権導入の公選法改正に伴って「69通達」見直しを明言することになる。通達発出から46年。本当に通達は見直されるのか。それは「見直し」と言えるものなのか。
 
 本書発刊の意義
 
 本書執筆にあたっては、多くの良書を参考にさせて頂いた。高校紛争に関する書籍、教育基本法に関する書籍など多くの資料を参照させて頂いている。文中多くの引用をさせて頂いており、稿によっては個別の注釈を付せていないところもある。何卒ご容赦賜りたい。
 「69通達」に関連して、 高校紛争、教育基本法、子どもの権利条約など個々の専門書は数多くある。しかし、その中にあって「69通達」そのものを横断的に検証した資料はないはずである。専門家でもない筆者が、限られた条件の中で、あえて出版を敢行する意義は、まさにそこにあると考える。高校生の政治活動禁止がどのような問題を含んでいるか、トータルな視点から考える一助となれば幸いである。
 
 高校生の政治活動禁止の問題点
 
 『高校紛争1969――1970』(小林哲夫著、中公新書、2012年)は、最終章において、以下のように警告している。
 「『政治活動の禁止』は実にこわいフレーズである。『活動』できない以上、『政治』を考えることをやめてしまう。政治に興味を持たなくなる。こうなると、社会に対して思考停止状態になりかねない。社会に関心を持たせない、もっと言えば高校生が批判的なものの見方を身につけることを妨げる。そうなりはしないか。『禁止』という発想は、人格形成、精神的成長という点から見れば、きわめて危険である。」
 「まだ高校生なのだから声をあげるべきではないという考え方は、成熟した国民国家にはなじまない。そもそも社会に関心を持たせないというのであれば、なんのために、高校生に『日本史』『世界史』『現代社会』など社会科科目を教えているのだろうか。69年の文部省見解は再考すべきだろう。」
 
 高校生が社会の仲間として、主権者として、社会の問題を考え、自由に声を上げることのできる社会へ! そのためには「69通達」の考え方ではダメなのだ。
 
 
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