書籍検索:紹介  
シンガポール戦跡ガイド
― 「昭南島」を知っていますか?






 
小西 誠/著
出版元: 社会批評社 
四六判189頁 並製
本体1600円+税
ISBN4-907127-08-4 C0036

注文はこちらで
 はじめに
 ここ数年、いや十数年と言ってもいいが、韓国・中国政府と日本政府との間には、アジア・太平洋戦争についての歴史認識をめぐって鋭い対立が続いている。この対立は、「靖国参拝」などの問題だけでなく、日本政府が「従軍慰安婦」や強制連行などの被害者への戦後補償について、完全に放置した結果、繰り返し生じているものだ。
 この韓中との間の歴史認識の対立については、厳しい外交問題になっているので日常的に報道されているが、シンガポールとのそれや戦後補償については、日本での報道はまったくないに等しい。
 しかし、本書で述べるように、アジア・太平洋戦争下において日本軍の侵攻・占領下に置かれ、南京大虐殺に匹敵する住民虐殺(大検証・粛清)に遭ったシンガポールでは、この日本政府との「歴史認識問題」も厳として存在している。
 シンガポール政府は、戦後50年にあたる1995年、国内の11カ所に、日本軍の戦争と占領の記念碑を構築、あるいは、この戦争の傷跡を残すために、戦跡を同国の文化遺産として登録している。そしていま、この戦跡の保存が一段と進められている。
 こういう状況の中で不幸なのは、毎年100万人に近い日本の青年たちがシンガポールを訪れ、また、シンガポール在住の日本人も、およそ2万6千人を超えるほどの経済的繋がりがありながら、この国を訪れる(あるいは在住の)日本人たちが、かつて日本軍がこのシンガポールで何を行ったかをまったく知らないことだ。これでは、本当の意味での経済的・文化的交流が存在しないばかりか、真の友人にはなれないだろう。
 本書は、このシンガポールに残されているアジア・太平洋戦争の戦跡について、同国の戦争記念碑を参考にしながら、筆者の調査・認識をも加えて整理・紹介したものである。
 今までにも、シンガポールの戦跡については、いくつかのすぐれた書籍が刊行されている。しかし、同国での戦争記念碑は、たえず再発掘・再発見されるばかりか、現在もなお政府によって新しく建てられつつある。戦争の記憶を更新し、その礎の上に強固な平和を構築するという決意を感じる。
 ところで、現在の日本では、戦後69年という長い歳月が経つにつれ、体験として戦争を知る世代が次第に失われつつある。それに伴って、戦争を賛美する「戦争を知らない政治家たち」が、国会を中心に増殖しつつある。 
 こういう時代状況の中で、シンガポールに残る数多くの戦跡―戦争の傷痕を訪ねることは、若い人々にとって貴重な体験となると思う。ぜひ、一度訪れていただきたい。
                              2014年6月1日
筆者
 
 目  次
 はじめに   2
 ■シンガポールの戦跡の歩き方   9 
 地図 シンガポールの主要な戦跡地点   10
 
 第1章 市街地中心部の戦争の傷痕を歩く    11
      ―――「昭南島」と呼ばれた時代を知っていますか?
    ●都市国家シンガポール――その歴史と現在   12
    ●英軍司令部バトル・ボックス   16
    ●抗日の英雄・林謀盛記念碑   21
    ●復活したインド国民軍記念碑   22
    ●第1次・第2次大戦の戦死者を記念するセノタフ   23
    ●憲兵隊東支部記念碑と日本軍宣伝工作本部記念碑   24
    ●占領と大検証を伝える国立博物館・口述歴史センター   27
    ●日本軍の降伏文書を連合軍が受理したシティ・ホール   28
    ●日本軍戦犯裁判が開かれたヴィクトリア・メモリアル・ホール   29
    ●戦争記念公園に聳え立つ日本占領時期死難人民記念碑   30  
    ●チャイナタウンの大検証(粛正)検問所記念碑   34
    ■地図 シンガポール市街地の主な戦跡   36
 
 第2章 ジョホール・バル―シンガポール上陸戦の戦跡   37
    ●シンガポール上陸の攻撃拠点・ジョホール・バル   38
    ●サリンブン海岸上陸記念碑   42
    ●クランジ海岸の戦いの記念碑   45
    ●英軍の航空拠点テンガー・センバワン基地   47
 
 第3章 激戦地ブキ・ティマに残る兵(つわもの)どもが夢の跡   49
    ●シンガポールの最もい山・ブキ・ティマ攻防戦の記念碑   50
    ●激戦地に残されたトーチカ――サイムロード・ピルボックス   53
    ●住宅街にひっそり佇むチャンセリー・レーンのトーチカ   56
    ●「昭南忠霊塔」が建てられていたブキ・バト記念碑   58
    ●英軍降伏の地・旧フォード工場記念館   60
 
 第4章 日英軍の最後の激戦地パシル・パンジャン   65
    ●もう一つの激戦地、パシル・パンジャンの巨大トーチカ   66
    ●ブキ・チャンドゥ回想館   70
    ●日本軍を悩ませた堅固な要塞・ラブラドル砲台   73
    ●アレクサンドラ病院記念碑   84
 
 第5章 無用の砦になってしまったセントーサ砲台   85
    ●シンガポール最大の要塞・シロソ砦  86
    ●砦の上で迎える巨大砲3門  90
    ●砲撃指揮塔と戦闘シーン   94
    ●日本軍艦艇を撃沈した6インチ砲   98
    ●展示室「シロソ砦の歴史の足跡」   102
    ●占領の間の展示   105
    ●「降伏の間」・将軍たちの蝋人形  106
    ●シロソ砦の地下トンネルと各種砲   110
    ●セントーサ島のビーチに佇むトーチカ   116
 
 第6章 英軍最後の航空基地となったカラン・エアポート   123
    ●民間空港だったカラン飛行場   124
    ●空軍力を強化するシンガポール軍   130
 
 第7章 捕虜たちが収容された英軍の要塞・チャンギ  133
    ●日本軍を悩ませたもう一つの要塞・チャンギ砲台群   134
    ●英軍の捕虜たちが収容されたチャンギ博物館   136
    ●美しい海岸の墓標――チャンギ・ビーチ記念碑   139
 
 第8章 戦争で斃れた兵士たちの眠る記念碑   143
    ●英軍のクランジ戦争共同墓地1939―1945   144
    ●処刑された日本軍将兵たちを埋葬する日本人墓地公園   148
    ●からゆきさんたちの小さな墓標   152
 
 第9章 解説 日本軍のマレー・シンガポール侵攻と占領   155
    ●アジア・太平洋戦争の開戦   156
    ●日本軍のマレー半島上陸作戦   158
    ●日本軍の奇襲成功と英軍の作戦   162
    ●英東方艦隊の壊滅と日本軍の制海権・制空権確保   164
    ●ジットラ攻防戦と銀輪部隊   166
    ●英軍のシンガポール防御態勢   170
    ●日本軍のシンガポール攻撃態勢  173
    ●英軍の降伏の結果   178
    ●シンガポール占領と軍政   180
    ●華人大検証(大虐殺)とは?   183
    ●シンガポール軍事法廷での処刑   192
 
 *註 本書では、シンガポール国籍の中国人を同国の記述に従い、「華人」と表記している。ま  た、同国で日本軍占領下に行われた大虐殺を大検証(粛清)と表記する。
 
         社会批評社のホームページ