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反抗期は二度訪れる
児童精神科医が助言するその傾向と対策
 










 
定塚 甫/著
出版元: 社会批評社 
四六判 183頁 並製
本体1500円+税
ISBN4-907127-00-8 C0036

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目   次
 
はじめに  7
 
第1章 「出来ちゃった婚」に始まる  15
    ――子供は歓迎されて誕生しなければ……
    新婦は妊娠6カ月前後  16
    誕生おめでとう  21
    誕生した赤ちゃん  23
    歓迎されて誕生する意味  25
 
第2章 第一次反抗期前後までの育児  29
     ――個としての個別化の時期
    男の子と女の子の違い  30
    生まれたばかりの赤ちゃん  34
    生まれたばかりの赤ちゃんの事故対策  37
    お母さんとの共生関係から第一次反抗期へ  38
 
第3章 第一次反抗期と第二次反抗期の間  45
     ――キレる子供たちを取り巻く環境 
    比較的安定期の不登校と学級崩壊  46
    叱って育てることも必要  52
    子供は失敗して育つ  55
    子供たちはなぜキレるのか?  59
    子供が正直になるには……  63
 
第4章 第二次反抗期と思春期  67
     ――性としての個別化の時期
    第二次反抗期から思春期へ  68
    父親が反抗期の男子を撲殺した例  72
    15歳男子の問題のもうひとつの事件  74
    どういう対策が必要か  77
    我が子のいじめを擁護する母親たち  82
    反抗期の子供たちのエネルギー  89
    思春期から第二次反抗期  93
    十数年前の子供たちとの違い  94
    現代の生徒たちの「性」知識  97
    小学生の妊娠のケース  100
    幼い妻・子供への暴力  105
    終わりのない子供のまま  112
    第二次性徴を迎えた子供たちのセックス  113
    今日の子供たちのセックス  117
    異性に夢を託さない  118
 
第5章 思春期・反抗期・第二次性徴への対策  123
     ――父親・母親になる人たちへの10の提言
    全ての子供が「平等」ではない!  125
    子供に学歴社会の現実を認識させる  130
    教師の教えを尊重する  134
    子供の権利と制約の関係を認識する  144
    学習によって成長することを知る  150
    子供に正面から向き合え!  155
    躾と虐待の違いを知るべき  158
    周囲への配慮をするのが人たるもの  164
    心と心の付き合いを会得すべし!  170
    ほめられて育つのではなく愛されて育つ  172
 
おわりに   175
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はじめに
 ある夏の暑い日、心配な面持ちで季節には不釣り合いなオーバーコートを着込んだ女子高生と男子高生らしき2人が薬局へ消え、レジを済ますや否や走って公衆トイレに入って行きました。数分後、首をうなだれた女子高生が、ベソをかきながら出て来たのです。男子高生は、肩に手をやり、黙って2人で家路に着いたようでした。
 2人の恰好から見て、このままでは先行き不安な16歳前後の母親と父親が育児にいそしむことになるのでしょう。
 2人とも首をうなだれていたところから想像しますに、2人が抱き合ってセックスを行った時には、「まさか、子供が出来るとは想像もしなかった」というところでしょうか。
 喜び勇んで「出来たよ!」と出てくれば、それなりに育児に専念する覚悟が出来ていたと考えられます。年齢的には法律の問題がありますが。大体にして、女性が男性を慰めて帰路に着くことが多くなっています。何といっても男性が家計を支えなければならなくなるのです。
 しかし、重大なことに、この2人は法律的にはあっさりと「出来ちゃった婚」として認めて貰えないのです。女子は16歳であれば婚姻・出産が認められていますが、男子の場合、18歳でないと認められていません。女子は、いったんシングルマザーとして出産し、相手の男子が婚姻可能年齢になった時に養子縁組を行うことになります。
 このような現象も、特別なことではなくなってきています。2人ともあっさりとした顔つきで、翌日からの勉強にいそしんでいるのですから。
 しかし、第二次世界大戦直後の20年間と比べますと、大幅に人工妊娠中絶が減少しているのには驚きと安堵感とを感じるのです((注1))。この十数年になって、「女子は妊娠したら出産するのが当たり前」となってきています。中絶反対論者の著者としては、このうえない喜びです。しかし、今日の育児の問題は、「出産するかしないか」から、「どうやって育てるの?」に変化して行っているようです。どうも、この辺でとどまっているように思えますね。
 単純に、「育児の仕方」を知る機会を与えられる前に、親になってしまったのではないでしょうか。言い換えれば、「成人という、社会的に自らの発言・行動に責任を負える」前に、同時に親としての責任ばかりか、さらにやがて生まれる子供の責任をも持たなければいけない立場になってしまったと言えましょう。
 子供は、未成年であるから社会的責任・義務は親が代行して負う事になっているため、その責任は限定されながら、免除されています。もちろん、年齢相応に理解できる範囲や深さが「常識的」であるか、否かによるでしょう。大まかには法律に記してあるのですが、様々な日常的な場面での子供たちの可能な責務までは記してはありません。
 大人の場合は、「おおむね、誰もが了解できる理由により行動に移る」ことが記されています。つまり、「大人(成人)と認められる人たちは、少なくともひとつの動機に対して半数以上の人が同じ行動をとるだろう」という事を理解しているから、大人として認められるのでしょう。
 しかし、子供の場合、ある行動が「出来る」という事と、その行動の持つ意味を「理解している」とは一致しないのです。一致しないのを「子供」というわけです。
 「セックスを行えば、子供が出来る」という事を知っていても、生まれて来る子供がどのような環境に置かれるのかという事が理解できないのも子供でしょう。
 
 ここで、話をこの本のテーマに戻して、子供の発達過程として重要な「反抗期」について、お話ししておきます。そうしないと、この後に述べることが理解しにくくなるからです。
 子供の発達過程において、自己主張としての「反抗期((注2))」は、子供に対して支配者の感覚にほかならないと言って、疑問をもつ学者もいます。しかし、「子供には、必ず反抗期が二度訪れる」ということは、世界中の大人たちが知っている事です。それほど自然な現象である「反抗期」は、いつのまにか、日本を代表する精神医学書には見当たらない方が多くなったのです。その結果、その存在と対応策を知らない専門医が激増してきたのです。そして、「反抗期」を知らない親たちに育てられた子供たちが、日本中にあふれる事になったのです。
 
 この本では、「世界の人たちは知っているが、日本人の知らない」反抗期を中心に、育児の常識的な事を紹介致しましょう。40年近く児童精神医学を専門として来た現役医師として、日常診療での体験を交えながら、人生の後輩にぜひとも伝えるべき「反抗期」と反抗期への対応策を具体的に紹介致しましょう。
 世界には、敗戦や侵略により母国語を強制的に変えられた国は多くみられます。しかし、そのような人たちであっても、長年培われた生活習慣を変える事はありませんでした。
 その中でも、日本という国は、「米飯から小麦へ」と「主食を変えた」民族として、地球上でも稀な存在として見られています。数千年もの間、米を主食にして来た民族ですから、占領下(1945年)に入ったとしても、突然、身体の働きや独自性が変わるものではありません。案の定、表面的には「スギ花粉症」と呼ばれる病気ですが、実のところ「小麦アレルギー」なる新たな病気が作られてしまったのです。国営放送局で、毎日のように「花粉情報」なるものが放映されていますが、全く意味をなしていません。事実、「小麦アレルギー説」をテレビで発言したニュースのコメンテーターは、翌日から降板でした。
 ともあれ、子供たちをめぐって、今日の社会では目まぐるしいくらい情報が飛びかい、実のところ、元を正せば歪んだ「反抗期」であったという事が少なくありません。
 16歳前後の子供母の増加、反抗期を知らないで子供とにらめっこしながらイライラしているお母さんの急増。お父さんは、大震災の日もパチンコ屋さんへ逃亡生活ー。少しでも、お母さんを楽にしてあげようではありませんか。少しでも小中学校の先生の負担を減らしてあげませんか。
 いずれにしても、世の中の大人たちは、子供は作れども育て方が良く分からないように感じます。
 本屋さんに売っている育児書では、毛頭育児は出来ません。これだけは、自信をもって申し上げる事が出来ましょう。日本の子供たちの健やかな成育に、堂々と話せる限りの助言・苦言、そして、評価を述べましょう。
 なお、本文の事例は個人が特定されることがないように、配慮されていることを付け加えておきます。 
[注1 厚生労働省の統計によれば、2008年に日本で行われた人工妊娠中絶は、24万2千292件で、15〜49歳女子人口に対する比率は0・88%、出生100に対する中絶数の比率は22・2件(全妊娠のおよそ5人に1人弱)である。過去に遡ると、1955年に約117万件(全妊娠のおよそ2・5人に1人)、1965年に約84万件(全妊娠のおよそ3人に1人)、1980年に約60万件(全妊娠のおよそ3・5人に1人)、1990年に約46万件(全妊娠のおよそ3・5人に1人)、2000年に約34万件(全妊娠のおよそ4・5人に1人)となっている。]
[注2 第一次反抗期とは、2歳半から3歳半頃に素直だった幼児が急に強情になり、親の干渉や禁止にすね、ごね、かんしゃくを示すという形で現れる。自分が親とは独立した存在であることもはっきり理解出来るようになってくる。第二次反抗期とは、青年期、ことにその中期に(16〜18歳、最近では14〜16歳と低年齢化しているとも言われる)において著しく、親(ことに同性の)との距離をおいた対立抗争、権威に対する攻撃態度という形で現れる。反抗は依存にまつわる不安と、自立への欲求との葛藤の表現だと言われている。『精神医学事典』弘文堂刊]
                                平成24年12月1日
                                      著者
 
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