宝箱の中身  

  「フラン…こんなの、ここにあったか?」   目の前に見慣れたクリスタル。 しかし、青でもなく、オレンジでもない、白。   「クリスタルバグじゃないかしら?」 「……白って…新種か?」 「知らないわね」   現在のターゲットは、敵に奪われた城、その奥深くにある。 決行は、執政官が来る日に執り行われるパーティの時刻。 それまでに、三日。 二人は、時間つぶしと体慣らしの為に、バルハイム地下道に来ていた。 何度も訪れた場所。 しかし、普段無いはずのクリスタルが二人の目の前に鎮座していた。   「ま、触ってみて戦闘になったらバグって事だな」 「そうね」   バルフレアの掌がクリスタルに触れる。   「「え?」」   二人共、クリスタルバグが現れると思いこんでいた。 クリスタルが白く輝く。 その光が消えた時、フランは呆然とその場で立ちすくみ、バルフレアは消えていた。   ◆宝箱の中身   「すっごいっ!」   見慣れた空洞から、突然見慣れない洞窟が目に映る。 そして、子供の感嘆の声とその本人。   「お前、魔人だよな!」   物凄く嬉しそうな声。 満面の笑み。   「こんな入り口近くに、こんなすっごいお宝があるなんて思わなかった!」   金色の髪の毛と、ブルーグレーの瞳。 どちらもキラキラと光って、バルフレアを見ている。   「なぁ!お前って、何が出来るんだ?あ……やっぱり願い事って3回まで?」   なんか聞いたような童話の展開。 そして現状がつかめない。   「……ここ…どこだ?」 「城の裏山。ほらっ!」   腕をぐいぐいひっぱられ、光の方に連れられた。   「あそこがお城。分かっただろ?」 「…全然……」   ここは、山の中腹あたりか、目の前の街を一望出来る。 しかし、見たことも無い景色、見たことも無い街、見たことも無い城。 バルフレアは、どこに来たんだと、真剣に悩んでいた。   「う〜ん、やっぱり魔人って、すっごい年寄りなんだよな?  あの宝箱に入って何百年とか言うんだったら、知らないのは、仕方が無いか」   一人で納得し、頷いている子供。   「や、違う。っていうより、ここはどこの国だ?」 「ランディス共和国だよ」 「ランディスっ?!!」 「うん、知ってる?」 「……知ってる…が……まじかよ」 「うん、まじだよ。魔人!」   妙な駄洒落を気づきもせずに、にっこり笑う子供。 バルフレアは、座り込みそうになる足を叱咤しながら、子供に向き合った。   「今年は何年だ?」 「……今、681年だけど」 「681ぃ〜?!」 「うん」   確かに子供だが、年を間違えるほど子供にも見えなかった。   「お前…名前は?幾つだ?」 「魔人、俺はバッシュ。11歳だ」 「……俺は魔人じゃない…バルフレアだ」 「バルフレアって名前の魔人なんだな」   子供は、全然話を聞いていない。   「バルフレア、行くぞ!」   そう言ってバッシュは、元の場所へ走って行く。   「…まじかよ」   どうしようもない状況ってのはあるもので、とりあえず成り行きに任せようと、バルフレアはバッシュの後を追って歩いた。   「バルフレアは、強いのか?」   子供に追いついたバルフレアが見たものは、結構大きい宝箱を抱え持つ姿。   「……何で宝箱を持ってるんだ?」 「これ、バルフレアの家だろ?中に入った後は、三回擦ったら出てくるんだよな?」   だから、持って行くと、真剣にしゃべる子供。 バルフレアの頭がズキズキしてくる。   「その中を見てみろ」   言われた通り、バッシュは宝箱の中を覗く。 一応バルフレアの言葉は聞こえているらしい。   「粉々になった青い瓶があるだろ?  ポージョンだ。それが宝箱の中身であって、俺は関係ない」 「…でも、俺が蓋を開けたら、バルフレアが出てきたぞ」 「…何かの偶然だろ。俺は、バルハイム地下道に居たんだ」   見たことも無いクリスタルの話はしない。流石にこんな小さな子供に言っても意味がないだろうと思い、省略。面倒だし。   「バル…?」 「東ダルマスカ砂漠にある地下道だ」 「東ダルマスカ砂漠は…分かるけど…」 「あぁ、そんなに知られてる場所じゃないから、知らなくて当然だろう。  そんな名前の地下道があるって事だ」 「そこで何してたんだ?」 「時間をつぶしてただけだ。それよりお前、何でこんな所に一人で居る?保護者はどうした?」   今まで興奮して輝かせていた瞳が、一瞬曇る。   「一人で来た」 「親には、ちゃんと言って出てきたのか?」   首が横に振られる。   「なぜだ?」   酷く思いつめた瞳が返ってくる。 バルフレアは一つため息をついて、床に座った。   「ほら、話せ。聞いてやる」 「バルフレア…」 「何だ?」 「俺を家に帰らせたりしないか?」 「ま、お前次第だな」   バルフレアは、口の端をあげ、興味深げにバッシュを見ている。   「ほら、話してみろ」 「う、うん…」   少し逡巡した後、バッシュは真っ直ぐバルフレアを見て、話しだした。   「俺の弟が、ノアが病気なんだ。  この山には薬草があって、それが必要なんだ」 「それって、大人が取ってるもんじゃないのか?」 「一週間ぐらい前から、ここにモンスターが出るようになったんだ。でも、まだ城から討伐に来てない…だから、街の人も来る事が出来なくて…、ここの薬草は、いっぱいないから、誰も余分に取る事もしてないし……だから」 「お前が、一人で来たんだな」   コクリと頷く。   「お前、剣の腕は?」 「ウルフなら、何回か倒した!」   バルフレアからため息が漏れる。 ここの洞窟に、どんなモンスターが出るか知らないが、ウルフより弱いモンスターだけとは限らない。   「魔法は?」 「ケアルだけ」 「……お前の荷物の中身は?」 「ポーション、毒消し、目薬」   魔法が使えない分、一応考えている荷物。 しかし、子供が持てる程度の量。そして得物は、軽量ミスリルソード。 激しく無謀。   「薬草がある場所は遠いのか?」 「いつもなら、それほどでもないんだけど…モンスターがいるし……」 「し?…何だ?」 「噂だと、そこに大きなモンスターが居るって……」   頭が痛くなってきた。 バルフレアは、またため息をつく。   「あ、でも、これがあるから、なんとかなるんだ!」   子供の手が荷物から出したものは、バニシガの魔片。 なるほど、一応色々と考えているのだなと、バルフレアは感心する。   「しょうがねぇな」   バルフレアは、荷物からアイアンソードを取り出し、立ち上がる。   「ほら、行くぞ。どっちだ?」   剣を肩に担ぎ、バッシュに一つウィンクを送る。 それに答える満面の笑み。バッシュは、ぎゅっとバルフレアにしがみついた。   「ありがとう、バルフレア!」                 ◇◆◇                 「すっごい!バルフレア、強いな!」   最後のスカルアーマーを剣で切り伏せ、振り返りバッシュにニヤリと笑う。 さっきまで居た場所と同じモンスター。 得物が違っても、この程度の敵に後れは取らない。   「当然だろ」 「でも、三体も居たのに、怪我もしてない」 「慣れだ。慣れ」   背後に居て、ポーションを握り締めていたバッシュの頭をポンポンと叩く。 子供なりに、サポートしようとしていたらしい。 突然現れた自分を疑いもせずに、好意を寄せてくる。 その素直さが、酷くくすぐったい。   「お前も、毎日剣を振ってれば、すぐにこうなれるさ」 「そうか…な………なぁ、俺も戦っていいか?」   青い瞳が上目使いでお強請りしている。 やけに可愛いらしい。   「邪魔しないから」   まだまだ小さな手が、服をぎゅっと掴んでいる姿に絆される。   「分かった、次はお前に任せてやる」   剣をしまい、背中の銃を手に持つ。   「俺が全部フォローしてやる。しっかりやってこい」 「うん!」   慌てて、手にしていたポーションを袋にしまい、腰に下げていた剣を握り、数回振る。 その動きは、11歳とは思えない、慣れた手つきだった。   「へぇ〜」 「ん?」 「なんでもない。ほら、行くぞ」 「うん」   バルフレアの口元は、あがっていた。         狭い洞窟の中に剣を振る音と銃声、そして気合の入った子供の声と冷静な呪文を紡ぐ声が続く。   「バッシュ、右」   返事は無いが、バルフレアの声に反応して、バッシュの体が動く。   「ケアルラ」   呪文を放ちながら、バッシュに近寄るもう一匹に銃を向ける。   「たぁっ!」   バッシュの掛け声と、銃声が響き、最後の二体のモンスターが消えていった。 突然現れた3体のモンスター。 バッシュは、そのうちの一体を一人で倒した。 ウルフに比べ、強いモンスター。 確かに、ケアルが必要だったが、その動きは十分に将来性がある。 バルフレアは、バッシュに近寄り髪の毛をかき混ぜた。   「な、何?」 「お前、騎士団の見習いにでも入ってるのか?」   バッシュの目がまん丸になった。   「動きを見れば分かる。基本に忠実だな」 「だめなのか?」 「いいや、基本が無い者に、その先はないぜ」   バッシュは安心したように、にっこりと笑う。   「後は大人になって体が出来たら、それに合った動きに変えていけばいい」 「それって…やらなくちゃいけないのか?」 「お前の先輩達も、皆やってるだろうよ。  やった方が有利だしな」 「一人で?」 「そうだ。誰も教えられない。それぞれ体格も資質も違うだろ?  だから、一人で見つけるしかないのさ」   バッシュは、心の中でバルフレアの言葉を反芻した後、生真面目に頷いた。   「さ、行くぞ」 「うん」 「目的地の半分ぐらいに来たら言えよ。そこで休憩だ」   薬草を早く取りたいバッシュは、嫌だと口を開こうとして、バルフレアの手に阻まれる。   「この後も、戦うんだろ?」 「うん」 「お前がもたない。休憩は必要だぜ。  あせって、大怪我でもしたら、帰るのがもっと遅れる」 「でも…」 「だったら、剣を持つのは禁止だ」   バッシュの口が、への字になる。   「休むだろ?」 「分かった…」         「流石に限界だな」   バッシュは、その言葉に答える事も出来ない。   「ほら、そこに転がってろ」   崩れるように座ったバッシュに、バルフレアはくすりと笑う。 ここまで戦ってこれただけでも、この年齢にしては十分だと思うのに、本人は納得がいってないようだ。 バルフレアは、バッシュの体を細かく確認し、全てケアルで回復しているのを確認した後、流れた血を拭う。 ケアルでは傷が塞がっても、流れてしまったものの補給は効かない。 途切れる事の無い戦いで、疲弊した精神の回復も無い。 せめて体を休めさせようと、バッシュをかかえ、足の間に納め、自分に寄りかからせた。 一瞬抗うように体が動くが、それ以上は動かない。たぶん出来ないのだろう。 バルフレアはこれからの事を考え、ここでかなり時間をつぶさなくてはいけないなと考えた。   「なぁバッシュ。お前は、自分がまだ成長途中だって事を分かってるか?」   ぐったりしていた体が、嘘のように振り返り、バルフレアを睨む。   「お前は、その歳にしては十分強いと思うぜ。  だが、お前は俺より小さい。腕の力も弱い。実践回数も少なすぎる。  それを認めろ」   バッシュは、十分に強いと言われ、凄く嬉しかった。 しかし、それに続く言葉は、日頃自分が思い知らされている事そのもの。   「お前は、何をあせっている?」   握り締めた拳が、暖かい大きな掌に覆われる。   「このまま、お前のままで頑張れば将来十分に強くなるだろうに、どうして今じゃなければいけない?」   戦いに向かうバッシュの姿勢は、薬草を取るだけにしては、バルフレアがいるにしては、必死すぎた。   「……これでも遅すぎるんだ…」   睨んでいた瞳は、弱弱しく揺らぐ。   「いつ…戦争が始まってもおかしくない……って……。  俺は、家族を守らなくちゃいけないから…」   掌の中の拳が、きつく握り締められる。 バルフレアは、バッシュから顔が見えない位置に居て良かったと思った。気づかせるつもりはないが、一瞬顔が強張ってしまった。 自分は、その戦争を知っている。 その戦争の結果を知っている。 それは、自分にとって過去の話。 自分がほんの小さな子供の頃の話。 あと数年しか無い未来の戦争に対し、必死になっている子供に言う言葉が見つからない。 しかし、その過去を知っているだけに、どうしても言わずにいられない言葉があった。   「なぁ、バッシュ」   バッシュは、のろのろとバルフレアを見上げる。   「俺と、もう一回会いたいと思わないか?」 「バルフレア、帰っちゃうのか?」 「あぁ、この場所は俺の所属する場所じゃない。  お前が宝箱を開けたような偶然が、きっともう一回起こるだろうな」 「……そっか」 「んで、もう一回会いたいと思わないのか?」   ウィンク一つと、バルフレアにしては珍しい鷹揚な笑み。 バッシュは、伏せていた瞳を丸くして、それを見つめる。   「どうなんだ?」   釘付けにされた瞳はそのままで、バッシュはコクコクと頷いていた。   「だろ?  だったら、生き残れ。  どんな事をしてでも生き残れ。  自分が死ぬ事で活路を開くような戦い方を絶対するな。  それを恥だと思うな」 「……恥だと…思わない…?」 「そうだ、生き残る事は恥じゃない。  最後まであがけ。あがいて、行きぬけ。死んでしまったら、もう何も出来ないんだ。だったら、生き残って次の手を捜せ。その方が、ずっとカッコいい」 「………分かった。  そうすれば、絶対会えるな!」 「おう、一回会えたんだ。生きてさえいれば、もう一度、いや何度でも会えるさ」   バルフレアの掌が麦の穂のようなバッシュの頭をかき混ぜる。 ようやく笑ったバッシュは、素直にそれを受け止めていた。                 ◇◆◇                 「確かにデカイな…」   細い通路の先に、大きく広がる空間。 そこに、やけに大きなスケルトンが一匹。 巨人のスケルトンかよと、バルフレアがぽつりと呟いたほど。 バッシュは、ここまでとは思っていなかったのか、声が無い。   「バッシュ、作戦は二つある」 「あ…う、うん」 「お前はここに残り、バニシガの破片を使った俺が薬草を取ってくる。  もう一つは、お前がバニシガの破片を使って薬草を取った後、俺のフォロー。  俺としては、最初の案を実行したいんだがな」   無条件で最初の案を通したかったが、間違いなく自分も戦うと言い出すだろう事は簡単に想像がついた。 だからこそ、バニシガの破片を使う、安全策を提示する。   「バルフレアのフォローって、あいつと戦うって事だよな?」   やはりなと、バルフレアの口からため息が漏れる。   「俺も、戦っていいんだよな?」 「俺はフォローと言ったんだがな」 「……だめか?」   二度目のお強請り顔。バルフレアは、なぜかこの顔に弱いなと思いながら、最初と同じように度ため息をついた。   「状況が確認できるまで戦うな。俺のフォローだけだ。  入っていい場合だけ、合図を出す。  そして、俺が逃げろと言ったら、振り返らず入り口まで走れ。  その約束が守れるなら、その案を取ってもいいぜ」 「バルフレアは?」 「当然、俺も逃げるさ。  生き残るが大切だと言っただろ?だいたいこれは、戦争でさえない。  お前の目的は薬草。弟にそれを渡すまでが、仕事のはずだぜ」 「うん」 「俺は、自分の場所に戻る事、そしてお前を帰す事が目的だからな。無理をする気は無い」 「俺を帰す事?」 「あぁ、今お前は、俺の仲間だろ?  仲間を無事に帰さなくてどうすんだ?」   バッシュの顔が、満面の笑みに飾られる。 そのおでこを、バルフレアの指がつついた。   「ほら、約束は守れるのか?」 「うん!」 「用意はいいか?」 「バルフレア、行こう!」 「こら!バニシガの破片を使うのが先だ」                 ◇◆◇                 倒さなければいけない理由が出来てしまった。 バルフレアは、それを見た時、忌々しげに舌打ちしていた。 モンスターの背後に、白く輝くクリスタル。 ここに来てしまった元凶。 持ち替えた武器、銃を握り締める。   「倒す」   自分に言い聞かせるように、小さく呟いた後、引き金を引いた。 アルタイルが火を噴く。 虚ろな穴が自分を確認した。 バルフレアは走りながら、照準を合わせ、続けざま引き金を引く。 今、バッシュは薬草を取っているだろう。 早く安全な場所で落ち着いてくれと祈りながら、敵を見据えていた。   「取ったよ!」   元気な声が、自分に届く。 バッシュは安全だとほっとして、あの声にモンスターの意識が向かわないよう、近づき銃を放った。 強い衝撃を受ける。 口の中を切ったのが、鉄分を含んだ味で分かる。 それでも、この程度の衝撃なら、なんとかなると口の端があがる。 見えないバッシュに手をあげ大丈夫だと伝え、再び走りながら銃を放っていった。 止まない銃の音。 ケアルが発現する光。 モンスターの腕を振る音。 荒くなる息。 流れる血。 それでもバルフレアは笑っていた。 バッシュを不安にさせない為。 自分を奮い立たせる為。   「ちっ…無駄に体力のあるやつ」   短いとは思えない時間の経過。 それにイラついた時、新しい音が生まれた。   「たぁっ!」 「あんの馬鹿っ!」   接近戦のバッシュに攻撃する訳にいかないのに、彼は見えない。 結果、的がモンスターの上半身に限られた。   「バッシュっ、戻れ!」   答えは返ってこない。 慌てて荷物の中から、逃げる為に取っておいた赤い牙を出し、モンスターに投げつけた。   「バッシュ下がれ!」   確認する術が無いが、小さな走る音を聞いて、銃を立て続けに撃った。 カランと音が一つ。 その後続いて、モンスターの崩れる大きな音が響いた。   「バルフレアっ!」   見えない姿が、自分を抱きしめていた。   「ごめんっ!ごめんなさいっ!怖くて…バルフレアが真っ赤になっていくのが怖くて……俺…俺…フォローしなくちゃいけないのに…分かっていたのに………ごめんなさい……ごめんなさい……」   バニシガの効果が薄れてきたバッシュの体が、徐々に現れてくる。 それほど、時間がかかっていたという事。 バッシュが攻撃しなくても、あの方法を取らざる得なかったのが分かる。 こんな戦いを経験していない子供に、自分の状態が分かるはずもなく、仕方が無いとため息をつきながら、バッシュの頭を撫でた。   「ほら、ケアルしろ」 「あ、う、うん。ケアル!」   もう流れる血は無い。   「お前の一回のケアルで十分だったろ?」   バッシュが驚いたように、バルフレアの体をまじまじと見る。   「最初の攻撃で、あの程度なら問題ないと分かったからな」 「…ごめんなさい」 「そんな事も、そのうち自分で分かるようになるさ」 「うん…ごめんなさい…」   涙をぼたぼた流しながら、繰り返し言う謝罪の言葉に、バルフレアはクスリと笑う。 まだ半透明の頭を上に向かせ、その額にキスを一つ。   「ばっ………?!!」 「お前のフォローで随分助かった。ありがとうな」   驚いて、涙が止まった。   「んだ、こんな挨拶みたいなキスもしたことなかったのか?」   口の端をあげた、皮肉な笑みにも目が奪われる。   「ほら帰るぞ。薬草はちゃんとあるな?」   慌てて荷物を確認して、またバルフレアを見上げた。   「どうした?」   少し赤くなった顔をブンブンと横に振って、バッシュは急いで足を動かし始めた。                 ◇◆◇                 「またな」   最初に出会った洞窟まで、一匹のモンスターとも出会わずにたどり着いた。 ボスを倒したおかげで、全てのモンスターが消えたのだろう。 そういう事がたまに起こる。 とりあえずラッキーと思いながら、疲れの濃い二人はのんびり話しながら歩いていた。 バッシュが立ち止まる。   「バルフレア…」 「お前も、またなだろ?」   大きな瞳が潤み始める。   「おいおい。また会うんだろ?」 「バルフレアは…どうするんだ?」 「ボスを倒した場所に、白いクリスタルがあったろ?  あれで、たぶん帰れるさ」   バッシュの手がバルフレアの服を握る。   「帰れなかった…ら…」 「帰れるさ、俺は運がいいからな。ここでお前に会えただろ?」 「……」 「お前に会えたから、薬草を取りに行ったから、帰り道を見つけられた。  そうだな?」 「……うん」 「ほら、弟が待ってるぞ」 「うん…っ」 「また会おうなバッシュ」 「うん…うん!バルフレアっ!絶対っ!」 「生き残れよ」 「絶対、死なないっ!」   一文字に結んだ唇、零れ落ちそうな涙、それでも一生懸命笑おうとする顔、バッシュは、ぎゅっと一度彼に抱きついて、それから振り向かずに家に向かって走り出した。   「また…な…!」   途切れ途切れの別れの言葉が、バルフレアに届く。 バルフレアは、見てないのを分かっていたが、その背中に手を振った。   「さてと、戻りますかね」   その顔には、困ったような笑みが浮かんでいた。                 ◇◆◇                 「誰だ?」   問わなくても分かっていた。 見間違える訳がない。 二十年以上も時は経っていたが、バッシュの中では、未だはっきりと残っている。 そうだ、こんな声だった。 あの時と変わらない姿、そうやけに洒落た服装だった。 空賊バルフレア。 手配書を見た時、どれだけ驚いたか。 彼の子供かとさえ思った。 それでも、これが彼だと直感で思った。 その姿が目の前にある。 自分は、もう子供の姿をしていない。 彼には、わからないだろう。 その瞳が自分に注がれる。 一瞬、彼の口の端が少しあがった。 あの時見た、彼に似合う皮肉げな笑み。 交わす言葉は他人。 しかし、その意味は明らかだった。   『会えたな』   唇の動きが音にならない言葉をバッシュに伝える。         そして、同じ時が刻まれ始めた…………       -End-  

     

  この間、バッシュが子供バルに会ったんで、逆をいきたいなーと。 あの話でバルがバッシュに会う訳にはいかなかったんで、新しく捏造しましたVv これだって、続きを書きたいヨVv 妄想は果てしなく続いておりますです。 せめて×が付くまで頑張りたいなーVv  

  07.07.02 未読猫