おとうさんといっしょ(after Bahamut)  

  「さぁて、どこから帰るかな?」   崩壊していくバハムートの中、バルフレアは、のんびりと落下物を避けながら歩き出す。   「さすがにリフトまでは、復帰できてないだろうしな…」   たとえリフトが動いたとしても、もう自分の足は無い。   「ま、俺が主人公だ。どうにかなるだろ」   口の端をあげた瞬間、自分以外の声が響く。   「こっちに、来い」   自分の声に答える声が無いはずの場所。 驚いて声の方向に顔を向ける。   「シドの息子、こっちだ」   目の前に、ヴェーネスが浮かんでいた。   ◆おとうさんといっしょ(after Bahamut)   黒い影、ヴェーネスが示したのは、残された一機のヴァルファーレ。 バルフレアは、ヴェーネスが指し示す道の通りにそのまま操縦し、見知らぬ屋敷にたどり着く。 今、その一室にバルフレアとフランは居た。   「あー…」   目の前のベッドにフランを横たえ、バルフレアが頬をかく。 フランは、困ったように影を見上げている。   「ここに、救急箱はあるか?」   人では無い者に、救急箱というモノに意味があるか分からないが、聞く相手がそれしかいない。バルフレアは、困ったようにヴェーネスに尋ねた。   「そこの戸棚にないか?」   示された扉を開けて、とりあえず安心する。見慣れた救急箱を取り出し、フランの横に置いた。   「聞きたい事があるから、まだ消えるなよ」 「安心するがいい。我も伝えたい事がある」   バルフレアの表情が、訝しげなものになる。 言いたい事ではない。伝えたい事。しかも、他の仲間、王女やラーサーではなく、自分というのが分からなかった。 しかし、目の前の怪我を放っておく訳にもいかず、考える事をやめ、フランの足を診る。   「やっぱり、折れてるのかしら?」 「たぶんな。とりあえず、固定だ」   そう言って、添え木になるようなものを物色し、フランの足を固定していく。   「さすが、賢いファムだ」   体が硬直した。 なんか、遥か昔に決別したはずの言葉が、耳に入ってきた気がする。   「シドが言っていた可愛いファムは、大きくなっているから分からないが、今の治療の手際といい、バハムートを修理した腕といい、器用なファムと賢いファムは変わっていないのだな」 「ひ、独り言は、人に聞こえないように言えーーーーーっ!!!!」   体中の毛を逆立て、怒鳴る。 バルフレアは、恐ろしい予感に苛まれながらも、それが的中するのだけは勘弁してくれと、とりあえず必死に神に祈っていた。   「独り言ではないぞ、ファム」 「名前が違うっ!俺の名は、バルフレアだっ!!」 「その名は自分がつけたのではないし、可愛くないと、シドが言っていたな」 「だぁーーーーーーーーーーーーーーっ!」   急激な頭痛に頭がくらくらしながらも、それを無視して頭をかきむしる。 フランの方から、笑いをこらえている気配を感じるから、そっち方向は絶対見ない。 かといって、浮かんでいる化け物の方はもっと見たくない。   「治療は終わったようだな。  とりあえず、可愛いファム、お前の聞きたい事とは何だ?」 「バルフレアっ!」   振り向きざまに怒鳴る。 その背後で、こらえきれずに吹き出す音が聞こえたのが堪えた。   「しかしなファム、我やヴェインは耳にたこが出来るぐらい聞いてきたのだ。  お前は、バルフレアじゃなく、可愛いファム以外の何者でもないであろう?」 「ヴェイン……?」 「そうだ。最後の戦いの時、たぶんヴェインは、お前の背後にいる者と同じように、笑っていたと思うぞ」 「……まじかよ…」 「ヴェインは、厳しい表情が得意だから、お前達には分からなかっただろうがな」   目の前には楽しそうに語る化け物、背後には既に隠そうともしない笑い声、バルフレアは泣き出しそうだった。   「ただ、ヴェインに、笑う資格は無いと思うがな」 「どういう意味だ?」 「あれは、愛しいラーサーの事を語ると、シドと同じように、我を忘れる性質だった…」   笑いを含んだ声は、その光景を思い出しながらも、その相手が既に居ない今が寂しいと言っている。 しかし、バルフレアはそんな事に気遣う所ではない。口を開く元気もなく、座り込んでいる。 フランは、しょうがないとばかりに、ヴェーネスの方に顔を向けた。   「もしかして、息子対弟で、口論があったのかしら?」   しかし、選んだ会話内容が、これ。バルフレアに追い討ちをかける。   「そうだ。  それぞれ受け継いだ資質や、立場の違いがあるのにも関わらず、二人は自慢しいだったのでな、一生涯平行線の口喧嘩を良くしていた」 「でも、仲間だったのね?」 「そうだ、ヴィエラ族の者」 「私は、フラン」 「フラン、我はヴェーネスという」   こういう落ち着いた自己紹介がしたかったと、バルフレアは恨めしげにヴェーネスを見上げる。   「仕方が無い。我のファムについての知識は、シドから全て教え込まれた」 「……もしかして…」 「ファムは知っているか?  ドラクロア研究所のシドの部屋の一角にな、ファムランエリアがある」 「あぁ〜〜〜〜まだ残ってんのかよ〜〜〜」   がっくりと両腕を床につき、うなだれる。   「それは何かしら?」 「それはだな「言うなっ!」   フランが、クスクス笑う。   「バルフレア…今更じゃないかしら?」   決して短く無い、付き合いの二人。 家を飛び出して間もない時期に出会ったフランには、かなりみっともない自分を大量に見られている。   「それに貴方の話ではないでしょう?」 「くそーーーーーーーーー…、まさか親の話がこんなに頭の痛い、恥ずかしい話とは想像つかなかったぜ…」   再び頭を抱えたバルフレアを一瞥して、フランはヴェーネスに話を促す。   「いいのか?」 「勝手にしろ」   そして語られる、恥ずかしい話。 ファムランエリアには、バルフレアが家出するまでの長い年月の間に作られてきた数々のグッズが置いてあった。 父に宛てた手紙(小さい頃に結構書いたらしい)。 ありとあらゆるお絵かき(クレヨン画から始まって、学校での秀作まで)。 組み立てたあらゆる道具(父親から手ほどきを受けた成果)。 小さかった頃の服。 気に入っていたぬいぐるみから、工具。 ファムラン博物館と言っても過言でない、品々。 そして父親は頭が良かった。 全てのモノがいつ頃のモノで、どういった思い出があるのかを、全て覚えていた。   「我は、柔らかいシドの笑みと共に、全部を聞かせてもらった」 「楽しかった?」 「あぁ、楽しかった。シドが、一番嬉しそうな顔をしていたからな」 「そう…私もそれがどんな顔か、知っていると思うわ」   フランが、小さく笑う。   「最後に、笑った顔がそうだと思うのだけど?違うかしら?」 「あぁ、あれがシドだ」   バルフレアは、呆然と二人を見ていた。 最後の最後に、昔良く見た笑みを浮かべ、『最後まで逃げ切らんか、馬鹿者』と言っていた顔が自分の中に残っている。   「先に我が、ファムに伝えよう。  『いつまでも自由に。いつまでも飛んで行け』  それがシドの全てだった」 「それで、あの馬鹿げた行動か?」 「そうだ、全てはファムの為。  我は、それを伝える為に来た」   バルフレアの掌は、きつく握り締められる。   「あの…馬鹿……」   空いた手が顔に覆われ、二人からはバルフレアの表情は見えない。 フランは小さなため息をついて、礼儀正しい顔を逸らし、ヴェーネスは静かにバルフレアを見ていた。   「だとすると……ヴェイン…もか……?」 「ふ…さすがだな。  ヴェインは、ラーサーの為に」 「………馬鹿だ…」 「そうか?我は、あの二人らしいと思う」 「…大馬鹿…だ…」 「二人とも不器用だからな」   ヴェーネスの声は、笑いを含んでいる。 不器用どころか、凄まじいまでの行動力と頭をもって、世界を揺るがした。   「あれだけ…力も頭もあって……どうして……」 「あの二人には、他の人間なぞ見えてなかった。  シドは、ファムランだけ。  ヴェインは、ラーサーだけ。  たった、その二人だけの為に、動いた」   多くの人間が犠牲になった。 多くの残った人間が悲しみの中に居た。 それら全ては、たった一つの剣を動かす為。 それこそが、大切な一人の未来をもたらす鍵。 シドもヴェインも、ただ一人の自由な未来を勝ち得る為に、戦っていた。 両手が真っ赤に染まる事も厭わない。 それこそが誇りだと、死の世界に胸張って歩き去った。 その全てをヴェーネスは、見ていた。 既に、この世界は自由。 その結果に酷く満足していた。 ただ、二人が今横に居ないことだけが少し残念なだけ。   「全ての失った命よりも、ファムが大切だったのだよ」 「…俺は……俺は……そんな事は望んでいない…」 「そうだな。  だから、お前達は、違う道を示した。  戦争を起こすのではなく、繭を壊したではないか」 「だが、あの剣は…あれは…」   バルフレアの声が、くぐもる。   「良くやった。  我らは、そう思っている」 「…馬…鹿野郎……」 「ありがとう」   嬉しいと、心からの声が部屋の中に響く。   「ファムランの問いは、何だ?」 「…もういい……分かった……」   問いは唯一つ。 なぜ、自分達を助けたか。もう十分に分かっている。   「ここは、我らの隠れ家、男の秘密基地だそうだ。  傷が癒えるまで居るといい」   顔をあげたバルフレアは、苦笑を浮かべていた。   「聞きたい事が出来た。また繭が作られる可能性は?」 「さぁ、我にも分からぬ。  我らに時は無い。何か別のものが生まれるやもしれぬ」 「その時は、呼んでくれ。  俺が生きてなければ、俺の子供の所にでも」 「分かった。  我は、この世界の行く末をずっと見ている。  自由を阻む動きがある時には、必ず訪れよう」   もう苦笑は無い。バルフレアの真剣な視線は、ヴェーネスに真っ直ぐ向けられていた。   「これから、ラーサーの所へ行くのか?」 「そうだ。さすが、賢いファムランだ」   名前の前に余分なモノをつけるなと、顔をしかめるバルフレアに、小さな笑い声が返る。   「ラーサーに伝言を」 「聞こう」 「お前の兄は、凄い男だなと…」 「分かった。伝えよう」   嬉しそうな声が答える。   「では、ファムラン、フラン、二人が作った自由な世界で自由に生きよ」   そう言った姿は、もう消えている。 暖かい言葉の余韻だけが、部屋に流れていた。   「貴方のお父様は、凄い人ね」   フランは、バルフレアの背中に向けて、聞こえるか聞こえないかのぎりぎりな音を紡ぐ。   「……そうか?」 「そうよ」 「…じゃぁ、負けないようにするか」   バルフレアは、立ち上がる。   「俺は、この屋敷の探索と物資集め。  フランは、治療に専念」 「分かったわ」 「シュトラールを取り返すまでは、陸路しかないからな」   扉に向かって歩くバルフレアは、フランに背を向けたまま、手をあげる。   「次は何を盗る?」   バルフレアの足が、止まる。   「そうだな…、とりあえずドラクロア研究所の一部屋破壊だな」 「あら…戦利品はもちろんあるのよね?」 「ポーションの一個ぐらいはあるだろ」 「それだけじゃ足りないわ」   クスクスとフランが笑う。   「コレクションの一つぐらい持って帰りたいわ」 「フラン!」 「いいでしょ?」 「だめだ」   フランの返事も聞かずに、荒々しく扉が閉められる。 部屋の中で、「しょうがないわね」と呟いた人影は、窓の外の木々を静かに見つめている。 廊下に佇み、「くそっ…」と、辛そうに声を漏らした人影は、再び俯き、奥歯をかみ締めていた。   -End-  

     

  前半戦と違い、後半戦の重いこと<うちのサイト比200%増 実は、後半戦の内容は、最近頭の中だけで展開している、バルフレア夢からもってきて…げほげほ…。 やっぱり、伝えてあげないとね。 神になりたかった訳ではないんだと。 自分の息子or弟が一番なんだと、威張りたかったんだと<違っ あ、でも、一応自称主人公は、戦ったけど、ラーサーはガブラス君に守られてたもんなぁ。 天国か地獄か分からないけど、絶対シドが威張っているな…f('';) あ、レダスと、ガブラスが加わって、大変?!! レダスはバルフレア派?ガブラスが間違いなくラーサー派で……お空の上は楽しそうだな……ここでも異界を作るべきだ…( ゚゚)o   ということで、FF12メモリアルアルバム希望! バルフレアの話し方がサンジくんになる前にぜひっ!<ってかなっている。 気が付くと、「素敵なれでぃ〜、ロイヤルミルクティでもいかが?」とかいいかねないっ(泣笑)

  06.09.24 未読猫