07.11.15 未読猫「ナブレウス湿原だとすると、デッドリーボーンが問題だな」 「ロビーを見つけた時点で突っ込まず、徐々に近づいて現れたデッドリーボーンを倒していくしかないだろ」 「パンネロ、私達の後ろから前に出ないようにな」 「はい!」 バルフレア、バッシュ、パンネロの三人は、ナブレウス湿原、はげましを受けた地に立っていた。 「あ、フォーバーと、フォカロルが出てきたら、俺がいいって言うまで誰も手を出すなよ」 「何でだ?」 パンネロも、首をかしげている。 「お嬢ちゃんに、新しい弓と矢をプレゼントしたいんでね」 「なるほどな」 ペルセウスの弓を持ったパンネロが、不思議そうに二人を見上げる。 今、自分が持っている弓は、まだ買っていくばくも経っていない。それに今まで持っていた弓より十分に強かった。 「まだ、先は随分と長そうだぜ」 「今から集めていないと、間に合わないだろう?」 「もっと、強いモンスターが出てきますか?」 バルフレアは口の端をあげ、バッシュは苦笑する事によって、それを肯定する。 「俺達は、いつもお嬢ちゃんに助けてもらってるから、借りはちゃんと返さないとな」 「そ、そんなこと…」 「いいや、確かにそうだ。 君がいるから、安心して前に出れるのだからな」 モブの強さによっても組むメンバーは変わってくるが、困難な地形、モブだけじゃなく他のモンスターにも気配りをしなければならない強いモブの場合この三人が組む事が多い。バッシュとバルフレアが戦闘に専念し、パンネロが白、緑魔法に徹する。 既に合図を送らなくても、しっかりとした役割分担が出来ている。 その戦友にプレゼントは当然だろうと、バルフレアとバッシュは笑う。 パンネロも、真っ赤になって嬉しそうに笑った。 「私……役立ってるんですね…」 「凄くな」 「もちろんだ」 こうして話しながら歩いていても、三人はそれぞれの役割をこなしている。 「来たぞ」 バッシュがバルフレアを促した。 目の前に突然現れるフォーバー。 「大人しく待ってろよ」 バルフレアは、軽い足取りでフォーバーに近づく。 二人に手出しをさせないのは、一回で盗めるとは限らないから。 決して弱くないメンバー。 この程度の敵に、時間はかからない。 だが、それでは盗めなくなる。 だから、一切の手出しをさせない。 「ちっ……いいぜ」 バルフレアの手に強奪品。だが、手にしたのはやまびこ草。そう簡単に手に入るとは思っていなかったが、それでも腹立たしくて自然と舌打ちが漏れる。 振り返り、八つ当たりのようにフォーバーを切り裂いた。 「どうぞ」 バルフレアがパンネロにやまびこ草を差し出す。 「あぁ、私達には不要のものだな」 「だろ?」 「ありがとうございます。大切に使いますね」 二人は、パンネロが居るときには、まったく呪文を唱えない。 戦闘力としては低い自分でも、役立っていると感じさせてくれる優しい二人に、パンネロは深々と頭をさげた。 「この先は…」 「あぁ、デッドリーボーンがやたら出てきた所だな…」 ナブレウス湿原を一周して、最後に残った場所。 バルフレアも、バッシュも、ここじゃ無い事を祈っていた。 以前ン・モゥ賊に無理やり勇者という称号を押し付けられ、メダルを受け取った場所。 祠に行くまでの道、そこかしこからデッドリーボーンが現れる。仲間全員で来たにも関わらず、かなり悩まされた。 「不味いな」 「居るとしたらあの祠あたりか…」 攻撃だけではない、やたらと魔法を使い全体攻撃をしてくる。 そんな中では、モブ退治など集中できやしない。 「とにかくデッドリーボーンを倒すのが先だな…」 「その間、邪魔をされないよう、ロビーに色々魔法を試してみますね」 「いや…後々の事を考えて、それは止めておこう」 バッシュの掌が光り、そのままパンネロの体を包み込む。 プロテス。 「叔父様…?」 「この先大変そうだからな、全部ケアルに取っといてくれ」 バルフレアの掌が光り、同じようにパンネロの体を包み込む。 シェル。 そして、二人は、自分自身にも魔法をかけた。 「これなら魔力は関係ないからな」 「私達の魔法で十分だ」 「さぁ、行くとしますかね」 バルフレアは、パンネロの頭をぽんと一つ叩いて、先を促した。 (流石に無理があったな…) 既にデッドリーボーンは、一体も居ない。 だが、バルフレアは普段とは違い、服を真っ赤に染めていた。 (昨日の今日で、複数の敵を相手にするのは無謀だろ?) 大丈夫と言ってたが、大丈夫じゃないと、心の中でぼやく。 一対一の戦いならば、この程度の相手十分に対処は出来ていた。しかし、複数の敵に体がまだ追いつかない。 一瞬、刀を持っているかのように体が動きそうになる。 違う重みに、体の重心がずれる。 その度に、血を流す体。 一体に対しては強い二人にとっても、あまりに多い敵は、パンネロを庇う事で精一杯。 お互いのフォローさえも出来ない。 (お嬢ちゃんもいっぱいいっぱいだよなぁ…) 背後で聞こえる乱れた息。 (さっさと終わらせないとな) バルフレアは、目の前に残ったロビーを見据え、歯を食いしばる。 足を踏み出した。 ロビーの怒りの一撃をかわせず、バルフレアは体全体でそれを受けていた。 そのまま傾いていく体。 バッシュの目の前が真っ白になる。それなのに彼の姿だけは、はっきりと見える。 頭がショートする。 「嫌だ」と声高に体中が叫んだ。 ロビーの存在を忘れ、口が勝手に「アレイズ」と叫んでいた。 「叔父様っ?!」 パンネロは、用意していた呪文を捨て、攻撃されたバッシュの為にケアルダを紡ぐ。 今まで整然としていた、三人での攻守のバランスが崩れた。 立ち上がったバルフレアは、崩れたバランスを察知しフォローするが、一瞬の乱れはモンスターのつけこむ隙になる。 必死の攻防が始まった。 余裕などない。 剣を持つ。 呪文を紡ぐ。 敵を攻撃する。 防御を整える。 それぞれが、立て続けに、やらなければならない事を、武器をもつ手を、呪文を唱える口を、必死になって動かしていた。 ズンッ… 重い音が響き、巨体が地面を揺らしながら倒れ、光の粒が四方に散らばる。 そして、三人は崩れるように座り込んだ。 「バルフレア!」 バッシュは、片手をついたまま、真っ直ぐに彼を見る。 「君の事が好きだ!」 やっと見つけた。 彼の瞳の意味するものよりも強烈な意思。 必死に戦っている最中、ずっとバッシュは笑っていた。 嬉しくて。 安堵して。 もういつでも手を伸ばす事が出来ると知って。 「俺もだ…と言いたい所だが…」 バルフレアの親指がパンネロを指す。 そこには、真っ赤になって口を覆い、目を丸くしている彼女が居た。 「何か問題があるのか?」 「あると言いたいんだが……あんたは…無いんだな」 相変わらずのバッシュの台詞にバルフレアは、頭を抱えたいが顔が笑ってしまう。 必ず答えを出すと聞いてから、それなりに経った時間。 諦めが肝心だと、どんな答えが来てもいいようにと考えるようになっていた。 それが、満面の笑みと共に思いも寄らない言葉を大声で伝えられた。 バルフレアはよろけながら無様に立ち上がり、バッシュに近寄る。 「お嬢ちゃん」 「は、はい」 「目を閉じてろよ」 「はいっ!」 パンネロは、慌てて硬く目を閉じる。 「バッシュ…」 「何だ?」 「もう手加減なんかしてやらないからな。 俺は、あんたの全てを奪う」 バッシュの前に座り頬に手を添える。 バッシュの腕がバルフレアの頭にまわる。 唇が静かに重なった。 -continue・・・-