07.08.08 未読猫あれから一週間、半よっぱらいだった二人は、方や最初思った事とは180度違う方向に結論を出しなおし、方や困惑していた。 ◆ラストエリクサーより凄いもの バルフレアは、手を抜いて手を出していた。 己は、空賊。 自分の首で飛空挺が買えるぐらいの、立派な空賊。 欲しいものがあるなら、全て奪ってしまえが信条の空賊。 しかし、お子様を強姦したらやばいだろ? 確かに相手は、もう立派な大人になったどころか、自分より年上にまでなっていたが、映像が激しく邪魔をする。 目の前に浮かぶは、キラキラの瞳と髪の毛とお強請り上手の笑顔。 バッシュを見ると、色濃く重なる子供の頃の可愛い表情。 強姦はいけない…どころか、出来ない。 結論、バルフレアは口付けている。 バッシュは困惑していた。 己は、将軍。 ダルマスカにその人ありとまで謳われていた、立派な将軍。 騎士として生きる為に、精神を磨き、腕を鍛え、真っ直ぐ歩いてきた。 その磨いてきたはずの精神が役立たず。 気が付くと、唇が奪われている。 掠めるようなキス。 挨拶のようなキス。 そして、まるで恋人達が交わすような濃厚なキス。 もう、寝る前のキスは習慣化してしまった。 それならば慣れてもいいはずなのに、未だ冷静に受け止める事が出来ない。 彼の行動は、子供扱いの一環だろう。 そう思っているのに、蓋をしたはずの心がざわめく。 自分の意思の自由にならない体が、動き出しそうになる。 しかし、その前に離れていく体。 そして、もう一つ問題がもちあがってきた。 蓋をしたのなら考えなければいいのに、ついつい考えてしまった事が一つ。 はたして自分は、彼を抱きたいのだろうか?それとも抱かれたいのだろうか? そっち方面に疎い自分だが、男世界の軍に居る時に、男同士の話を聞いた事があった。 「ウォースラ」 「何だ?」 「男同士というのは、どうやって抱き合うのだ?」 その後もの凄く嫌な顔をされ、吐き捨てるように「ケツ」と言って、暫くの間口をきいてくれなくなった。後にも先にもあんな言葉を使ったウォースラを見たのは、あの時だけだった。 過去を懐かしんでいる場合では無いと、バッシュは頭を振る。 とりあえず考える。 組み敷かれているバルフレアを思い浮かべた瞬間、これは違うと頭から永久削除した。 バッシュにとって、血まみれになっても笑みを絶やさず戦っていた姿が彼だった。そんな彼が女性みたいに組み敷かれるなどと、問題外。 そして、自分が組み敷かれる場合を想像した。 鳥肌がたった。 気色悪すぎる。 馬鹿に間違って相手が自分に好意を持っていたとしても、冷める、萎える、逃げる。 なぜ彼が自分にキスをするのか分からないが、それがなくなるのは寂しい。 かといって、自分の理性がいつまでもつかも分からない。 押し倒せない。 押し倒される事も出来ない。 結論、バッシュは困惑したまま。 既にまわりは寝静まっている。 慣れてしまった野宿。クリスタルを囲むように、それぞれが楽な姿勢を自然と取り、一日の疲れを癒す為、貪るように寝る。 その寝息の中、くちゅりと音が漏れる。 その後に甘いため息。 頬を染めたバッシュは、俯き右手をきつく握っていた。 「おやすみ、バッシュ」 俯いた額にキスを落とし、バルフレアは立ち上がり彼から離れる。 伸びそうになる腕を、意思を総動員して抑えた。 どんなに唇を重ねようと、それ以上の事だけはしないと決めている。 バルフレアは、ずっと手を伸ばす瞬間を待っていた。 素面でキスをしても嫌がらない。 困った顔をしても、逃げない。 決して一方的なキスでは無いが、彼からしてくることは無い。 それを待っている。 どうしてと聞かれたら、望みを答える。 彼からの、明確な意思が欲しかった。 だからキスをする。 だから待っている。 ◇◆◇ 寄せ集めの一時だけだったはずの仲間。 しかし、誰一人漏れず、今も旅をしている。 戦いに慣れ、戦利品によって裕福になった仲間達は、休息も余裕を持って取れるようになる。 バーフォンハイムの宿屋。 バッシュは、与えられた個室でベッドに腰掛けて闇を見据えていた。 そこにノックの音。 バッシュは一瞬泣きそうな表情を浮かべ、諦めたように立ち上がりドアに向かった。 「どうした?」 暗い部屋。 精彩を欠くバッシュの表情。 「何もないが…」 「何も無いって顔じゃないな」 バルフレアの手は、自然とバッシュの顔に伸び撫でる。 「ほら、言ってみろよ」 「いや…本当に何も……」 「そうかねぇ」 とてもそうには見えないが、これ以上の詮索はしない。 明日が最後。 バルフレアは、この部屋に賭けをしに来ていた。 「ちょっと話があるんだが…いいか?」 「話?」 「あぁ、明後日からのお前が、何をする予定か聞かせてくれ」 バッシュの体がぶれる。 ずっとその事だけを考えていた。 以前の自分なら簡単だった。 ダルマスカは、既に帰る場所ではなくなっている。 この後、たとえダルマスカにアーシェが立ったとしても、帝国の悪辣な罠は消えない。 自分が戻って、アーシェに迷惑をかけては意味が無い。 少し離れた所からダルマスカを見ていくだろう。 いつでも走っていける距離で、剣を持っていればいいと、思うだけでよかった。 明日になったら、どんな結果が出ようと、全員が別れる。 敗北して、捕まれば今度こそ死。 勝利を得れば、自分以外の全員が元通りの生活に戻っていく。 目の前の優しい手が、離れていく。 それは、敗北よりも怖かった。 「もし、その時になっても決まってなかったら来いよ」 その言葉に、バッシュの顔があがる。 「お前は、仲間だろ?最後まで付き合うと言ったはずだぜ」 ウィンク一つに、やけに小粋な笑み。 何度見ても、目を奪われるそれ。 「ま、お前が行き先を決めたとしても、ちゃんとおやすみのキスをしに行ってやるからな」 「ど……どこに……行ってもか?」 「あぁ、ちゃんと行く」 額に一つ小さなキス。 「明日も、明後日も、変わらないさ」 もう一つ、唇にキス。 バッシュの顔が真っ赤に染まった。 「あ…あの…だな」 「んー?」 「な…なぜ、………るのだ?」 口の中でもごもご呟いた言葉は、バルフレアに届かない。 聞こえないと、バルフレアが近づいて来て、慌ててバッシュは仰け反る。 「んだよ」 「そ、そ、そんな…ち、近づかなくても…」 「聞こえないんだよ」 「だ、だから……」 「だから?」 「なぜ……口付ける……のか…と…」 真っ赤になったバッシュの前に、満面の笑み。 「あれから……随分経ったよな。 ようやく質問してくれたな」 「な…」 「お前が俺にキスをくれたら、教えてやるよ」 最後に深く唇を重ねる。 「バッシュ、おやすみな」 話をして表情が明るく変わった事に、聞きたかった質問してきた事に満足して、バルフレアは手をひらひらとさせながら、自分の部屋に戻った。 ◇◆◇ あの時が最後のキスだった。 気が付くと、自分が歩かねばならない道が敷かれ、日々が過ぎていく。 自分の傍に居ないまま消えてしまった。 彼がどうなったかも分からない。 子供の時に見た、真っ赤に染まった姿を思い出すたびに、それだけは在り得ない事実だと首を横に振る。 退路を作らずに、彼があそこに行ったとは到底思えない。 短い付き合いだったが、濃い時間を過ごしたと思う。そのぐらいは分かる。 いつか変わらない姿を見せ、同じようにキスをしてくれるのだろう。 その時はと思っている。 こんなに会えない時間がくるとは思わなかったから。 今度こそ後悔しないように。 「明日も、明後日も、変わらないさ」 変わったではないかと、たまに空に向かって文句を言うのが癖になった。 その度に苦笑が浮かぶ。 子供扱いされても仕方が無いと思える自分。 彼の前では、彼の事を思う度に、子供に戻ってしまう。 (早く来ないと、キスをしてやらんからな) これも駄々っ子みたいだと思い、頭を掻きながら、自分の部屋のドアを開けた。 「よぉ」 「遅いっ!」 怒鳴りながらも、震える足に力を入れ、彼に一歩踏み出した。 -End-
なんかさー、もー他人から見たら、いちゃこらしているようにしか見えない二人なんですけどー(ーー;) どうして、それで、恋人同士じゃないかなぁ?(ーー;) ところで、これで終わりとか言ったら座布団投げつけられもの?(^-^;) や、一応続きみたいなシーンは浮かんでいるんですが……甘々は…め、面倒かなぁ〜……なんて…あはは…。 ちなみに、ラストエリクサーより凄いものは、もちろん「愛」っすよ<臭っ