「邪魔するぞ!」   風のように入ってきて、グラミス皇帝の三男ヴェイン、いわゆる偉い人を掻っ攫って行ったのは、一応肩書き偉い人、一応名門の当主様だが、皇帝の肩書きの前には霞む程度の一般市民のシド所長。 そして、体育会系とは相容れない、マイノリティーなその男が、ヴェインの体重をものともせずに、抱えるように走り去った。   ◆絆   「シド?」 「……ぜぃぜぃ」 「…ドクターシド?」 「………ぜぃぜぃ」   反応まったく無し。 普段、研究者はこうあるべき者の見本のような、冷静沈着男が、何かに取り付かれたように、走っている。 ヴェインは、問う事を諦め、とりあえず早く下ろしてくれと思いながらも、大人しく抱えられたまま。 そしてシドは、その勢いのまま、自分専用の研究室に飛び込み鍵を閉め、そしてその勢いでヴェインを落とし、へたり込んだ。   「っつ〜……どうした、シド」   未だ息を荒くしながらも、ニンマリと笑った顔が返ってくる。   「……何かあったのか?」   それに答えるように、口の端をあげる。 今まで、面白い事を見つけたこの顔のシドに、裏切られた事は無い。   「ヴェイン・カルダス・ソリドール、お前が許せない事は何だ?」   想像だにしなかった問いに、訝しげな表情が浮かぶ。   「ヴェイン、お前の人生はお前のモノだな?」 「当然だ」 「だが、お前は皇帝の息子として生を受け、今や次期皇帝と言われている。その道は、お前の意思か?初めから歩みたいと望んだものか?」 「初めからと言われてもな…それに皇帝になると決まった訳でもない。  そうだな、前に言ったな、今の私には成し遂げたい事がある。その為には、このポジションに生をうけ、良かったと思っているが…それでは答えになってはいないか?」 「くっくっ……お前らしい答えだ」   自分で敷いた人生では無かったはずなににも関わらず、その中で自分の生き様を見つけ、己だけで将来を切り開こうとする者の瞳が、シドを見ていた。 その瞳にシドが笑う。しかし、シドの瞳は決して笑ってはいなかった。 それに気づいてはいたが、研究者と名の付く者は、回りくどいのが属性だと、随分前に気づかされていた。 ヴェインは、話の先を促しもせず、シドの顔を面白げに見返す。   「面白い者と出会った」 「ほぉ…」 「決して受け入れられない、真実を知った」 「確か、ヤクト・ディフォールに行ってたのだったな?」 「あぁ…」   シドの顔が虚空を仰ぎ、口が小さくヴェーネスという名を綴る。 その視線の先に、闇が生まれた。 それが徐々に人とは思えぬ姿を形づくる。 それを余すところなくヴェインは、見続けた。   「この世の歴史を動かしてきた者の一人、ヴェーネス」 「…歴史を動かしてきた?」   ヴェインの視線が、険しくなる。   「そうだ。  この世界には、神と名乗る馬鹿共が存在している。その馬鹿が偉そうに自分勝手に、我らの歴史を操ってきている。  それが今のこの世界の歴史だ。  不滅なる魂を持った不遜なる者達、オキューリアと呼ばれる奴等が作ってきた歴史だ」   自然拳が握られ、力が入る。   「彼は、オキューリアの中から生まれた異端。  我々がおせっかいの馬鹿共から自由になる為に、力を貸してくれると言っている」 「信用できるのか?」   シドが、ヴェーネスを仰ぎ見る。   「我は、見たいのだよ。  自由に解き放たれたこの世界を。  限りある生を持つ人が、どのような道を辿っていくのかを」   生き物としての表情を持ち合わせていないその顔からは、何一つ読み取ることが出来ない。しかし、この部屋に流れた声音は、憧れと一途な望みを表していた。   「さぁ、何をする?  俺も、お前に今まで以上に手を貸そう」   自分にとっても我慢ならない事。同じように目の前の眼鏡の奥で笑っている男にとっても我慢ならない事。 自然口元に笑みが浮かぶ。   「詳しい話を聞こうではないか。  それからだ」   自分とは相容れぬ生き物から、笑い声が漏れる。 シドとヴェインも笑っている。 力も、頭脳も、知識もここにある。 何一つ出来ない事はない。 部屋の中に物騒な光と、楽しげな声と、そして前だけを歩こうとする強い意思が生まれた。   -End-  

     

  お笑いをね、書こうと思ったのよ。 最初のタイトルなんか、「十年、待たせたからな(違っ)」ですよ byFFX やんちゃなおっさんと、やんちゃな青年と、やんちゃな化け物をね、書きたかったのよ。 ……f(ーー;)激しく失敗した…。   結構というか、かなり、この三人組が好きです。 地位も立場もあるのにねー…なんか悪巧みって言葉が似合いそうな感じ? シドの台詞、ヴェインの台詞、ヴェーネスの台詞がね、お互いを語る台詞がね、いい感じですよねぇ…悪役だけどさ(゚゚ ) 別に神になんかなろうとは思っていなかったと思うのよ。 ただ、オキューリアが許せなかったから。それだけだったと思うのよ。 シドは、バルフレアにね。 ヴェインは、ラーサーにね。 ヴェーネスは、残った人間達にね。 それぞれが居るから、託したから。…うーん、言葉が思いつかん。 ま、私にとっての、この三人はそんな感じです(^-^)b  

  06.09.19 未読猫