ヴァンの受難  

  喧嘩が多いよりはずっといい環境なんだろう。 仲間なんだし。 仲がいいにこしたことはない…………が………今現実に自分が直面しているのは違うと、声を大にしていいたい。   (あんたら二人は、俺を子供扱いしていたよな?)   だったら、この状況はダメだろうと自分は思う。 耳をふさいでも聞こえる十八禁の音各種。 いつも落ち着いた大人の声が、甘く掠れている。 ベッドがギシギシ軋む。 そしてもう一人は、いつも以上に色気のある声を出して、やばい台詞を連発。   (俺は、男同士の行為なんて、知りたくなかったっ!)   女性との行為でさえ、基本路線しか知らなかったのに、やばい知識は増え放題。 じらして強請らせる。 言葉攻め。 かるいSM。   (俺は、そんなもん知りたくなかったんだーーーーっ!)   ◆ヴァンの受難   そして今日も、今夜も、宿屋内男部屋で繰り広げられる十八禁。 今まで一生懸命耐えてきたヴァンも限界だった。   「やるなら、外でやれーーーーーーーーーーっ!」   被っていた布団を跳ね除け怒鳴る。 しかし、相手は将軍で、空賊だった。   「仲間はずれのつもりはなかったのだが……」 「外は寒いだろ?」   同時に平然と返された言葉がこれ。 裸で手招きしている大人が凄く嫌っ! ニンマリ笑って自分の次の動作を待ってる大人も激しく嫌っ! とにかく言葉が通じていない空気が死ぬほど嫌っっ!!   「俺は静かに寝た…っ?!」   相手は将軍(Lv.84)だった。 相手は空賊(Lv.84)だった。 空賊見習いの己は(Lv.60)…勝ち目無し。 しかも挟み撃ち。 逃げ場ゼロ。   「おおおおおおお俺は、子供なんだろ」 「あ〜?子供扱いすんなって言ってたのは誰だっけかね〜?」 「バルフレアの初体験は、16だそうだ」   背後からの笑いを含んだ声。 前面からの変に真面目な声。   「おおお俺は、寝たいだけだってっ!」 「だから」 「やるんだろ?」 「違ぁぁぁっぁぁうっ!睡眠っ!熟睡させろっ!!」   身動きできない状態でも、必死になって叫ぶ。 それしか出来ないから。   「運動した後の方が熟睡しやすいぞ」 「俺は、毎日大量にモンスターを倒しているから、もう運動なんて必要ないっ!」 「倒れるように寝るってのも、おつなもんだぜ」 「普通に寝かせろってっ!」   前面は生真面目に返してくる…疲れる。 背面はからかっている。間違いなくからかっている…頭が痛い。   「な、なんだよっ」   自分の体を上から下まで、まじまじと見ている視線が痛い。   「君の場合、抱かれる方かな」   にっこり笑って言われた。   「じゃぁあんた、突っ込んでみるか?」 「たまには、いいかもしれんな」   頭の上で、笑いあっている気配がする。 今、自分の前には、異質な扉が一つ。 それを開けたら、絶対、二度と、間違いなく、戻れない代物。 絶対絶命という言葉の使用方法を知った。 今だ!今っ! だらだらと流れ落ちる汗が止まらない。   「怯えなくても大丈夫だ。  私はやられ慣れているからな。痛い思いはさせない」   声が出ないから、ぶんぶん首を横に振る。   「なぁ、ヴァン」 「ひゃぁぁっ?!!」   耳元で聞こえた声は、頭まで被った布団ごしに聞いていた声の1000倍の破壊力。 座っていて良かった。 絶対腰が抜けている。   「俺は、非常に心が狭いんだ」 「な、何っ?!」 「毎日でも抱いてないと、安心出来ないんだよ」 「は?」 「だから邪魔すんな。  今度したら、まじで掘るぜ」   どうやったらそんな声が出るのだか不明。 色っぽい上に、殺気を上乗せ。   「むぅ……君がヴァンを抱くのは、私が嫌なんだが」 「あんたがこいつを抱いたら、俺はこいつを戦闘不能にする」 (痴話喧嘩かよっ!だったら、俺を離せっ!!)   声に出しては言えない。 未だに、ひしひしと背中に殺気を感じるから。   「……嬉しいな」 (俺が戦闘不能になって嬉しいのかぁぁぁっぁぁぁっ!!俺は嬉しくないっ!!)   ヴァンの頭の上が、狭くなる。 人の上で、子供の上で、キスなんかするんじゃないっと怒鳴りたいが、さっきの言葉がリフレイン中。 戦闘不能にはなりたくない。   「ってことで、お子様は寝た、寝た」 「ヴァン、おやすみな」   ベッドから放り出された。 すごすごとベッドに戻る自分が激しく可哀相だと思う。 アーシェに言いつけてやると思ったが、報復が怖い。   そして、今夜も頭ごと布団を被って、眠りが訪れるのを泣きながら待つヴァンだった。     -End-  

     

  バルバシュを書く時に困るのがヴァンの存在なんですよ。 だって、どう考えたって、個室になるのは旅の最後の方。それまでは絶対ヴァンも一緒の部屋のはず………激しく邪魔。<おいおい 御一行様の時は楽だった。なにせ召還師様。ブラスカ様は別部屋ですからねぇf(^-^;) ということで、ヴァンの受難です。 私の苦労を思い知りやがれ<おいおい という訳で、こんな話が出来たらしいです。 ビぃバ!バルバシュ!!  

  07.08.29 未読猫