審判の霊樹エクスデス 4  

  「あのだな……話があるのだが…いいか?」   一週間分の疲労に加え今日の召還獣との戦闘、全員の疲労はマックスを軽く振り切っていた。今夜もう一日モスフォーラ山地で休息を取る事にした一行は、あの後速攻でテントを設営し、倒れるように眠りに入った。 バルフレアは、別の意味で疲れていたが、数週間分の休みを体験させられたおかげで体は楽だった。寝静まってしまったテントから一人離れ、ようやく会えた空をぼんやり見上げていた。   「何だ?」   寝てしまったと思っていた相手、今一番会いたくなかった相手が、なぜか立っている。   「座ってもいいか?」   バルフレアは、黙って横をあける。   「んで?」 「ファムラン?」   バルフレアの目が見開く。   「やはり…君の名前はファムラン・ミド・ブナンザなのだな…」 「…そんな名前は知らない」 「君は、自分で名乗っただろう?」   一瞬、あの世界に戻ってしまったかと思った。   「……何言ってる?」 「この間の日曜日には、秋葉に行って電子部品を漁ったな」 「はぁ〜っ?!!」   幻聴が聞こえる。あのやけに楽しそうな笑い声が頭の中にこだましている気がする。 我が作ったって、どう作りやがったっ!と、バルフレアは頭の中の幻聴に罵倒する。   「私は、この世界の記憶を全て封じられ、あの世界の擬似記憶を植え付けられていたようだ」   困ったような顔が目の前にある。   「その植えつけられた記憶の事なのだが………」   背中に嫌ぁ〜んな汗を感じる。   「あの部屋には、ベッドが一つしかなっかっただろう?」   思い出す、巨大ベッド。デカイ男二人が一緒に寝ても、十分な大きさだった。   「同居していたという設定だったのだが……」   バッシュは、誰ととは言わない。言わなくても十分に伝わった。   「あれは……何の審判だったのだ?」   楽しみにしてるってこの事か?と、泣きそうになってきた。   「君が言っていたあの逸話は、事実だったのだろう?  だとしたら、あの生活のどこに審判があったのか知りたくてな。だめだろうか?」   あの木は、毎回こんなお節介をしてきたのかと、頭が痛くなってきた。 だとしたら、どんな審判だったか、受けた者が誰も言わないのも頷ける。 手で顔を覆い、バッシュの視線から逃げた。   「勘弁してくれ……」   情けない言葉が洩れる。   「ならば、違う事なら答えてもらえるだろうか?」 「何だよ」 「最後に君は、ここにキスをしてくれただろう?あれは…あれには、意味があるのだろうか?」   物凄い直球。恐る恐る顔をあげたら、いつもの変わらない笑顔が額の傷を指差していた。 なぜ、今までああも鈍感に、この笑顔を受けていられたかが分からない。心臓が煩くざわめいている。   「意味があるとしたら、どうすんだよ?」   自棄になった心が、勝手に言葉を吐いた。   「私にとって、ファムランは大切な人間だったのだ」 「それは、植えつけられた記憶だろう?」 「それはどうだろうか?  私は、本国の自動車会社に入社して、最初研究部門に配属されていた。  その多くの部署では、大学との提携をしていて、そこでファムランに出会った。  彼は、スキップしていて、若干15歳で大学院に行き、そこで構造解析をしていた。  素直で研究熱心な子供だったよ。それが、一年もしないうちに激変した。  彼は彼の父親の研究を手伝おうと、必死になって頑張っていたのだが、彼の父親は違う事を考えていたのだろう。突然彼に経営学に移るよう言ってきたのだよ。確かに彼の父親は研究者だったが、その研究所の経営者でもあった。そこの経営を任せようと思ったのだろうな」   バルフレアの眉間に皺が寄る。どこかで聞いたような話。   「彼は必死になって父親を説得したんだが、結局経営学に移った。  彼は賢い子供だったから、そちらに移っても問題はなかったのだが、日に日に憔悴していく彼が見ていられなくなってな……会社が日本の自動車会社と提携し、自分が日本に行く事が決まった時、ファムランを誘ってみたんだ。  彼は、大学を止め、家を出て、会社に就職し、自分の好きな研究が出来る環境に居る事を選んだよ」 「だが、その記憶は……」 「あぁ、確かに植えつけられたものだろうが、その事に対し私が思った事や、生まれた感情は違う。私は、それを知っている」 「何がいいたい?」   バルフレアは、探るようにバッシュを見る。   「君は……帝国に生まれたのだろう?あのドラクロア研究所と、何の関係がある?」 「相変わらず疑われてるって事か」   バルフレアは、いつもの態度に戻っている。それどころか苦々しい。   「いや、そういう訳ではないのだ。  私が植え付けられた記憶は、召還獣が創作したにしては、リアリティがありすぎると思ってな。  それに、私にそんな記憶を植え付けた理由が分からない。  君を審判するのだったら、そんな記憶なんか必要はないだろう?  私は、随分と長い時間の記憶を持たされた。  ファムランが15の時からの記憶があるんだぞ。  ファムランは父親を愛していた。彼の研究の手助けが出来るよう一生懸命勉強をしていた。それだけでなく、その研究がとても好きだった。  それを取り上げられた彼は、半分死んでいたようだった。  子供らしい明るさを一切無くし、捨てられた子猫のようにいつも泣きそうだった………」   バルフレアの顔が無様に歪む。   「だから、君に会わせたかったんだ。  君は、空を飛空艇を空賊という生き方を愛し、それを選んだ事を誇りにしていた。  君の話を聞いているだけで、それが十分に伝わってきた。  それを、彼に聞かせたかったんだ」 「誇りね……ただ、逃げてるだけだろ……」 「バルフレア?」 「ったく、なんつー設定をしやがる……俺の記憶を全部晒しやがって……」   バッシュは、バルフレアをまじまじと見た。   「あれは……」 「そうだ、俺の記憶をあっち用にアレンジしたんだろ」 「ではドラクロア研究所には………」 「あぁ、破魔石を持って待っているのは俺の父親だ。くそっ……俺は…まだ囚われたままだ……」 「バルフレア…」 「ドラクロア研究所所長シドルファス・デム・ブナンザ…ドクター・シド…俺の父親……突然周囲を一切見なくなり、俺さえも退けられ、一緒に研究していたものを全部捨てさせ、俺をジャッジにした……」 「君がジャッジを?」 「廃棄されそうになっていたYPA-GB47、シュトラールの情報。偶然出会ったフラン。その出会いがなければ、まだジャッジをしていたかもな……フランは盗んでしまえと、笑いながら俺に言ったよ。俺達の最初の獲物は、シュトラールだったのさ」 「だが、君は今、帝国へ、その研究所へ行こうとしているのだろう?それを選んだのだろう?」 「そうだ……たとえ今逃げたとしても、またいつか自分に追いついてくる……ようやくそれが分かった訳だ…」 「君は、ファムランなのだな…」   バルフレアは、違うとは言わなかった。   「私の知っているファムランは君なのだな…」 「だから?」 「私は、君が好きなんだ」   バルフレアは、無言で立ち上がった。嬉しいはずの言葉が酷く苦々しい。   「バルフレア?」 「同情か?はっ、あんたはどこまで目出度く出来てるんだ?  ファムランが怒鳴ってただろ?  『どうしてあんたは、何もかも自分の腕の中に入れようとするんだ』ってな。  俺は庇護される王女でも、孤児のガキでもない。  俺に手を伸ばすなっ!」 「ち、違うっ!」   バッシュの手が、バルフレアの腕を掴む。   「庇護していたのは、君だっただろう?」   怪訝そうな顔が、バッシュを見下ろす。   「君は、ずっと私を庇護していた」 「して…いた?」 「君らしい、とても分かりにくいものだったが、君の言葉や行動は全て私を守っていた…私にはそう思えたよ。  ファムランもそうだったが、私はそんなに頼りないかな?」   ドスンと音を立て、バルフレアが再び座り込む。 だが、バッシュの方は見ようとしない。見たくても出来ない。 顔が熱い。きっと赤くなっている。   「ここまでの間、君の迷惑にならないよう、早く元の自分に戻るよう鍛錬もしていたのだが……山頂での戦いでも君は私を庇って余分な怪我を負っていただろう?」 「そう…だったか?」 「そうだ。だから、あのキスに意味があるなら、その意味が知りたいと思っている」   バルフレアは、ひたすら頭を抱えていた。 ほんの少し前、この世界の時間にしたら数時間前。あの世界で過ごした時間を入れても一日も満たない前にようやく自覚した気持ち。 あの時、暗い部屋で思い出していた記憶は足りなかったらしい。 頭は気づかなくても、気づいていた体は勝手に動いていたのだろう。 しかし、ようやく頭が追いついた今、どう動いていいかまったく分からない。 相手が一晩限りの女性になら、いくらでも出てくる言葉がある。だが、真剣に欲しいと思ってしまった相手、しかも男性で、年上で…せめて女性だったら、それこそ勝手に体が動いていたかもしれないが現実は違う。   「なぁバッシュ…」 「何だ?」 「俺は、あんたに手を出していいのか?」   だから、こんな無様な言葉、直球勝負の将軍様みたいな言葉しか出なかった。   「こっちを向いてくれないか?」   渋々バッシュの方に顔を向ける。   「君のジーンズ姿は、凄く似合っていたのに、もう見れないのだな」 「あんたのスーツ姿は、似合ってなかったぜ。良かったな、あんな衣装がこの世界になくて」 「厚切りのポテトチップスは、もう食べられないな」 「納豆を見なくてすむなら、そっちを選ぶさ」   バッシュは眉間に皺をよせ頷き、それを見てバルフレアが笑う。   「くさやの干物というのがあるらしい。それは、納豆以上に凄いと聞いていたんだが……」 「あぁ、もういい」   バルフレア手が、バッシュの顔を引き寄せる。 コツンと額がくっついた。   「あんな、食べ物とは思えないもんの話はもういいだろ?  で、返答はどうしたよ」 「私は、守る事ばかりだった………守られるのは、随分といいものなのだな」 「そうか?」   吐息が混じるぐらいに近い距離。   「私は君を、ファムランを守りたかったのだがな…」 「守られるのなんてガラじゃない」   あまりに近すぎて焦点を結ばない映像。   「そうだな…君は、私なんかよりずっと騎士らし……」   バッシュの言葉は、バルフレアの口の中に消えた。 お互いの柔らかさと暖かさが触れ合う程度の交わり。 それも、すぐに離れる。   「これ以上は、やばいから止めな」 「確かに……」   バッシュの頬にキスを一つ。   「……なんというか……恥ずかしいものだな」 「あんたも、してくれたっていいんだぜ」   バルフレアが、自分の頬を叩く。 やたら生真面目な顔がバルフレアの頬に近づき、唇を落とした。   「……確かに照れくさいな」 「だろう?」 「そろそろ戻るか。じゃないと本気でやばい」   二人は、立ち上がり、のんびりと歩き出す。 バルフレアが、バッシュに振り向いた。   「次の宿で、さっきの続きをするからな」 「あぁ」 「それから…俺も、あんたが好きだ」   バッシュが、くすりと笑う。   「分かっているよ」   そのバッシュの声に重なるように、バルフレアの頭の中では、縁結びの霊樹の笑い声が響いていた。     -End-  

     

  【後日話1】   「君が彼に出会った頃、あの頃のバルフレアは、もの凄く可愛いかったのだな」 「ふふふ、本当に。一生懸命だったでしょう?」 「思わず手を伸ばしてしまった」 「分かるわ。ついつい浚ってしまったものvv」 「てめぇら……何話してやがるっ!」   ちゃぶ台ど〜ん  

     

  【後日話2】   『感謝の気持ちを聞きに来た。ほら、言いたいだろう?』 「…………」 『ん?今度の主は随分と恥ずかしがり屋さんなのだな。ほら、素直な気持ちを言ってみるがいい』 「フランっ!!この召還獣、お前にやるっ!こんなのいらねぇっ、!」   フランの笑い声と、バルフレアの頭の中の笑い声の二重奏。   『今度の主は、からかいがいがあるのぉVv』    

     

  毎回の事ではあるんですが、ゲーム攻略としては当然細かく書いてあるアルティマニアでも、小説書くための細かい設定ってのが、なかなか……f(^-^;) 特に、電化製品とかね。どうなってんやろ?と思うんですわ。 地上に蔓延している菌の詳細ってのはどうなの?すっげく気になる。 あれだけ立派な戦艦を作る技術があるんだけど、一般家庭ってどんなもんなの?謎は深まるばかり。 そこら辺を微妙に避けて書きました…あはは。 FFVに出てくるエクスデスがやけに可愛いおじぃさんだった事に驚きつつ、話し方がシドにならないよう気をつけて……どんなもんでしょう?  

 
  07.11.15 未読猫