A point to stare at 6  

  ノックの音。 のろのろと顔をあげる。 何も返事をしないのにも関わらず、扉が開く。   「お邪魔するわ」   フランが立っていた。   ◆A point to stare at 6   直ぐに会話には至らなかった。 フランは、バッシュの姿を一目見て風呂に行くよう命じ、自分は食べていないだろう彼の為に食料調達に走った。 ため息が漏れる。 だいたい想像した通りだったのだが、それにしてもと思う。 一番年若い子供達より、たちが悪い。 まるで子供を諭すように、着替えたバッシュに食べろと母親のごとく命令する。 テーブルの上から、食べ物が消えるまで、フランは辛抱強く待った。   「すまない…」 「そう思うのなら、私に話をしてくれるかしら?」   バッシュは、訝しげにフランを見る。   「彼は、貴方に何と言ったの?」   そのまま強張った。   「彼の気持には、随分前から気づいていたの。  それをどうするつもりなのかも聞いていたわ。  だけど、貴方は彼を欲しいと思ったのでしょう?」   ぎこちなく頷く。 この目の前のヴィエラには、隠し事の一つも出来ないと分かった。 今までの事、そしてセロビ台地での事、全てを包み隠さず話した。   「私は、彼に手を伸ばしてはいけないのだろうか?」   バッシュの言葉に、今までの話に頭が痛くなってきた。 なってないとばかりに額に手をあて、首をふる。   「……ヒュムというのは、幾つになったら大人になるのかしらね」 「二十歳だろうか?」   生真面目に返される台詞が、頭痛を促進させる。   「貴方は三十を超えていたわね」 「あぁ」 「なのに、分からないのね?」 「……す、すまない……こういう事は初めてで……」   深々と、これ見よがしのため息。   「別に知らなくても分かるでしょう?  貴方の周りに、家庭を持っている人や、恋人達は居なかったのかしら?」 「いたが…」 「彼らは、彼女らは、相手を一日中拘束していたの?」 「…いいや」   想像もしなかった問いに、呆然と答える。   「仕事だったり、趣味だったり、子育てだったり、それぞれが個人で過ごす時間はいくらでもあるわよね?  それこそ、数日離れている事もあるはずだわ」   初めて気づかされたと、バッシュはフランを見ながら頷く。   「ただ、そんな事は彼も分かっているのよ」 「なら…なぜ?」 「それだけ、貴方が国に寄せる想いが強いと思わせるからでしょうね」   バッシュにとって、自分の誇りと、彼に寄せる想いを量りにかける方法が分からない。 それこそ、本とキャンディを足したらいくつ?と聞かれているに等しい。 自分がその分野に疎くても知っている、あまりに古典的な問い「私と仕事とどっちが大切なの?」、とまったく同じ。 答えは出ない。 そんなバッシュを眺めているフランは、クスリと笑う。   「自分と空と、どちらが大切かどうか、聞いてみたら?」 「……私は、そんなに顔に出ているのか?」 「えぇ、とてもね」   フランは、今までバッシュが見た事もないような、酷く意地の悪い笑みを浮かべている。   「彼に気遣う必要などないのよ」   バッシュの目が見開かれる。   「彼は、貴方が好き。貴方は彼が好き。それで、いいのではないかしら?」 「いい…のだろうか?」 「少しは、我侭になったらどう?貴方は彼が欲しいのではないの?」 「欲しい…」 「なら、貴方らしく、したいようにしなさい」   まるで、教師のように、母親のように、呑み込みの悪い生徒に子供に対し、一つ一つ言葉を重ね呑み込ませていく。 それは、混乱していた男に一つの指針を与えた。 バッシュは、静かに一礼をし立ち上がる。   「どうするか、聞いてもいいかしら?」 「私は、彼のように口がまわらないからな」   そう言って、バッシュは自分の得物を叩く。   「得意分野で、叩き伏せようと思う」   バッシュは、晴々とした笑みを浮かべた。   「死なない程度にお願いね」 「当然だ。それでは私が困る」   もう一度フランに一礼し、バッシュは部屋を出る。 その背中に、小さな笑い声があたった。                 ◇◆◇                 バルフレアは、自分に割り当てられた部屋のノブを暫し握ったまま立っていた。 少し怯えながら扉を開く。 明け方近いうす闇の中、人影も気配も一切無い部屋が現れる。 それに安堵して、それに落胆して、部屋に一歩踏み入れた瞬間、首筋に冷たい硬質のものがあてられた。   「随分なお出迎えだな」   舌打ちを呑み込んで虚勢を張る。 相手が分からない以上動けない。 その瞬間、あからさまに現れる鮮やかな気配。   「……何のつもりだ?」   その慣れ親しんだ気配に向かって威嚇する。   「バッシュ」   相手の意図が読めない。   「すまない」   まったくそんな事を思っていない声音。   「私の得手は、これしかないもんでな」   1mmたりとも動く事が出来ない。 将軍まで登りつめた男の本気の剣は、荒事に慣れた空賊にでさえ身動きの一切を封じ込めた。 自然舌打ちが漏れる。 こんなものに屈する事は、自分のプライドが許さない。 意思を総動員する。 足を手を体を叱咤し、剣など無いがごとく体を無理やり動かした。 首筋から暖かいもののが流れてくる。 それも無視。 まっすぐ前を、バッシュを見た。   「素晴らしいご歓迎ですね」   元貴族としての形式美を具現させ、優雅な一礼を見せる。 動かない剣が既に出来た傷口を切り裂き、バルフレアの服を赤に染めていく。 しかし、バルフレアは口の端をあげる。まったく普段と変わらない笑みをバッシュに見せた。   「流石だな」 「あんた、何をのんびり言ってる?  どういうつもりだ、バッシュ。答えろっ!」 「言っただろう?君の領分では、私の意志を伝える術が無い。  だから、君に私の領分に来てもらう」   言葉が終わらないうちに、バルフレアの顔は激しい衝撃を受ける。 剣の腹で横殴りされたのに気づいた時には、肩に担がれていた。   「っ……!!」 「悪いが、付き合ってもらうぞ」   ベッドの上に放り出され、息つぐまもなく両首筋紙一枚の場所にナイフ出現し、体の上にはバッシュが居た。   「バッシュっ!」 「ケアル」   怒鳴るバルフレアを一切無視して、治療の言葉を紡ぐ。   「動くなよ、それほど私の魔法力は無いからな」 「自分でやる!ほっとけっ!」   バッシュを睨みつける瞳は、自分の意思を無視したやり方を良しとしないと声高に言っていた。   「仕方が無い」   バッシュは、サイドテーブルに用意しておいた紐を取り、彼の両手を手際よくベッドの枠にくくりつける。   「バッシュっ!」 「君が君の意思を貫くのなら、私は私の意志を貫く」   睨みあう瞳は、どちらも揺るがない。   「既に君は、君の意思を君のやり方で私に伝えた。  今度は私の番だ」   バルフレアの瞳が、初めて揺らぐ。   「君が私を好きな限り、私は君のものだ。  それを、分かるまで自由になれないと思え」   酷く切羽詰った、それでいて酷く落ち着いた声音。   「好きにしろ」 「あぁ、好きにさせてもらう」   言葉の通りバッシュは、淡々とバルフレアの服を脱がしていく。 その手が一瞬止まった。   「ヘマは、しないのではなかったのか?」 「……してないぜ」 「なら、この真新しい傷は?」 「ウルフとやりあった時のだろ」 「そうか…」   言った言葉どおり、バッシュは自分のしたい事をする事にしていた。 傷口に舌を這わす。 口の中に残る微かな鉄の味。 眉を顰めて、舐め続ける。 その間も、バッシュの手は休み無く動き続ける。バルフレアの服を脱がせ、自分の服を無造作に脱ぎ捨てた。   「私を見ていてくれると嬉しいのだが…」   背けられた顔をしばし見た後、困ったように言う。 好きにさせてもらうと啖呵を切った割に、律儀に聞いてくる。   「あんたのそんな姿見ていて、冷静でいれるとは思えないんでね」 「それは、嬉しいな」 「ちっ……」   バッシュは、まったく自分を見ないバルフレアを見て、クスリと笑う。 顔を背けているバルフレアは気づかない。バッシュは、酷く似合わない性質の悪い笑みを浮かべていた。   「君は知っているだろうか?」 「………」 「出せない事がどれだけ辛い事か」 「……何?」 「君が私を受け入れるまで、イケないと思ってくれ」 「…………そんな事をあんたに教えたのは、ヴェインか?」 「いや、ラスラ様だ。ヴェインは、割とまっとうなセックスをするぞ」   楽しそうに思い出しながら、真面目に返す内容ではない。 こんな所で、真っ当だと淡々と言われているのを知ったら、ヴェインは暴れだすだろうなとバルフレアは呆れながらも思う。 まったく、目の前の男の頭の回線は、どう感情と繋がっているか知りたいと真剣に思った。   「君の根性に期待する」   余計な事を考えていたバルフレアは、その言葉に慌ててバッシュを見上げる。 そこには、熱い瞳をもった真剣な顔があった。   「………好きにしろと言ったはずだぜ」   バッシュはそれに返事もせず、これが返事だとばかりに彼の雄を咥えた。 力無いそれに、舌を這わす。頬張って唇で扱く。まるで娼婦のように品の無い音をたて、喉の方まで吸い上げる。 しばらくの間、その音だけが部屋を支配していた。   「……っ」   小さな声が漏れる。 彼自身は既に立ち上がっていた。 ようやく淫らな音が止む。 バッシュは、手にしていた紐を手早く彼の雄に巻きつけ、キツク締めた。   「これからだからな」   バッシュの宣戦布告だった。             バルフレアの口の端から、握り締めた掌から血が流れている。   「くっ………」   最初バッシュが倒れていた時聞いた音と同じ音が、自分の口から漏れている。 部屋の中には、バッシュが漏らす甘い声と、自分の歯の音と、軋むベッドの音だけ。   ギリリ…   奥歯が割れるぐらい強く食いしばる。 バルフレア自身は、既にバッシュの中に深く咥え込まれ、ひっきりなしに快楽を伝えている。 その根元に、きっちりと結ばれた紐。 いきたくても、いけない。 目の前がチカチカする。 食いしばってないと、敗北の言葉を洩らしてしまいそうで、その度に歯が鳴る。   ギリリ…   バッシュの動きが止まった。   「君は…どこまで強情っぱりなんだ」 「それは……あんたもだろ」   ようやく目が合う。 どちらも睨んでいた。   「出したいのだろ?」 「俺にガンガンつっこまれたいんじゃねーのか?」   どちらも図星。 バルフレアは弱音を吐きそうになっていたし、バッシュは自分で動く限界にイラ付いていた。   「私を欲しいとは思わないのか?」 「惚れてるって言っただろ」   会話は平行線。 バッシュはバルフレアを諦める気はさらさらなかったし、バルフレアは国の恋人に手を伸ばす気はなかった。   「くっ………っ…こ、この…や…ろっ!」   バッシュは彼の言葉に対し、下腹に力を入れ彼の雄をしたたか締め付けて報復する。 そんな些細なお返しをしながらも、バッシュは困っていた。 このままでは、手に入らない。 この目の前のプライドの高い男を手に入れる為に、必死になって考えていた。 ふいに、フランの言葉がよぎる。 あまりな台詞だったが、既に策が自分の忍耐がつきかけていた。   「お前は、選ぶのなら私と空とどちらを選ぶのだ?」   重低音の問いかけ。   「あー?……取るなら、両方に決まってるだろっ!  俺は空賊だっ!」 「ならっ!国ごと俺を取れっ!!  全部俺だっ!」   火花の音がしそうなぐらい、二人はにらみ合っていた。   「全部あんただって?」 「そうだ」 「随分と豪華だな」 「価値があるだろう?空賊なら奪うべきじゃないのか?」   バルフレアは盛大に舌打ちをした後、バッシュを睨みつけるのを止め瞳を閉じる。 どんな事をしても逃げようと思っていた。 傷つくのが分かっていて、この手を取るのは馬鹿だとさえ思っていた。 そして、風車の下での会話を最後にした。 バッシュは、自分から離れる。 自分がそうした。 しかし今、バッシュが動いてくれた事を喜んでいる自分がいる。 まだ、手を伸ばせば届く所に居る。 伸ばしたがっている手がある。 この猪突猛進な男から逃げれる術が、あったはずなのに今は全然見えない。 目を開いた。 今までにカケラも無かった欲を含む瞳。 それが真っ直ぐ自分だけを見ている。 欲しかったもの。 それは、既に手に入っていた。   「この紐解けよ」   腕を振る。   「あんたの勝ちだよ」   忌々しげに言う。   「本当か?」 「信用ないな」 「お前は空賊だろう?」 「安心しろ、条件付きで俺はあんたのものだ」 「条件?」 「とにかく、これを外せ」   自由にするまでは話さないとばかりに、バルフレアは口を閉じ、真っ直ぐバッシュを見上げる。 ようやく自分を真っ直ぐ見てくれた。言葉も嬉しかったが、バッシュにとってそれで十分だった。   「ったく」   バルフレアは顔をしかめ、自由になった手首を捻った後、忌々しげに自分のモノに絡みついた紐を解く。   「すまないな…それで、条件というのは何だ?」 「約束しろ」 「何をだ?」 「あんたが、剣を持ってどこかに行きたくなったら、俺を連れて行け」   バッシュは、目を見開いてバルフレアを見る。   「俺には、もれなくフランと、シュトラールが付いてくる。お得だろ?」 「そう…だな」 「誓えよ」 「は?」 「あんたは、その時になったら、絶対俺を忘れていく。絶対にだ!  だから、誓え」 「……私の方が信用されてなかったのか」 「あんたのどこを見て、信用できるって思うんだ?」   誰に抱かれようとも、自分が守る国の為だけに動いてきた魂。 ようやく、それがヒュムを映したからと言って、変わるとは思えない。   「ほら、誓え」   バルフレアがベッドの脇に転がってた剣をバッシュに投げつける。   「この格好でか?」   お互い素っ裸。 どちらの雄も、未だに欲望を湛え立ち上がっている。   「格好なんざどうでもいいだろ?  あんたが、剣に誓う事に意義があるんだ」 「そうか……」   豪奢な広間。 幾多の貴族と国を運営する評議会の面々。 初めて国から下肢された剣を捧げた。 今、欲にまみれたまま、その時と変わらない姿勢で剣を掲げる。   「どこに行こうとも、お前と一緒だ」   バルフレアは、受け取った剣を美しい女性かのように、洒落たキスを落とす。   「破るなよ」 「あぁ」   渡された剣をもう一度掲げ、ベッドの脇に静かに置く。   「んで、覚悟は出来てるんだろうな?」 「覚悟?」   次の瞬間、バッシュはバルフレアに押し倒されていた。   「いくら泣いても、気絶するまで止めないからな」   バルフレアの口元は、いつも見せていた皮肉な笑みを刻んでいる。   「それは…楽しみだな」   バッシュは、嬉しそうに笑いながらバルフレアの首に両腕をまわした。                 ◇◆◇                 「あんたなぁ、帝国に就職したら、堂々と俺がついていけないだろ?」   最後の戦いから半年は過ぎていた。 あの時からバルフレアは姿を消し、バッシュは日々の忙しさに埋もれていた。   「お前の事だから、私の声明を、ノアの声を聞いていたのだろう?」 「聞いていたな…」   ジャッジ・ガブラスの部屋。 その窓枠に空族が座っていた。   「まったく、あんらしくて涙が出てくるぜ」 「来てくれたという事は、お前もここに留まるつもりなんだろ?」 「………まじかよ?」   言葉とは裏腹に、声は笑いを含んでいる。   「お前が望んだ事ではないか」 「………ジャッジは勘弁しろ。その代わり手はいくらでも貸してやる。俺は俺のままでな」   その言葉に安心して、一歩近づこうとした時、自分がまだノアの姿をしている事を思い出す。 慌てて重たい鎧を脱ぎ捨て、未だ窓枠に座っている空族を無理やり部屋へ引き入れた。   「待ちくたびれた」 「悪ぃ」   死んだとはカケラも思っていなかった。 ただ次に会う時、ジャッジになった自分を怒るだろうなとは思っていた。 しかしそれは無く、彼は再び自分に手を差し伸べてくれた。   「すまない…」 「何言ってんだ?」 「そうだな……嬉しいだった」   両腕を彼の首筋にまわす。 あの時と同じように抱きしめる。抱きしめられる。   「今度は君が誓ってくれ」 「ん?」 「二度と俺から離れないと……」 「あぁ、幾らでも。バッシュ」   バルフレアは恭しくバッシュの頬を手で包み、唇に触れるだけの口付けを贈る。   「そのかわり、あんたも俺に付き合えよ」 「当然だ」                           ジャッジ・ガブラスの所属する第9局の艦隊に、新しく腕のいい機械工が配属された。           そして空賊バルフレアに、新たな仲間が増えたという噂が密かに囁かれる。             -End-  

     

  げほげほっ……えーだめっすかね?これで終わりってのは……((((((^-^;) や、もう限界? どうやって終わらせていいか…さっぱるんるんでしたよorzねがてぃぶぅ〜 ぜいぜい、とりあえず恋愛街道を歩く事が出来た、バッシュくんの成長物語はエンドでございます。   ほんに最後だけ時間がかかってすんませんm(__;)m^^^(や、他ジャンルの連載よりは……もごもご) 思いつくもの全てギャグになってしまってf('';)ネタ頭が炸裂していまして…あはは。 ようやくこれなら、大丈夫?かもしれないようなネタになったんで、ここまでたどり着きました。 結局、バッシュを乙女にしきれず(;。。) さすが天然だけど将軍だったのねという、バッシュになっちまいやがりました。 ま、ほかで頑張ります<何を   暗いネタ(当サイト比)ではありましたが、楽しんでいただけると幸いでございますですm(__)m  

  07.07.14 未読猫