A point to stare at 3  

        俺が、あんたから欲しいものを言ってみな         その言葉が頭から離れない。 バッシュは、剣を振るいながらも、背後で的確に敵を倒していく銃の音を聞く、彼の気配を追い続ける、 そして、頭の中で、彼の声があの言葉を綴る。   俺が、あんたから欲しいものを言ってみな   自分は、何一つ持っていない。 バルフレアが、欲するもの……そんな価値のあるものなど、どこにもない。 死人で、何一つ守れなかった、力一つ無い者。それでも、みっともなく足掻き続けている者。 今自分に残っているのは、アーシェを守るという誓い、彼女の願いを叶える為の力、そして一振りの剣だけ。   以前彼が、アーシェから受け取った、一つの指輪。 それが、値打ちがあるとか、装飾が美しいとかの、物欲からきたものでは無い事を、今は知っている。 彼の言葉は、表面だけでは無い事がある。 ならば、今自分に突きつけられた問いも、深く考えるべきものなのかもしれない。   だから、彼自身の考えを深く探る。 敵を倒す。 倒しながら探す。   そして、バッシュは初めて気づく。 なぜ、戦っている最中に、アーシェ様を守っている最中に、考え事をしているのだ?   ◆A point to stare at 3   旅が長くなるにつれ、戦いに明け暮れる日々は、全員の体を疲弊させていた。 夜になる度、それぞれが落ち着く場所を決め、クリスタルの側で、倒れるように眠りにつく。 今日もいつものように倒れこみ、既にそこかしこから、規則正しい寝息があがっていた。 その中で、暗闇を見つめる瞳が一対。 あれからバッシュは、ずっとバルフレアの事を、バルフレアが欲しているものについて考えていた。   大砂海オルグ・エンサあたりから、バルフレアの視線をずっと感じていた。 自分の動きを逐一見続ける視線。 自分の変化を見逃さない視線。 薬の副作用から解放する為の、医者のような冷静な視線だった。   (なぜ、彼は自分を抱くのだろう?)   決して長くない付き合いだが、それでも彼がストレートなのは分かる。 旅の最初の頃、酒場で見かけていたのは、美しい女性とグラスを傾ける姿。そして、自然と肩を抱き酒場から消えていく姿。行き先を問うのは、野暮だろう。 女性に対する、そんな慣れた様子は、経験の豊富さを感じさせた。だから、彼は男相手であっても、的確に動けるのだろう。 ただ、自分ならどうだろう?と思う。 自分であるなら、はたして仲間だとしても、戦友だとしても、抱けるだろうか? 色々な顔を思い出しては、誰も、どんなに親しくても、無理だと思った。   (なぜ、彼は私を抱けるのだろう?)   彼が与えてくれるものは、優しいが、無機質で、機械的で、ただ出すだけの行為としか感じられない。抱くという行為に欲望が感じられない。なのに、体の中に入ってくる彼のモノだけは、酷く熱く感じる。 矛盾。 なぜ、抱くのだろう? なぜ、抱けるのだろう? なぜ、あれほど冷ややかなのだろう? なぜ、あんな行為をしながら、周囲の気配を探せるのだろう? なぜ、あんなに熱いのだろう? 分からない事ばかり…… ただ、一つだけ分かっているのは、彼が自分を嫌いだとは思っていないだろうという事。 ストレートな彼が、負の感情のまま、勃たせる事は出来ないだろう。 勃っているという事は、少しは、自分の事が好きなのだろうか?   好き?   バッシュは、動きを止め、もう一度心の中で「好き」と繰り返す。 その言葉が、やけに体にざわめきをもたらす。落ち着かない。 首を一回振って、肝心な事に思考を向ける。突然沸いた、理解出来ないざわめきは、見ない事にする。まるで怯えるように。   (何が欲しい?)   バッシュは、自分の脇に立てかけてある、唯一己のモノ、剣を見る。 確かに、それなりの価格で売れるだろうが、それでも流通品。たかが知れている。 しかし、剣以外となると、何も無い。 鎧、兜、バトルハーネス……こんなものは論外だろう。   (……言葉?)   いや、違うと、バッシュは首を振る。 自分は、彼に与えられる言葉なぞ持っていない。何を言って良いかも分からない。 バッシュの口から、ため息が漏れる。 あれから、ずっと同じ事を考えている。答えが出ない。   彼は、なぜ自分を抱くのだろう?   気が付くと、その事に思考が行ってしまう。 四日間隔になったら、終わりが見えると、彼は言った。 今日、四日あいて副作用が現れた。 それがいつも以上に、バッシュの心が、頭が、この事を「なぜ」と、考えさせる。   (もうすぐ終わってしまう)   その事が、酷く不安になる。   (なぜ?不安になるんだ?)   疑問が、増えていく。 答えは、出ない。                 ◇◆◇                 「もうそろそろかしら?」 「そうだな」   今日は副作用は出ないと判断し、昔ながらの相棒の近くに転がった。 バッシュから、距離をあける。   「ドラクロア研究所に行っても、旅は終わらないでしょうね」 「あぁ、終わらないだろうな……次はどこに行くんだか」 「だとしたら、まずいわね」 「あぁ…」   既に、四日に一回の割合になった。 その一回目が、ソーヘン地下宮殿、今日の昼。 あと一回…、たぶん最後になるであろう一回。 それは、今まで意志で抑えられていたものとは違い、立っている事さえ出来ないだろう。 流石に、遺跡や、洞窟内で処理できるものではない。   「せめて、三日以内に、宿屋がある所で落ち着けられればいいんだが……」 「もし無理なら、目の前の帝都で無理やり泊まるしかないわね。  モブ退治が結構残っているから、その線でいけるわ」 「そうだな……」   難しげな顔のまま、バルフレアは返事をする。 この旅は、自分の旅ではない。 アーシェの旅、彼女が主導権を握っている。自由に動けない事が少し疎ましい。 そして、バッシュが、彼女に異を唱えず、従っている姿を見ているのが苦い。   「ところで、随分と熱い視線をもらっているのね」   フランの笑う気配が伝わる。   「何言ってる?」 「あら、気づいてないとは、言わせないわ」   あの夜、問いを与えてから、ずっと視線を感じる。 答えを探しているのだろう。 しかし、彼には絶対答える事は出来ない。 そしてそのまま、道が別れ、この話は消える。 どうせ、あと一回か、二回。それさえ終わってしまえば、ただの仲間に戻り、そのうち会う事もない他人になるだろう。   「貴方は、どうするのかしら?」 「俺?」 「いい加減に諦めたらどう?顔に出ると言ったでしょう」   バルフレアの口から、舌打ちが漏れる。   「道が別れるのを、待っているのかしら?」   苦笑が浮かぶ。確かに長い付き合いだが、ここまで見透かされているとは思っていなかった。   「あぁ、そうだよ」 「でも、別れられるかしら?」 「あいつは将軍で、俺は空賊だ。簡単に別れられるさ」 「そうだといいわね」   そう言ってフランは、バルフレアに背を向ける。しかし、その背中が小刻みに震えていて、笑っているのが分かる。 バルフレアは、もう一度盛大に舌打ちして、フランに背中を向けた。                 ◇◆◇                 「落ち着けよ」 「あぁ……」 「あんたも、納得したんだろ?」 「あぁ!」 「王女さんの希望なんだから、仕方がないだろ」   もう返事もない。 バッシュは、部屋の中を落ち着き無く、うろうろしている。 ベッドの上に寝そべったバルフレアは、苦笑を浮かべながら、そんな姿を見ている。 ここは、港町バーフォンハイムの宿屋の一室。あれから、丁度四日目。フランと決めた通り、他の仲間は全員レベルアップの為に、強い二人を残し、モブ退治に出かけた。   「…君達が、そう仕向けたのだろ」   苛立たしげな声。   「そうだ」   それを否定もせずに、大したことはないと、バルフレアはさらりと言う。   「なんでっ!」 「理由は二つ。  一つは、あんたが過保護すぎるって事。あいつらも、この旅に参加しているんだ。このままで良い訳がないだろ」 「しかしっ!」 「フランが居る」   フランが、強いのは分かっている。 多くの武器に精通し、冷静に状況を把握し、素早く指示をする事が出来る。 バッシュもその事は、十分分かっているが、戦いに絶対は無い事を知っているだけに、口調が自然と荒くなる。   「もう一つの理由は、副作用だ。  たぶん今日、明日中に最後のやつが来る。それは、今までと違って、あんたでも立っていられないだろう」   バッシュは、この部屋に来て初めてバルフレアを見た。   「足手まといは嫌だろ?」 「………そうか」 「これから二日、この部屋から出るな」 「食事は?」 「安心しろ、用意してある」   バッシュは、呆然とバルフレアを見る。 副作用の対処を一番とし、フランと二人が動いた結果がこれだという事を知る。 昨日から、彼らに武器防具を揃えたり、助言を与えたり、各自の士気をあげたりしていたのは、全て自分の為だった。   「すまない…」 「あと少しだ。そうすれば、もう何も考えずに、あんたのやりたいようにアーシェに手を差し伸べられるさ」 「すまない……」 「これで、俺に煩わされる事もないだろ」 「なっ?!煩わしいなどと思った事はないっ…君は、君は、私の為に動いてくれているのに…どうしてそんな事を思うというのだ」   バルフレアは、怒鳴るバッシュを気だるげに見上げる。   「煩わしいと思っているのは……君…だろう…」 「俺は、役得と思ってるぜ」   バッシュは、首を横に振る。   「君は……ストレートだな?すまなかった、私は礼さえ言っていなかった」   ベッド端に座り、バルフレアを見下ろす。   「本当に、すまなかった。ありがとう」   バルフレアは何も言わず、バッシュの肩を小突く。   「最後に、何かリクエストはあるか?」   自分の心に蓋をしっかりした、バルフレアはおどけて言う。   「リクエスト?」 「あぁ。男はあんたが初めてだからな、俺はあれ以上、どうしていいか分からない」 「じゅ、じゅ、十分だ…」   いつもの変わらない皮肉な笑みと、からかうような口調を聞いて、体温があがるのを感じる。 あれで、初めてとは、流石だとさえ思った。   「あ……キ…ス」   何度も抱き合ったが、キスは一度もしていななとふと思い、それが口に付いた。   「キスをするのは嫌か?」 「あんたが、嫌なんじゃないのか?」   もう皮肉な笑みは無い。 酷く苦い表情に、バッシュの両手が伸びる。 顔を近づけ、唇に軽く触れた。   「君は、キスがヘタなのか?」 「はぁ〜?」 「いや…だから…ヘタだからしないのかと……っ?!!」   突然体が反転して、バルフレアに押さえつけられた。   「俺を誰だと思ってる?」 「バルフレアだろ?」 「感想を期待してるぜ」   バッシュは、呆然とバルフレアを見ていたが、あまりの近さに像がぼやける。唇に吐息と熱を感じて、キスをしているのだと知る。 ねっとりと、舌が唇を這い、そのまま歯列をなぞっていく。 背筋がぞくりとする。 自然、口がそれを受け入れるように開いた。 最初から、貪るように舌を蹂躙されていく。舌がからまり、吸われる。 やけに息苦しくて、心臓の音が煩い。 腕が強請るように、バルフレアの背中に伸びる。 抱きしめる体温に、安堵と嬉しさが沸く。 今、彼が齎している熱は、酷く熱くて、それが嬉しい。 隙間が無いくらい、抱き寄せて、吐息が漏れないよう唇を押し付けて、バッシュは、バルフレアの熱を貪った。   「…ん……」   小さな声が漏れた。 バルフレアの口元が、笑みに変わる。離れようと体を起し掛けると、舌が追いかけてきて、それを小さく一回吸った。   「…上手い…な」   唾液で濡れそぼる口が漏らす。 潤んだ瞳がバルフレアを真っ直ぐ見ていた。 動きそうになった。 手を伸ばしそうになった。 バルフレアは、指が動いた瞬間それに気づき、拳をきつく握り、無理やりいつもの笑みを浮かべる。   「当然だろ」   これ以上治療の目的以外に側にいたら、何をしてしまうか分からないと、体を離そうとしたら、腕を掴まれた。   「バッシュ?」   その腕が、バルフレアの体を引き寄せ、抱きしめる。   「お、おいっ!」 「バルフレア」   バッシュは、なるほどと心の中で思う。 離れる事が嫌だった。 熱が消えてしまうのが嫌だった。 体が勝手に動いた。 不安だったのは、冷たい手、無機質な視線、そしてこの関係が終わってしまう事、別れてしまう事。   「俺は、お前が欲しい」   そんな言葉が、自然と口から出た。   「な、何言って…」   バルフレアの瞳を覗き込む。   「欲し………くっ……あああああぁっ!!」   バッシュの体がみるみる赤くなり、体温があがる。 歯を食いしばろうとするのに、急激な快楽に体の全てが支配され、嬌声が止まらない。   「きたか……大丈夫、これが最後だ」   バッシュの唇に、小さくキスを落とす。   「俺に、全部任せろ」     -continue・・・-  

     

  がぁぁぁぁっ逃げるのが趣味なバルフレアだと、受けみたいだよほぉ〜、自力でキスぐらい奪えっ!あんた、空賊だろ? と、ちょっと思いました。 バッシュは、天然街道まっしぐらです。 題材として、普通だったら暗いはずなのに、天然将軍はのんきに過ごしております。 ので、少し頭を使わせてやりました<違 まぁ、考えすぎて逃げ腰の空賊よりはマシだな〜とは思っています。   これを打ち込みながら、次こそはカッコいいバルを書くっ!と、決心してる次第です。 <終わってもいないのに… この先も、バルはカッコ悪い予定なんだ……orz  

  07.04.25 未読猫