A point to stare at 2  

  「くっ…………うぅ……………ん…」   バッシュは、口にハンカチを咥え、ズボンを半ばまで下げた格好で、体を赤く染めている。   「……っ…」   その足元では、跪いたバルフレアが、彼の雄を咥え、蕾をかき回していた。   あれからバルフレアは、常にバッシュの動きを観察しながら戦っていた。 美しい太刀筋、流れるような動き。それが、微妙に変化する。太刀筋が僅かに鈍り、動きがぶれる。 その度に、事情を了解しているフランに合図を送り、仲間から離れ、モンスターを急ぎ倒しながら、建物の影に隠れる。 そこでバルフレアは、バッシュの熱が引くまで、ただ吐き出させる為の行為を淡々と行なっていた。 決してバッシュを見ない。 手は彼の熱を探り、意識は肩に食い込む彼の指から受ける痛みだけを追う。   「んんっ…っ」   無理やり高められた体は、薬の作用もあって、あっけなく精を吐き出した。 バルフレアは、口の中に広がる甘い、もしくは苦いものを飲み下し、彼の体から赤みが消え、熱が下がっていくのを確認してから、手早く身なりを整え、手に剣を持たせる。   「隣に気配が二つ」 「分かった」   その姿は、情事の名残を見つける事が出来ない。 足早にモンスターに向かい、剣を振るう。前だけを見つめ、進んでいく。 バルフレアは、口の中に残ったものは、やはり苦いと思いながら、その背から目を外し、銃を構えた。   ◆A point to stare at 2   あれから、時間のある時には体を重ね、余裕の無い時にはただ吐き出させるだけの作業──治療が続いていた。 始めの頃は、日に三度。 こんな状態を意思だけで押さえこんでいた精神力に、バルフレアは驚愕と共に、感動を覚えていた。 それに比べ、治療だと思い込む事が出来ず、抱きたいと思う気持が押さえ切れなくなってきている自分に、舌打ちをしたくなる。 逃げれるのなら、逃げたかった。 しかし、報酬のためだけだった旅は、自分の捨てた過去まで交わり始め、もはや逃げる事は出来ない。 今は、二日に一度。 あの前しか見ない瞳を、後何度見なくてはいけないのだろうか……。     一行は、ラバナスタに戻り、久しぶりの休息を静かな宿屋で取ることになった。 バルフレアの前には、ワインとグラス。 酒場に行く気にもなれず、女性と話すのも疎ましく思い、一人グラスを傾けていた。既にボトルは二本目、深酒をすれば、考えたくない事を考えずにすむはずだった。しかし、目の前には、その考えたく無い姿が幻のように浮かび、消える事がない。   「誰だ?」   小さく叩かれる扉。   「寝てしまったか?私だ」   幻の本体が、やってきた。一瞬寝ていると答えようとして、あの状態になっているのかもしれないと思い、バルフレアは、諦めてのろのろと立ち上がる。   「すまない…」 「いいや」   バッシュを見る限り、あの兆候は現れていない。 それならば、何の用だと、バルフレアは訝しげに彼を見る。   「聞きたい事があるのだが…」   バルフレアは、仕方が無いと、バッシュを部屋に入れ椅子を勧める。もう一つグラスを用意して、ワインを注いだ。 しかし、何も言わない。バッシュが話すのをグラスの中の真っ赤な液体を見ながら待っていた。   「あの…だな……私は、女性に見えるか?」 「は?」 「女性のような、外見をしているだろうか?」   バルフレアは、この突飛な質問に声を出す事も出来ず、首を横に振る。   「そうか…ならば、私の行動は、媚びているように見えるか?」 「何だそりゃぁ?」 「それぞれ理由は違うのだろうが…今まで組み伏せられる事が多かったのでな」 「組み……今まで?……多かったぁ?」 「三人ほどな」   困ったような顔が、バルフレアの前にあった。   「ノアの事なら分かる……しかし他の二人が、なぜ私を抱きたいと思ったのかが分からない……君ならば、答えをくれるのではないかと思ったんだが……」   話の内容が微妙な事なだけに、言いよどむ事のないバッシュが、言葉を選びながら、途切れ途切れに話す。   「ノア?」 「君も見ただろう?ガブラスは、母方の姓でな。弟は、ノア・フォン・ローゼンバーグという。  あれは、甘えん坊でな…」   目の前の男と同じ姿をしていたが、それに憎しみを湛えていた男を思い出す。甘えん坊という言葉には、間違っても繋がらない。 バルフレアは、混乱してきた頭を一回振って、諦めたようにため息をついた。   「分かった、最初から全部話してみろ。言いたくない事は、省いていい。  状況が分かれば、何か答えを与えられるかもしれないだろ」         「兄さん…」 「どうした?」 「明日から…兄さんとは別行動になる…な…」   ランディス共和国、大国の中で生きる小さな国。 いつ、大国が攻めてくるか分からない。いや、攻めるという言葉は正しく無い。吸収という言葉が正しいのだろう。 それでも大人しく吸収される事を、よしとする国は無い。 子供は、ある程度の年齢になれば、軍に所属し、来る戦いに備えて剣を振るうようになる。 当然、そこに生きていた、バッシュもノアも例外では無い。 同じように剣を持ち、同じ場所で成長していった。 二人には、類まれなる剣の才能があった。 それが、二人の道を別つ。 それぞれが己の部下を持ち、別の所属になり、違う日々を送るようになろうとしていた。   「仕方が無いだろ」 「俺は……兄さんの部下の方がよかった…な…」 「何を言ってる?お前は、強いじゃないか。  俺の部下なんて、もったいないだろ」   ノアが違うとばかりに、頭が横に振られる。   「俺は、兄さんと一緒に居たいんだ」 「所属が違っても、一緒に居るのは変わりはないさ。  お前も、俺も、ここが家だしな」   抱きついてきたノアの頭を、ぽんぽんと叩く。   「…そうだよな……でも…」 「大丈夫、ずっと一緒だ」   その時、その言葉に嘘は無かった。 しかし、帝国が動くという噂があちこちで囁かれるようになると、小さな国はにわかに慌しくなり、二人が顔を合わせる事も少なくなる。 たまに会うノアは、酷く暗い瞳でもの問いたげにバッシュを見る事が多くなった。 そして、その日がくる。   「ごめん…ごめん、兄さんっ…」 「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」   ならすことなく、潤滑剤もなく、体を引き裂くようにノアのモノが入ってきた。 ベッドに拘束されたバッシュの体は跳ね、シーツに鮮血が広がる。 しかし、涙を流していたのは、ノアだった。 離れたくないと、ごめんと、繰り返しうわ言のように囁かれる。 そんな彼に、バッシュは両手を伸ばし、抱きしめた。   「ここ…に…居…る」   激しい痛みの中で、歯を食いしばり、ノアの背中を撫でる。   「兄…さん」 「俺は…ここに…居る……」   ノアは、ぼたぼた涙を流しながら、バッシュを見る。 顔が歪んだ。 首が横に振られる。 真っ直ぐに見つめられているのにも関わらず、ノアは俺を見てくれと、辛そうに言った。   それから、家で二人が会う度に、同じような事が繰り返される。その度に、バッシュはここに居ると言いながら、ノアの背中を撫でていた。 そして、約一年後に、道が別れる。 バッシュは帝国に屈するのを拒み国を離れ、ノアはアルケイディアに仕える事になる。         「ノアは、赤子の頃からずっと私と共にあったからな。  きっと、帝国に敗れる事も、俺がそれに納得しない事も、それによって道が離れてしまう事も、予測していたのだろう…」   それを言うバッシュの表情は、無理やり体を開かされた事が、単なる弟の甘えの一つとして処理されている事を明確に表していた。 その事によって、矜持が壊される事もない。 ただ、弟への兄としての愛情だけが、あらわれていた。 それは違うと、バッシュの表情を洩らさず見ていたバルフレアは苦々しく思う。 「俺を見てくれ…」と言ったノアの気持が、分かってしまった。 きっと、剣を持った瞬間から、バッシュは騎士として国と結ばれてしまったのだろう。 彼の見ていたものは、きっと今と変わらない。 前しか見ない。 自分の守るべき国、者しか見えない。 一番近くに居た弟が、それに気づかない訳もなく。それが、バッシュの意思を無視した暴行となったのだろう。 間違いなく、彼はバッシュを愛していた。それが、兄弟としての独占欲だけだったにしても。 今、バルフレアが握りつぶそうとしている気持と同じものを持っていたのだろう。 前だけを見ている瞳には、それが見えない。   「次は?」   バルフレアは、彼の言葉に何も返事をせず、続きを促した。   「ラスラ様だ」 「ラスラ?…って、アーシェの旦那か?」 「あぁ…」   バッシュは、困ったような表情を浮かべた。         「貴方が、バッシュ将軍か?」   親しげにかけられた言葉に、跪ずいて答える。   「これから、貴国とは交流する事も多くなるだろう。  よろしく頼む」   勢力を拡大していく帝国に怯えた小国同士が、どうにかして対抗しようと考えた結果だった。 使者としてナブラディアに訪れたバッシュは、この時から両国の橋渡しとして、何度もラスラに会う事になる。 そのラスラに、三度目に会った時だった。   「バッシュ、私の部屋に来てくれないか?」   ラスラの後について通された部屋は、王家の王子としては、こじんまりとした部屋だった。 それでも、一目見て、職人の手作りと思われる美しい家具や、彫刻が飾られている。 バッシュは、勧められるまま椅子に座ったが、酷く居心地が悪く、未だ椅子に座らない王子に困惑していた。   「バッシュは、ダルマスカを愛しているのだな?」 「はい」 「もしも、帝国が攻めてきたとしたら、最後まで戦うのだろうな」   ラスラが、なぜそんな問いをかけるのかが、分からない。 ただ、あまりにも当然の事を問われ、バッシュは素直に頷いた。   「そうか……そうだな……それが、貴方だ」   奇麗に整った顔が、自分に近づいてくる。それが何を意味するかが分からなくて、バッシュはただそれを見ていた。唇に暖かな温もり。それが、キスだと分かり、慌てて相手を跳ね除けた。   「あ……し、失礼を…」   自分の立場を思い出し、急ぎ立ち上がる。   「構わないよ」   笑みが返された事に安心をするが、相手の意図がまったく分からず、困惑したまま。   「来たまえ」   言われるままにラスラの後に続き、より困惑する事になる。 ドアを開けたそこには、王族として問題の無い、広い天蓋付きのベッドのある寝室。しかし、なぜ自分がそこに連れてこられたのかが、分からない。   「ラスラ様?」 「私は、近い将来、君の国に行くことになるだろう。私は王子だからな……相手を選ぶことさえ出来ない……」 「アーシェ様は、お優しい方です」   そんなバッシュの言葉に、ラスラは苦笑を浮かべる。   「そうだな…」 「私もお傍に居ます。何か困った事があれば、いつでも言って下さい」   その言葉にも、苦笑を浮かべたまま。   「そうか…ならば、バッシュ将軍……私は、貴方を抱きたい」   手が差し伸べられた。 ここは、寝室で、言われた事は明確だった。 バッシュは、それを拒む立場に無い。 呆然としながらも、王族の気まぐれかと、ため息を隠しその手を取った。         「それから、ナブラディアに行くたびに、抱かれていた。  ラスラ様がラバナスタに来られてからは、そんな暇が無かったがな…」   アーシェとラスラの婚礼から一ヶ月もたたないうちに、ナブラディアは帝国に進入され、激しい戦となる。 その後、ナブラディアが突然滅亡し、ラスラが戦死、ダルマスカ軍は破れ、バッシュは陰謀に巻き込まれ死人となった。   バルフレアは、黙ってバッシュの言葉を聞きながら、心の中で盛大な舌打ちをしていた。 またかと思う。 ノアとは違い、ラスラはあからさまに告げている。 元来その手の事に鈍いのもあるのだろうが、国を守る事以外何も目に入らないその性質にため息が漏れる。 そんな人間を抱いていて、さぞラスラは空しかったのではないだろうか? あの、真っ直ぐな視線に囚われた者が二人。 次を聞くまでもなかった。 謎でも何でも無い。 ヴェインは、三人目になるのだろう。 決して手に入らない、決して自分を映さない瞳に焦がれた者達の話。 そして、自分が四人目になろうとしている。 いや、自分だけは、そんな愚か者にはならないと、己の救われない気持に蓋をし、バッシュを見た。   「最後は、ヴェインか?」 「そうだが…」   なぜ知っていると、不思議そうな顔が問う。   「あそこで、あの薬を使い、あんたを自由に出来るやつは限られてる」 「そうか…」         「バッシュ・フォン・ローゼンバーグ将軍」   落ち着いた声が、ナルビナ城砦地下雑居坊に響く。   「いい加減、死人でいるのも飽きたのではないかね?」   バッシュは、その声の主を睨みつけたまま、何も言わない。   「ジャッジならば、姿は隠れたままだが、自由に動ける。  私が主君では、不服か?」   その睨んだ先には、笑みの形に歪められた唇、笑っていない瞳。 そして、もう何度も繰り返された会話。 バッシュにとっては、二度目の敗北、恥辱。いや、二度目はまだ終わっていないと思っている。生きているのであれば、死ぬ瞬間まで足掻き続ける。帝国に媚びるマネだけは、死んでもする気はなかった。   「こんなやり取りも、もう飽きたな」   ヴェインの手に、赤い液体の入った瓶があらわれる。   「これを、二口」   背後に控えている者に、それを渡す。 受け取った者は、籠の扉を開け、バッシュを外に引きずり出す。体を押さえつけ、無理やり口をこじ開けた。やけに甘い匂いのするそれが、喉を通っていった。   「下がれ」   言葉もなく、ヴェインに会釈をし、鎧姿が独房から消えていく。 鎖につながれているが、自由に転がされているのを不思議に思いながら、逃げる事が出来るかもしれないと、バッシュはヴェインの動きを逐一追った。   「逃げられない」   笑いを含んだ声。   「すぐに分かる」   その声が止んで直ぐに、体中が熱くなった。 息が乱れ、目の前が霞む。 そして、ぞくりと体が震えた後、飲まされたモノが何かを知った。   「流石だな。その目はまだ睨んでいられるのか……それが何時までもつのか…楽しみだな」   その冷徹な声を糧にした。 その笑ってない笑みを糧にした。 憎悪だけに意識を向け、ヴェインを睨み続けていた。 しかし薬は、容赦なく目の前の景色をぼかし、強い快楽で意識を蝕む。 それに呑まれまいと、ギリリと奥歯を噛締めた。   「……っ…」   顎に、冷たい指がかかる。 そんな事でさえも、体が震える。   「そうだ。そうやってずっと、私を見ていろ」         「あの薬を飲まされる度に、見つめ続ける事と、名前を呼ぶ事を強要された。  あれに、何の意味があるのだ?」   本気で疑問に思っている事が分かる。 その声音には、己が女性のように組み敷かれた事に対する怒りも、体を開かされた羞恥も無い。 プライドや誇りが、その事にまったく何一つ影響されていない。 バッシュにとって、国を守れなかった、主君を守れなかった恥辱以外に、それが傷つけられる事はないのだろう。 彼の言葉を聞いていて、今までの彼の言葉を思い出して、バルフレアはそれを強く感じた。   「あんた…今まで、惚れた相手は居なかったのか?」   あまりのバッシュの台詞に、自然と訊ねてしまった。   「…それどころでは、無かった」   バッシュは、唐突に変わった話に、不思議そうな顔をする。 その顔に、バルフレアは心の中で舌打ちする。まったく分かっていない。   「ダルマスカは、長かったんだろ?」 「それでも、しなければならない事が多かったからな」   恋愛経験皆無……というよりは、忠誠を誓うモノ、守るモノ以外何も見えない瞳。 それに自分を映したくて、映させたくて、手を伸ばしてくる者は多かったはず。 しかし、それに気づく性格ではない。 それどころか、人に惚れるという経験が無い為に、自分に向けられる感情にまったく気づかない。 質問内容が、それを良くあらわしていた。 バルフレアは、久しぶりに真っ直ぐバッシュの瞳を見た。   「俺は、あんたの質問に答える事が出来るけどな………今のあんたに言っても仕様が無い」 「なぜだ?」 「あんたには、俺の出す答えが理解出来ないからだ」   バッシュの眉間に皺がよる。   「それに、あんたは、そんな事気にもしてないだろ?」 「確かにそうだが……今後、同じような事に巻き込まれないようにしたいとは思っている。  私に、隙があるというなら直したい」   バルフレアは、真摯な瞳に見つめられるのを避けるように視線を落とし、一つため息をついた。   「……なら、条件を出す。  その答えに納得いったら、教えてやる」 「……分かった。言ってくれ」   バルフレアが一瞬逡巡して、それから諦めるかのように言った。   「俺が、あんたから欲しいものを言ってみな」     -continue・・・-  

     

  やっとこ終わった〜バッシュの過去が終わったーっo(>_<*) やたら、説明文が長くて、すんません。 しかも、バッシュ過去が、それぞれ中途半端ですんません、すんません。 最初、一部ノア編、二部ラスラ編、三部ヴェイン編、そして四部バルフレアで、めでたしめでたしにしようかとも思ったのですが………私、バルフレアの出てこない文章に愛が無かったようですf('';) ノア編は書けそうだけど、ラスラ……ほとんど記憶に無い……f(^-^;) ヴェインは、ある意味愛があるんで、鬼畜に書けない…や、別に鬼畜じゃなくてもいいんですけどね。 結論、愛溢れるバルフレアから書く!んで、頑張ってはしょった説明を入れる。に決定しました。 その為、非常にだらけたテンポ+長いという2になりもうした。すんませんです…はひ。   これは、「バッシュ、恋愛を知る」というスローガンで書き始めたブツです。 これから、バッシュは、ある意味乙女街道を驀進する予定です。あはは…  

  07.04.23 未読猫