無理やり入学させられた霊術院で特進学級に入って半年、同じ組に居る人間をだいたい把握し終えた。 その退屈な生活の中で、やけに気の合う二人と出会い、結構楽しんでるじゃないのと、聞く価値がどれだけあるか分からない授業を聞きながら思う。 窓の外には気持ち良さそうな秋晴れ…あぁこんな空気と空が似合う男が居たなとふと思い、当人に視線を移す。 最初の一週間で、絶対自分とは合わないだろうと思った相手。 真面目で一直線な人柄、病気がちではあるが決してひ弱ではないがっしりとした体躯、そして穏やかな笑みを浮かべる表情は、周りを魅きつけてやまない……浮竹十四郎。 あまりに自分とかけ離れた気性の存在、ここを卒業するまでほとんど話す事は無いと思っていた。 遥か遠い最初の時 「桜ちゃぁ〜んVv」 相好を崩した春水が、ハートを大量に飛ばしながら声をかける。 そこに、ニンマリと影が立ちはだかった。 「桜は、儂の方が好みだと言っておったぞ」 春水の顔を夜一が覗き込んでいた。 そんな夜一の言葉にクスクス笑いながら、近くの木の下に座り込む。未だ自分を見ている夜一を見上げた。 「よっちゃんモテモテだねぇ」 「儂は夜一だと何度言えば覚えるのだ?ちゃん付けは似合わんだろ?」 「そんなことはない、よっちゃん可愛いよ」 「そうか?桜が可愛いのは分かるが、儂は可愛いのか?」 春水の目の前でしゃがみこんだ夜一が、不思議そうに自分の顔を撫で回す。 「闘っている時の夜一さんの方が、僕は好みだけどなー」 いつも通りの軽い空気を纏った喜助が、夜一の横に座り込む。 「闘っているよっちゃんは、凛々しいからなぁ。 僕は可愛い方がいいねぇ」 「可愛いねぇ…お前達は可愛くないのになぁ…」 夜一が二人をじぃ〜と見つめて、ため息をつく。 「なになに?夜一さん、ため息ってないんじゃないのぉ?」 「男が可愛くても、楽しくないねぇ」 未だじぃ〜と見つめてくる視線が痛いとばかりに、男二人が居心地悪げに身じろぎをする。 「だったら何で"僕"なのじゃ? 僕ってお年頃ではなかろう?」 「えーー、物心付く前から僕だったんだから、仕方がないじゃないですかぁ」 「僕らが俺と言って、似合うと思うかい?」 夜一が二人を今まで以上にじっじぃ〜と見つめて、再びため息をつきながら首を横に振る。 「夜一さんったら失礼だなー。 だいたい、夜一さんも変でしょうがー」 「四楓院家の姫君は、儂が普通かい?」 男二人は、夜一の言葉に気にした風もなく、楽しげに言葉遊びを始める。 「姫君なぁ…物心付いた時には、じー様達に天賜兵装番なのだからと言われて、毎日訓練の日々だったのじゃぞ。 じー様達の言葉使いが染み付いて、抜けぬのは儂のせいではない」 「あれぇ?でもあの時は違うでしょ?」 喜助がニッカリ笑う。 「あぁもしかして儀式を見に行った事があるのかい?」 「覗き見しちゃったー」 楽しそうに笑う喜助に、どんなだったんだい?と楽しそうに話を促す。 「さすが姫君だよねぇ。 もーそんな時の夜一さんったら、髪を結い上げて、簪をいっぱい付けてさー、綺麗な着物着てー、言葉遣いも、そのものなんだよー」 「へぇ〜、今度は僕にも声をかけてね」 ふて腐れている夜一の顔を覗き込みながら、悪戯小僧風情の二人がニンマリ笑う。 「儂のあんな格好なんか、似合っている訳がなかろう?] 憮然とした夜一の言葉に笑いながら、見たいねぇと春水が言って、喜助が次の機会にねーとニンマリ笑う。 「四楓院さん、今日でいいだろうか?」 突然割り込まれた言葉に驚くことなく、三人が振り返る。 浮竹十四郎が、夜一の後ろに立っていた。 春水はなんだろうねとばかりに十四郎を見上げ、喜助は面白そうだという意識を隠しもせずじぃーと十四郎を見上げる。 「おう、構わぬ。 そうだ、お前らも来ぬか?うちの秘蔵のお宝を端から端まで見せてやる」 へぇ〜と口元に笑みを浮かべながら春水は立ち上がり、ニマニマ笑ったまま夜一の後をテコテコ付いて行く喜助がいた。 ◇◆◇ 「霊力を込めろ。さすれば分かる」 まったく説明になっていない説明をして、貴重な道具を十四郎に投げつける。 「あ…あの…四楓院さん…」 「夜一でいいぞ」 相手は果てしなく有名貴族の姫君だと下級貴族の十四郎が困った顔をしていると、喜助が僕はー夜一さんって呼んでるよーと、春水が僕はよっちゃんだねぇと二人が気にする事は無いとばかりに二人に手を振られた。 「……夜一…くん…あの…だな…これはこのように気軽に扱っていいものなのか?」 「構わぬ。全て儂が管理しておるのだからな」 ほれ早く霊力を込めろと夜一が言い、二人が面白そうに十四郎を見ている。 十四郎は、こわごわと少しづつ霊力を込めた。 「っ?!!」 「へー合体飛行道具なんだねー」 「初心者向けかい?」 「初心者用にしては、必要な霊力が高すぎる。 作者が、あやつみたいじゃったのだろ」 呆れ顔を喜助に向けながら、夜一がため息をつく。 趣味で作られたモノを管理しなければならない者の身になってくれとばかりに。 夜一の視線の先では、十四郎から受け取った道具を異様に真剣な眼差しで分析している喜助が居た。 夜一も春水も、喜助の道具や武器、薬品にまで及ぶ底のない知識欲には、呆れるを通り越して達観してしまっている。 しかし一人だけ、十四郎だけは、感心して喜助を見ていた。 「何じゃ?」 「さすが…勉強熱心だな」 そのえらく素直な誉め言葉に、二人が嫌な顔をする。 その表情に不思議そうな顔を向ける十四郎を見て、二人はため息を付いた。 「あのな…あやつは確かに勉強熱心かもしれぬが、それは一点だけじゃ」 「は?」 「浦原の趣味は、技術…何かを作る事なんだよ」 「その為だけに、あの学校に入ったと言っても過言ではないぞ」 「え?しかし、彼は剣術から教養に関して全て良い成績を収めているだろ?」 「確かにのぉ……しかし、剣術を知らなければ、それに必要な武器が作れぬじゃろ? 何かを作る為に仕方がなしに覚えているだけじゃ」 「ひどいなー夜一さん。 仕方がないなんて僕は思っていないよ。 真剣にやらないと、その時必要なモノが見えないでしょ?」 夜一が分かったとばかりに掌を振り、春水が相変わらずだねぇとくすくす笑う。 そして、唖然とした十四郎が喜助を見ていた。 「もしやお前は、全員勉学の為に来たと思っているのか?」 未だ唖然としたままの十四郎がコクコクと頷く。 夜一が、彼の肩に手をポンと置き首を横に振った。 「喜助は、道具愛という変態な愛情だけで来ているし、春水は暇つぶしじゃ」 横で喜助が夜一さん酷いなーと言いながらも、色々な道具に魅入っている。 確かにその眼差しに浮かんだ視線は、変態な愛情と言われても、しょうがないような気がする。 しかし十四郎は、ここに集まる四人が特進学級のトップだという事を知っているだけに、春水に対する夜一の言葉が理解できなかった。 「…暇つぶし?」 「そうじゃ。 儂は、春水が授業以外で机の前に座っているのを見た事がないぞ。 …まったく、どれだけ儂が幼少の頃苦労して学んできたと思っている?」 眉間に皺を寄せた夜一が、春水にしかめっ面を向ける。 春水は、そんな彼女に困ったような笑みを浮かべているだけ。 夜一は、より一層表情が険しくなる。 喜助に関しては、あれだけ何かを作る事が好きなのだから、その為だけに勉学に励んでいる態度もとりあえず好ましくはみえる。 それが、たとえ死神になるという目的ではなくとも、熱心さが伺える。 しかし、春水は心のうちを表にも出さず、ただ時間を潰しているだけのような風情で授業を受け、それで特進学級の筆頭になるというのが頷けない。 最初、女の子に会う為だけに学院に入ったのかとも思ったが、実際表面上だけで一切深入りしようとしない。 ただ、日々詰まらない時間を潰しに来ただけとしか思えない相手に、いう事があるなら言ってみろと冷たい視線をなげた。 「酷いなぁ〜よっちゃん。 僕だって、喜助と変わらないよ」 「どこがじゃ?」 「彼は技術を、僕は人を見にきてるんだよ。 興味深い対象だと思わないかい? 表面上に現れているモノと中身とじゃ、ほぼ正反対ときてる」 楽しそうに笑みを浮かべる春水に、夜一がげんなりとした視線を投げつける。 「喜助以下じゃな。」 「そうかい?それは死神になるのにも、役立つんじゃないのかなぁ? 特に、目の前に居る希少生物を見ていると思うんだけどねぇ」 春水が面白そうに十四郎を見る。 「浮竹か?」 「そうそう」 話が見えない十四郎は、訝しげに春水を見る。 「ここまで表裏の無い人間を、僕は初めて見たよ」 「なるほど…浮竹は、珍獣なんじゃな」 腕を組んだ夜一が、しげしげと十四郎を見つめる。 喜助は、十四郎をチラリと見たが、どうでもいい人間よりも手元にある素敵道具達だとばかりに視線を戻す。 「…っ…なっ……」 「反応も素直だろう?」 夜一がコクコクと頷く。 二人の前には、どういう顔をして良いか分からない風情の困った様子の十四郎が居た。 「まぁ、僕は気長に彼を観察しているからさ、よっちゃん説明を続けていいよ」 「おう、後でゆっくりと聞かせてもらうとして…」 夜一は、棚を見てニンマリ笑う。 「浮竹、これはでかくて邪魔なのじゃが…お前は欲しいとは思わないか?」 「は?」 「欲しいじゃろ?!」 ずいっと夜一が十四郎に迫る。 「ほぉ〜、今非常に困っているのだな?」 引きつった笑みを浮かべている十四郎を見た後、夜一が春水を振り返ってニッコリ笑いあう。 「でも断れぬじゃろ?」 「う……」 突然変わった話に、先ほどまでの理解しがたい会話の続きともとれる会話に、十四郎の額に脂汗が浮かぶ。 「あ…そ…その…だな……ししし四楓院家で……でで伝承された…ももものを…だだめだろっ!」 「全然だめじゃないぞ。 管理は儂がやっておると言っていただろ? 儂が黙っていれば誰も分からぬ」 確信犯は胸を張ってニッコリと微笑み、被害者の肩をバシバシ叩く。 付け加えて、方や有名名門お貴族様、方や上級貴族には逆らえないへたれな下級貴族。 十四郎は否という言葉を出すことも出来ず、固まる事しか出来なかった。 「埃を払うぐらいじゃから、管理は簡単じゃぞ」 ならば自分でやってくれっ!と心の中でシャウトするものの、既に言葉に力は無く、表情には諦めが浮かんでいた。 「本当に分かりやすいの〜」 「だろう」 十四郎の前には、悪戯が成功した顔をした子供が二人居た。 「〜〜〜〜っ……これは何に使うものなのだ?」 「諦めが早いの〜浮竹」 「っっ!引き取るのを止めていいのか?」 最後の抵抗とばかりに、一応恨みがましい視線を投げつける。 「これはじゃな…双極の矛を破壊するものじゃ」 十四郎の言葉をオール無視して、説明を始める。 しかし、その言葉に、全員の視線が集まった。 「間違いは起こるものじゃからな。 抑止力は必要じゃ」 「しかし……」 「使わないで済むのならそれで良いのじゃ。 道具もそれで満足じゃろ」 十四郎がおずおずと目の前にある道具に手を触れる。 僅かに霊力を感じた。 「封印がされておる。 解除方法は裏に張っておるから見ておくとよい」 「……それは…意味が無いのでは………」 「とっさの時に忘れるよりは良かろう?」 しげしげと裏の書付を見ていた喜助が苦笑を漏らす。 「これ…、生半可なレベルじゃ解除出来ないよ……」 「もちろんじゃ。 簡単に解除されては困るからのぉ」 喜助の言葉に、十四郎も、春水も、書付を読み…盛大なため息を付く。 「かなり時間がかかりそうだねぇ」 「いや…無理だろう…」 目の前に書かれてある高レベルな鬼道の数々。今の自分達では知りえない鬼道が目の前で乱舞していた。 「浮竹、お前が隊長になったら封印を開封してみるといい」 「……隊長になれるか分からない上に、開封しなければならない事態も勘弁したいのだが…」 「別にそんな事態ではなくとも、開封してみれば良いじゃろ?」 「………本当に俺が持って帰るのか?」 情けない表情の十四郎を見上げて、夜一が楽しそうに頷いた。 ◇◆◇ ただ、眺めているだけの時だったはずなのに、霊術院に無理やり入学させられた時のように、時の流れというのは何が起こるか分からないと改めて知った。 まぁ…分からないから面白いと人は思うのだろう。 間近で見た不可思議な人物は、思っていた以上に興味深かった。 その周りを惹きつけてやまないモノが、自分にまで及ばぬよう注意深く距離を取った。 これを機会に、もう少し眺めてみるとでもしますか……… でも僕は、いつまでも傍観者のままで居るよ。 【End】
夢見すぎ? いや、これでお願いしますm(__)m もーーこの面子が同期で一緒のクラスで、楽しくやっていたら、それは間違いなく悶絶でしょうVv そして、相変わらず理由付けをしたくなる悪い性癖が……話が進んだら辻褄が合わなくなるんやろうなぁ…。 なにせ、浮竹の地位が分からなくて、すっかり書き進められなくなったという体たらくな話。 全ては、18巻巻末のデータのお陰でございます。 集英社様、死神データブック作りましょう!ね!…つか、まじで困っています。 これは当分続きます。 タイトル変わるかもしれないけどf('';)