一面に現れた虚は、何体居るか数える事が出来なかった。 個々はたいした敵ではないのにも関わらず、数があまりに多すぎた。 どれだけの時間刀を振り、虚を消し去ってきただろうか? あぁでも今この時間だけは忘れられる……自分の中の分からない感情……腕を振る、また一つ虚が消える……誰かが自分の名前を呼んだ…それどころじゃない、背後に気配を感じる。もう一度刀を振る…。 たまたま遭遇した虚。 最初は2体だけだった。 それがニヤリと笑った後、突然空間が裂かれ大量の虚が現れる。 心配性の部下が相変わらず側に居たが、無理やり救援を呼ぶように指示した。 数が一気に減った気がする…救援が来ているのだろうか? 既に殺気だけに反応して動いているに過ぎない。 目の前の虚をまた一体消す…体がぐらりと揺れる…誰かの叫んだ声を聞いたような気がした。 【京楽】 「………?」 うっすらと目を開けたら、見慣れた自分の部屋の天井だと、ぼんやりしながら浮竹が周りを確認する。 夢でも見たかと一瞬思うが、未だ自分の体に残る疲労が違うと言っていた。 「よぉ、やっと起きたかい。」 足元の壁に寄りかかった京楽が片手に持った菓子折りを振っていた。 「あ……お前が救援だったのか?」 浮竹は声の主の方を見ようとしない。 「おう、清音ちゃんと小椿が慌てている所に通りがかった。 病み上がりだって?隊員を心配させちゃぁいけないなぁ。」 「あいつらは、四六時中心配している…一応隊長なんだがな…。」 浮竹の顔に苦笑が浮かぶ。 「何言ってんの?…単にあんたが好かれているだけだよ。」 出されたお茶を口元に運びながら、京楽は浮竹の横顔を見つめていた。 その視線を感じて浮竹は居心地の悪さを感じ、最近悩まされている未だ理解出来ない感情が再び沸いてくる。 「どうした?どこか痛むのかい?」 「いや………あ……あのだな…………」 言葉を捜すが、何と言っていいか分からなくて、浮竹は上半身を起こししかめっ面を京楽に向ける。 「起きて大丈夫かい? 僕なんか気にせず寝たままでいいよ。」 「………体は大丈夫だ…………ただ…………」 言葉が続かない。浮竹は眉間の皺を増やして考え込む。 そんな浮竹をを面白げに京楽は、ただ眺めていた。 目の前の男が、ずっと困惑しているのは知っていたが、それには答えを与えず、ずっと放ってきた。 何を言い出すのだろうと、今も静かにみつめている…自分から促す気はない。 「あの…………だな…………………………分からないのだ。」 やっと出てきた言葉に、京楽は噴出した。 「春水っ!」 眉間に皺を刻んだまま、浮竹が真っ赤になって怒鳴る。 「すす…すまないねぇ。」 京楽は笑いながら浮竹を見る。 「何が分からないんだい?」 「………何が分からないのか…………………分からない………」 「困ったねぇ。」 京楽が苦笑を浮かべる。 「思いついた事を適当に言ってごらん。 そのうち分かるかもしれないよ。」 今までの浮竹は、対人関係でこんなに悩む事はなかった。 あの時、唇を奪われた…普段なら間違いなく拳を振るっていただろう。 今回それが出来なかった。 本気だと言われた、そのせいかと思ったがそんな言葉も今までいくらでも聞いている。 自分は女ではないと次に会ったら怒鳴るつもりだった。しかし、何一つ変わらない態度、いつも通りの静かな視線に何も言えなかった。 自分が次にどう行動していいか分からない。 目の前にその当人が居る。 初めて出会った時から寸分も変わらない静かな視線と態度…どう話していいかが分からない。 だいたい何から…いや何を話していいかも分からない。 浮竹は、久しぶりに京楽の顔を真っ直ぐに見る。 「何か思いついたかい?」 「…殴ってもいいか?」 真剣な面持ちの浮竹に、一瞬目を瞬かせてから口の端をあげる。 「あんたの体調が戻ったら、いつでも構わないよ。 …それが分からなかった事なのかい?」 「いや、お前を殴ったら何か分かるかもしれないと思ったんだが…お前は、理由も無く殴られていいのか?」 浮竹は理由も聞かない京楽を不思議に思う。 「あんたが、そんなに悩んでいるのも珍しからねぇ。 それで何かが分かるなら、いいんじゃないの?」 「す…すまない。」 「まぁ、あんたらしいよ。」 京楽がくすくす笑いながら立ち上がる。 「あ…。」 扉の方に向かっていた京楽が浮竹の声に振り向く。 「どうした?」 「…い…いや…今日はすまなかった。…元気になったら、真っ先にお前の所に行く。」 「あぁ、待ってるよ。」 そう言って京楽は帰っていった。 ・・・‥‥……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……‥‥・・・ 浮竹は眉間に皺を寄せながら、京楽の居る八番隊に向かって歩いていた。 あれから3日間、ずっと布団の中で考えていた。 しかし、思考は空回りするばかりで、何一つ自分に答えを与えてくれない。 そして自分の思いがけない行動で、より一層困惑は深まっていた。 なぜ、帰ろうとする京楽を引きとめようとしたのだろう? 間違い無くあの時自分は京楽に居て欲しいと思っていた。 その理由が分からない。 いつもの雰囲気を払拭した浮竹が八番隊の詰め所に入る。 眉間に皺を寄せ周りを一切見ていない様子の浮竹に、八番隊の隊員達が声をかける事も出来ず遠巻きに見ていた。 「春水っ!」 奥に向かって怒鳴る。 「すみません浮竹隊長、うちの隊長はさぼりのようです。」 ため息をつきながら掌を額につけた伊勢が、すまなさそうに浮竹を見上げる。 「どこに行ったか分かるかい?」 いつもの事だから気にするなと眉間の皺を消した浮竹が、優しげな笑顔を浮かべ伊勢を見る。 「たぶん、いつもの所で昼寝をしていると思うのですが…お急ぎですよね?連れてきます。」 「いや、俺が行く。 いつものとは、あの木の下でいいのか?」 「はい。 あの…浮竹隊長、うちの隊長をよろしくお願いします。」 改まって深々と頭を下げる伊勢を不思議そうに見る。 「どうした伊勢くん?あいつとは長い付き合いだから、さぼりを諌めるのにも慣れているぞ。 そんな事は君も分かっているだろ?」 「はぁ…。」 伊勢は、ずっと自分の上司と目の前の隊長を見てきた。 自分の隊長が何を思って、浮竹隊長をこの状態で放っているかも、だいたい推測が付く。 まったくうちの隊長は、どうしてこんなに不器用で子供みたいなんだろうかと思う。 そして、目の前の浮竹にもため息が漏れる。 ここまで鈍い人も珍しい。 たぶん自分の気持ちも、未だはっきりと気づいていないに違いない。 「浮竹隊長…無意識の行動や想いが、一番正直なものです。」 自然と言葉が出てしまってから、慌てて掌で口を覆う。 「す…すみません、出過ぎた事をっ。」 再び深々と頭を下げる伊勢を、浮竹はまじまじと見る。 「伊勢くん、責任を持ってあいつをここに連れてくる。 …すまない伊勢くんにも心配をかけたようだ。」 「いえ…そんな…。」 「君の言葉は肝に銘じておく。」 浮竹が伊勢に一礼をし、踵を返す。 伊勢は、小さくお願いしますと浮竹の背中に一礼した。 慣れ親しんだ道を歩いていく。 先ほど言われた言葉をずっと反芻していた。 伊勢から言われた言葉は一つの指標、そして一つの可能性を導き出している。 困ったような苦笑が漏れる。 もう例の木が見えてきた。 根元に相変わらず綺麗な花模様が風にはためいている。 拳を強く握った。 自分は、霊気を一切消していない。 もう京楽は自分が近づいているのに気づいているだろう。 笑みが漏れた。 「春水…。」 いつも通りの顔が自分に向けられる。 未だ横たわっている京楽の腹に思いっきり拳を落とした。 【End】
よしっ!とりあえず書き上げたっ!(^O^)/ やーどう展開するかまったく読めなかったんだよf(^-^;) やっぱ新刊コミックがくれる勢いって凄いよねー(゚゚*) 読み終わった後、さくさく書き上げました。 しっかし、浮竹隊長でいいのかい? 血ぃ吐きまくりやん…f(^-^;) あんた…やばい病気じゃないんかい?<沖田系?<萌え系?<おい さぁ、浮竹は七尾ちゃんの言葉に、どう結論付けたんでしょうねぇ? 次が楽しみな未読猫です<おいおいおい