Fascinated 4 冷水をしこたま浴びて、息子ともきっちり話を付けたのに、戻った部屋のベッドの上には、すっかり熟睡しているコック。 少し脱力、少しざんね……じゃねぇっ!気のせいだっ! 普段、寝た様子なんか一切見せねぇのに、陸と船とじゃ違うのか、俺が同じベッドに入っても、身動き一つしねぇ。 金髪で隠れている寝顔が見たいと思った瞬間、再び自分に罵倒して、コックから背を向け目を閉じた…………寝たはずだよな?…寝た…が………なんだ、こりゃぁっ!! 「……ん?…」 固まった俺の顔を見上げる、寝ぼけた顔。 何で、俺の腕ん中にこいつが居やがるんだぁぁぁぁっ!!という、叫びは声にならねぇ。 「…ゾ…ロ…?」 朝立ちだ!朝立ちだ!朝立ちだ!! なんか、声に反応してデカクなった気がするが、無視だ!無視!! この状態をなんとかしてぇのに、またもや体が動かねぇっ! 「俺って、抱き心地いいか?」 その半分寝ぼけた状態の笑顔、止めやがれっ! その言葉も、声も禁止だっ!! 声が出ない分、がんがん首を横に振ったが、抱きしめた腕はそのまんま。あまりに、信憑性0。 「何だ、朝から元気だな」 笑いながら、俺の下半身に足を絡めるんじゃねぇっ!! 「いいぜ…」 何がいいんだぁぁぁぁぁっ!!そのあやしげな笑みを止めろぉぉぉぉぉっ! 「…って言いたい所だがな。 本日朝一で、食糧調達の続きをしなくちゃいけねぇ。 続きがしたければ、船に乗った後でな」 唇が小さい音をたてる。 さっさと用意しやがれと言って、俺の腕から出て行く体。 またもや、意思を総動員して、腕を抑える。 完全にコックが俺から離れた後、体は布団の上で、脱力した。 「二度寝しようとしてんじゃねぇよっ! ほら、荷物持ち野郎っ!さっさと用意しやがれっ!」 いつものコック。 それが、こんなにありがたいと思った事はねぇ。 のろのろと、体を起こし、コックの怒鳴り声をバックに、深々とため息をついた。 ◇◆◇ 船に揺られ、風を浴びながら、寝ようとしてるのに…寝れねぇ。 昨日、不本意な事に自分の寝るまで時間の最長記録を打ち立ててしまった。最後に記憶しているのは、カーテン越しの朝日と、鳥の鳴き声。 ちっ…寝れねぇ上に、その原因が来やがった。 馴染んだ気配が、近寄ってくる。 「んだ、速攻昼寝かぁ〜?!」 いつもの剣呑な雰囲気を纏っている。 安心して、力を抜いた。 「馬〜鹿」 突然近づく気配、甘く囁かれる言葉、そして唇に柔らかい感触。 確かに馬鹿だったと、強引に気付かされた。 「……俺に触んな」 半分開けた目で睨む。 「お前なぁ〜気配で判断しすぎるんじゃねぇの? 殺気消して近づいてくれば、簡単だな」 あざ笑う表情は、いつもの。 「ふん…そんな事は起きねぇよ…」 「へ〜、それはオレを信頼してるって事かぁ? それとも、オレに、その腕がねぇって言ってんのか?」 間違えようもない、強烈な殺気。 無意識に手は、鍔に伸びようとする。 「そんなこたぁ、言ってねぇ」 掌を握りこみ抑える。 昨日から、何度こんな事をさせやがるっ!? 「どっちの話だぁ?あ〜?」 「………後の方…だ」 不承不承の答えに返ってきたものは、昨日初めて見た驚いた顔、そして小さな笑顔。 また、目が離せなくなった。 「…てめぇ…昨日から、随分おもしれぇ事を言ってくるじゃねぇか」 言葉は、いつもの様にふてぶてしいが、表情が裏切っている。 「ずっと…」 慌てて言葉を切る。俺は、何を言おうとしたっ?!! 「ずっと?…何だ?」 「な、何でもねぇっ! オレは寝る!邪魔すんなよっ!」 そう言って、目を閉じコックに背を向ける。 心臓はばくばく言い続けているが、そんなのに構っていられる余裕0。 暗闇に浮かぶのは、今見た笑み。まるで焼きついたように消えねぇ。 コックの小さな笑い声が、離れていく。 うすうす感ずいている認められねぇ感情を、握りつぶすように手を握り締め、必死になって寝ようとした。 ◇◆◇ 一気に目が覚めた。 まわりはもう真っ暗で、夕飯を食べ損ねたと、腹が文句を言っている…が、そんな事より、冷や汗が大量に流れているのが、動悸が煩ぇぐらいに鳴っているのが、今の自分の全て。 見てしまった夢に、激しく体は動揺していた。 (やばいやばいやばいやばいやばい………) 夢のくせに、あの笑顔以上に目に焼きついてしまった。 「寝腐れマリモ」 全身の毛が逆立った。 コックの声に返事も出来ず、自然と険しくなった視線だけを返す。 「まだ寝ぼけてんのかぁ? ほら、飯だ飯っ!残してやったから、さっさとキッチンに来やがれ」 俺の視線を無視して、さっさと背中を向けキッチンに戻る。 扉を開けたコックは、キッチンの光を浴び、体のラインを強調するかのように浮かび上がらせた。 (やめろやめろやめろやめろ……) 目の前にまざまざと浮かび上がる裸体。 (やめろやめろやめろやめろ……) 夢の中で、腕の中で跳ねていたそれ。 (やめろやめろやめろやめろ……) 意識を無理やり体に集中し、立ち上がる。そのまま、手すりを乗り越え海に飛び込んだ。 冷たい水は、自分の頭を、体を冷やしてくれるようで、今の自分には丁度いいと、息を吐いた。 「…何だ?あれか?故郷に帰りてぇのか?あ〜?マリモちゃん」 手すりに肘をついた影が、俺を見下ろしてきた。 「まさか、飯が食いたくねぇとか、言うんじゃねぇだろうな?」 首を横に振る。 「だったら、さっさと上がってきやがれ」 梯子が下ろされ、影が消える。 ほっとした。 一回深く潜る。金色が消えない。もう一回潜る。金色が鮮やかになる。もう一度…もう一度……おたまが飛んできた。 「早く来いって言っただろっ!」 「……分かってる」 「おたまを忘れるなよ」 消えていこうとする、金色に手が伸びた。 (あーだめだ……) 開いた掌を握る。 もし、俺が船の上に居たら、間違いなく頭を床に叩きつけている。 打ちのめされた。 もう誤魔化しようが無い。 金色が消えた手すりを凝視する。 もう意識しなくても、金色が浮かび上がっていた。 「うぉーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 腹の底から声があがる。 俺の声に驚いたのか、再び上から声が聞こえる。 あまりに自分の鼓動が煩すぎて、その言葉は分からねぇ。 ただ、その声の質だけが俺に届き、より一層鼓動が煩くなった。 目の前のはしごを掴む。 「てめぇ…とうとう、頭ん中藻でいっぱいになっちまったか?」 いつもと変わらないコックの呆れた顔を、ほんの少し、ほんの僅かの間見る。 「……そうみてぇだ」 そう言って、濡れたままの手でコックの頭を一撫でして、足を風呂場に向けた。 やっかいな感情。 今までのクソコックなら、こんなにやっかいだとは思わない。 女好きの、喧嘩早いだけなら、苦笑はしても、諦めがつく。躊躇うこともなく手を伸ばしただろう。 それに、今回の事で知った、あの笑顔はそれを差し引いてもあまりあるぐらいだ。 やっかいな感情。 それでもいいから、手を伸ばせと言ってる。 自分の頭も心も、欲しいと言い続ける。 しかし、自分の感情とあいつの感情が違うのは、あまりにあからさまで、あの伸ばしてきている手を掴む勇気がまだ無い。 大剣豪になりたいと、死さえも恐れないと、思ってきた。 まさか、こんな事に怯える自分が居るとは思いも寄らなかった。 「俺は、どうすればいい…?」 熱いぐらいのシャワーを浴びても、体は何一つ感じなかった。 −End−
私の書く一人称の主人公は、叫ぶのが好きなんだなーと実感しました(;。。) ゾロ……腹くくれよヾ(^-^;)ってか、さっさと諦めろ。 ということで、ゾロが自分の気持を認める編終わりです。 あはは…いつからラブラブになるんでしょうねぇ? あぁ、この話はラブラブおあづけな話だったなf('';) 【06.10.18】