風を切る音と共に、黒い靴が自分に降って来る。 当然ながらギリギリで避け、その勢いで相手を睨みつけた。   「ちっ…」 「ちじゃねぇっ!てめぇは、俺を殺す気かっ!?」 「俺の蹴りで死ぬような可愛いげがありゃぁ〜、いんだけどよぉ。  よぉ、荷物持ち、行くぜ」   いつも通りの不敵で偉そうな笑みを浮かべながら、煙草を咥える。 俺は仕方無く、のろのろと立ち上がった。 別に行きたく無い訳じゃねぇ。 ただ、確かめてぇ事が未だ分からない事に、苛々させられていた。   Fascinated 2   何だこりゃぁ〜? 呆然と目の前の男を見る。 朝市でごった返す市場、その中を金色が陽気な声と共に、走り回る。 その度に、俺の両手の負荷が増え、歩きずらくなった。 目の前の果てしなく陽気な男は、顔に嘘偽りの無い満面の笑みを浮かべ、楽しげに食材を吟味し、売り手と交渉を続けている。   「おっちゃんおっちゃん、これ箱買いすっからよ、それ一つおまけしてくんねぇ?」   船の経済状況に対して頭を抱えるよりも、目の前のおもちゃ屋を前にした子供のような男は誰だ?と問いたい。 だいたいこの間から、その問いを何回言っただろう?その度に目の錯覚かと思うような変貌。 俺が認識していたのは、チンピラ風情のメンチ切った顔、殺伐とした喧嘩の中での口の端をあげた皮肉げな顔、そしてナミにしなだれているだらしない顔。 表情が豊かなヤツだと気づいたのは、最近。 ただ、豊かなのが表情だけじゃなく、性格までもが一変するとは知らなかった。   その当人は、目の前の大量の食材を前に、はじけるような笑顔の上にキラキラとした瞳を乗せて、楽しそうに会話をしている。   「おっちゃん、ありがとうなーVv」 「こっちこそだ!にぃちゃんの笑顔は見てて気持ちがいいよなー。  ちゃんと、料理してやってくれよ!」 「おう、当然じゃねぇか。  おっちゃんの野菜は、俺様がちゃ〜んと旨い飯に変身させてやるからなー」 「男の約束だぜー」 「まかせとけ!」   子供同士のちょっとした秘密の約束をする時のような表情を浮かべ、おやじと笑い合う。 その表情が振り返った途端に、綺麗になくなり、ふてぶてしい表情に取って代わった。   「ほら、行くぞ」 「あ?」 「いいから、黙ってついて来い。迷子剣士」   言い返す間もなく、さっさと歩いていく。 言葉どおりになるのも腹立たしいから、慌てて金色の頭を追いかけた。                 ◇◆◇                 気が付いたら、目の前にサンジ制作の昼食が並べられ、でかいベッドのある部屋に居た。 そして、目の前にゲラゲラ笑い転げている当人。 現状が把握できねぇ。   「お前……何でここに居るか分からねぇんだろ?  まぁ、迷子癖を自覚して…素直についてくるのは偉いぞ〜……」   笑いながら、頭をポンポン叩かれた。 その掌をきつく払って、説明しろとばかりに睨み付ける。   「分ーった。分ーったって。  とりあえず話しがあって、ここに来たんだけど、どうする?」   小首をかしげて、ニンマリした顔。 何をどうするんだ?さっぱり分からねぇ。   「エロいけど楽しい過去話を聞きながら食べんのと、食後に酒でも飲みながら、ゆーっくり話を聞くのと、どっちが良い?」 「話を聞かねぇってのは?」 「それが食事代だから、昼飯は抜きだな」   目の前に間違いなく旨い飯があるのに、他所で食べる気になるわけがねぇ。情けねぇ事に、俺は間違いなく餌付けされている。   「飯は、暖けぇうちに食べろって言っただろ?」   未だニヤニヤしながら、俺を見る挑戦的な眼差し。   「それに、あれだけ睨んでたんだから、話の一つでも聞きてぇんだと思ってたんだけど?  見極めねぇといけないんだろ?」 「べ、別に…」 「睨んでるだけで分かんのか?」 「くそっ、酒はあるんだろうなっ?!  食べた後に話しやがれっ!」 「お客様の望みどおりに」   優雅に一礼をし、部屋に付いてるキッチンに向かっていく。 未だに何が、知りたいのかが分からない。 そして、知りたいとは思ったが、この二人きりという空間の居心地悪さに、断れば良かったと、今更後悔していた。                 ◇◆◇                 「…まぁ周りが大人ばっかりだったからよぉ、そーゆー話だけじゃなくて、実際連れて行っちゃっうんだぜー。  今思うと、とんでもねぇ奴等だったとは思うけどな。まぁ、俺にとってはラッキー?」   すでに昼飯は跡形もなく、綺麗に盛られたつまみと、酒ビンが数種置かれている。 目の前には、楽しげに笑いながら話している、少々酔っ払いぎみの男。 話の内容は、過去のエロ話。 俺は、自分が真っ当な過去を持っているとは言えねぇが、それでもこいつが育った環境が間違ってると断言出来んじゃねぇかと思う。 ラッキーなんてとんでもねぇ。 どこの大人が、十歳そこそこのガキを花街に連れて行こうと考える? そのガキが育った結果は、今現在、非常に年上の女についての考察について語ってる。 始まりだけで、これだけ頭が痛ぇのに、これから先が想像つかねぇ……。   「そこでガキは、快感ってやつを十分に知っちまう訳。  そんだけで済んだんなら、ここまでお前に睨まれる事もねぇよなぁ〜。  んで、俺が12歳ぐらいだったかな?レストランに、そっち系のヤツがコックとして入ってきてよ。  またそいつが、隠しもせずに、同性同士のセックスについて語っちゃうんだなー」   げらげら笑う顔の中には、卑屈な表情一つなく、自分の楽しい過去を一緒に楽しんでくれとばかりに、披露する。   「すっかり気持ちいい事が病み付きになっちまった俺はさー、男同士はレディ以上に気持ちいいって聞いたら、そりゃぁ〜追求してぇじゃん。  なにせ、レディを抱いているってよりは、抱かれてるって言っていいようなガキだったし?男に抱かれるってのも、大して感慨が無かったりするんだなー」   レストランに居たじーさんは、こいつの乱交ぶりを知ってたのかよ?と思った事は、顔に出ていたらしい。   「実は、最初の男をじじぃに頼んだんだけど、しこたま蹴られた。  それを悪い事だと思ってなかったガキは、ついでに色々暴露しちまってさ。  色んなヤツが、海に飛ばされたなー」 「それで収まんなかったのかよ?」 「ないない、一回快楽を知っちまったガキは、根性がありまして、影で色々ヤル事を覚えました」   ニッコリ笑いながら、言う事か?   「じーさんに、本当にバレてなかったのか?」 「いんや、バレてただろうな。  ってか、言う前から全部ばれてたんじゃねぇの?  ただ、じじぃはレディなら良いって思ってたらしくてさ、じじぃを誘ったってか、男相手ってのが問題だったみてぇ」   海賊だった養い親に、性教育うんぬんを求めるのは間違いだったのに気づいた。 男でも女でも、そんなもんは、もう少し後だろうなんて事は考え付かなかったらしい。 しっかし、一応ノーマルだった養い親が男を止めたのなら、何で目の前のこんなヤツが居やがる?   「お前の事だから、店に居た仲間でも誘ったのか?」 「ブー」   再び、あのニヤニヤした笑いが顔に表れる。   「実はよ、ルフィの麦わら帽子をくれた海賊ってのが、うちの常連さんなんだよなー」   確実に当たってるだろう、嫌な想像が思い浮かぶ。 額から汗がだらだら流れてきやがった。   「へへっ、俺の相手は、シャンクスじゃねぇぜ」 「……じゃぁ誰だ?」 「副船長のベンVv今ん所、俺の一番!」   また、分からねぇ事を言い出した。 いつまでこんなくだらねぇ事を聞いてなくちゃならねぇんだ? 別に信用してなかった訳じゃねぇ。 戦いにおいても、料理の腕も十分以上なのは分かってる。 それを知ってる以上、何をもっと知る必要がある? ひどくイライラさせられる会話を断ち切る為に、立ち上がった。   「何だよ?」 「ここにある荷物は、全部船に持ってけばいんだろ?」 「帰っちまうのか?」   突然、あの淫靡な表情が浮かびあがる。   「てっきり、俺を食ってくれると思ったのにな」   赤い舌が、唇をゆっくりと辿る。   「そんな気はねぇ」   声が少し掠れた気がして、自然舌打ちが出る。   「ま、お堅い剣士様は、下世話な事には興味ねぇか」   艶の篭った声の中に、いやに冷やかなモノを感じて、目線が険しくなる。   「お前の言ってる事が何だか、わからねぇよ。  何勝手な俺を作ってやがる?」 「そう言うんなら、ちょっとした味見でもしてみねぇか?」   一瞬驚いたように目を瞬いたのが、再び妖艶な表情に戻る。   「堅いつもりはねぇが、仲間とそういう事をやる趣味はねぇんだよ」 「仲間なのか?」   再び、驚いたような顔が表れ、不思議そうに自分を指差す。   「てめぇは、十分以上に自分の仕事をやってるだろ」   はき捨てるように言った俺の言葉に、未だ不思議そうな顔。   「だいたい、仲間とも思ってねぇやつの食事を、毎回毎回食うかよ」   あまりに不思議そうな表情を浮かべたままなのにイライラして、認めてねぇとは言ってねぇと、それを分からせる為にも早口でまくし立てた。   目の前の顔がまた豹変する。   花が綻ぶかのように、小さな笑顔が現れた。   目が奪われる……   「コッ…ク?」   突然立ち上がった細い肢体が音も無く近寄り、俺の頭をペシペシ叩く。   「な、何だっ!」 「やー、堅い上に、言葉を知らねぇやつだと思ってたが、そうか一応しゃべれたのか」   未だ、ペシペシ叩いている。   「なるほど、俺ぁ勝手なお前を作ってたのかもしれねぇ。  そうか…そうかぁ〜」   突然、目の前にニンマリ笑った顔のアップ。 唇をふさがれ、息子を人質に取られた。 不覚を取ったと気づいたときには、薄い舌が口の中で蠢いていた。     to be continued…    




 

  冥土さん(誤字はわざと)を書いてから、何でもこい状態? とりあえず、サンジくんがカッコ良いのがいいなーと思いながらも、気が付くとゾロサンやねぇ。 どうしたもんかf(^-^;)   次回の3は、裏行き決定です。描写したらね。しないと寂しい?からしちゃう予定。 結構この話の行き先は見えているのですが、ナンバーいくつで終わるかが、見えない。 ゾロがどこまで抵抗するんだろうねぇ?<おいおい 実はどんどんへたれになっていくゾロがメインの話だったり?<不明なりよ   【06.03.31】