【指し示す子・空っぽの子 4】 あれから、ほぼ毎日会うようになった。 ナルトに用事がない限り、森の奥で顔をあわす。 お互いの素性についてはあまり話さない。 自分の事は別に話してもよかったが、ナルトが話したがらないだろうと思い、たわいもない事ばかり話す。 初めて会った時、とても子供に出せるようなスピードじゃない走りを見た。 2回目に会った時、自分が掌に出した炎に対して、本に載ってるという事で納得した。 あの走りは推測でしか無いが、怪我を負っているにも関らず早すぎた。 あの術が載っていた本は決して簡単な本ではなかった。 暗号で記述され、自分の掌をカバーする為にそれなりの技術を要する。 火影様の所に住んでいるという事は聞いた。 なるほど、身を守る術を全て身につけているのかと納得した。 あれから、ほぼ毎日会うようになった。 自分に用事がない限り、森の奥で顔をあわす。 お互いの素性についてはあまり話さない。 最初に話した時、本を読んで自分に行き着いたと言っていた。 たぶん九尾の事も知っているのだろう。 それでも、自然に自分に接してくれる。それが嬉しかった。 自分から自分の事を言わない以上、相手の事について聞けなかったから、たわいもない事ばかり話す。 自分は火影の側に居るおかげで、色々な本を読む事が出来た。 なのに、シカマルは自分以上に色々な事を知っていた。 他の子供をまったく知らない自分だから、比較は自分と火影だけ。 その自分よりも、そして火影よりも色々な事を知っているように感じる。 時間がある時、火影に掌に白い炎を浮かべる術について、どの程度のレベルかと聞いてみた。 それは、独学で出来るものかとも聞いてみた。 返事は想像通り。 それが記述されている本は暗号で記述されている物がほとんどである事。 そして、子供では理解出来ない技術を必要とするという返事だった。 もしかしたら親から伝授されたのかもしれない。 だが、なんとなく違うと思った。 「あの・・・・・これ。」 ナルトは一冊の薄い本をシカマルに差し出す。 オレが見ていいのかと、シカマルは一言言って、本を受け取る。 シカマルは表紙を見てすぐに、嬉しそうに顔を綻ばせる。 「へー。これ火影様のか? オレ読んだ事ねーや。今読んでいいか?」 ナルトが渡した物は、かなり複雑な暗号で書いてある物。 昨日の夜の任務で巻き物と一緒に持ち帰った物だった。 火影には内緒で持ち帰った。 しかし暗号で書かれたそれは、一晩かけても解く事が出来なかった。 たぶんシカマルには読めるんじゃないかと思い、中身が分からないままシカマルに渡した。 今シカマルは、真剣な顔で本を見つめている。 奇麗なモノを見るのが好きになった。 けれども、今ナルトにとって一番楽しい事はシカマルの表情を見る事。 今まで二種類しか自分の周りには表情がなかった。 憐れみか憎しみ。 シカマルがそんな表情を自分に向ける事はない。 その代わりに、様々な表情が浮かぶ。 その眺めはとても不思議で・・・・・奇麗だとナルトは思った。 そして、今シカマルは、ナルトの見た事のない顔をしている。 シカマルは一つため息をついて、ナルトを見上げた。 「なぁ・・・・・・これ、どこで手に入れた?」 「・・・・・・・・・・。」 ナルトは答える事が出来なかった。 任務は全て極秘の物だったから。 「・・・・・・あー、これたぶんオレが読んじゃまずい。」 「え?」 「お前は読んでねーの?」 「・・・・・・解読出来なかった。」 ナルトは首を横に振りながら、不安そうにシカマルを見る。 シカマルは困った表情を顔にのせたまま、それでもナルトの頭をぽんぽん叩いて、解読に必要な事を一つ一つピックアップしていき、解読方法をナルトに教える。 ナルトはシカマルの指示に従って読み進め、読み終わった後小首を傾げる。 内容は全て術について。 複雑な印を伴い、チャクラを激しく消耗し、効果も大きい術だから、暗号で書かれてあるのだろうとナルトは結論付ける。 しかし、なぜシカマルが読んじゃいけないものだかが分からない。 ナルトはシカマルを見つめる。分からないと。 シカマルは顔を掌で覆い、ため息をもう一つつく。 「あのなぁ、これ・・・・・・木の葉のモノではないよな? や、答えられないのなら、答えなくていい。 オレの推測を聞くだけ聞いてくれ。 これは水の国のものだよな? で、ここに書かれている術は、その水の国でもかなり高度な秘術だと思う。 水の国の忍びが使う一般の術ならほぼ知っているが、オレはこれを知らない。 一般には難解な暗号。 上忍でもどこまで実現可能か不安のある内容。 そして、水を支配し、敵を一掃させる効果。 これは、オレみたいな忍びでもない子供が、読んでいいものではないと思う。 一応敵国の秘術だからな。基本的には、火影様近辺レベルで止めねーとだめだろ。 ま、オレのチャクラじゃ実現できねーから、知ったからといって、意味ねーけどな。」 「実現出来ない?」 「あぁ、さっきも言ったけどよ、これは木の葉でもトップクラスじゃないと無理じゃねー?」 「・・・・見たいか?」 ナルトがシカマルを見つめる。 怖々と、それでも期待するような瞳でシカマルを見つめる。 「・・・・・・ここでは見たくねーな。 せっかくの奇麗な景色が壊れちまうだろ? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・・・・・いいのか?そんな事オレに言って。」 長い逡巡の後、シカマルはナルトに嬉しそうに笑いかけて言う。 ナルトが一つ頷く。 この笑顔が見れるならいいと思った。 自分を知っているのに笑いかけてくれる。 大切だと思った。 生まれて初めて思った。 ナルトは嬉しそうに微笑んで再び頷いた。 シカマルは前から言おうと思っていた事を、目の前の笑顔に勇気付けられ、口に乗せてみる。 「あの・・・・・さ・・・・・・・オレに戦い方を教えてくれねー?」 「戦い方?」 「おう、お前ぐらいとは言わねー。 無理っぽいし。 ただ、お前と遊べるぐれーにはなりたいと思ってさ。・・・・・だめか?」 ナルトは蒼い瞳を輝かせてシカマルを見た。 「遊ぶ!」 今まで二人で居て、戦いに関する話は一切なかった。 それでも、自分はナルトが強いと確信していた。 そして、あの台詞。 目の前の本に記されている術をナルトは見たいかと言った。 ナルトが自分の腕をトップクラスだと言ったも同然。 自分はずっと、ナルトに見て欲しかったモノを伝えて来た。 最初は、あの瞳が色々なモノを映したら奇麗だろうと思ったから。 何も見ていない事がどれだけ損をしているから知って欲しかったから。 そう思った事は事実だったが、結局ナルトに自分と同じ視点を持って欲しかったのだろう。 ずっと、人を疎んでいた。 不精者という表情で全てを拒んでいた。 それでも、自分と同じ視点が欲しかった。 ナルトに出会って初めてそれに気づいた。 それならば、自分もナルトの視点に立てたら、もっと面白いかもしれないと、ナルトも喜ぶかもしれないと思った。 人を拒んできたツケが回ってくる。 どう言っていいか分からない。 ずっと口にしようと思っていたけど・・・・言えなかった。 ナルトに拒否されるのが、すごく恐かった。 ナルトの笑顔に励まされ、なんとか口にした。 心臓の音がやけに煩くて、やけに響く鼓動に気持ち悪くなりそうだった。 こんな事も初めてだった。 そして、最高の笑顔を貰えた。 小さい頃から火影に教育を受けていた。 分からない事はあまりなかったから、自分は色々知っていると思っていた。 それを自分と同い年の子供が、様々な事を教えてくれる。 今日は、暗号だった。 火影の教育の中に暗号もあったから、今までに解けない暗号は本当に難しいものだけだった。 それらは、大抵暗号解読を専門にしている部署の長が何日もかけて解かなくてはいけないレベルの物。 シカマルはそれをあっという間に解いてしまった。 間違いなくシカマルは頭が良いと思う。 凄いと思った。 そしてその後の説明に驚く。 答えられない問いを放してくれて、それでも丁寧に分かりやすい説明をくれる。 ずっと他人に自分を見せなかった。 見せようと思った事も無かった。 だけど、シカマルには、シカマルだけには、自分を知って欲しいと思った。 口が自然と動いた。見たいかと・・・・・。 頭の良いシカマルの事だから、もう推測付いているのかもしれない。 けれども決定打は与えていない。 その決定打を自分が提供する。 もう会えなくなるのだろうか?それとも変わらない、いつもの答えが帰ってくるのだろうか? ドキドキしながら、シカマルを見つめる。 こんな風にドキドキするのも初めてだった。 そして最高の言葉を貰えた。 【End】
え〜夜シリーズの二人の出会い編でした。 (あの当時何を考えてこのシリーズ名を付けたか思い出せないf(^-^;) もしかしたらシリーズ名を変えるかも。ヘレンケラーとか・・・・<おい) 実は違うものをずっと煮詰まりながら書いていた時に突然降って湧いてきた天の御啓示。 おかげで、このシリーズの二人の出会いを書ける事になりました。 (保留された書きかけは未だ書きかけなり(;..)) ここまで笑いのない(自分にとって潤いのない)話は初めてかもしれないf(^-^;) 珍しく何も笑いの妄想が湧いてきませんでした。 ・・・・がどないなもんでしょう?<笑いがないと不安になるらしいです。 【04.08.25】