【指し示す子・空っぽの子 3】         はり紙は、あれからも増え続けている。             朝から霧雨が降っていた。   ナルトが『霧雨の中の景色。』というはり紙を見てから初めての霧雨だった。 何の任務も無かったナルトは、無意識のうちに外に出て森の奥のいつもの場所に向かった。 傘もささずに、木の根元で周りの景色を見る。   いつもと違う景色にナルトは目を奪われた。 霧雨によって滲んだ景色を見つめる。 背後に現れた気配にも気づかず、少しずつ水に溶けていく景色を見ていた。   シカマルはいつもの場所に近づいて、どんなに待っていても来なかった気配がある事に気づく。 気配を消して近寄ると、ナルトがいつも自分が坐っている場所に坐り、ぼーと周りを見ていた。 また、怪我をしたのかと最初は思ったが、かなり濡れている以外暴行を受けた様子は見られない。   霧雨は降り続ける。   周りの景色に一瞬目を奪われた時、思い出す。 あのはり紙を張ってから、初めての霧雨。 シカマルの顔に小さな笑みが浮かぶ。 しかし、今はもう初冬・・・・どの位霧雨に打たれていたか分からないが、ナルトはかなり濡れている。 シカマルは慌てて自分の着ていた上着を脱ぎ、ナルトに近寄った。 未だ景色を見続けているナルトの腕を掴み、傘を持たせる。   ナルトは景色を見続ける。   上着でナルトを拭いていたら、ナルトの口が開いた。   「奇麗だな。」 「・・・・・・あぁ。景色も音も霧雨になる。  雨が音を覆い隠しているような気がしないか?」   シカマルは拭いていた腕を止め、耳をすましてみろとナルトを促す。 静かな雨の音が二人を包む。 二人は、しばらくの間何も喋らずに景色を眺めていた。   梢に溜まった滴が、1滴傘に落ちる。 その音がやけに大きく響いた。   目が覚めた時のように目を瞬いて、シカマルは再びナルトを拭き始める。   「・・・・・・ずっと読んでた。」   ナルトは初めて見た人間を見る。   「おう。」   ありがとうなとシカマルはナルトの顔を覗きこむ。 顔についた水滴を拭きながら、ナルトの瞳の色が変わった事に気づく。   「奇麗って言葉を知った。」 「自然と出てくんだろ?」   嬉しいと思ったのは、初めてかもしれないと、シカマルは思った。   「小さい人間、何でだ?」   目の前の人間の掌が暖かかった。 しかし、ナルトにとって人間とは煩い音と暴力を振りかざすものであって、暖かいものではない。 今までの事もあわせて、理解出来なかった。   「あー?」   シカマルの眉間に皺がよる。 小さい人間って何?状態。 その時シカマルは、ナルトにとって名前の付いている人間は居ないのではないかと気づく。   「オレはシカマル。奈良シカマル。」 「シ・・・・・・カマル?・・・・・・・・。」 「そう、それがオレの名前。」   ナルトがシカマルと何度も口の中で小さく言う。   「・・・・シカマル・・・・・何でだ?」 「ナルト、それじゃぁ分からねーって。どれの事を言ってる?」   今度は、ナルトの眉間に皺がよる。 どう説明していいか分からない。 そんな事は今までしたこともなかった。 一生懸命言葉にしようと考えていた。 そんなナルトを見たシカマルが楽しそうに笑う。   不愉快ではない。不思議な音がシカマルの方からする。 ナルトは顔をあげてシカマルを見た。 そこには、みた事のない不思議な顔付きのシカマルが居た。   シカマルは微笑んでいた。   「オレがここに居る理由は、お前に会いたかったから。  たまたまオレが読んでいた本にお前が出ていた。  困ってるなら、オレの手を貸すことが出来るかなと思った。  幸せなら、そんなお前を見てみたいと思った。    そして、お前と会った。  お前は何も見てなかった、聞いてなかった。  オレは勿体ねーって思ったんだ。  見る価値のねーモンは見る必要ないけど、見る価値があるモンも見てなかっただろ?  聞こえる音だって、奇麗な音はいくらでもあったのに・・・・お前は聞いてなかった。    だから・・・・・ま、オレの我が侭でさ。  お前に見たり聞いたりしてもらいたかったんだよ。」   ナルトは、目を見開いてシカマルの言葉を聞いていた。 ちゃんと言葉として聞いていた。 でも、シカマルが語られる言葉の内容より、ナルトはシカマルの浮かべている表情に気を取られる。 手を伸ばしてシカマルの顔に触れる。 突然触られたシカマルは、驚いたけど、ナルトを見つめる瞳はそのままで、されるがままになった。   「っつ!!・・・痛ぇってっ。」   シカマルは頬を引っ張られていた。   「だめだ。それは違う。」   シカマルの文句を放ったまま、ナルトが文句を言う。 表情が変わってしまった。さっきのがもう一度見たい。 ナルトはシカマルを覗きこんで、懇願の目をする。   「・・・・・違う?」 「シカマル・・・・不思議な顔してた。あれは何だ?」   不思議な顔と言われて、一瞬考えたシカマルだったが、すぐに納得した。 自分は笑っていた。 そんな顔を見るのは初めてだったのだろうと気づいた。   「・・・・こ・・・・これでいいか?」   自分でもどんな顔で笑っていたか分からない。 こんなに素直に笑ったのは初めてだったから。 シカマルはぎこちない笑みを浮かべていた。   「違う。」 「すまねー。そのうち笑うから。  ナルトと居れば笑えそうな気ぃするし。」 「笑う?」 「あぁ、オレはさっき笑ってた。」   普通に笑える日が来るとはシカマルは、思っていなかった。 今シカマルは、子供に不似合いげな苦笑を浮かべている。   「ナルト・・・・また会えるか?  そうすれば、さっきの顔見せれると思う。」   ナルトは一つ頷いた。   「じゃぁ、もうはり紙はいらねーな。」   シカマルは立ち上がり、はり紙を全て取り払い、火をつけた。 片手で印を切っただけだった。 その動きに再びナルトは目をみはる。   「その術は?」 「へ?これか?」   シカマルの掌に小さな炎が生まれる。   「これなら、本に載ってるだろ?  オレ程度のチャクラでも出来る術だ。」   自分もそうだったと、ナルトは納得する。   「ナルト、早く帰って風呂に入れ。  風邪ひくって。」 「オレ・・・・ほとんど風邪ひいた事ないから。」 「あー?そんなんでも、一応気ぃつけろって。  ほら、傘もってけ。」   シカマルがナルトの手に傘をしっかり握らせる。 ナルトがシカマルを不思議そうに見上げる。   「また、ここに来てくれんだろ?  そん時、その傘持ってきてくれればいいから。」 「シカマルは?」 「オレは、まだそんなに濡れてねー。」   さっさと家に帰れとシカマルがナルトを促す。 ナルトは、きっとこういう時に使うんだと、小さくありがとうと言う。 初めて使った言葉だった。 なんか少し嬉しくなって、小さく微笑んだ。 ナルトは自分が微笑んだ事に気づかない。 シカマルはナルトの笑みに目を奪われる。 自分が見たいと思った、モノをちゃんと写している蒼い瞳。 すごく奇麗だと思った。 それでも急いでナルトの背中を押す事を忘れない。 早く帰らせないと本当に風邪をひく。   「また、明日な。」   そう言ってシカマルは、手を振った。 ナルトは一つ頷いて、傘を持ったまま、自分の世界へ歩いていった。     【continue】    




 


    ここまで書いて気づいた事。 もしかしてポエムってる?Σ(゚▽゚;) ・・・・・気・・・・気のせいだな。   シカマル先生のナルト改革計画続行中?f(^-^;) つか、シカマルあんたも先生必要だと思うけどなぁ・・・・Σ(゚▽゚;)それでヒナタかっ?! <仲間参照 <相変わらず行き当りばったりだから、こんな事思うのだろうなぁ・・・・。   【04.08.21】