据え膳食わぬは……  

  シカマルは、身動き一つとれず呆然と一点だけを見つめていた。 目の前は白とピンク。 ある意味想像、いや妄想で見慣れた光景。しかし、目の前のそれは、あまりに現実味の無いもの。 白いものが、自分に向かって動く。 思考は、完全に止まった。   「シカマル…」 「ぉ………ぉぅ」   全裸のナルトが、擦り寄ってくる。   「なぁ」 「な、なななななんだ?」   眩しいくらい白い肌。 少し上気した体は、ほんのりピンクに染まって。 いつも見せる勝気な瞳が、潤んで、縋るように、自分を見つめてくる。   「……ナ、ナナナルト?」 「オレ…」   言いかけた言葉は紡がれる事はなく、その代わりに白い腕が伸びてきた。   「どああああああああぁぁぁぁぁっ!あ?」   起き上がって目に入った景色は、見慣れた自分の部屋。   「……って、やっぱり夢かよ……あり得ねーよなーあれは……ちっ、なら最後までやっとけばよかった…」   情けない言葉は、部屋の中に、しょぼく響く。 シカマルは、チラリと下半身を見る。そうやって見る必要なんか無いのは、わかっていた。 なにせ元気な十代。 しかも頭の中に、くっきり、はっきり、残ってしまった映像付き。 あの程度でも、経験値0なお子様には、十分な刺激。 シカマルは、まずいと思いながらも、この状態で任務に出る訳にもいかず、深々とため息をついてから、焼きついた映像をおかずにする事にした。   ◆据え膳食わぬは……   目の前に本物が居る。 おかずも、それはそれは素晴らしかったけど、本物の前では霞む。 決して媚びない強い瞳。 強い意志を表すそれ。   (縋る潤んだ瞳より、こっちがいいってのは、悪趣味か?)   余す所無く、じっとりとナルトを見つめる。視姦状態。   「…なんだよ?」 「お前に見惚れてる」 「ばっ!!馬鹿じゃねーのっ!」 「……おう」   ナルトには、いつもの変わらない変なシカマルとして会話している。 しかし、当のシカマルの心の中は、常以上に「やばい」という文字が乱舞していた。 怒鳴って動いた勢いで、鎖骨が見えた。 よくよく全体を見たら、腕は丸出しの袖なし、足は膝までのズボン。本日は暑い事もあって、夏仕様の暗部服。 突然夜目に、要所要所ピンク色の白い肌が強調されていた。   「ん?…どうした?」   無意識に足が動き、ナルトはシカマルから一歩離れる。ナルトの危険察知センサーは、シカマルの異変に気づいていた。   「さすがだな…」 「何が?」 「お前の危険察知能力」 「は?」 「ナルト、暗部服をいつものに着替えろ。じゃなければ、変化しろ」 「はぁ〜?何でだよ?すっげー暑いじゃん」   そう言ったナルトは、わざわざ服の襟元をつかみ、パタパタと風を送る。   「犯すぞ。まじで強姦だ」 「っ?!なっ、なななななな何っ言って」   一瞬鈍った危険察知センサーが最大限に発揮され、ナルトはシカマルの間合いから飛びのいた。   「妥当な判断だな」   そう言うシカマルの目は、すわっている。すわりきっている。   「今日、俺は、非常に夢見が良かった。  お前が真っ裸で、迫って来てよー…」 「シカマルっ!」 「非常〜に色っぽかった」 「こんの〜」   あまりの恥ずかしさに、真っ赤になったナルトが、シカマルに殴ろうと一歩足を踏み出した瞬間、足元にクナイが刺さる。   「お前の危険察知センサーが、近寄ったらダメだって言ってるだろ」   そう言うシカマルは、ナルトにとって、少々いつもより目が据わっている程度で、なんら変わりを感じない。   「俺は、いい所で起きちまったんだ。今、近寄ったら続きをやるぞ」 「…まじか」 「おう、まじだ」 「いつもの俺の理性が100だとしたら、今はたったの5程度しかねー」 「……あれで、100ぅ〜?」 「だから、押し倒してねーだろ?  だが、今は絶対押し倒す。間違いなく押し倒す。お前の気持なんか思いやってる余裕なんか全然ねーぞ」   ナルトは、また一歩後ずさる。   「分かったか?」   言葉もなく、コクコク頷く。 そして、ナルトは、慌てて変化の術を発動させる。 ベースナルト、年齢十歳アップ。そして、言われた通り、長袖長ズボンの、通常仕様の暗部服を纏った。   「こ、これで大丈夫か?」   シカマルが上から下まで、じっとりと眺める。   「……さっきよりは、マシだな」 「その間は何だっ!」 「気にすんな」   本日の任務は、巻物を数本手に入れる事。普段であるなら、闇と碧には声のかからないレベルの任務。しかし、早急に手に入れなければならない事情と、満月の夜に誰にも気取られず動ける技能を求められ、二人に声がかかった。 上忍でさえ目に映す事の出来ない二人の動きは、月の光の元でも影を落とさず、音も無く木々の間を走り抜ける。夜鳴く虫さえも、二人に気づかず変わらない音を響かせていた。   ナルトは、先に走り出したシカマルを追い越し、更にスピードを上げようと、足に力を入れる。 その瞬間、静寂が消えた。 バキッという枝の折れる音。 木々の葉が、激しく揺れる。 ドシーンという無様な音が、森の中に響いた。   「っつ〜〜〜〜っ」   ナルトは、あり得ない光景を見ていた。 ミスという言葉なんか持ち得ない、全て計算されて動く相棒が地面でしたたか腰を打って、呻いている。   「……お…ん?」   一瞬、敵と入れ替わったかと思った。それぐらい、あり得ない。 そして、病気かもしれないと、はたと気づき、慌てて駆け寄った。   「寄るなっ!」 「闇?!」   それでも、あまりにあり得ない状況に、ナルトは、足を止めない。不安そうにシカマルを見ている。   「あ"〜〜っ!どうしてお前の本能は、ちゃんと動作してんのに、頭がちゃんと動かねーんだっ!  今、オレの理性は1もねーっ!」   ナルトの足が止まった。止まったどころか、間合いをしっかり開ける為に、飛びのいた。   「おおおおおおオレは、ちゃんと服も着たし、変化もしてるっ!!」 「上着をズボンの中に入れろ……じゃなければ、オレの前を走るんじゃねー」 「何でだよっ!」 「ちらちらちらちらちらちらちらちらちらちらちらちら、オレに背中を見せてるんじゃねーよっ!  オレは、誘ってると判断した」   まるで幽霊のように、のろりと立ち上がったシカマルは、座りきった目でナルトに近づく。   「誘ってなんかねーっ!お前の脳内が変なんだっ!」   再び、ナルトは間合いを取るべく、後ろに飛ぶ。 シカマルは、口の端をあげた。   「そうだな、変だから、仕方がねーと思ってくれ」   言葉が終わるやいなや、シカマルは地面を蹴って、ナルトに向かった。 シカマルの頭は、類を見ないほど優れているが、闇という名は、頭と同じぐらい上等なその腕に与えられたもの。 そしてナルトは、間違いなく里一の腕によって、碧という名を得ている。 この二人が戦った場合、常であるなら、頭脳を100%駆使した戦いを得手とするシカマルに軍配があがる。 しかし、今のシカマルは、普通じゃなかった。 頭脳を使いこなす為の冷静さを著しく低下させている上に、未だ上着をひらひらさせ、ちらちらちらちらちらちらちらちらちらしている背中や腹に目を奪われ、稼働率があがらない。 ナルトは頭脳戦よりも、本能を元にした体力勝負を得てとしていたが、あまりに尋常じゃない相手の様子に焦り気味。動きがぎこちない。   月の明るい光の下、二人の影がくっきりと現れている。 風というよりは、爆風。 そして、華々しい閃光。 暗部が戦っていますよと、世間にスピーカーで叫んでいるのと変わりない。 そこに第三者がやってきた。やってきたくなかったのに、残った暗部全員から断られて、来ざるえなかった立場のその人は、二人を見つけ、速攻で印を切った。   「馬鹿者ぉっ!!!」   声と共に、高チャクラの水遁発動。 己の貞操を守る事に必死だったナルトと、相手の貞操を奪おうと必死だったシカマルは、その気合入った術を体全体に受け止めた。 シカマル、ものすごい勢いで木に叩きつけられる。 ナルト、ものすごい勢いでシカマルの体に叩きつけられる。 そして、二人の前に、三代目が立っていた。   「っ〜〜〜〜〜……ってぇ〜」 「……じ、じじぃ〜〜〜」 「お主ら……儂の言葉を聞いておったのか?」 「いてぇ〜〜」 「ずぶぬれぇ〜」   今でさえ聞いていない。 三代目は、再び印をきり始めた。   「ちょちょちょ…じじじ、じじぃっ!」   未だ、背中と腹に入った痛みと友達しているシカマルは、気づかない。しかし、シカマルクッションで、そこそこ元気なナルトは、慌てて防御の印をきる。   「儂の声は、聞こえるようになったか?」 「お…おう」 「ならば、今日の任務を暗証してみせぇ」   ナルトの額から水ではなく、汗が流れる。 暗証なんか、出来る訳がない。その担当は、背後にいて未だ唸っている。   『シカマル!シカマル!…今日の任務って何?』 『……いてぇ…』   心話を使ってまで、痛みを強調しなくてもいいだろっ!と、ナルトは叫び返す。   『とにかく教えろっ!じじぃがまた印を切りそうだってーーーっ!』 『巻物を盗って来る』 「巻物を盗って来るんだろ」 「ならば、その条件はなんだったか覚えておるか?」 『何だよ〜〜条件ってぇ〜』 『ばれねーよう速攻で』 「速攻で、ばれないようにだ」   三代目は、周りを見回す。   「これで、ばれてないと思うか?」   周囲を見回したナルトが見たものは、はずたぼろの木々、突然出来た空き地。 三代目からの視線が痛い。激しく痛い。体中に突き刺さっている。 しかもここは、ターゲットの屋敷から、あまり離れていない。 ナルトは、三代目を見る事が出来なくて目を泳がせた。   「さて……どうするのじゃ?」   その間が怖い。   「今から盗って来る」   ナルトがうーとかあーとか言っている声を遮り、シカマルのりんとした声が響いた。   「儂は、隠密にと申したはずだが?」 「オレが冷静になったんだ、問題ねーだろ」   遠くに見える屋敷は、すっかり目が覚めたように明かりが焚かれ、多くの人が見える。 しかし、目の前の二人が常であるなら、この状態でも人知れず巻物を得る事が可能だという事を三代目は知っていた。 三代目は、じろりとシカマルを見る。   「この騒ぎの原因は何じゃ?」 「オレが、発情してただけだ」   しれっと語られた内容は、三代目に激しい眩暈を起させ、深々とため息をつかせた。 三代目は、チラリとナルトを見る。   「闇、さっさと碧を押し倒して、二度とこのような事がないようにして欲しいのぉ」 「じじぃっ!」   ナルトは、冗談じゃないとばかりに叫ぶ。   「儂は、隠密と言ったはずじゃが?」 「ぐっ……」 「碧も、諦めが肝心じゃ。もう交換日記は何冊目になったのじゃ?惚れておるのなら、十分な数ではないかの?」 「ばっ……」   ナルトは三代目の言葉に絶句する。   「あー、いいいい」   シカマルは、三代目にいらないとばかりに手を振る。   「オレは、好きで日記を書いてるからな。  ちょっと今日はやばかったけど、無理やりはオレの好みじゃねーよ」   よっこらせと、じじ臭い台詞を吐きながら、シカマルが立ち上がる。   「ほら碧、行くぞ」 「…お、おう」   差し伸べられた手を、何の疑問も持たずに握り、ナルトも立ち上がった。 それを見た三代目は、小さい笑いを浮かべシカマルを見、それに答えてシカマルも、口の中で笑う。   「んじゃぁ、行ってくんなー」   ナルトが三代目に手を振った後、二人はその場から消えた。                 ◇◆◇                 目の前に、上半身裸でだらしなく寝そべっているシカマルが居た。 不意打ちで口付けてくる、その唇が、自分の名前を紡ぐ。音は無い。 それを見て体温があがった。 顔がやけに熱い。 心臓がどきどきと体の中で煩い。 いつものように、馬鹿言ってるんじゃねぇっ!と、言いたいのに言えない。 目に映っているのは、いつもと違うように見える唇。 自分だけを映している瞳。 それが酷く自分を惹きつけ、目を逸らせない。 シカマルの手が、自分に伸びてくる。 誘われるように、自分の体がそちらに動いていった。   「◇#☆●%▲♂□$★◎ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」   言葉にさえならない叫び声で飛び起きた。 今だ心臓はバクバクいっている。顔だけがやけに熱い。 目の前の変わらない自分の部屋に焦点が合って、やっと夢だったと気づいた。   「…………な…んだ……これ?」   そして、違和感を感じ、恐る恐る布団をめくる。 真っ赤だった顔が、もっと赤く染まる。 布団を握り締める。 体が小刻みに震える。   「おぉぉぉぉぉぉぉんんっ!!!!!」           シカマルは、昼間の任務に向かう為、のんびり歩いていた。 突然背後に見知った気配を感じる。「しかぁまぁるぅぅぅぅっ〜〜!!」声も聞こえた。そしてもの凄い衝撃が腹に来て、その勢いで体が吹っ飛んだ。「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」   「…っ〜〜ってぇ〜」   ドップラー効果をふんだんに使ったナルトの声だけで、姿は確認できない。出来ないどころか、もう気配さえも無い。   「……なんか、あばらいったか?」   上半身を起そうとして、激痛に見舞われる。   「で、いったい何なんだ……???」   目の前に落ちていた交換日記を拾い、ナルトの訳分からない行動に、シカマルは呆然としていた。   -End-  

     

  今回は据え膳じゃないだろ?<大嘘 でもさー、夢でもちょっといい目見たじゃん! とまぁ、思った次第でございますが、相変わらずの二人でございます。 ここ最近、違うジャンルでちょっと凄い?文章書いていた影響か、少し内容がシカマルに親切になりました<違うかな? でも、ここまでですけどね(^-^)b   ということで、蹴られたシカマルでしたー。次は殴られればいいさー<おいおい ちなみに、布団をめくってナルトが見たものは…分かるよねー(^-^)  

  07.02.02 未読猫