……纏う空気が変わった気がした。 ……纏う空気が激変した。   ほんの僅かな、気をつけて見なければ分からない、ほんの些細な変化を見た気がした。 何が変わったか分からないのに、ガラリと何かがひどく変わった。   その理由が分からない。 その理由が分からない。   もう一人が変わるのなら分かる……でもなぜ? もう一人が変わるのなら分か……分からない…っ?!   これは放ってはいけないと、直ぐに思った。 これは放ってはいけないと、心が言った。   【指し示す子 4】   「……ヒナタ……ちょっといいかな?」   自分に声をかけた人物に少し驚き、そして酷く納得した。一つ頷いてついていく。   「ここは静かで良い場所なんだ。  それと、これ今僕の一番のお気に入り」   差し出されたのは、この秋新作のポテトチップス。 一枚手にとって口に入れ、次の言葉を待った。   「……ん〜……あのね……僕の思い違いかもしれないんだけど………シカマル…ヒナタに何か話していない?」   ヒナタが困ったように首を横に振る。 そんなヒナタの様子に、しばしチョージは考え込む。   「ヒナタは、何でシカマルと訓練をするようになったのかな?」 「それは……あの…………っ?!!」   言いかけた言葉が続かない。ヒナタは、目を見開き呆然としていた。   「……シカマルにしては、杜撰だなぁ…それとも記憶操作の術は、そのくらい難しいって事なのかな?」   呟くような声に、ヒナタはビクンと体を揺らし、顔をあげる。   「何で?……何で?チョージくん」 「僕ここ最近、今まで以上に二人を一生懸命見てたんだ。………言っていいのか分からない……でもあの変化は…………」 「ナルトくんが…皆は分かってないみたいだけど……全然違う……」 「シカマル……巧妙に隠しているけど……違う……」   そう言った後、二人が不安げに見交わす。   「ヒナタ、聞いてくれるかな?」   真剣な顔のチョージに、ヒナタは同じくらい真剣な顔で頷いた。 チョージは、ナルトと二人で話した事をヒナタに話す。 その内容は、あまりにも個人的で、ヒナタに話ずべき内容ではなかったが、今自分が持っている強い焦燥感が、彼女に言う事によって解決する事が先決と、良心を押し止めた。   「なんでだろ?………既視感………どうして?」   白い瞳を閉じた顔は、一生懸命考えている。   「チョージくん……私……記憶消されている?……なぜ?」 「分からない。  消されたのかどうかも分からない。  ただ、ナルトの話から、ヒナタはシカマルと二人っきりで話ていたのは確かなんだ。  その後に、訓練をするようになった。  ヒナタは、その記憶が曖昧なんだよね?」 「う…うん。  私の記憶だと……シカマルくんに宣言した事だけしか残っていない。  何で?…どうして…私はシカマルくんにそう言ったの?  尊敬しているからって……二人を助けたいからって………」   ヒナタの瞳からぽろぽろ涙が零れる。 自分の記憶のはずなのに、肝心な事が思い出せないのが、歯がゆい。   「ヒナタ、はい」   チョージの手には、橙色の飴玉。   「飴玉を舐めると、涙が止まるんだ」   ヒナタがコクンと頷いて、口の中に飴玉を入れる。 口の中に甘さが広がるにつれ、ぼやけていた景色も、目の前のチョージの真剣な顔もはっきりとする。   「泣いていても…しょうがないよね」 「シカマルは、ヒナタの記憶を全部消去できなかったんだね…」 「え?」 「二人を助けたいって言ったんでしょ?」   困惑げにヒナタが頷く。   「その気持ちが嬉しかったんだと思うな。  それに、その気持は修行にとって必要だよね。  だから、シカマルは記憶を消せなかった。  杜撰だったからでも、難しかったからでもなくて、ヒナタの為に残さざる得なかった」 「ぁ……」 「ねぇヒナタ、さっき既視感を覚えるって言ったよね?」 「うん…」 「僕達じゃ、シカマルの足元にも及ばないけど、考えよう。  何が起こっているのか、どうして記憶を消す必要があったのか……考えなくちゃいけない」 「うん!」   ヒナタもチョージも一言も発せずに、原っぱで座り続ける。 どちらも酷く真剣で、一生懸命だった。   そして、ヒナタが困ったようにチョージを見る。   「………シカマルくんは、悩んでいたように見えたんだよね?」 「うん……間違い無いと思う……」 「ナルトくんの話を聞く前には、元に戻っていたんだよね?」 「うん」 「私は、シカマルくんと、話をしたんだと思う」 「記憶が消されていたのが、証拠だね」   口元に置かれた掌が不安そうに握り締められる。   「既視感が気になるの……」 「うん…僕も」   二人が、困ったようにお互いの顔を見る。   「シカマルくんは……何を私に話したの?」 「……自分が解析できない事、理解出来ない何かを聞いた?」 「………チョージくんも、そう思う?」   チョージが頷く。   「シカマルくんは、ナルトくんと同じような悩みを持った……?」 「でも、分からない。  どうして、それが記憶を消す事になるんだろう?」 「うん……」   チョージは必死になって考えていた。 今までのシカマルを、ほんの小さな頃から見ていたシカマルを思い出す。 そして、仲間として認められたと思った時に見つけた変化を。   ヒナタは必死になって考えていた。 ずっと見ていたナルトの事を一つ一つ丁寧に思い出す。 そして、仲間となってから変わった彼を。   「知らない事は感情…?」 「自分が何を感じているか分からない?」   二人はお互いを見て、小さく頷く。   「ヒナタは、シカマルに教えてもらっているよね?」 「うん」 「僕も、ナルトから教えてもらうようにする」   ヒナタが、分からないと首をかしげる。   「僕達…二人だけじゃなくて、仲間全員で、もっとあの二人に近づこう。  昔、シカマルがナルトに出会った時に、やった事は聞いたよね?  うん、あれだけじゃ足りないんだ。  人の中には、もっと沢山の感情があるから。  どんなふうに心が動くか、どんなふうに感じるか、もっと知らなくちゃだめなんだ」   ヒナタが、ここに来て初めて嬉しそうに頷く。   「私は、知ってる。  自分が、どんな気持ちで……ナルトくんを見てきたか。  言葉一つだけで、どんな心があったかくなるか……悲しいぐらい嬉しくなるか……そして、辛く泣きたくなるか。  嬉しい事、悲しい事、胸が締め付けられるような事……いくらでもある。綺麗とか、楽しいだけじゃない……」   チョージが、ニッコリ笑う。   「時間がかかるね」 「でも…このままじゃ…いけない」 「うん、僕らにはさ、仲間がいるから…きっとなんとかなる」 「そうだよね。きっとすぐだよね」         毎日毎日、色々な事を話す。 本を読んで思った事 テレビを見て思った事 任務で起こった事 道端で見かけたものの事 沢山の事。     毎日毎日一緒に経験する。 犬の世話をした 旅行に行った 料理をした 泳ぎに行った 沢山の経験。     日々が流れる。 あの日、突然変わった雰囲気は未だ変わらない。 しかし、その雰囲気に加わる新しい変化があるように見える。 いつも仲間に囲まれている。 誰もが、二人に必死になって手をのばしていた。       「ナルト〜!これね〜すっごくよかったの〜。  読んだら感想聞かせてねー」   そんな仲間の言葉に慣れてしまったナルトは、違和感も無く楽しそうに返事をする。   「シカマル!赤丸の恋人探しに、付き合え〜!」   メンドくせーと言いながらも、シカマルがあけっぴろげな感情を受け取る。       火影様は、五代目になった。 仲間は、みんな上忍になった。 それでも相変わらず二人の側に、誰かが立っている。       あれから五年が経った。 まだ何も変わらない。     【End】  




 


  ………え〜石は投げつけないように((((;。。) 一応指し示す子は完結です。 続き書かなくちゃ、どうしようも無い終わり方だねf('';) この題名で続きを書くのはどうしても変なんで、とりあえず一区切り置かせて頂きました。   なぜならば、五年経っちゃうから。 あのまますぐは無理でしょう〜f('';)展開としては絶対無茶。 ので、指し示しているメインの二人の話で、ひと段落置きました。   シカマル頑固です。 ナルトは臆病です。 でも仲間は気合入ってます。 だから、大丈夫です。   ということで、次の展開にご期待下さいまっせm(__)m   未読猫【06.01.20】