窓枠に寄りかかり、月を見上げている黒い影。 しかし、その瞳には何一つ映っていなかった。 今日、ナルトがチョージと二人で話しているのを見て思い知った。 確かにこれは子供の独占欲なんてものじゃない。 いくら自分にその術を持っているとしても、新しい仲間の中では、親しいとさえ言えるチョージに対し自分は何をしようとしていた? 伸ばそうとしていた手の先にあったのは冷たく硬い刃物。 尋常じゃない感情が沸いてくるのを、頭の片隅で唖然としていた。 殺意に限りなく近い…それ 認めてしまった。 認めるしか出来なかった。 ナルトを束縛したい。 誰にも触れさせず、誰とも会話をさせず、ただただ自分の為だけに生きて欲しいと、自分の中に湧き上がった殺意が言っていた。 そんなものが、独占欲なんていう可愛い言葉で片付くはずが無い。 自分の中にある狂気に近いモノに怯えた 確かに、自分の中に別のモノもある。 ナルトに笑っていて欲しい。 ナルトに幸せになって欲しい。 優しくしたい、甘やかせてやりたい、どんな時でも手を差し伸べたい。 それだけだったら、どれだけ良かったことか…… 想っているだけなら、自由だとヒナタは言っていた。 自分が第一に考える事は、ナルトの幸せ。 間違い無く一番に自分の中にある想い。 ならば、湧き上がった想い全てを自分の中に閉じ込めよう。 決して誰にも悟られず、決して開放させない。 残すのは、ナルトに幸せになって欲しいという事ただ一つ。 そう自分は女でさえもない…ナルトも… 何も産み出す事も出来ない関係を求んでどうするというのだろう? そんな所に、ナルトの幸せは無い。 この先、オレは何一つ変わらない。 夜の相棒としての立場だけは誰にも譲らないから。 夜のナルトと一緒に居れる時を、全てとしよう。 だから、誰がナルトの側に居ても。 だから、ナルトが誰を選んだとしても。 オレは、何も変わらない………… 月を見ていた瞳は閉じられた。 【指し示す子 3】 「あのさ…シカマル…」 ここは、木の葉の里の外れ近く。この後、二人の家へそれぞれ分かれる分岐点。 二人は任務を終え、少しの休憩を木の上で取っていた。 「あー?」 「最近ヒナタと一緒に居るよね?」 「あぁ…」 シカマルが楽しそうに笑う。 「ヒナタは、すげぇぞ」 笑いながら言うそれは、すごく楽しそうで、ナルトが不思議そうにシカマルを見る。 「オレ達が悪者に襲われている所へ、助けに来たいんだと」 ナルトの目が見開かれ、瞬かれる。 「ヒナタが?……オレとシカマルを?……」 「あぁ…な、すげぇだろ?」 ナルトが、照れくさそうに笑いながら頷く。 「もしかして…修行?」 「おう!お前も手伝え。 叩きがいのある生徒だぜ」 「分かった」 ナルトが嬉しそうに頷く。 チョージの言うとおり、聞いて良かったと思う。 答えを聞くまで不安に思っていたシカマルの笑顔を素直に受け取れる。 何一つ不安に思う事は無かった。 ただ、何で自分がそう思うのかが未だに分からない。 あれから、自分の気持ちというものをずっと考えていた。 しかし、あまりに外界を遮断してきた生は、僅かな心の動きしか残さず、最近漸く人の感情というモノに触れその度に驚いている自分には、何一つ拾える事が出来なかった。 ナルトはシカマルを見上げる…いつもと変わらない笑顔に出会った。 肺に溜まっていた空気を一つ吐き出して、もう一つの質問をする決意をする。 自分でも良く分かっていない質問を…… 「どうした?」 嬉しそうに笑っていた顔が、不安げにシカマルを見ていた。 「シカマル…明日忙しい?」 「いいや…何だ?」 「…聞きたい事があるんだ……」 「構わねぇよ。言ってみな」 いつもと変わらないシカマルの口調に、もう一つ空気を吐いて重たくなっていた口を開いた。 あの時チョージに話したように、言われた事も交えてつまづきながら……… 話が進むにつれ、シカマルの頭の中は混乱していく。 まるで自分が思っていた事を暴露されたような内容。 けれども、このナルトの言葉をヒナタが言っていた感情で処理するわけにはいかなかった。 既に自分は自分自身に誓っていた この話を自分の都合の良いように解釈しては決してならないと自分に言い聞かせ、ナルトの言葉こそが世間を知らぬ−−自分だけしか仲間が居なかった−−子供の独占欲だと結論づける。 不安げに必死に語るナルトの言葉は続いている。 シカマルは返す言葉を決めてしまっている。 心とは裏腹に、シカマルの顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。 「…チョージが今までにあった事を思い返して、自分の感情を探せっていわれた……でもオレには見つけられなかった。 オレはまだ感情が分からない………」 シカマルは、俯きながら首を横に振る頭に手を伸ばし頭の上に乗せた。 「なー、オレ達はお互いしか知らなかったよな。 お前は何も見ていなかったし、オレに出会ってからもオレ以外に心を許すわけにいかなかった」 ナルトが顔を上げて、シカマルの顔を真剣に見る。 そして一つ肯いた。 「オレは、生まれた時から自分を知られる訳にいかなかった。この頭だからな……人に対して壁を作ってきた。 だから、オレもお前と同じように自分の感情さえ理解するのが難しい………なぁ、ナルト…オレはお前と同じなんだよ」 ナルトは真剣な目をして、シカマルの言葉を待つ。 「そんなオレ達だからさ、似たもの同士で、お互いしか居なくて……でも今は違うだろ? オレにも、お前にも、仲間が出来た。 おかげで色々な感情ってやつに触れてきたよな。随分新鮮な思いをオレもしてきたよ。 ヒナタがオレ達を助けに来るって、一生懸命って言葉が似合う勢いで言ってくれた。 あの食る事が好きなチョージが、オレ達の為にお菓子を食べずに戻る事を必死になってくれた。 同期の仲間は誰もかれも、オレにとって眩しいぐらいの感情をオレ達にくれている。 オレ達は勉強しなくちゃいけねーよな…感情ってやつをさ」 ナルトは肯くが、シカマルの言葉が自分の質問に対して、どんな意味を持つのかが分からなかった。 ただ、ナルトにとって仲間が増えた今でもシカマルが唯一という事は変わらない。 それ故、シカマルの言葉を素直に聞き、疑問を持つ事さえさせない。 ナルトは、いつもの様にシカマルの言葉を真剣に聞いていた。 「本当に、オレはそーゆ事を知らなくて……これから必死に学ばなくちゃいけねーんだと思う。 ……でも、お前の今持っている感情なら名前を付けられるよ」 シカマルが静かに微笑みながら、ナルトの目を見る。 何かを伝える時、どちらも二人の目を見ながら話していた。今日も変わらない。 「あまりにオレとお前が一緒に居たから、お前はオレが他の奴等に取られたと思って寂しいって思ったんだろう。オレも同じように感じてたぜ」 ナルトが目を瞬かせる。 「本当だ。 お前がこの間チョージと一緒に草むらに居た時も、結構寂しかったな」 「シカマルも…」 「あぁ、通りがかった時、深刻そうにしてるお前を見たらな…チョージも言ってたんだろ?悔しいって思うかもって…オレは…たぶん寂しいって思ったと思う」 「…一緒だったんだ」 「そう、オレ達はいつも一緒だったからな」 ナルトが嬉しそうに笑って肯く。 「この感情には、名前がある。 独占欲って立派な名前だ」 「独占欲……」 「でも、オレもお前も知ってるだろ? オレ達は木の葉のトップで、それは当分変わらないって事。 夜のオレの時間は、全てお前のモンだぜ」 「オレの夜の時間も、全部シカマルのモノって事だよな」 二人共お互いを見ながら、悪戯が成功した後みたいな笑顔を向ける。 ひとしきりニヤニヤ笑った後、シカマルは笑顔を収め真剣な眼差しをナルトに向けた。 「これから、オレ達の周りは随分と変わる…いや、もう変わってきてるよな? お前をちゃんと理解するヤツが、増えていくだろう。 なにせ新しくなった仲間達が、お前をそのままにしておく訳ねーもんな。 まぁオレも大人しくしてるつもりなんかねーし? 夜の仕事の仲間も増えていくかもしれねー。 オレがお前の側に居れなくなるかもしれねー。 それに……お前が愛しいと思う人が出来るかもしれねーしな。 なぁ…ナルト、オレはどんな状況であっても、オレにとってお前が一番だって事だけ覚えててくれるか? それさえ覚えててくれれば……や、違うな……覚えてなくてもいい……お前が忘れていてもそれは変わりねぇ…」 シカマルの言葉は、どんどん小さくなって最後は自分自身に言っているようだった。 ナルトの顔から笑顔が消え、困惑した表情が現れる。 シカマルの言っている事が理解出来なかった。 独占欲という言葉を当てはめてくれた。 自分はあれほど激しい感情を今まで知らない。感情というものを知らないと言われれば否定は出来ないが、それでもシカマルに対してのあの強い感情は間違いの無いものだと思っている。 なのに、どうして自分がシカマルから離れるような事を言うのかが分からない。 再びナルトは混乱していた。 「ま、こんな所だな」 シカマルがナルトの手を掴んで、立たせる。 「最後の話は気にすんな。 仮の話だからよ。 ってことで、また明日な」 「う…うん…また明日……」 ナルトの頭をポンポンと叩いてから、シカマルはナルトの前から消えていく。 その一瞬後にナルトも木の上からかききえた。 ◇◆◇ 家に帰ってから、ナルトは布団の中に潜り込んでいた。 理由が分からず、目から溢れてくるものがある。 声を出したいのに、何を言って良いかも分からない。 ただひたすら肩を震わせ、布団を握り締めていた。 独占欲って何? 途中までは分かっていた気がする。 シカマルと同じと聞いて、嬉しかった気がする。 でも今は分からない。 何もかもが分からない。 最後のシカマルの言葉…何が言いたかったんだろう? 何度繰り返し考えても……分からない。 そして、繰り返す度に、涙が零れてくる。 何でオレは泣いているんだろう? 何でこんなに辛いって思うんだろう? オレは何を思っているんだ? シカマルは何を思っているんだ? 誰か教えて……… ナルトは、唯一答えを教えてくれるだろう相手に、再び何か聞く事に怯えた。 自分が流す涙が怖かった。 どうしていいか分からず、ずっと丸まって布団を握り締めていた。 【continue】
シカマルは決意しちゃいました。 あのシカマルですから、かけらも表面に出しませんよ(--;)どうしよう…話にならねぇじゃん。 さて、前に進む事は出来るでしょうか? 非常に不安な自分がここに居るんですけどf(^-^;) えっと…この先平行線じゃない事を祈るだけの未読猫でしたーーーー(先行き混乱中) 【05.08.17】