オレはいったいどうした?     今まで自分で感じた事が無かったものが自分の中にある。     たぶんこれが、感情と呼ばれるもの…だろう。 それが、まるで自分じゃないかのように様々に変化する。 自分にここまで感情があるとは思わなかった。 オレに何が起こってるんだ?     【指し示す子 1】     眼下では、ヒナタがひたすら型を作り練習を続けている。 最初に見かけてから優に1時間は経っていた。 どれだけ続けているのか分からないが、一生懸命取り組むその姿は凛としていて清々しさを感じる。 その動きがようやく止まる。 木の上でずっと見ていたシカマルは、普段通り音も立てずに降り立った。   「っ?!!」   背後に何かを感じた瞬間、振り向きざまに足をまわす。   「おっと…。」   足を片手で受けたシカマルが随分と強くなったと声をかけた。   「シカマルくん…。」 「まだ練習を続けんのか?」 「ううん…今日はもう終わり……あの…何か用事なのかな?」   ヒナタが珍しいと小首を傾げてシカマルに聞く。   「……相談に乗ってくれねぇか?」   ヒナタが唖然として目を瞬く。 自分にとって、シカマルは頭が良く、暗部生活も長く、色々な事を知っている相手。自分が相談に乗れるような事があるとはとても思えなかった。   「あの…私で…いいのかな…?」 「あぁ、ヒナタなら冷静に分析してくれそーだからな。  まじ頼みてーんだけど、今からいいか?」   分析という言葉にヒナタがびびる。何を分析するか分からないが、自分には無理だと首を横に振る。   「あ?…あぁ、別に暗号解読や戦略について聞く気なんかねーぞ。  あの時ナルトの掻い摘んだ説明でちゃんと真っ当な答えを見つけられただろ?  その理解力とナルトをずっと見つめ続けていた観察力でなんとかしてほしーんだ。」   シカマルがヒナタが見た事も無い、困った様子でヒナタを見る。 シカマルの言った事は到底自分に当てはまるとは思えなかったが、シカマルの浮かべた表情があまりにらしくなかったので、ヒナタはニッコリ笑い座ろうと言って木を背に足を投げ出した。   「風が気持ちいいね…。」   目の前に胡坐をかいたシカマルに笑いかける。   「あぁ…そうだな…。」   普段のシカマルなら、自然と風に体を委ねるはずなのに、シカマルの困った顔はずっとヒナタを見つめていた。   「あの…シカマルくんの…好きな様に…話してくれれば…いいから。」 「すまねー…。」   一言言ってから、シカマルは一時黙り込む。空を見上げて一つため息をつき、再びヒナタに視線が戻った時にシカマルの口が小さく開いた。   「あのよー…オレはお前らに出会って良かったと心から思ってるんだぜ。  オレにとってもナルトにとってもさ。  ……どう言ったらいいんだろうな…、心から良かったと思ってんのに、最近正反対のものがオレの中にある……。」   ヒナタは真剣な面持ちでシカマルを見続ける。 言葉は一切はさまない。 シカマルが言いたいように、言いたい事を言い終えられるように、静かにシカマルの言葉に耳を傾けていた。   「なぁ…何なんだ…これ?  まったく分かんねーんだよ。  オレは、生まれた時から子供らしく演技していたようなもんでさ、人に対してどうこう思った事なんか無かった。  全てメンドくせーって言葉で通して、友達のふり、知り合いのふりをしていれば良かったんだ。  ……ナルトに会うまでは全ての自分以外の人間にそうしてきた…だから、相手に対して浮かぶ感情なんてものは無かったし、知らなかった…………。      あぁ、ナルトに出会ってから、嬉しいってのは知ったな…。」   ヒナタは未だ真っ直ぐシカマルを見つめ、聞いている。 その視線から目を逸らし、シカマルは言葉を続けた。   「なぁ…最近嫌だと、たぶん嫌だと思っている事がある……。  それとは反対に、凄く嬉しいと思っている事もある……。  オレは、こんな感情を知らない…たぶん感情だと思うんだけど……知らないんだ。」   いつものシカマルと違い、不安定な様子、困った表情、ヒナタは驚いていた。   「ねぇ…シカマルくん…、その感情はどんな時に…出てくるの?」 「ナルトが……楽しそうに笑っているのが、嫌で嬉しい……。」 「ナルトくんが…どんな時嫌なのかな?…どんな時嬉しいのかな?」 「たぶん……オレ以外のやつと楽しそうにしている時が嫌なんだと思う……。」 「…ナルトくんが…シカマルくんに向けて笑っているのが…すっごく嬉しいんだよね?」   シカマルが、驚いたようにヒナタを見て頷く。   「ナルトくんの行動によって、嬉しかったり…嫌だったり…するんだよね?」   シカマルは、不思議そうにヒナタを見る。   「あの…あのね…私が前そうだったから…。」 「そうだった?」 「うん…ナルトくんが…サクラちゃんの事を好きだって言う度、心が痛かった。  自分を振り返って…そんな風に感じる事が許せなかった…だって、私…何も無かったから…。  誰かと楽しそうに笑っているナルトくんを見ると…嬉しいと思うけど…相手の人が羨ましくて…嫌いだった…。  ナルトくんが私に話しかけてくれると…物凄く嬉しかった。泣きそう…になった…。    シカマルくんが抱いている感情って…そういう事じゃないの…かな?」   シカマルは訝しげにヒナタを見る。   「ヒナタ…?それは…お前がナルトを好きだから……。」 「うん…ナルトくんの事が好きだったから…だから、そんな感情が生まれた…。」   未だ訝しげに見ているシカマルを、ヒナタは真っ直ぐ見つめる。   「シカマルくんは、ナルトくんが友達としてでなく…好きなんだね…。」   目が見張られるのは一瞬、直ぐにシカマルは首を横に振る。   「…い…や…違う。」 「…好きだとだめ?」   シカマルは怪我を負った時のように顔が歪む。   「…それ…きしょい……だろ?  オレも…あいつも…男…だ…。」   ヒナタが困った顔をしてシカマルを見る。   「きしょいって…言った時…辛くなかった?」 「辛い?……これが…?」 「うん…心臓の所がギュッって…そんな風に感じなかった?」   シカマルは呆然とヒナタを見る。 ヒナタの言っている事が間違っていない事を心は認識してしまった。 まるで自分を見透かされたかのように、言い当てられる。 しかし、シカマルの中では、未だヒナタの言葉に抵抗していた。 自分はそんな感情は持っていないと。   実際心の奥底では、こんな感情を持つことによってナルトが自分から離れてしまう事を恐れていた。恐れた故に、自分の心を否定した。   「シカマルくん…想う気持ちは自由だよ。  相手に迷惑さえかけなければ…自由なんだよ。  だから私だって…想っていられた…。誰だって…想うのは自由なんだよ…。」   シカマルは再び首を横に振る。   「違う…これは…これは…きっと独占欲ってやつだろう…。  ずっとナルトと二人だったから…だから…。」 「シカマルくん…自分に嘘をつくと…疲れるから………メンドくせー事になっぞ!」   真っ赤な顔でヒナタが叫んでいた。 シカマルは一瞬目を見開き…噴出した。   「シカマルくん…。」   ヒナタが未だ真っ赤な顔のまま、シカマルを恨めしそうに見る。   「だ…だっておお前……似合わねぇー。」 「シカマルくんっ!」   ヒナタは点穴を全部突いてやろうかと構えるが、ニヤリと笑ったシカマルがヒナタの腕を先に取った。   「わーったよ…ったく、ヒナタには敵わねーなー。」   苦笑を浮かべながらも、シカマルはヒナタ真っ直ぐ見る。   「ありがとうな…でも…なぁ、何で過去形なんだ?」   分からないとヒナタが小首をかしげる。   「ナルトの話をしていたお前は、全部過去形だったぜ。」 「あ…うん…今もナルトくんの事好きだけど…好きがちょっと変わった…かな…。  ナルトくんの事を聞いてから…頑張らなくちゃって…私じゃ好きって言う資格がないなって思ったの。  今のナルトくんは、私にとって尊敬する人。  逆境なんかに負けない強い人。    そ…それから…あ…あの…シカマルくんにも同じ思いを持っているの…迷惑かな?」   真っ赤な顔のヒナタが、恐々シカマルを見上げる。 シカマルがため息ついて、ヒナタの頭をかき混ぜた。   「全然…でも、資格ってなんだよ?そんなもん必要ねーって、お前が今言ったんだろ?  それに、オレはヒナタの事を尊敬してるぜ。  あの時、オレ達に言ったあの言葉は凄かったもんな。    そんなスゲーヤツなんだから、お前はオレなんか尊敬する必要カケラもねーぞ。  なにせ、さっきのあれがオレだからな…。」   困ったように苦笑を浮かべるシカマル。   「シカマルくんは、頭が良すぎるから…考えすぎなんだと思う…。  それに私は自分に嘘を付いていないからいいの…いつか自分で自分に納得できたら、ナルトくんかシカマルくんに想いを伝える…と思う。」   シカマルが目を瞬かせる。   「オレに?」 「うん…今は二人共同じくらい尊敬しているから…いつか…私が手を貸せるぐらいになれたら…。」 「既に手を貸してもらってねーか?」   今の状況は何だ?とシカマルは自分を指差す。   「強くなって…助けに行きたい…の。」 「……オレ達が悪者に苛められてっとこ、ヒナタが助けに来るってか?」 「うん!」 「そりゃぁ……楽しみだな。  なら、もっと気合入れて特訓すっか?オレは結構時間あるぜ。」   くすくすとシカマルが笑う。 ヒナタはそんなシカマルに対し、嬉しそうに笑って頷いた。           何で、ヒナタとシカマルが楽しそうに話してんだろ? オレには関係ないけど…どうして?何で?嫌だって思うんだろ?   探していた相手は眼下に居る。 木から飛び降りればすぐに話は終わるはず。   何でオレは降りれないんだろう?           何で………           【continue】    




 


    あぁっっ!ヒナタちゃぁ〜んVv 昨年8月に指し示す子・空っぽの子を書きあげた時から、この妄想はずっとたゆたゆしていました。 ヒナタちゃんがメインVv(゚゚*)うぅっ〜シカマルと同じレベルで嬉しい。 実は、夜シリーズの最初を書いた当時、ヒナタちゃんの声(アニメ)を知らなかったですよー。 初めて知った夜、もーーーーめっさ萌えっ!激プリチーVvいやぁ〜ん似合うわーvv 脳内妄想とっても楽しいでっす(・_・)<ぁゃιぃ一直線   えっと、タイトルですが、使いまわしと言われればそれまでなんですがf(^-^;) 今回の展開を考える上でこれが一番会っているかなーと思いまして。 すんません…他に思いつかなかったのさーーーっ((((((((脱兎