◆仲間 弐 7 意識を取り戻した瞬間、ナルトの中に、全ての記憶が戻っていた。 ガバリと体を起こす。 きょろきょろと視線を動かし、一点で止まった。 「よぉ」 「俺が、勝った」 「そうだな」 倒れていた自分を静かに見下ろしていたのは、間違いなくナルトの知っているシカマル。涙が勝手に溢れてきた。 「また、泣くのかよ」 「…だって…だって…」 「ほんとに、お前って……記憶失っていて、どうして泣くんだ?お前の脳内は、どうなってやがる?」 「…俺は……シ、シカマルを……忘れたり…しない……。頭が忘れていても……ちゃんと……心が覚えていたっ……から…」 ぼたぼたと、後から後から涙が零れ落ちる。 「シカマル…」 「あ?」 「好き……好きだ……いつだって、俺は、一番にシカマルが大好きだ」 苦笑を浮かべながらもシカマルは、ナルトに近づき抱き上げる。 「分かったよ」 きつく抱きしめる。 「悪かった」 「うん」 同じ力で、抱き返してくる腕に、あの時からずっとあった絶望感が消える。 シカマルは、笑みを浮かべていた。 「あ……シカマル?」 「ん〜?」 「みんなの記憶は?」 「そのまんまだぜ」 「………消えたまんま?」 「当たり前だろ?元に戻したら、絶対俺が、絞められるじゃねーか」 堂々と言い放つ顔は、昔二人で三代目に仕掛ける悪戯を考えていた時の顔と同じ。 ナルトは、げらげら笑い出した。 「ばっ……シ、シカマルっ……あ、あいつらを……あ、あま、甘く見すぎっ」 「あぁ…確かになぁ。あいつらってーか、ヒナタとチョージの二人がなぁ……」 「だろぉ?」 「チョージの事だから、俺の様子見て、記憶が戻ったってすぐにばれるって」 「あ〜〜あいつ、そーゆ事は、目ざといからなぁ…」 「ばれた瞬間、イノと二人で記憶を返せって、殴りこみに来るに、俺の全財産かけてもいい」 シカマルは、うんざりとした表情を浮かべて、メンドくせーと一言。 あまりのシカマルらしさに、ナルトは、また笑い出す。 「あの術を設置するのに、どんだけ時間がかかったと思ってんだよ……」 「シカマルが悪いんだろ」 「そうか?」 シカマルは、今、真顔でナルトを見ている。 「俺は、キョウとして、お前を見る事が出来て良かったと思ってるぜ」 「……うん…俺、俺も、……なぁ、シカマル、お前、俺の過去をかなり修正してくれたよな?あの、暗い感情が無い自分ってのを知る事が出来たのは、…良かったと思ってる」 ナルトの手が、シカマルをぎゅっと握る。 「うん…俺達には、あの時間が必要だったんだな」 「あぁ…」 「でも、あいつらが居なかったら、もっと時間がかかったと……思う…」 「だろうなぁ。ヒナタなんか、ここに押しかけて来て、すっげぇ説得をしていったぜ」 「説得された?シカマルが?」 「キョウがな」 シカマルの指がナルトの頤をすくい、唇を軽く合わせる。 「こーゆー事するぐらいには、説得された」 「ばっ……………シカマルっ!!」 真っ赤になったナルトは、口元を両手でおさえたまま、硬直した。 「お前が、好きだ」 額にもう一つキス。 「ちょ…あ、……シカマルーーーーーーーーーーーーっ!お前、変わりすぎっ!!」 恥ずかしさを、全部攻撃に転じた。 シカマルの腕から逃れ、床を蹴り、シカマルめがけて、クナイを飛ばす。 「避けるなぁぁぁぁぁぁっ!!」 「や、俺、死にたくねーし?」 「むかつくっ!ずっと、サボってたくせにっ!!」 「あ〜?俺、ちゃんと仕事してたぜ。じゃねぇとお前、寝られねーぐらい仕事が増えてるはずだろ?」 「え?」 「お前とも、一緒に仕事しただろ?京夜って、分かりやすく名乗ってたじゃねーか」 ナルトは、立ち止まった。 取り戻した記憶と、今までの作られた記憶の不整合部分を、はっきりと認識する。そう、京夜の存在。多くの任務を一緒に行った相手。それが、キョウだった事を、里一番と呼ばれていたはずのナルトが、気づいていなかった。 ナルトの体が、小刻みに震えはじめた。 「シカマルーーーーーーーっ!てめ〜〜、皆にバラしてやるーーーーーーーっ!!」 「ちょ、ちょ、手伝ってやってたのに、何で怒るんだよっ!バラすなっ!メンドくせー事になるだろっ!」 「うるさい!うるさい!うるさぁぁぁぁーーーい!!」 変わらないシカマルに、変わったシカマルに、頭にきながら、どきどきしながら、ナルトは攻撃を仕掛ける。 単に、恥ずかしくて、嬉しくて、それをどうあらわしていいか分からないだけ。 少し前の記憶を失くした自分なら、無条件にシカマルに抱きついたままで居ただろう。それが今の自分には、出来ない。 真っ赤な顔のまま、クナイを手裏剣を、投げつける。 「ナルト」 なのに、その声音に、勝手に手足が止まった。 「な、なんだよ」 メンドくさそうな笑み、変わらない笑みを、シカマルが自分に向けている。 「シカ…マル……」 「ほら、来いよ」 まるで術にかかったかのように、ふらふらとシカマルの方に一歩一歩足が進んでいく。 「ここに引越して来い」 抱きしめられてた。 「一緒に住もう」 目が見開く。 「この先、ずっとな」 また視界がぼやけてきた。 「シカマルっ……」 しがみ付いた。 ◇◆◇ 当然一番最初に気づいたチョージは、黙ってなかった。 ナルトの予測通りに、イノと二人でシカマルに詰め寄った。 そして、仲間は再び一致団結する。 「記憶を返せ」をスローガンに、シカマルを追い回す。 それに、関係者一同が加わった。 六代目を筆頭に、ヨシノ、アスマ、イルカ等々。 ちなみに、シカクはメンドーだったんで、不参加。 「よぉ、楽しそうじゃねぇか」 「ナルトと二人っきりの時はな」 シカマルは、シカクの前を駆け抜けながらの会話。唯一シカクとだけは、普通に会話していた。 「逃げ回るより、術を解除した方が早いと思うけどなー」 見慣れてしまった光景を見て、ナルトがぼそりと呟く。 その言葉に笑いながら、シカクはナルトに耳打ちした。 「記憶が戻ったら、怒れなくなるやつが居るかもしれねーだろ? あいつなりに、気を使ってるんだ。ほっとけ」 ナルトが、笑う。 シカマルが考えそうな事だ。納得した。 なら、そろそろ皆の記憶も戻るだろう。 メンドくせーという言葉が最近とみに増えた。シカマルの限界も近い。 「でもなぁ…記憶が戻っても、あんまり変わらないと思うけどなぁ…」 「そうか?」 「シカマルが、怒れなくなるって思ってるヤツ…たぶん、もっと怒ると思う。キョウは、あいつらと、ちょっと離れすぎてたかも」 「まぁ、それならそれでいいんじゃねぇの? あいつも、気が楽になんだろ」 「そっか……っ?!!」 「帰るぞ」 ナルトは、いつの間にか戻ってきたシカマルの肩の上に居た。 「おっちゃん、またね〜」 これも、慣れた日常。 結界を張り巡らした我が家だけは、誰も進入不可能。 最後の最後に逃げ込む場所。 「シカマル」 「あ〜?」 「楽しいな」 「まぁな」 その夜、巨大なチャクラが里を覆った。 変わらぬ日常という時が、再び流れる。 ナルトの傍らには、シカマルが…… シカマルの傍らには、ナルトが…… そして、二人の周りには、いつも同期の仲間達が居る。 =End=
私の中で、アスマは死んでませんので、それは、気にせぬよう。 という事で、長々と放置していた、夜シリーズは、これで完結でございます。 ごめんなさーーいm(__;)m^^^^ んでも、完結したんで、どうぞ許してやって下さいませね。 ちょっと、色々他分野でばりばりの恋愛を書きすぎて、純粋な恋愛をどう書いたらいいか、かなり悩みました。 その名残が、ちゅーを恥ずかしげもなくしちゃうシカマルだったり……。 そこで、止められてよかった……。もう随分大きくなっちゃった二人ですが、それでも可愛い二人で居て欲しかったんで。 この先も二人は、変わらず仲間と一緒に、楽しい任務漬けの日々を送る事でしょう。 ほんに長い時間がかかりましたが、最後まで読んで下さって、ありがとうございましたm(__)m
08.03.02 未読猫