08.02.06 未読猫最近、ナルトの同期が、誰も来ない日がある。 そんな時は、ちょっと昔に時間が戻ったかのように、ナルト一人が、ここで時間を過ごしている。 何も変わらない。 変わらない日々が、続く。 ◆仲間 弐 6 「お前、ここに居ても、する事なんかねーだろ?」 「ううん。キョウを見ているだけで、楽しい」 そう言ったナルトの顔は、心から楽しそうな笑みを浮かべている。 「何が、楽しいんだ?」 「全部」 何で、キョウがそんな事を言うのかが分からないと、ナルトは小首を傾げる。 「ったく、上忍なんだから仕事しろ。仕事」 「……キョウだって、仕事してないじゃないかぁ〜。俺は、休みなの。休息を取ってんの」 「自分の家で取れよ」 「ここに居るのが、一番の休息っ!」 キョウは、自分の道具を片付けながら、ため息をついた。 「お前の同期を、見習え。最近、ようやく気づいたか、居座らなくなっただろ」 「それは、俺に気を使ってんだって」 「はぁ?」 「俺が、いつでもキョウを押し倒せるように、二人っきりにしてあげるねって、ヒナタに言われた」 「なんだそりゃぁ?」と、キョウは掌で顔を覆う。お嬢様がなんて事を言うんだと、がっくり肩を落とした。 「キョウが、俺を押し倒すのが理想だけど、俺が押し倒した方が早いよーって、イノにも言われた」 ナルトは、笑いながら、楽しそうに言っている。 「……お前の同期は、間違ってる」 「ん?どこが?」 「俺とお前は、男だろうが」 「チョージがね、大好きなら性別なんて些細な事、関係ないよって、教えてくれた」 「ったく、どいつも、こいつも……」 今日、何回目だろうか?深々とため息が漏れる。 「この顔の、どこがいいんだ?」 眉間に皺を寄せたキョウが、うんざりとした声を出す。 「へ?だって、キョウは変化してるだろ?」 「あー?何だ、知ってたのかよ」 「キョウ…俺って、誰だか知ってるよな?」 「ナルトだろう?」 「そうだけど……俺って、暗部までやってるって、結構有名な隠し事だよな? ついでに、里一番の肩書きも持ってるんだけど?」 目の前に居る頬を膨らました青年に、里一番と言われても、信憑性が激しく下降するばかり。 「だいたい、いつも変化が解除されないよう、ちゃんとじゃれてたじゃないかぁ」 「そんな親切はいらねーよ。いい年したヤツが、じゃれつくな」 「むぅ〜………あ、丁度いいや。ねーねー、キョウの本当の顔って、どんなの?見せて!」 膨れていた頬が、みるみるニコヤカな笑みに変わる。 「はぁぁぁぁ〜〜」 最初からバレていたのなら、今更隠していても仕方がない。 「あいつらには、言うなよ」 一応釘を刺し、簡単な仕草で、キョウは、変化を解除した。 変化特有の煙がキョウを覆い、そして徐々にキョウが現れてくる。 ナルトは、その手馴れた様子に感心しながらも、現れてきた見た事もない青年をじっと見つめていた。 「ナルト?」 「……キョウってば、そんな顔だったんだ」 「ナルト?」 「すっげー、俺好み。俺、もっと…もっと、キョウが大好きになった…」 ニッコリ笑って、ナルトが言う。 「お前……どうした?」 「へ?」 「気づいてないのかよ?」 キョウが、自分の頬を叩く。 ナルトは、その仕草のまま、自分の頬を触り、濡れている事にようやく気づいた。 涙が、後から後から溢れてくる。止まらない。ぼたぼたと、ナルトの服を濡らしていく。 それを不思議そうに、ナルトは見ていた。 「何でだ?」 困った顔が、キョウを見る。 「ったく、自分で分かってないのかよ」 メンドくせーと言いながらキョウは立ち上がり、ナルトの横に座る。 肩にかけていたタオルを取って、ナルトの顔を無造作に拭く。 「おら、泣くな。まるで、俺が泣かしてるみてーじゃね−か」 「止まんない…」 「ったく、しょうがねーな」 ナルトを腕の中に収める。 「好きなだけ泣いてろ。そのうち止まんだろ」 キョウの手が、ナルトの頭を撫でる。 ナルトは、泣きながらも、幸せな笑みを浮かべた。 この腕を知っている。 この頭を撫でる掌を知っている。 この居心地のいい場所を知っている。 ナルトは、キョウにぎゅっと抱きついた。 「お前………」 「なぁ、キョウ」 「……………何だ?」 「キョウは、俺の事が嫌いか?」 「いいや」 「なら、好き?」 「そうだな……、どちらかと言うと……好きだ…な」 その言葉は、いつものキョウとは違い、酷く躊躇いがちに、苦しげに聞こえる。 「キョウ…」 「そうだな…、あぁ、お前の事が好きだぜ。だが…お前と同じ気持ちかは、分からねーな」 ナルトの頭が、違うとばかりに頭を横に振る。 「そんなの関係ないっ。ただ、キョウが俺を好きでいてくれれば、俺は、俺は…すっげぇ…嬉しいん…だ」 ぼたぼたと涙が、落ちる。 「俺…俺…、すっげぇ…今、幸せ…」 キョウは、ため息をついて、ナルトの頭を撫でる。 「そうか…」 キョウは、見上げてくる涙をいっぱいためた、蒼い瞳を見つめる。 その瞳が静かに閉じて、ためていた涙を、また一つ溢した。 キョウの手が、ナルトの手が、お互いの顔に触れる。 「俺…俺、キョウが好き…」 キョウは、小さく笑う。 「俺も、お前が好きだよ」 キョウの声が消えた瞬間、二人は術に包まれた。 突然現れた、それは、ナルトにでさえ、展開するまで察知させなかった。まるで、自分達の内側から現れたように感じた。 「ナルトっ!」 「キョウっ!」 二人は、お互いを抱きしめ、お互いを守るように、倒れた。 ◇◆◇ 「シカマルっ!」 泣きそうな声が叫ぶ。 「ナルト…、流石だな。お前に対する術は、逃げられないよう、かなり執拗に作ったのにな…」 目の下に隈を浮かべたシカマルは、狂気を孕んだ笑みを浮かべている。 「どうしてっ!」 「お前を、自由にする為」 「違うっ!!」 「いや、これが正解だ」 暗い洞窟の中。シカマルは壁に寄りかかり、ナルトを見上げていた。 「俺は……俺は……シカマルが、好き……これが事実だって……本当だって……本当だって……知っているっ!!」 蒼い瞳から、溢れた涙がぼたぼた零れ落ちる。 「シカマルっ!」 悲鳴のような叫び。 「ナルト…お前の過去が、お前を縛ってるんだよ。それは、違うだろ?」 「違う……過去なんかなくても……俺は、俺は……どんな時だって、シカマルの事を、一番好きになるっ!」 シカマルが、音もなく立ち上がる。 ナルトは、その気配だけで、間合いを取り、構えた。 「俺の記憶を、消させやしないっ!」 「なら、条件付きならどうだ?」 「シカマル?」 お互いが、じりじりと自分に有利な位置に移動する。 「お前も、俺も、記憶を全て封印する」 「嫌だっ!」 「最後まで、ちゃんと聞けよ」 ナルトは、怯えるように、逃げ道を探す。 だが、シカマルからは、離れる事は考えていない。 「ある条件がクリアされれば、その封印は解除される。 お前は、どんな時だって、一番に俺を好きになると言ったよな? お前が、姿を変え、記憶を無くした俺を好きになり、俺も、お前が好きだという事を認めたのなら、術は解ける」 ナルトは、立ち止まった。 「キョウは、覚えているな」 一つ、頷く。 「俺は、記憶が失った時点から、キョウだけになる。 お前には、(一回だけ、キョウの家に、手入れに行く)という指示を頭に与えておく。 後は、記憶を失った、俺達次第だ」 「絶対?」 「俺が、お前との約束を破った事があったか?」 ナルトは、首を横に振る。 「条件をのむか?」 「のむ」 即答された事に、シカマルは、訝しげな表情を浮かべる。 「何でだ?」 「それなら、絶対、元に戻るから」 「お前は、そんなに自信家だったか?」 「俺は、俺がシカマルの事が大好きだって、知っているんだ。俺は、俺の事を信じる。 なら、後はキョウを落とすだけだろ?」 「その、キョウは、俺なんだぜ?そう簡単にいくかよ」 ナルトは、シカマルに近づき、その瞳を覗き込んだ。 「シカマル、……シカマルは、俺の事……好き…か?」 シカマルの顔に、苦い笑みが浮かぶ。 「あぁ…」 ナルトの顔に、安心したような笑みが広がった。 「だったら、俺の勝ちだ」 「……そうかよ」 そして、術は開放された。 気絶したナルトは、シカマルが木の葉病院に運んだ。 シカマルは、今、キョウの家に居る。 「ナルト……」 シカマルは、自分に術を放ち、キョウになった。 to be continue…