仲間 弐 5  

  ヒナタがようやくナルトに会えたのは、チョージと話してから十日も過ぎた後。 そこで、チョージと同じものを見たヒナタは、あれから初めて心からの笑みを浮かべた。 それから、ヒナタとチョージの薦めに従った仲間達は、ナルトと一緒に一人、また一人とその光景を見ることになる。 そしてキョウは、ナルト同期のご用達のような状態になっていた。   「ったく、メンドくせー。何でこんな事になったんだ?」 「仕方無いよねー」 「ナルトの薦めだ…」 「だって、すっげぇ〜腕だもん」 「俺は、今日のメシが食える程度の稼ぎでいいんだ。ったく、洒落になんねー」   そうぶつくさ言いながらも、キョウは目の前に並べられた道具に手を入れていく。 それが日常になっていった。   ◆仲間 弐 5   「待っているからな」   シノが頷く。   「あたし達の準備は万全よー!」   イノが親指をたてる。   「任務の間に赤丸と里の見回りはきっちりしたからな!」   キバと赤丸が笑い顔を向ける。   「お前とチョージの考えを押し付けてしまえ」   サスケが、淡々と言う。   「全てを取り戻すのよ」   サクラが、握り拳を振り上げる。   「もう、ナルトは無意識のうちに分かっている。後はキョウだけだよ」   チョージが、にっこり笑う。 彼らの記憶には、何一つ残っていなかったが、この光景が初めてじゃないと感覚が告げていた。 ならば自分達がしている事が間違ってはいないと、全員が楽しげにヒナタに親指を向ける。   「頑張ってくるね」   ヒナタは、仲間に向かって親指をたてた後、キョウの家の方へ走り出した。                 ◇◆◇                 「お邪魔します」 「一人か?珍しいな」   今日、ナルトは任務で里から離れている。 そして、ここに来ていた仲間は全員、ヒナタを信じて、それぞれキョウの家以外の場所に散っていた。   「お前なぁ、あの日向家のお嬢さんだろ?ちゃんと家のもんを使ってやれよなぁ」 「家の者達には、謝ってあります。  私は、キョウさんを尊敬しているから。それが必要だと言ってあります」   自然とその言葉が出ていた。口が勝手に動いて、その言った自分の声に心の中に何かがストンとはまる感じがして、ヒナタは驚いて口元に手をあてる。そして、にっこり笑った。きっと、この言葉は、今初めて言った言葉じゃないと確信した。   「はぁ〜?何だそれ?」 「キョウさんの手は、凄く早くて丁寧で、動く姿が綺麗ですよね」   ヒナタは、ポーチに入れていた武器をキョウの前に並べる。   「今日も、お願いします」   そう言ってヒナタは、キョウの前に座る。 そんなヒナタの態度に、メンドくせーという怠惰な態度でキョウは、必要な道具を出していく。   「お前ん家の奴等だって、俺と変わらないと思うぜ」 「ううん…違う。きっとキョウさんだから」   キョウの手が止まり、ヒナタをまじまじと見る。   「うん、だからナルトくんも。ナルトくんも、そうだって分かっているから、キョウさんが大好きなんだ」 「……何で、そこでナルトが出てくる?」 「木の葉のほとんどの人はみんな、記憶がなくなっているの。ううん、記憶を書き換えられてしまった。  でも…頭は全部忘れてしまったけど……ちゃんと心が覚えている。  私、きっと過去にキョウさんを尊敬していた。  だから、再び会えたキョウさんを見て、直ぐに尊敬するようになった」 「何だそりゃぁ?記憶が書き換えられたって、そんな話は聞いた事ないぜ?」   訝しげな視線は自然で、それを実行した相手の反応とは、とても思えなかった。   「キョウさん、キョウさんは、自分の記憶が不自然だとは思った事ないですか?」 「……不自然なぁ…不自然もなにも、俺はこの里に来る以前の記憶がねーから、分からねーよ」 「キョウさん?」 「俺に残っていたのは、武器を扱う技術だけだったしな。後は、今と同じ毎日だ。不自然になりようがねーだろ?」 「それ…不安になりませんか?」 「いや、そんな事気にしてもしょうがねーだろ」   キョウの手は止まらず、武器を手入れしていく。   「キョウさんは、ナルトくんの事が好きですか?」   その手が止まった。   「ナルトくんは、三年前に、とても大切なものを無くしてしまったんです。  その時、一切笑わなくなってしまって、必死になってそれを探して……、でもその後記憶が無くなってしまった」   キョウの手は止まったまま。その瞳は手をじっと見ている。   「最近ようやく私の心が知ってる笑顔で、ナルトくんが笑うようになったんです。  きっと、その大切なものは、キョウさんだと思うんです」 「俺に、そんな記憶は無いぜ」 「別に、記憶なんてどうでもいいんです」   ヒナタは、目を合わせず手元を見ているキョウを一生懸命見つめる。   「今、キョウさんがナルトくんを好きなら…特別に好きなら、私は凄く嬉しいんです。  キョウさん……ナルトくんを、よろしくお願いします」   キョウの口から、小さなため息が洩れる。 その後、何も聞かなかったかのように、武器に手を伸ばし、手入れを再開した。 ヒナタは、もう何も言わない。自分が言わなければならない事は、全て言った。       キョウは、久しぶりに静かな夜を迎えていた。 最近増えた顧客のせいで、誰かしら夜遅くまで家に居る。その一番は、古株のナルト。 彼は、久しぶりの長期任務の為、里には居ない。 そしてキョウの部屋には、同期のヒナタを最後に誰も今日は来なかった。   「さすがに、もう誰もこねーな」   キョウは、忍びでない里人が知りえない印を切っていた。 少しでも忍びの道を歩んだものであるなら、目をむいただろう。その印を切る速度は尋常ではなかった。   「これで、よしっと」   何も変わらない。 ただ、上忍なら分かる者がいたかもしれない。 空気が変わった。 ただ、それだけ。 だがその空気は、人間の精神に影響を与える。 幻術の一つ。 家の周りに敷かれた術は、人を自然とその家から離れさせる効果があった。   「ったく、流石にメンドくせー。疲れた」   そう言った声は、キョウの口から発せられていたが、キョウでは無かった。 長い黒髪は変わらない。 だが、切れ長の瞳に、不満げにへの字に曲がった髭の無い口元。今までの特徴の無い顔は消え、切れ長の目が苛立たしげに手元を睨んだ後、力なく閉じられた。   「今日は、ゆっくり寝かせろよ」   メンドくせーとブツブツ呟きながら、布団の上に転がる。 一旦閉じた瞳が、眉間に出来た皺と共に開いた。   「ナルト……」   そう呟いたキョウと呼ばれる者の瞳は、迷った光を宿していた。     to be continue…  

   
  08.01.07 未読猫