07.12.14 未読猫あれからナルトは、少し前と変わらない生活をしている。 決して満面の笑顔を見せる訳ではないが、笑みも戻ってきた。 先に記憶を無くした仲間は困惑する。どうしていいか分からなくなる。 笑顔がみたいと言ったサスケは、そう思っていた仲間は、動く根本をなくしてしまった。 そして、未だあがいていた二人は、そんな空気を察してしまう。 「チョージくん…」 「うん、里に居る間はね。細かい事でも、見逃さないようにしようと思っているんだ」 ヒナタは、ホッとしたように顔を綻ばせる。 「だって、僕の記憶にある笑顔と、今のナルトの笑顔って違うんだよ」 「うん、もっとナルトくんは、めいっぱい笑っていた…」 「皆には、その記憶が無いのかな…」 「理由は分からないけど、それは私達にだけ残されたんだね」 「それも、ヒントかもしれない」 二人は、過去ナルトとチョージが気持ちについて話していた草むらに居る。 それは、知らない。 「僕はね、シカマルがまだこの里に居るって思っているんだ」 ヒナタは、小首を傾げる。 「あの、ナルトが何一つ傷を負う事なく、記憶をなくさせるとは思えない」 ヒナタは、目を見開いて小さく頷く。 「ナルトくんは、条件を出した?」 「うん、そうだと思う。じゃなければ、シカマルの条件を呑んだ」 「納得のいく条件だったから…」 二人は、黙って頷きあう。 「里はそんなに広くないよ」 「うん。私達だけでも漏らさず全部見ていこうね」 そして、また時が過ぎていく。 時計の針は止まらずに、変わらない日々を年単位で刻む。 シカマルは、見つからない。 記憶は、戻らない。 ◆仲間 弐 4 「ナルト!」 「あ、チョージ元気だった?」 お互い上忍になってから一緒に任務につくこともなく、こうしてすれ違う時に話すぐらいしか時をもてない。 チョージは、もっと一緒に居たという記憶がある。 それが、随分と減ったのは、いつ頃からだっただろうかと、ナルトと話しながら考える。 「どこに行くんだい?」 「キョウん所!これ〜」 ナルトの手に現れた数本のクナイ。どれも刃こぼれを起こし、使い物にならなくなっていた。 「あぁ、それじゃぁ行かないとね。あ、僕も」 チョージが取り出した手裏剣も酷いものであった。 「なんか、最近忙しい?」 「そうだね。ゆっくり研ぐ事も出来ないよ」 チョ−ジは、自分の命を預ける武器は、自分で研いでいた。父親から受け継いだ家訓でもある。だが、最近の忙しさはそれさえも出来ないぐらいの余裕の無さだった。 「キョウさんの腕は、ナルトの保障付き?」 「うん!安心して預けれるよ!」 その笑顔を見て、チョージは呆然とする。 見たかった笑み。それが目の前にある。 「ナルト……?」 「ん?」 「僕も一緒に頼んでいいかな?」 「たぶん。キョウがやる気さえ出せば、目の前で全部やってくれるよ」 ナルトは、楽しげにチョージの横を歩いている。 チョージは、さっき引っかかった事柄を思い出していた。 いつから、里で会う事が少なくなったのか…… 「ねぇナルト、キョウに初めて会ったのっていつ?」 「ん〜…三年前ぐらい?ほら、病院で皆と会った後ぐらいだと思う」 ナルトと里で会う事が少なくなったのは、あれからだったかもしれないとチョージは考える。 「キョウって里の人間じゃないよね?いつからあそこに居るの?」 「確か十年ちかくなるって聞いたけど。 キョウに聞いてみれば?まじめに言えば、答えてくれるよ。普段は、メンドくせーだけどね」 チョージの目が、見開いた。 「メンドくさがり…なんだ…」 「うん、すっげー!」 「じゃぁ…僕のは、やってもらえないかな?」 「あ、仕事に関しては真面目だから大丈夫!」 チョージの心臓が、ドキドキいっている。 暗部に居たのなら、武器の扱いは慣れているだろう。 それにあのシカクの息子だ。シカクが、無理やり武器の手入れを息子に押し付けるなんて事も有り得ない事でもない。 十年前というのが気になるが、そんなもの世間の記憶が信じられない以上関係ない。 ナルトにこんな笑みを浮かべさせる相手。 すっげーと言葉の前に付くぐらいに面倒臭がり。 もしかしたらと思いながら、チョージはナルトの後をついて行った。 ◇◆◇ 「キョウぉぉぉっ!」 ナルトの声の後に、ドスンという音と、「ぐえっ」という血が混じりそうな声。 チョージが認識した時、ナルトはキョウという男−黒髪を無造作に首の後ろで束ね、無精髭の生えた25、6歳程度の特徴の無い顔を持った青年−の背中に張り付いていた。 「ナルト………?」 チョージが呆然と固まって漏らした声は、目の前の二人には聞こえていない。 ナルトは、満面の笑みを浮かべキョウにじゃれ付き、キョウは必死になってナルトを排除しようとしている。 (……キョウさん……ナルトに対抗出来ている……) 体制が悪い為に、へばり付くナルトを剥がす事は出来ていないが、へばりついているナルトが徐々に落ち始めていた。 「おまぇなぁ……」 「久しぶりぃ〜」 絶対離れないという意思表示は、キョウの首を絞める結果になっている。 「……死…ぬ……」 「あ…ごごごごごめんっ」 キョウは、一瞬離れたナルトの手を片手であしらい、ナルトをチョージの方に転がした。 「あ?誰だ?」 「あ、ごめん忘れてた」 ナルトが、てへへと笑う。 「秋道チョージ。俺の同期! いつもは自分で研いでんだけど、この所の忙しさでその暇も無いって嘆いているところ」 「へぇ〜、見せてみな」 チョージはにっこり頷いて、キョウにクナイと手裏剣を渡す。 今までナルトに対し、ウザイという感情を隠しもしなかった態度が、一転して真剣な眼差しに変わる。 「これ…お前一人で手入れしてきたんだな?」 「うん」 「いい手入れしてる」 「あーーっ!俺には一回も言ってくれないのにっ!!」 「お前なぁ…少しは同期を見習え!っていうより、教えてもらえっ!このドへたくそっ!」 「む〜〜、俺はキョウに貢献してるんだ!」 「ったくメンドくせー、貢献なんかしなくていいぞ」 心からそう思っている風情で、キョウはシッシと手を振る。 「秋道、これはいつまでやっておけばいいんだ?」 「あ……、今出来ますか?あの…見ていたいんですが…」 「あぁ、自分でこれだけ手入れが出来れば、他人の手は気になるよな。 いいぜ、見ていきな」 テキパキと道具を出してくる。 「おい、ナルト。お前もあるんだろう?さっさと出せ」 「あ、うん」 ナルトがガチャガチャいわせながら、自分の武器をポーチから取り出し、キョウの前に並べる。 「……火影……考えて仕事を割り振れよ…」 その武器のあまりの状態に、キョウの眉間に皺がよる。 「武器の手入れが出来ねーほど、忙しいってのはどうよ?」 ブツブツと文句をいいながらも、キョウの手は器用に武器を扱い研いでいく。 「あ、でも…、おかげでキョウさんの手を見る事が出来たから。勉強になります」 「な、チョージ、キョウの手ってすっげーよな」 見学者二人は、まるで魔法を施しているように、瞬く間に綺麗に仕上がっていく武器を見て、楽しんでいる。 「チョージ」 「へ?」 キョウの手元に夢中になっていたチョージは、突然の呼びかけに間抜けな返答をする。 「分かってんだろうが、これは今回で最後だ。次は新しいの買いな」 綺麗に手入れされたクナイが一本、チョージの手元に飛んできた。 「それは、もう研げない。お前も分かってんだろ?」 チョージは黙って頷く。 持ち手の部分に小さな傷が付いている唯一のもの。 長年使ってきて愛着のあったものだが、もう研ぎすぎてしまった。 「そいつは役目を無事に終えたんだ。新しい姿に変えてやりな」 「新しい姿?」 「あー?お前は使い切ったものを今までどうしてたんだ?もう一度溶かして使ってやらなきゃ可哀想だろ?」 「うん…どうしても僕はそれが出来なくて……そのまま残している」 「もったいねーだろ?クナイは良質な鍛鉄で作られてんだぞ。手持ちのもん、さっさと持って来い。新しいのを作ってやる」 チョージは、嬉しそうに頷く。だが、ナルトは膨れていた。 「むぅ〜、チョージにだけずるいっ!」 「あ"−?お前のだって作ってんだろ?」 「いつだって、メンドくせーって、作ってやるなんて言葉貰ったことないっ!」 「自分で手入れもしねーヤツが文句を言うんじゃねぇっ!愛着ってもんなんかカケラもねーだろうが」 「そんなことない!」 ナルトは、ビシッと音を立てそうな勢いで、人差し指をキョウに向ける。 「キョウが作ってくれたものも、キョウが手入れしてくれたものも、全部大事に使ってる!!」 「はぁ?」 「キョウの手が入ったもんを、大事にしない訳ないだろっ!」 憤慨しているナルト。分からない風情のキョウ。チョージは、ニッコリ笑って助け舟を出した。 「ナルトはキョウが大好きだから、キョウの手が入ったものを大切にしているんだね」 「うん!チョージ、それっ!」 そう言ってナルトは、キョウの邪魔にならぬよう彼にじゃれ付く。 ナルトは背後にひっついているから、今チョージが見ているものには気づかない。 キョウは、顔を真っ赤に染めていた。 ◇◆◇ 「ヒナタ、そこには?」 「日向には、お抱えの者がいるから」 道端の雑草がぼうぼうに生える場所。 里で二人が会う時には、かならずここで会っていた。 「一回、行ってみてくれるかな」 「うん。でも…突然行って、やってくれるかな?」 「ナルトと一緒に行くといいよ。ナルトとのやり取りも見て欲しいから」 チョージにとって、あのナルトの表情は意外の一言。 もし、キョウと名乗る者が奈良シカマルであるのなら納得がいくのだが、引っ掛かる事が一つ。 あまりに彼の態度は、自然だった。 幼馴染という自分を前にしての彼の立場。 小さい頃からナルトと一緒に生きて来て、あの大掛かりな術を使い逃げたという彼の立場。 そのナルトを目の前にしての彼の行動。 それに対する感情が、一切感じられなかった。 もしキョウが、奈良シカマルとまったくの別人であるなら納得がいく。 だが、チョージは、彼が彼だと感覚で理解していた。 目の前の光景を懐かしいとさえ思っていた。 「僕は、あの二人を知っているんだ。あの光景を見た事があるんだ」 黙って頷く。 「皆にも見てもらった方がいいかもしれないね」 「うん。でもヒナタが先に行ってくれるかな?僕は、まだ僕が信じられないから…信じられるものが欲しいんだ」 ヒナタは、立ち上がった。 「チョージくん!」 ヒナタは親指を立て、チョージに笑い返していた。 to be continue…