07.11.06 未読猫◆仲間弐 3 「おひさしぶりで〜す」 「こんにちわ〜」 「よぉ、珍しいな」 奈良家の玄関。 ようやく見つけたシカクは、家でサボっていた。 「おじさんっ!」 「な、なんだよ」 「探しましたよ!」 恨めしげな視線。 「お父さんに言いつけますからねっ!」 「あいつだってっ!」 なんですかと、冷ややかな視線は父親ゆずり。 父親がぼやいていたのは、奈良家と山中家の家主二人に対してだったよなーと、くすくす笑う。 「ま、とりあえず俺に用事なんだな? あがれや」 だりぃなぁ〜と言葉と態度で表す姿に、再びチョージが笑いそうになる。 感覚がこれを知っていると言っている。 決して昔の事では無い。 記憶に頼れば、奈良シカクに会うのはかなり久しぶりのはずなのに、慣れ親しんだとも言える感覚がそれを否定していた。 イノに視線を合わせると、にっこり笑った顔が返ってきた。 「んで、何だぁ?」 「叔父さん、最近感覚的におかしいと思う事はありませんか?」 チョージが、にっこりと笑う。 「そー、すっごい違和感とかないですかー?」 イノが、にじり寄る。 「へぇ〜〜」 シカクが、ニンマリと笑う。 「お前さん達には、あるわけだ」 二人の前にお茶をドンと置きながら、のんびり答える。 「叔父さんにも、あるって事ですね」 「今、お前ん家に行ってる、かーちゃんに聞いてみ? 色々話てくれるぜ」 「私は、叔父さんが感じている事を聞きたいんですけどー」 シカクは、ボリボリと頭をかく。少々メンドくさいから、代案を出したのにという風情。 「叔父さん、その面倒くさがりなのをどうにかしないと僕が困るんですけど」 「なんでだよ」 「父が、ヤケ食いするからです。僕の分が、減るでしょう?」 食い物の恨みは、根深かったりする。 「だから、話して下さい」 にっこりと笑う笑顔は、仲間と寸分違わず同じもの。 こう笑って要求を突きつけた時の友人は、絶対譲らない。 シカクは、諦めて自分にいれた茶をすすった。 「珍しく仲間全員の仕事が無かった日からか……ナルトが、笑わねぇよな」 二人は、コクリと頷く。 「俺はあいつの笑った顔を沢山見た覚えがあるんだよ。 しかも、この家でな。 だが、そんな記憶はカケラもねぇ。 何で、ナルトがうちに来たんだ?それも沢山って思うほど。 なぁ?」 「それは、シカマルが居たからでしょうね」 「ナルトが俺に会って、開口一番シカマルは?だ。 それも必死な表情で。 それが答えなんだろう」 シカクは、二人を見つめる。 「さて、あいつは俺らの頭ん中を改竄して、今何してやがる? あいつの狙いは何だ?」 「それを、僕らも知りたいんです」 「そうそう、もうすぐだって………え?」 チョージが、イノを凝視する。 「もうすぐ?」 「もうすぐって言ったわね……私…」 「何が、もうすぐ…なんだろう?」 困惑している二人を見て、シカクは口を開いた。 「俺の記憶にあるシカマルはなぁ、自分の才能を隠す為に無気力な子供の仮面を被っていたよ。 たった5歳。 それでもあいつの頭の冴えは疑いようもないもんでなぁ。 隠そうとしていたから、俺は黙ってそれに乗ってやった。 まぁ、分からんでもねぇんだよ。 人ってのは、異端を排除するのが好きな生き物だ。あれは、最適な隠れ蓑だったぜ」 「だから、メンドくせーって?」 「そうそう、結構覚えてるもんだな」 その覚えている事にさえ違和感を感じる。 既に十年以上も前。 ここまで鮮やかに記憶が残っている事自体、おかしいと思えた。 「シカマルは…たぶんナルトと組んで暗部をやっていたんだと思うんです。 ナルトの暗部名は、狐夜………なら、シカマルは?」 「自動的に鹿夜って事になるだろうな」 シカクの目が細まる。 「だが…鹿夜も、もう居ない…」 「いない?」 「あぁ、俺の記憶では、二年前に里抜けしたという噂を聞いた事になっている」 「おじ様の記憶でー、新しい凄腕の暗部の噂って、その後に出てきませんでしたかー?」 「………いねぇなー…」 ◇◆◇ 「カカシ先生」 腕組みして仁王立ちしたサクラ。 「あんた…」 重低音の声と、半眼になった冷ややかな視線。 「ひっさしぶりだねー」 それに対応する上忍は、二人の態度を全然気にしてない。昔のまま。 遅刻してきた事にカケラも動揺は無く、にこやかに手を振る始末。 サクラがその胸元をぎゅぎゅっと絞り上げる。 握りこぶしはカカシの目の前。 「な、何かな〜?」 「言え!」 「何を〜?」 「見慣れない暗部の噂」 カカシの顔から笑みが消える。 「じゃなければ、狐夜と同等レベルの暗部の噂よ!」 「それを聞いてどうするんだい?」 「探して捕まえる」 「おまえ達に出来る訳ないでしょ」 サクラとサスケの目が細まる。 じとーと、カカシを見る。 「サスケくん」 「そうだな。俺達の方がましだな…」 「おいおい、酷い言い様だねぇ」 「どうせ先生はやる気ないんだから、さっさと言って下さい!」 「しょうがないねぇ……どうせナルトの事でショ? だから手を貸してあげたいんだが……居ないよ…」 サクラの手が、カカシの胸元から落ちる。 「ここまで操作されているのか……それとも……」 「暗部をしてないって事かしら?」 「……なぁカカシ、最近任務が今までより忙しくなっているか?」 「いいや、いつもと変わらない程度だよ。お前達もそうだろう?」 サクラとサスケが顔を見合わせる。 確かに変わっていない。 「……任務が減っているとは、思えないのだが…」 「そうよね……」 「五代目に聞いてごらん。あの方が、全ての指令を出しているのだからな」 大きくなってしまった二人の頭をポンポンと叩く。 「先生ぇ〜」 サスケは無言でカカシの手を振り払い、サクラは頬を膨らます。 「お前ら、変わらないねぇ」 カカシは笑いながら、歩き始めた。 「五代目〜」 「なんだ?」 目の下には隈。だが、さりげに口元には涎。 少しとろんとした視線が三人に注がれる。 「……シズネさんを呼びますよ」 「サクラ」 重低音の名指しも色々裏切っていて、威厳零。 「それで、何の用だ?」 「あの…最近、Sランク、SSランクに割りるふる先が減って困っていませんか?」 「どういう事だ?」 サスケとサクラは顔を見合わせ、そして頷いた。 自分達が考えている事を隠したまま、火影と呼ばれる最高責任者から話を引き出せるとは思えない。 サクラが代表となり、事情を説明をする。 「……ナルトと同レベルねぇ〜…」 カカシは、少しだけ目を見張って呟く。 だが、五代目は何も言わない。 「ナルトも同じ話を持ってきたよ」 サクラとサスケが驚いて五代目を見る。 「ナルトは?」 「どこに居るんですか?」 「私も知らないねぇ。夜、任務だけは受け取りに来ている。昼の任務からは、開放してやった」 「ナルトには、何て答えたんですか?」 五代目は、椅子に深く寄りかかり、目を閉じている。 「お前達には言えない」 「どうしてっ!」 「サクラ」 「そうでしょうねぇ」 サスケとカカシの言い様に、サクラはようやく冷静さを取り戻し、渋々納得する。 暗部の情報は、里内であっても、極秘の話だった。 「でもっ」 それでも、納得出来ない心が声を出す。 「お前達は、どうしたいんだい?」 五代目が苦笑を浮かべる。 この部屋に来たナルトは、目の前のサクラや、サスケに比べようもないぐらい必死だった。 もし、自分が何も語らなかったら、間違いなくここで戦いが始まっていただろう。 相手は暗部最高峰。 負けるつもりは無かったが、あの顔を見てしまっては、手を差し伸べずにはいられなかった。 余裕など一つも無い、泣きそうな顔。 捨てられた子供の顔。 昔のナルトも知ってはいたが、あんな顔はしていなかった。人形、その言葉が似合う無表情を貼り付け、外界を全てを拒否していた子供。 それが、次に出会った時に、一変していた。 改竄された記憶だったにしても、それは真実だったのだろう。改竄出来ないほどの劇的な変化。 心のままに、笑い、はしゃぐ姿は、人形が人間に変わった事を教えてくれた。 「ナルトは、お前達とは比べようもないぐらい必死なんだよ。 それを中途半端な気持ちで邪魔をするのかい?」 「そんなっ……そんなんじゃないんですっ!」 「じゃぁ、そのシカマルとやらを見つけ出すと?そいつは、ナルトレベルなのだろう?お前達で探し出せるとは思えんな」 五代目が言っている事は正しい。 サクラは唇を噛む。 「だが、俺達はあの馬鹿に笑っていて欲しいんだ。 それに、シカマルが俺達とまったく関係無いとは思えない。俺達にとっても仲間だったはず。 ならば、それを取り戻そうとするのは、筋だろう?」 今まで、ほとんど言葉を発しなかったサスケが淡々と言う。 「それは、お前ら二人の心からの言葉か?違うだろう? ならば、私にはもう言う事は無いよ」 「確かに俺には分からない。 そのシカマルというヤツに対し何も思う所が無い。与えられた記憶に縛られている以上、それしか言いようが無い。 だが、俺達全員が思っている事は同じだ。笑ってるナルトを見たいんだ。 だから、今動いている。五代目が動かないというのなら、俺も一切動かない。いや、俺達は貴方から離れる。そう皆、答えるだろう」 五代目は、面白げにサスケを見ていた。 めったに思うところを話さない子供。 心が一族に、兄弟に囚われていた子供。それ故に、他者に一切関心を持たず、心を歪ませていた。 結果、大蛇丸に誘われ里抜けをしそうになったほど。 それを、同期全員が一丸となって、彼を里に戻した。 彼の心さえも戻した、あの強い絆は忘れてはいない。 「しょうがないねぇ」 ため息をつきながらも、五代目は楽しそうに笑う。 「私の感覚だけの話だぞ」 それだけでも嬉しいと、二人はコクコクと頷く。 「記憶は変わらないと言っている……が、ナルトのこなす時間が増えた気がする。 もし、以前二人で行っていたのならば、それが答えなのだろう。 そして、ナルトの意図もそこにあるようだね」 「なるほどな…」 サスケとサクラが、お互いを見て頷く。 「お前ら」 カカシが手招きしている。 「アスマん所に行ってみれば?」 二人は、小首を傾げる。 「あそこが二人だったのって、おかしいでショ? あぁ、でもそれなら、アスマ班の二人に行ってもらった方がいいかもしれないな」 「そうですね。ありがとうございます」 サクラは、五代目とカカシに挨拶をして、走り出す。 「じゃぁ」 サスケは、呟くような声で挨拶をし、その後を追った。 「カカシ…」 「凄いですねぇ〜」 「そうだな」 「俺は、一切気づきませんでしたよ」 「私もだよ」 そんな大きな術が動いたのならば、上忍であれば、誰もが察知してもいいはずなのに、気づいたのはナルトだけ。 火影という名で呼ばれている綱手でさえ、気づかずにここまで来ていた。 「ま、あの子達がなんとかするだろうさ」 「いいんですか?」 「あぁ、その方がナルトにとっても、シカマルにとってもいいだろうよ」 ◇◆◇ 「なーシノ…、これって犯罪じゃねぇのか?」 「そうだな」 「バレたら、俺達怒られるような気がするんだけどよ…」 「怒られる程度で済むといいがな」 現在シノとキバは、木の葉の病院の倉庫に無断侵入中。片っ端からカルテを漁っていた。 「ま、何か言われたら、奈良シカマルってヤツのせいにすりゃぁいいか」 「当然だ」 いつも以上に低い声。殺気が混じっているような気がする。 「……シノ…お前、怒ってる?」 「当たり前だ。お前は怒ってないのか?」 「や、なんつーかさ。記憶が信じられねぇから、どう怒っていいんだかな……分かんねぇんだよ」 シノが手を止めて、まじまじとキバを見る。 「な、何だよ?」 「いや、お前が一番に怒りそうなんだが……消されたお前の記憶が、お前を怒らせないのかもしれ…どうした?」 突然キバの動きが止まり、虚空を凝視している。 「………急患か?」 突然、病院内が慌しくなった。 いくつもの走る気配。 病院であるから、急患も珍しくはない。 当然の事なのに、キバは未だに遠くに聞こえる音を必死になって聞いていた。 「シノっ!」 微かに洩れる声を聞く。運ばれた者の名前を聞き取った。 「ナルトだ!」 二人は乱雑になったカルテをそのままにして、玄関に走った。 病院の玄関に突然現れ、まるで支えを無くしたかのように倒れていった体。 それを偶然見かけた看護婦が慌てて走った音が、キバの耳に入った。 今ナルトは、原因不明のままベッドに寝ていた。 そして、そのベッドの周りには、心話で召集された仲間が心配げに立っていた。 「………ん?」 「ナルト!」 うっすらと目を開けたナルトに、全員が安堵の声をあげる。 「あれぇ〜?皆……どうしたんだ?」 浮かべた安堵の表情が、一瞬にして曇る。 「あれ?ベッド?……何で……病院?」 不思議そうに周りを見る。 「ナルト、誰かと戦ったのか?」 シノが、険しい眼差しで問う。 「………戦った?」 「あんたが、意識不明になる相手って…」 「意識…不明?」 ナルトは、小首を傾げて自分の体を見ている。 「ナルト…シカマルに会った?」 チョージが、恐々と言う。 「…シカマル?シカマルって誰?」 全員が真っ青になった。 ナルトの意識が回復してから、あまりにも態度がおかしかった。 まるで、少し昔に戻ったような、穏やかな表情。 「全員、四方へ!!彼を…彼を捕まえてっ!!」 ヒナタは、悲鳴のような声で叫び、病室から消えた。 一泊遅れて、他の者のナルトの病室から消え去った。 「どうしたんだ?」 一人残されたナルトは、呆然とからっぽになった部屋を見ている。 「……シカマル?」 記憶に無い名前。 「…あれ?」 自分の手にポツリと水が落ちてきた。 「……何で?」 ぼたぼたと手に落ちてくる水。 「…何で…俺……泣いて……いるんだ?」 困惑した顔を辿り、後から後から涙が零れ落ちていった。 to be continue…