仲間 弐 3  

  ◆仲間弐 3   「おひさしぶりで〜す」 「こんにちわ〜」 「よぉ、珍しいな」   奈良家の玄関。 ようやく見つけたシカクは、家でサボっていた。   「おじさんっ!」 「な、なんだよ」 「探しましたよ!」   恨めしげな視線。   「お父さんに言いつけますからねっ!」 「あいつだってっ!」   なんですかと、冷ややかな視線は父親ゆずり。 父親がぼやいていたのは、奈良家と山中家の家主二人に対してだったよなーと、くすくす笑う。   「ま、とりあえず俺に用事なんだな?  あがれや」   だりぃなぁ〜と言葉と態度で表す姿に、再びチョージが笑いそうになる。 感覚がこれを知っていると言っている。 決して昔の事では無い。 記憶に頼れば、奈良シカクに会うのはかなり久しぶりのはずなのに、慣れ親しんだとも言える感覚がそれを否定していた。 イノに視線を合わせると、にっこり笑った顔が返ってきた。   「んで、何だぁ?」 「叔父さん、最近感覚的におかしいと思う事はありませんか?」   チョージが、にっこりと笑う。   「そー、すっごい違和感とかないですかー?」   イノが、にじり寄る。   「へぇ〜〜」   シカクが、ニンマリと笑う。   「お前さん達には、あるわけだ」   二人の前にお茶をドンと置きながら、のんびり答える。   「叔父さんにも、あるって事ですね」 「今、お前ん家に行ってる、かーちゃんに聞いてみ?  色々話てくれるぜ」 「私は、叔父さんが感じている事を聞きたいんですけどー」   シカクは、ボリボリと頭をかく。少々メンドくさいから、代案を出したのにという風情。   「叔父さん、その面倒くさがりなのをどうにかしないと僕が困るんですけど」 「なんでだよ」 「父が、ヤケ食いするからです。僕の分が、減るでしょう?」   食い物の恨みは、根深かったりする。   「だから、話して下さい」   にっこりと笑う笑顔は、仲間と寸分違わず同じもの。 こう笑って要求を突きつけた時の友人は、絶対譲らない。 シカクは、諦めて自分にいれた茶をすすった。   「珍しく仲間全員の仕事が無かった日からか……ナルトが、笑わねぇよな」   二人は、コクリと頷く。   「俺はあいつの笑った顔を沢山見た覚えがあるんだよ。  しかも、この家でな。  だが、そんな記憶はカケラもねぇ。  何で、ナルトがうちに来たんだ?それも沢山って思うほど。  なぁ?」 「それは、シカマルが居たからでしょうね」 「ナルトが俺に会って、開口一番シカマルは?だ。  それも必死な表情で。  それが答えなんだろう」   シカクは、二人を見つめる。   「さて、あいつは俺らの頭ん中を改竄して、今何してやがる?  あいつの狙いは何だ?」 「それを、僕らも知りたいんです」 「そうそう、もうすぐだって………え?」   チョージが、イノを凝視する。   「もうすぐ?」 「もうすぐって言ったわね……私…」 「何が、もうすぐ…なんだろう?」   困惑している二人を見て、シカクは口を開いた。   「俺の記憶にあるシカマルはなぁ、自分の才能を隠す為に無気力な子供の仮面を被っていたよ。  たった5歳。  それでもあいつの頭の冴えは疑いようもないもんでなぁ。  隠そうとしていたから、俺は黙ってそれに乗ってやった。  まぁ、分からんでもねぇんだよ。  人ってのは、異端を排除するのが好きな生き物だ。あれは、最適な隠れ蓑だったぜ」 「だから、メンドくせーって?」 「そうそう、結構覚えてるもんだな」   その覚えている事にさえ違和感を感じる。 既に十年以上も前。 ここまで鮮やかに記憶が残っている事自体、おかしいと思えた。   「シカマルは…たぶんナルトと組んで暗部をやっていたんだと思うんです。  ナルトの暗部名は、狐夜………なら、シカマルは?」 「自動的に鹿夜って事になるだろうな」   シカクの目が細まる。   「だが…鹿夜も、もう居ない…」 「いない?」 「あぁ、俺の記憶では、二年前に里抜けしたという噂を聞いた事になっている」 「おじ様の記憶でー、新しい凄腕の暗部の噂って、その後に出てきませんでしたかー?」 「………いねぇなー…」                 ◇◆◇                 「カカシ先生」   腕組みして仁王立ちしたサクラ。   「あんた…」   重低音の声と、半眼になった冷ややかな視線。   「ひっさしぶりだねー」   それに対応する上忍は、二人の態度を全然気にしてない。昔のまま。 遅刻してきた事にカケラも動揺は無く、にこやかに手を振る始末。 サクラがその胸元をぎゅぎゅっと絞り上げる。 握りこぶしはカカシの目の前。   「な、何かな〜?」 「言え!」 「何を〜?」 「見慣れない暗部の噂」   カカシの顔から笑みが消える。   「じゃなければ、狐夜と同等レベルの暗部の噂よ!」 「それを聞いてどうするんだい?」 「探して捕まえる」 「おまえ達に出来る訳ないでしょ」   サクラとサスケの目が細まる。 じとーと、カカシを見る。   「サスケくん」 「そうだな。俺達の方がましだな…」 「おいおい、酷い言い様だねぇ」 「どうせ先生はやる気ないんだから、さっさと言って下さい!」 「しょうがないねぇ……どうせナルトの事でショ?  だから手を貸してあげたいんだが……居ないよ…」   サクラの手が、カカシの胸元から落ちる。   「ここまで操作されているのか……それとも……」 「暗部をしてないって事かしら?」 「……なぁカカシ、最近任務が今までより忙しくなっているか?」 「いいや、いつもと変わらない程度だよ。お前達もそうだろう?」   サクラとサスケが顔を見合わせる。 確かに変わっていない。   「……任務が減っているとは、思えないのだが…」 「そうよね……」 「五代目に聞いてごらん。あの方が、全ての指令を出しているのだからな」   大きくなってしまった二人の頭をポンポンと叩く。   「先生ぇ〜」   サスケは無言でカカシの手を振り払い、サクラは頬を膨らます。   「お前ら、変わらないねぇ」   カカシは笑いながら、歩き始めた。       「五代目〜」 「なんだ?」   目の下には隈。だが、さりげに口元には涎。 少しとろんとした視線が三人に注がれる。   「……シズネさんを呼びますよ」 「サクラ」   重低音の名指しも色々裏切っていて、威厳零。   「それで、何の用だ?」 「あの…最近、Sランク、SSランクに割りるふる先が減って困っていませんか?」 「どういう事だ?」   サスケとサクラは顔を見合わせ、そして頷いた。 自分達が考えている事を隠したまま、火影と呼ばれる最高責任者から話を引き出せるとは思えない。 サクラが代表となり、事情を説明をする。   「……ナルトと同レベルねぇ〜…」   カカシは、少しだけ目を見張って呟く。 だが、五代目は何も言わない。   「ナルトも同じ話を持ってきたよ」   サクラとサスケが驚いて五代目を見る。   「ナルトは?」 「どこに居るんですか?」 「私も知らないねぇ。夜、任務だけは受け取りに来ている。昼の任務からは、開放してやった」 「ナルトには、何て答えたんですか?」   五代目は、椅子に深く寄りかかり、目を閉じている。   「お前達には言えない」 「どうしてっ!」 「サクラ」 「そうでしょうねぇ」   サスケとカカシの言い様に、サクラはようやく冷静さを取り戻し、渋々納得する。 暗部の情報は、里内であっても、極秘の話だった。   「でもっ」   それでも、納得出来ない心が声を出す。   「お前達は、どうしたいんだい?」   五代目が苦笑を浮かべる。 この部屋に来たナルトは、目の前のサクラや、サスケに比べようもないぐらい必死だった。 もし、自分が何も語らなかったら、間違いなくここで戦いが始まっていただろう。 相手は暗部最高峰。 負けるつもりは無かったが、あの顔を見てしまっては、手を差し伸べずにはいられなかった。 余裕など一つも無い、泣きそうな顔。 捨てられた子供の顔。 昔のナルトも知ってはいたが、あんな顔はしていなかった。人形、その言葉が似合う無表情を貼り付け、外界を全てを拒否していた子供。 それが、次に出会った時に、一変していた。 改竄された記憶だったにしても、それは真実だったのだろう。改竄出来ないほどの劇的な変化。 心のままに、笑い、はしゃぐ姿は、人形が人間に変わった事を教えてくれた。   「ナルトは、お前達とは比べようもないぐらい必死なんだよ。  それを中途半端な気持ちで邪魔をするのかい?」 「そんなっ……そんなんじゃないんですっ!」 「じゃぁ、そのシカマルとやらを見つけ出すと?そいつは、ナルトレベルなのだろう?お前達で探し出せるとは思えんな」   五代目が言っている事は正しい。 サクラは唇を噛む。   「だが、俺達はあの馬鹿に笑っていて欲しいんだ。  それに、シカマルが俺達とまったく関係無いとは思えない。俺達にとっても仲間だったはず。  ならば、それを取り戻そうとするのは、筋だろう?」   今まで、ほとんど言葉を発しなかったサスケが淡々と言う。   「それは、お前ら二人の心からの言葉か?違うだろう?  ならば、私にはもう言う事は無いよ」 「確かに俺には分からない。  そのシカマルというヤツに対し何も思う所が無い。与えられた記憶に縛られている以上、それしか言いようが無い。  だが、俺達全員が思っている事は同じだ。笑ってるナルトを見たいんだ。  だから、今動いている。五代目が動かないというのなら、俺も一切動かない。いや、俺達は貴方から離れる。そう皆、答えるだろう」   五代目は、面白げにサスケを見ていた。 めったに思うところを話さない子供。 心が一族に、兄弟に囚われていた子供。それ故に、他者に一切関心を持たず、心を歪ませていた。 結果、大蛇丸に誘われ里抜けをしそうになったほど。 それを、同期全員が一丸となって、彼を里に戻した。 彼の心さえも戻した、あの強い絆は忘れてはいない。   「しょうがないねぇ」   ため息をつきながらも、五代目は楽しそうに笑う。   「私の感覚だけの話だぞ」   それだけでも嬉しいと、二人はコクコクと頷く。   「記憶は変わらないと言っている……が、ナルトのこなす時間が増えた気がする。  もし、以前二人で行っていたのならば、それが答えなのだろう。  そして、ナルトの意図もそこにあるようだね」 「なるほどな…」   サスケとサクラが、お互いを見て頷く。   「お前ら」   カカシが手招きしている。   「アスマん所に行ってみれば?」   二人は、小首を傾げる。   「あそこが二人だったのって、おかしいでショ?  あぁ、でもそれなら、アスマ班の二人に行ってもらった方がいいかもしれないな」 「そうですね。ありがとうございます」   サクラは、五代目とカカシに挨拶をして、走り出す。   「じゃぁ」   サスケは、呟くような声で挨拶をし、その後を追った。   「カカシ…」 「凄いですねぇ〜」 「そうだな」 「俺は、一切気づきませんでしたよ」 「私もだよ」   そんな大きな術が動いたのならば、上忍であれば、誰もが察知してもいいはずなのに、気づいたのはナルトだけ。 火影という名で呼ばれている綱手でさえ、気づかずにここまで来ていた。   「ま、あの子達がなんとかするだろうさ」 「いいんですか?」 「あぁ、その方がナルトにとっても、シカマルにとってもいいだろうよ」                 ◇◆◇                 「なーシノ…、これって犯罪じゃねぇのか?」 「そうだな」 「バレたら、俺達怒られるような気がするんだけどよ…」 「怒られる程度で済むといいがな」   現在シノとキバは、木の葉の病院の倉庫に無断侵入中。片っ端からカルテを漁っていた。   「ま、何か言われたら、奈良シカマルってヤツのせいにすりゃぁいいか」 「当然だ」   いつも以上に低い声。殺気が混じっているような気がする。   「……シノ…お前、怒ってる?」 「当たり前だ。お前は怒ってないのか?」 「や、なんつーかさ。記憶が信じられねぇから、どう怒っていいんだかな……分かんねぇんだよ」   シノが手を止めて、まじまじとキバを見る。   「な、何だよ?」 「いや、お前が一番に怒りそうなんだが……消されたお前の記憶が、お前を怒らせないのかもしれ…どうした?」   突然キバの動きが止まり、虚空を凝視している。   「………急患か?」   突然、病院内が慌しくなった。 いくつもの走る気配。 病院であるから、急患も珍しくはない。 当然の事なのに、キバは未だに遠くに聞こえる音を必死になって聞いていた。   「シノっ!」   微かに洩れる声を聞く。運ばれた者の名前を聞き取った。   「ナルトだ!」   二人は乱雑になったカルテをそのままにして、玄関に走った。       病院の玄関に突然現れ、まるで支えを無くしたかのように倒れていった体。 それを偶然見かけた看護婦が慌てて走った音が、キバの耳に入った。 今ナルトは、原因不明のままベッドに寝ていた。 そして、そのベッドの周りには、心話で召集された仲間が心配げに立っていた。   「………ん?」 「ナルト!」   うっすらと目を開けたナルトに、全員が安堵の声をあげる。   「あれぇ〜?皆……どうしたんだ?」   浮かべた安堵の表情が、一瞬にして曇る。   「あれ?ベッド?……何で……病院?」   不思議そうに周りを見る。   「ナルト、誰かと戦ったのか?」   シノが、険しい眼差しで問う。   「………戦った?」 「あんたが、意識不明になる相手って…」 「意識…不明?」   ナルトは、小首を傾げて自分の体を見ている。   「ナルト…シカマルに会った?」   チョージが、恐々と言う。   「…シカマル?シカマルって誰?」   全員が真っ青になった。 ナルトの意識が回復してから、あまりにも態度がおかしかった。 まるで、少し昔に戻ったような、穏やかな表情。   「全員、四方へ!!彼を…彼を捕まえてっ!!」   ヒナタは、悲鳴のような声で叫び、病室から消えた。 一泊遅れて、他の者のナルトの病室から消え去った。   「どうしたんだ?」   一人残されたナルトは、呆然とからっぽになった部屋を見ている。   「……シカマル?」   記憶に無い名前。   「…あれ?」   自分の手にポツリと水が落ちてきた。   「……何で?」   ぼたぼたと手に落ちてくる水。   「…何で…俺……泣いて……いるんだ?」   困惑した顔を辿り、後から後から涙が零れ落ちていった。     to be continue…  

   
  07.11.06 未読猫