07.09.06 未読猫ナルトの顔から、一切の表情が消えた。 大掛かりな術が発動した日。 里全ての人間に対し、その術が効力を発揮していた。 一人の人間の情報が消えた日。 奈良シカマル その名前に意味を持つ人間は、居なくなった。 巧妙に仕掛けられた術。 それは術だけではなく、采配にまで及ぶ。 その日、彼を知る者が誰一人余すことなく里に居た。 そして、全員が術を察知する事なく受けた。 今、誰も彼を知らない。 特に彼と親しかった者には、筋の通った違う記憶が植えつけられ、彼は五歳の時死んだ者とされていた。 だから、ナルトは一人になった。 仲間から離れた。 唯一彼を知る者として。 唯一、咄嗟に結界を張り、術から免れた者として。 必死になって彼を探していた。 ◆仲間弐 2 「……奈良シカマルという名前が鍵だろう」 シノが、静かに言う。 「でも、知らない…その名前から、何も思い出させるものが無い……」 サクラが、困ったように言う。 「私も…幼馴染だったという記憶しか…無い…」 「僕も…」 イノとチョージが、苛立ちげに言う。 「あの日、大掛かりな術が動いた……」 「唯一気づいたナルトは、防御したんだろうな」 「記憶操作が大々的に行われた……それが術の正体か…」 サスケは昔のように、キバは珍しく、難しい表情を浮かべていた。 「調べて分かった事だが、あの日の采配はおかしかった。 間違いなく、誰かの意図が入っていると思っていいだろう」 「奈良シカマル…くん…の」 シノは、ヒナタの言葉に一つ頷く。 「采配が操作された人間は、全員そのシカマルに関わっていたはずだ。 だから、里に居るよう仕組まれた」 全員が、呆然とシノの言葉を聞く。 あまりにも不可能に近いそれ。里の仕組みを正確に把握し、矛盾なく操作出切る頭脳。 それは、忍びの技量以上に驚愕に値するものだった。 「そして、あの術を構築し、発現させる事が出来る……」 「そんなの…」 「ナルトに匹敵するじゃねぇかっ!」 全員が上忍と呼ばれる地位についていた。 しかし、どうやったら、里全域に渡った記憶操作をするのか、とっかかりさえも分からない。 洒落にならないチャクラ量と、繊細な操作が必要になる事は分かる。 今、この里でそんな事が出切るのはただ一人。 全員、ナルト以外の顔を思い浮かべる事が出来なかった。 「だから…ナルトくんは……必死になって探している…」 「……たぶん、ナルトにとって一番大切な人だったんだ……」 ヒナタとチョージが俯いたまま呟く。 「だって…だって…」 「僕達の記憶が正しいと、誰が保障出切る?」 今、ここにいる自分達こそが、ナルトに一番近しい者だと記憶が言っている。 サクラにとって、記憶にない者がナルトに一番近しいという事が受け入れがたく唇を噛締めさせる。 「唯一…記憶操作されなかったナルトくん…だけ……真実を知っている…」 「ううん、シカマル…奈良シカマルも知ってるはずだよ」 チョージは、皆の顔を見回す。 「シカマルって、そのままで居ないよねー」 「僕の記憶だと、奈良のおじさんと似た雰囲気だったとしか…」 「うんうん、それそれ。 それから………おじさんと…似た……無気力………だった…?」 チョージとイノが、驚いたように顔を見合わせる。 「……メンドくせー…って…」 「言ってた?」 頭に残された記憶は、あまりに少なかった。 「写真ぐらい残っているかなー?」 「でも、変化しているわよ」 「何も分からないよりはいいよ」 「なら、二人は奈良家に行ってくれ」 チョージとイノは、シノに了解と右手の親指を晒す。 「ナルトと同レベルなら、暗部だったのかしら?」 「だとしたら、怪我の一つや二つあるよなー」 「ここまで用意周到なやつが、そんな情報を残しておくか?」 「それでも、何も無い今よりはマシかもしれないな…」 「だったら、私とサスケくんで、暗部の方を探ってみる」 「そうだな、カカシを脅して誰かを紹介してもらおう」 「なら、今現在ナルト以外の要因で仕事が忙しくなってないか、聞いておいてくれ」 シノの意図を察した二人は、了解と親指を立てる。 ナルトと同じ技量。 そして、ナルトと近しい。 その二つから導き出されるのは、暗部という言葉。 ナルトレベルの暗部が一人減ったのであれば、任務のしわ寄せが必ずどこかにいっているはず。 それが無いのであれば、彼は間違いなくそこに居る。 「……あの…」 ヒナタが難しそうな顔をして、おずおずと声を出す。 「どうした?」 「こんな事が……前にも……無かった?」 分からないと、皆の首が横に振られる。 「どうしてだろう?……皆に親指立てて……あれは……いつだった?それとも……勘違い?」 「ヒナタ、その時皆が集まった理由は?」 ヒナタは、呆然と皆を見ている。 「何で…だろう?」 泣きそうな表情を浮かべ、ヒナタは必死な様子で頭を振る。 「ヒナタ、あの日、お前はどこに居た?」 「気が付いた時……自分の家に……え?……あの日……ちが………分からない」 ヒナタの様子を見たシノが、一つ頷く。 「俺とキバが病院をあたろう。 ヒナタ」 「は…い」 「今後、お前がリーダだ。全員の情報をまとめろ」 この仲間が出来た時、自然とシノがまとめ役をやってきた。今までの記憶が、自然とそうさせた。 「なぜ?」 ヒナタは、不安げにシノを見る。 「記憶が信じられない以上、俺がこの位置に居る事によって、間違いが起こるかもしれない。 シカマルというのは、頭がいいはずだ。 ナルトが記憶操作されなかった事が予定外だったとしても、その為の策は取っているかもしれない。 探されない為の偽の記憶が存在してもおかしくないだろう…」 「だから、ヒナタ?」 「あぁ、なぜか分からないが、今日のヒナタの雰囲気を懐かしいと感じた」 記憶のままのヒナタのはずなのに、不思議と懐かしさを感じる。 「記憶を頼るのは危険か……」 シノが全員を見渡す。 「忍びとしての感覚を優先しろ。 そうすれば、何かを見つける事が出来る可能性があがるかもしれん」 全員がシノの言葉に、真剣な顔で頷く。 「私……ナルトくんを探してみる」 必死な表情。 「心話で……」 突然、ヒナタの目がまるく見開かれた。 「……何で心話が使えるように……なった…の?」 「それは……」 答えようとしたサクラが、そのまま固まる。 「記憶操作にも限界があったか…」 「それとも、僕達にヒントを残したか…だよね」 チョージの言葉に全員が、訝しげな顔になる。 「だって、ナルトの友達だったんでしょう? 僕達の友達でもあるはずだよ」 「なーるほどね。 だったら、探して一発がつーんと、やってやらねぇとな」 キバがニンマリ笑う。 「そうよねー。 私やチョージなんか、幼馴染のはずなんだから、ずっと一緒に居たに違いないものー」 イノは、拳をぶんぶん振り回す。 「何かが分かったら、私に心話で連絡して。 私、なんとしてでもナルトくんを探し出すわ」 皆の知らないヒナタが、きっぱりと言い切る。 しかし、全員がそのヒナタを知っていた。 「これが、ヒナタ…だよねー」 「感覚を信じろということだな」 全員が頷き、手をあげる。 そして、その場から全員が散っていった。 to be continue…
ちょっと前…いや随分前か…夜シリーズの続きをという拍手メッセージを貰いまして…すっかり忘却していた、このシリーズをようやく思い出し…げぼげぼっ きっと、シカマルが私に忘却術を………(((( ということで、夜シリーズです。 最終話、完結に向かって頑張る所存であります(・_・)> 問題は、シカマルが頑固なんで……非常に困っている昨今でございます。 もう少しの間、のんびりお付き合い下さいませm(__)m